建築塗装に使用される塗料は、主に樹脂の種類によって分類されます。各樹脂塗料は耐候性、価格、施工性が異なるため、プロジェクトの条件に合わせた選定が重要です。
■ アクリル樹脂塗料
耐用年数5~7年で建築塗装のなかでも最も廉価な選択肢です。初期コストを優先する場合や、短期的な美観維持が目的の工事に適しています。ただし紫外線への耐候性が低いため、長期保護を求める外壁塗装には向きません。DIYや補修塗装での採用例が多い傾向にあります。
■ ウレタン樹脂塗料
耐用年数8~10年で、かつての外壁塗装の主流でしたが、現在ではシリコンやラジカル塗料にシェアを奪われています。付着性に優れるため、雨樋や軒天などの付帯部塗装に適しており、一般的な戸建ての細部塗装で活用されています。価格はアクリルより高く、性能もシリコンより劣るため、今日では限定的な用途に限定されるケースが多いです。
■ シリコン樹脂塗料
耐用年数10~15年で、価格と性能のバランスが取れた標準的な塗料です。色彩バリエーションが豊富で、外壁の美観と機能性を両立させたい場合に選ばれています。汚れの付着性が製品ごとに異なるため、品質の高い製品の選定が重要になります。
■ ラジカル制御形塗料
耐用年数12~16年で、シリコン塗料と同等の価格ながら耐久性が1~2年長いため、近年人気が急速に高まっています。紫外線による劣化を抑える「ラジカル制御技術」により、塗膜の長期保護を実現します。代表的な商品として日本ペイント「パーフェクトトップ」、エスケー化研「エスケープレミアムシリコン」などがあります。
■ フッ素樹脂塗料
耐用年数15~20年で、耐候性と耐久性が最高水準の塗料です。初期費用は高額ですが、塗り替え頻度を大幅に減らせるため、長期的なコストパフォーマンスに優れています。スカイツリーなど大規模建築物での採用実績が豊富で、信頼性も高い選択肢です。
■ 無機塗料
耐用年数25~30年以上で、塗料のなかで最も耐久性に優れた選択肢です。有機物をほぼ含まないため紫外線による劣化が極めて少なく、カビやコケの発生も抑制できます。ただし初期費用が高く、割れやすい性質があるため外壁材との相性確認が必須です。
塗料は希釈材によって水性と油性に分類され、それぞれ異なる特性を持ちます。特に建築塗装では環境負荷と施工性のバランスが重要になります。
水性塗料は水を希釈材として使用するため、悪臭が少なく、環境に優しい特性があります。価格がやや安い傾向にあり、住宅地での施工に適しています。しかし天候の影響を受けやすく、雨天時や高湿度時の施工が制限されるデメリットがあります。最近では水性塗料の性能が向上し、油性塗料と同等の耐久性を持つ製品も多くなっています。
油性塗料(溶剤系塗料)はシンナーで希釈するため、下地との密着性が高く、耐候性にも優れています。一方で独特の強い臭気があり、施工環境に配慮が必要です。住宅地での使用には近隣の理解が必須となる場合があります。汚れも付きにくく、総合的な耐久性では水性を上回る傾向がありますが、地球温暖化への配慮から採用がやや減少しています。
建築塗装の品質を決定する最重要工程が素地ごしらえ(ケレン作業)です。既存塗膜の状態や下地材質に応じて、適切な処理方法を選定することで、塗装の密着性と耐久性が大きく変わります。
素地ごしらえはA種・B種・C種の3段階に分類されており、各種別の目的と適用対象が異なります。
A種ケレンは既存塗膜やサビを完全に除去する最も厳格な処理方法です。金属や鉄部、劣化した塗装面に適用され、塗膜の密着性を最大化して長期耐久性を確保します。鉄骨階段や鉄扉、防水塗装の下地処理など、新規施工や大規模補修で採用されます。手作業やサンドブラスト、ショットブラストなどの研磨技術が使用されるため、工期と費用がかかる処理です。
B種ケレンは軽度な旧塗膜の浮きや汚れを除去し、表面を調整する中程度の処理方法です。モルタル外壁や下地補修後の仕上げ塗装に採用され、塗料の付着を確保しながら表面の凹凸を整えます。ワイヤーブラシやサンドペーパーを使用し、手作業とセミメカニカルな方法が組み合わされます。一般的な外壁塗装の多くがB種を採用しており、工期と費用のバランスが取れた処理方法です。
C種ケレンは高圧洗浄や拭き取りなどの簡易洗浄のみを行う最小限の処理方法です。比較的状態が良い下地や、内装の再塗装、軽微な補修範囲に適用されます。ホコリ・油分・付着物を除去することで、基本的な付着性を確保しつつ、工事費用を最小化できる処理方法です。
塗料の硬化方式によって1液形と2液形に分類され、それぞれ施工性と性能が大きく異なります。建築工事の条件や予算に応じた選定が必要です。
1液形塗料は硬化剤や副材を予め混合してある塗料で、缶を開けてそのまま使用できます。手間がかからず、DIYでも扱いやすいメリットがあります。価格も安く、余った塗料は翌日以降も使用できるため、工程管理が容易です。ただし密着性が2液形より低く、乾燥時間も遅い傾向があるため、耐久性では劣ります。一般的な戸建てや小規模補修に適した選択肢です。
2液形塗料は硬化剤が未混合の状態で供給され、施工直前に主剤と硬化剤を混合します。混合後は保管ができず、当日中に使用し切る必要があります。施工手間は増えますが、密着性が高く、乾燥も早いため耐久性に優れています。あらゆる塗装面に対応でき、沿岸地域や豪雪地帯など過酷な環境下の施工に適しています。工事規模が大きい場合や高い耐久性が要求される案件で採用されます。
建築物の外壁材は多種多様であり、各素材の特性に応じた塗装工法の選定が施工品質を大きく左右します。不適切な塗料選択は、水膨れやひび割れなどのトラブルを引き起こすため、実務的な知識が求められます。
モルタル外壁への塗装では、弾性塗料が最適な選択肢とされています。モルタルは経年劣化によってひび割れが発生しやすい素材のため、塗膜に柔軟性を持たせることで、ひび割れの進行を抑制できます。アクリルやウレタンの弾性塗料が採用されることが多く、素地ごしらえではB種ケレンで十分です。ただし、弾性塗料を使用する際には、モルタルの動きに対応できるかを事前に確認する必要があります。
窯業系サイディング外壁への塗装では、弾性塗料は推奨されません。理由は、サイディングパネル同士の接合部や、熱による水蒸気の動きに対して、塗膜が厚く密閉性を持つ弾性塗料を使用すると、水膨れが発生するリスクが高まるからです。硬質な非弾性塗料、特にシリコンやラジカル塗料を選定することが標準的な施工方法です。
コンクリート・ALC外壁への塗装では、透湿性に優れた塗料の選定が重要です。これらの素材は吸水性が高いため、塗膜内部の水分や水蒸気が逃げやすい塗料を選ぶことで、塗膜の剥離や膨れを防止できます。シリコン塗料やフッ素塗料の透湿性タイプが適しており、素地ごしらえではA種またはB種を採用します。
ガルバリウム鋼板外壁への塗装では、金属素材特有の化学的反応に対応した塗料選定が必要です。一般的なシリコン塗料では密着不良が発生することがあるため、金属用プライマーを下塗りに使用することが標準的です。2液形の油性塗料やエポキシ系の下塗り塗料が採用され、高い密着性と耐食性を確保します。
参考:建築塗装の実践的な技術仕様については、以下のリンクで詳細を確認できます。
参考:素地ごしらえの詳細な工程と分類方法については、以下で確認できます。
参考:樹脂塗料の化学的・機械的特性の詳細については、以下で確認できます。