金属加工に携わる上で、「一般公差(普通公差)」は設計の基本であり、品質を左右する重要な要素です 。特に、日本産業規格(JIS)の「JIS B 0405」は、個々に公差の指示がない長さ寸法および角度寸法に対して適用されるため、すべての技術者が理解しておくべき必須の知識と言えるでしょう 。この規格は、図面の指示を簡素化し、生産効率を高めることを目的としています 。
JIS B 0405では、加工精度に応じて以下の4つの公差等級が定められています。それぞれの記号と特徴を把握し、製品の要求品質に応じて適切に使い分けることが求められます 。
これらの等級は、基準寸法の区分によって許容される誤差の範囲(許容差)が異なります 。例えば、同じ中級(m)でも、基準寸法が「3を超え6以下」の場合は±0.1mmですが、「30を超え120以下」になると±0.3mmとなります 。設計者は、部品の機能だけでなく、加工方法や工場の通常の加工精度を考慮して、最適な公差等級を選定する必要があります 。
JIS規格の原文は、以下のリンクから確認できます。規格票の具体的な数値や定義を直接参照することで、より深い理解が得られます。
JIS B 0405:1991 普通公差−第1部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差
公差には大きく分けて「寸法公差」と「幾何公差」の2種類があり、この違いを正確に理解することが、中級者へのステップアップには不可欠です 。この二つは、規制する対象が根本的に異なります。
寸法公差(サイズ公差)は、部品の「大きさ」に関する許容誤差を定めます 。具体的には、長さ、直径、半径、角度といった、いわゆる「サイズ」が設計値からどれだけずれても良いかを示すものです 。例えば、「直径10mm ±0.1」という指示は、部品の直径が9.9mmから10.1mmの範囲にあれば合格、ということを意味します 。一般公差(JIS B 0405)も、この寸法公差の一種です。
一方、幾何公差は、部品の「形状」や「姿勢」、「位置」のズレを規制します 。寸法公差だけでは、部品の形が歪んでいたり、基準に対して傾いていたり、位置がずれていたりしても、寸法(大きさ)さえ範囲に収まっていれば合格になってしまう可能性があります。これを防ぐのが幾何公差の役割です。
以下に、両者の違いを表でまとめます。
| 項目 | 寸法公差 | 幾何公差 |
|---|---|---|
| 規制対象 | 部品の「大きさ」(長さ、角度、直径など) | 部品の「形」「姿勢」「位置」「振れ」 |
| 役割 | サイズのばらつきを管理する | 形状の崩れや、複数部品間の関係性を保証する |
| 図示記号 | ±0.1、Φ10 H7 など | 専用の記号(真直度、平面度、同軸度など)を用いる |
| 具体例 | シャフトの直径、板の厚み | シャフトの曲がり(真直度)、取り付け面の傾き(平行度) |
例えば、長いシャフトを設計する場合、直径の寸法公差だけを指定しても、シャフト全体がバナナのように曲がってしまう可能性があります。そこで「真直度」という幾何公差を指示することで、シャフトの「まっすぐさ」を保証するのです。このように、部品が正しく機能するためには、寸法公差と幾何公差の両方を適切に使い分ける必要があります。
幾何公差と寸法公差の違いや測定方法について、さらに詳しく解説している参考資料です。図解も豊富で、視覚的に理解を深めるのに役立ちます。
幾何公差と寸法公差、測定方法は何が違うの? - MONOist
一般公差の議論において、もう一つ欠かせないのが「IT等級(IT基本公差等級)」です 。ITとは "International Tolerance" の略で、その名の通りISO(国際標準化機構)によって定められた世界共通の公差等級です 。グローバルに部品を調達・供給する現代において、このIT等級の理解は極めて重要です。
IT等級は「IT」に続く01、0、1から18までの20段階の数字で表され、数字が小さいほど公差の幅が狭く(精度が高い)、大きいほど公差の幅が広く(精度が低い)なります 。この等級は、基準寸法の大きさに応じて具体的な公差値が定められています。同じ加工機でも、小さい部品を高精度に作るのと、大きい部品を同じ精度で作るのとでは難易度が全く異なるため、IT等級は基準寸法ごとに公差の幅を規定しているのです 。
ここで中級者が知っておくべき最も重要な点は、IT等級が製造コストに直結するということです 。一般的に、IT等級が1段階厳しくなる(例: IT8 → IT7)と、加工コストは1.5倍から2倍に跳ね上がると言われています 。これは、より高い精度を出すために、高性能な加工機が必要になったり、加工時間や検査工数が増えたりするためです。
意外と知られていない事実として、設計者が良かれと思って設定した厳しい公差が、オーバースペックとなり、製品のコストを不必要に押し上げているケースは少なくありません。例えば、嵌合(はめあい)とは無関係な部分にまで厳しい公差を適用してしまうと、その部品のためだけに特別な加工工程が必要になり、サプライチェーン全体に影響を及ぼすことさえあります。したがって、設計者は「この部品のこの部分に、本当にこの精度が必要か?」を常に自問し、機能的に問題のない範囲で、できるだけ緩やかな公差(IT等級の数字が大きい方)を選ぶ「コスト意識」が求められます。
IT基本公差等級と製造コストの関係について、より実践的な観点から解説されています。適切な公差設定が、いかにコスト削減に繋がるかが分かります。
はめあい公差記号の種類と使い分けを図解を用いて分かりやすく解説
一般公差を正しく運用するためには、図面上での指示方法と、その読み解き方をマスターする必要があります。一般公差は、個々の寸法に公差を指示する手間を省くために、図面の表題欄や注記に一括して指示されるのが一般的です 。
例えば、表題欄に「JIS B 0405-m」と記載があれば、「この図面で個別に公差が指示されていない寸法は、すべてJIS B 0405の中級(m)に従う」という意味になります。これを見落とすと、部品の品質を保証できないため、図面を受け取ったらまず表題欄を確認する癖をつけましょう。
次に重要なのが「基準寸法の区分」の読み方です 。一般公差の許容差は、寸法の大きさによって段階的に変化します。以下は、JIS B 0405における長さ寸法の公差(中級)の抜粋です。
| 基準寸法の区分 (mm) | 許容差 (mm) |
|---|---|
| 0.5を超え 3以下 | ±0.1 |
| 3を超え 6以下 | ±0.1 |
| 6を超え 30以下 | ±0.2 |
| 30を超え 120以下 | ±0.3 |
| 120を超え 400以下 | ±0.5 |
(※上記は一部抜粋です。正確な値は規格票を参照してください )
この表の使い方は以下の通りです。
意外な落とし穴として、面取り寸法や角度寸法には、長さ寸法とは別の許容差が定められている点です 。図面にC5(5mmの面取り)という指示があった場合、長さ寸法の許容差を適用するのではなく、面取り寸法の許容差の表を参照する必要があります。これらの違いを認識せず、すべて同じ公差だと思い込んでしまうと、思わぬ不具合に繋がる可能性があります。
普通公差の具体的な数値表が掲載されています。長さ寸法だけでなく、面取り寸法や角度寸法、直角度などの表も含まれており、実践的な参照資料として非常に有用です。
普通公差 JIS B 0405:1991/JIS B 0419:1991より抜粋

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