コンパウンド型金型の構造と設計・選び方の完全ガイド

コンパウンド型金型とは何か?構造・メリット・デメリット・順送型との違い・メンテナンスまで金属加工のプロが徹底解説。あなたの現場の精度問題は解決できますか?

コンパウンド型金型の基礎から実践まで完全解説

コンパウンド型金型は「シンプルな打ち抜きに使うもの」と思っていると、複雑な薄板部品で大量の不良品が出てもコストと時間を無駄にし続けます。


この記事の3つのポイント
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コンパウンド型とは何か?

外形と穴を1回のプレスで同時に抜く「総抜き型」。位置精度が金型精度で決まるため、±0.01mm以下の高精度が実現可能です。

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順送型・単発型との違いと使い分け

生産数量・形状・コストのバランスで最適な型が変わります。コンパウンド型が最も輝く条件を正しく理解しましょう。

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破損・トラブルを防ぐ管理の要点

「2枚打ち」や総抜きパンチの破損は突然起きます。現場で見落とされがちな管理ポイントを具体的に解説します。


コンパウンド型金型の基本構造と「総抜き」の仕組み


コンパウンド型金型とは、製品の外形と内側の穴を1回のプレス動作で同時に打ち抜くプレス金型のことです。「総抜き型」や「複合型」とも呼ばれ、現場では「コンパ」という愛称で親しまれています。


通常の打ち抜き型では、外形と穴をそれぞれ別の工程で加工します。しかしコンパウンド型では、外形抜きは「下から上」、穴抜きは「上から下」という逆方向に同時加工します。これが最大の構造的特徴です。


この逆配置構造を実現するために、コンパウンド型には「総抜きパンチ」と「ノックアウト」という2つの複合部品が不可欠です。総抜きパンチは外形抜きのパンチと穴抜きのダイを兼ねており、ノックアウトは製品を上型から押し出す機能と穴抜きのストリッパを兼ねています。


この2つの部品の形状は、製品形状とほぼ同一になります。つまり、製品が複雑な形状であればあるほど、これら2つの部品への加工負荷が集中しやすくなります。構造の巧みさと引き換えに、設計と保全に高い水準が求められるわけです。


加工された製品は上型ダイの中からノックアウトで排出され、エアーで吹き飛ばして回収する方式が一般的です。一方で、油を塗布した状態での加工では、製品がノックアウトに貼りつきやすくなるという注意点があります。これが後述する「2枚打ち破損」の直接的な原因の一つです。



ミスミの技術情報ページにコンパウンド型の構造分解図と各部品の役割が図解で整理されており、設計理解に役立ちます。


ミスミ技術情報:総抜き型の構造(金型構造のいろは その6)


コンパウンド型金型の4つのメリットと2つのデメリット

コンパウンド型金型が現場で選ばれる理由は明確です。まず最大のメリットは、穴と外形の位置関係精度が金型精度によってほぼ決まるという点です。複数工程で加工する場合、材料のセットごとにわずかなズレが生じますが、コンパウンド型では1ショットで完結するためズレが原理的に発生しません。精密電子部品や自動車の安全部品など、±0.01mm以下の厳しい公差が求められる場面で特に威力を発揮します。


2つ目のメリットは平面度の高さです。ノックアウトと総抜きパンチが材料を上下から挟み込みながら打ち抜くため、残留応力によるソリやヒネリが発生しにくい構造になっています。順送型や2工程の単発型と比較すると、板厚のソリが顕著に小さくなります。たとえば板厚5mm・外径50mmのワッシャー類の加工では、コンパウンド型の採用により後工程の平面押し修正が不要になるケースがあります。


3つ目はバリが同一方向に揃うという特性です。外形と穴のバリが同じ方向を向くため、バリ取り工程の条件を統一しやすく、後工程の品質管理がシンプルになります。結果として、加工コスト全体の低減につながります。


4つ目は工程短縮による生産性向上です。外形と穴の加工を1ショットで完了できるため、工程数が少なくなり、セット替えの手間や中間在庫が削減されます。


一方でデメリットも2点あります。まず金型構造が複雑という点です。総抜きパンチとノックアウトという複合部品が存在するため、設計・製造の工数が単発型よりも多くかかり、金型費用が高くなります。次に部品強度の問題です。総抜きパンチは製品形状に近い薄肉部が生じやすく、繰り返し荷重による破損リスクが他の金型タイプより高い傾向にあります。破損すると金型全体の成立に影響するため、定期的な点検と再研削の計画が必須です。



メリット・デメリットを含むコンパウンド加工の特徴がコンパクトにまとまっています。


monoto:コンパウンド加工とは|複数工程を同時に行う加工法


コンパウンド型・順送型・単発型の違いと適切な使い分け

「どの金型を選べばいいか」は、現場での判断が難しい問いのひとつです。コンパウンド型・順送型・単発型のそれぞれに明確な得意領域があるため、製品仕様と生産条件を整理することが出発点になります。


単発型(シングル型)は構造がシンプルで製作コストが最も低く、多品種少量生産や試作に向いています。1工程ずつ加工するため、段取り替えも容易です。ただし、外形と穴を別工程で加工するため位置精度の確保が難しく、生産スピードも劣ります。作業者の熟練度によって品質がばらつきやすい点も課題です。


順送型(プログレ型)はコイル材を一定ピッチで送りながら複数工程を連続加工します。1分間に数百ショット以上の高速加工が可能で、大量生産に最適です。しかし金型構造が複雑なため製作コストは高く、材料送りのズレが全工程に影響するリスクがあります。また、順送型でも外形と穴の同時打ち抜きは可能ですが、コンパウンド型ほど位置精度を追い込みにくい点が課題として残ります。


コンパウンド型の最大の強みは、高精度な同時加工と平面度の高さです。一方で、複雑な立体形状や深絞りには対応しにくく、形状が複雑すぎると総抜きパンチへの加工負荷が過大になるリスクがあります。


以下に3つの型の特性を比較します。


選定要素 単発型 コンパウンド型 順送型
位置精度 △(工程依存) ◎(金型精度で決まる) ○(送り制御次第)
平面度
初期コスト 低い 中程度 高い
生産スピード 遅い 中程度 速い(高速連続)
対応生産量 少量・試作 中〜大量 大量生産
メンテナンス 容易 やや複雑 複雑


コンパウンド型が特に向いているのは「穴と外形の位置精度が厳しく」「平面部品で」「中〜大量生産する」という条件が重なる場合です。これが条件です。自動車のワッシャー類、精密端子、医療機器部品など、寸法公差が厳しい薄板部品に広く採用されています。


一方、深絞りが必要な部品や、曲げ・絞り・穴あけを組み合わせた複雑な立体形状には、トランスファー型や順送型との組み合わせを検討するのが現実的な選択です。



順送型・単発型・コンパウンド型の違いを具体的な現場視点で解説した参考記事です。


太陽パーツ:プレス加工の方法とその違いについて


コンパウンド型金型の設計で見落とされやすいクリアランス管理

コンパウンド型金型の性能を最大限に引き出すうえで、最も影響が大きい設計パラメーターが「クリアランス」です。これが基本です。クリアランスとは、パンチとダイの間のすき間のことで、板厚の5〜10%が目安とされています。


たとえば板厚5mmの材料に対してコンパウンド型で加工する場合、クリアランスは片側0.25〜0.5mmが一般的な範囲です。外径50mm・内径25mmのワッシャーであれば、外形ダイは49mm、内形パンチは26mmという寸法設計になります。具体的にはがきの横幅(148mm)の約3分の1がΦ50mm相当のサイズ感です。この数値が板厚に対してわずかでも外れると、製品品質に大きな影響が出ます。


クリアランスが狭すぎると、パンチとダイの摩耗・焼付きが急速に進行します。最悪の場合、数千ショットで金型が寿命を迎えることもあります。逆に広すぎると、断面の「ダレ」と「バリ」が大きくなり、製品の寸法精度が劣化します。


もう一つ見落としが多いのが、コンパウンド型特有の「ノックアウト圧」の管理です。参考書によれば「ノックアウトとパンチで材料を押さえながら加工するため平面度が良い」とされていますが、実際にはノックアウトピンに乗るカンザシの重量(小型プレスでは約10kg程度)だけでは材料を積極的に押さえているとは言いにくいという指摘もあります。現場では、ノックアウトにクッション圧(バネや油圧)をかけて材料を積極的に挟み込む設計にすることで、平面度を確実に確保しています。これは独自のノウハウとして意識しておく価値があります。


さらに、コンパウンド型では加工のたびに総抜きパンチが押し下げられ、製品がノックアウトとの間で挟まれる状態になります。このとき、潤滑油の量が多いと表面張力で製品が貼りついたまま上型に残留する「貼りつき現象」が起きます。ベタな注意事項ですが、これが次の金型破損の根本原因になります。



プレス金型のクリアランス設計・材料選定・シミュレーションの考え方がまとまった記事です。


ニチダイ:プレス金型の基礎知識—構成・種類・設計精度を高めるポイントを解説


コンパウンド型金型で最も多いトラブル「2枚打ち破損」の防ぎ方

コンパウンド型金型に固有の深刻なトラブルが「2枚打ち(ダブルヒット)による金型破損」です。意外ですね。これは業界誌でも取り上げられた実際の事故事例で、金型を一発で使い物にならなくするほどのダメージを与えることがあります。


発生メカニズムはこうです。プレスで抜き加工を行うと、塗布した潤滑油の影響で打ち抜かれたワークが上型ノックアウトに貼りついた状態になります。作業者がそのワークを取り出さずに次のプレスを行うと、既存のワークと新しい材料が同時に打ち抜かれます。コンパウンド型は精密なクリアランス設計が前提のため、想定外の荷重がかかる2枚打ちは総抜きパンチの折損やノックアウトの破損を即座に招きます。


この事故をぐための対策は3段階で考えます。


まず予防策として、潤滑油の塗布量を必要最低限に抑えることが重要です。また、製品排出用のエアーブローの向きと圧力を確認し、確実に製品が排出されているかを目視できる体制を整えます。


次に検知策として、近接センサーや光電センサーによる「ワーク残留検知システム」の導入が有効です。上型にワークが残ったまま次のプレスを起動しようとすると、機械が自動停止する仕組みです。製造ロットが多い量産ラインでは、このセンサー設置が事故防止の基本です。


最後に復旧コストの最小化策として、パンチ・ダイのみを入れ替える方式の金型構造を採用しておくことが有効です。総抜きパンチが破損した際に、ホルダーごと新調するのではなくパンチ・ダイ単体で交換できれば、修理費用を大幅に圧縮できます。


再研磨・修理の選択肢も重要です。金型を0から製作し直すと設計費・材料費・加工費が積み重なり、数十万〜百万円規模になることがあります。しかし、破損が刃先部分のみであれば、再研磨や部品交換で対応できることが多く、費用は新調の数分の一以下に抑えられます。バリが増えた・寸法がばらつき始めた段階で早期に再研磨を依頼することが、結果的に大きなコスト削減につながります。



プレス金型の再研磨が必要なサインや、超硬材の再研磨の注意点を詳しく解説しています。


精密加工部品特急センター:プレス金型の再研磨|寿命を延ばし品質を維持するポイント


コンパウンド型金型の長寿命化につながるメンテナンスの考え方【独自視点】

コンパウンド型金型のメンテナンスで重要なのは「劣化の予兆を数字で捉える習慣」です。これは使えそうです。定性的な「感覚」頼りの判断をやめて、以下の4つの指標を管理表に記録するだけで、突発的な金型破損リスクを大幅に下げられます。


①ショット数と再研削の相関記録
プレス金型一般的には量産金型で1億ショット程度が保証の目安とされていますが、コンパウンド型の総抜きパンチはその構造的特性から、単純な打ち抜き型よりも早期にチッピング(微細な欠け)が発生することがあります。使用開始時から「何ショットでバリ高さがどう変化したか」を記録し、再研削のタイミングを経験値で掴むことが長寿命化の第一歩です。


②バリ高さの定量管理
製品のバリ高さが許容値を超えた時点で再研削を行うことが基本ですが、多くの現場ではバリが見た目で「気になった時」に対応しているのが実情です。マイクロメーターやレーザー測定器を使って定量的に管理することで、許容値の超過前に手を打てるようになります。


③クリアランス変化の確認
繰り返し加工によるパンチ・ダイの摩耗は、クリアランスの拡大を引き起こします。クリアランスが板厚の10%を超えてきたら再研削のサインと考えてください。クリアランス変化は製品の断面品質だけでなく、金型に加わる荷重バランスにも影響します。


④表面処理の活用
コンパウンド型の総抜きパンチは、材質SKD11(冷間ダイス鋼)などの工具鋼から、PVD(物理気相蒸着)コーティングや窒化処理を加えたものに変更するだけで、耐摩耗性を大幅に改善できることがあります。超硬合金パンチの採用も、難削材や高張力鋼板の加工では有効な選択肢で、鋼製パンチと比べて10〜20倍の寿命を発揮した事例も報告されています。


金型寿命管理で見落とされがちなのは「保管環境」です。使用していない金型でも、湿気や温度変化による・歪みが徐々に進行します。パンチやダイの刃先に防錆油を塗布し、低湿度の専用棚に保管するだけで、再使用時の精度回復にかかる手直しコストを大きく削減できます。保管料は「見えないコスト」ですが、保管環境が悪いほど再稼働時の手直し費用がかかるという構造を意識することが重要です。



プレス金型における抜き加工時の摩耗軽減と再研磨サイクルについて詳しく解説されています。


精密プレス加工.com:プレス金型における抜き加工時の摩耗軽減でのメンテナンス頻度削減




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