ショットブラストは、研磨材を高速で金属表面に衝突させることで表面を加工する技術です。このプロセスは3つのステップで構成されます。まず投射材の加速段階では、機械式(羽根車による遠心力方式)または圧縮空気式の2つの方法が用いられます。加速されたショットやグリットは、ワーク表面に高いエネルギーで衝突し、その衝撃により表面の酸化物や不純物が除去されます。
投射材の選択は加工対象物と目的によって異なります。スチールショットは耐久性が高く、ピーニング効果を求める用途に適しており、スチールグリットは鋭い形状で強い研削力を発揮するため、厚い錆やスケール除去に適しています。ガラスビーズは柔らかい性質を持ち、下地材料への損傷を最小限にするため、精密部品の仕上げに使用されます。酸化アルミニウムと炭化ケイ素は高い硬度を持ち、強力な表面処理が必要な場合に選定されます。
鋼材の製造工程で発生するミルスケール(黒皮)は、塗装やコーティングの密着性を著しく低下させます。ショットブラスト処理はこの黒皮を効率的に除去する有力な手段です。特に1種ケレン(素地調整)に該当する完全な黒皮除去が必要な場合、ショットブラストは経済的かつ高速に対応できます。
黒皮が塗膜の下に残存すると、塗膜と鋼材の境界で腐食が進行し、塗装の耐久性が急速に低下します。ショットブラスト処理により、黒皮だけでなく浮き錆や油脂類の焼きつきも同時に除去され、清潔な鉄の地肌が露出します。その後の塗装やメッキ処理の密着性が向上し、長期間にわたって鋼材を保護する塗膜が形成されます。処理後の表面は微細な凸凹状態となり、これが塗料の機械的錨着効果を生み出し、塗膜のはがれを防止します。
ショットブラスト処理の最大の機能の一つが、ピーニング効果による疲労強度の向上です。投射材が金属表面に衝突する際の圧縮力により、表面層に圧縮残留応力が形成されます。この圧縮残留応力は、表面に引張応力が加わるのを吸収し、亀裂の発生と進展を抑制します。
従来の製造工程では、焼入れ、研削、フライス加工、曲げなどの熱処理・機械加工により、材料表面に引張残留応力が発生します。この引張残留応力は疲労寿命を著しく短縮させます。ショットブラスト処理により、この引張残留応力を圧縮残留応力に変換することで、部品の疲労強度は飛躍的に向上します。特に交番応力を受ける部品、例えば自動車のサスペンションスプリング、ギア、軸受け、航空機のタービンブレードなどの耐久性向上に極めて有効です。研究では、適切な条件でのショットブラスト処理により、疲労強度を30~50%程度向上させることが報告されています。
ショットブラスト処理は、造船、橋梁、建築、自動車、機械製造業など広範な産業で活用されています。造船業では、船体の骨材となるセルガイドやハッチカバー、外板補強材に対して処理され、長期間の海洋環境での耐食性を確保します。橋梁工事では、梁や床版、桁の補強材に処理を施し、風雨への暴露下での塗膜耐久性を高めます。建築分野では、マンションやビルのエントランス、非常階段などの柱や高層ビル建設用クレーンのマスト部材に適用されます。
処理装置は、ワークのサイズや形状、処理量によって最適なものを選定します。ローラーコンベア式は長尺物や鋼板に適し、両面同時処理が可能です。ハンガー式は吊り下げ回転により、リング状部品やクランクシャフトなどの複雑形状に対応し、打痕傷がつかないという利点があります。テーブル式は大型・重量品に最適で、回転テーブルの上に製品を配置して処理します。タンブリング式は小物・中物の大量処理に向き、ランニングコストの面で優れています。
ショットブラスト処理は単独での使用だけでなく、その後の表面処理と組み合わせることで、さらに高度な機能を付与することが可能です。例えば、Zコート(乾式衝撃亜鉛めっき)は、ショットブラスト後の清浄化された表面に亜鉛合金被膜を形成させ、耐食性と耐摩耗性を同時に向上させます。この複合処理により、水素脆性の問題がある湿式めっきでは対応困難な部品にも対応できるようになります。
さらに進んだ応用として、ショットブラスト処理による圧縮残留応力層を基盤とし、その上にコーティング層を形成させることで、複合的な機能強化が実現します。耐摩耗性、耐食性、耐疲労性の各特性を柔軟に組み合わせることで、用途に応じた最適な表面特性を設計できます。航空宇宙産業では、このような複合処理が広く採用されており、部品の信頼性と寿命の大幅な向上が実現されています。加工業者選定時には、こうした複合処理への対応能力も重要な評価基準となります。
【ショットブラスト処理の原理と実装例に関する詳細情報】
ショットブラストの原理、効果、およびZコートとの組み合わせについて、技術的背景と実装事例を掲載
【金属加工業向けのショットブラスト基礎知識】
業界実績を持つ専門家による、ショットブラストの基本原理から業界別活用例、装置選定ポイントまでを網羅した技術ガイド