ショットブラストとは、投射材と呼ばれる粒体を金属などの加工物(ワーク)に高速で衝突させる表面処理技術です。この処理により、金属表面に微細な凹凸が形成され、様々な効果をもたらします。単に「ブラスト」と呼ばれることもあります。
ショットブラストの基本原理は以下の3ステップで説明できます。
投射材(メディア)の加速方法には主に2種類あります。
投射材にはさまざまな種類があり、加工目的や対象物によって選択されます。
投射材の種類 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
スチールショット | 鋼製の球状粒子 | 一般的な金属表面処理、スケール除去 |
スチールグリット | 鋼製の角ばった粒子 | 強い研削力が必要な場合 |
ガラスビーズ | 真球状のガラス粒子 | 繊細な表面処理、梨地仕上げ |
アルミナ | 硬質セラミック粒子 | 硬い素材の研削、精密加工 |
プラスチック | 樹脂製の粒子 | 柔らかい素材や繊細な部品の処理 |
くるみの殻 | 有機物の粒子 | 非常に繊細な表面の清掃 |
投射材の選択は仕上がりの質を左右する重要な要素です。粒子の大きさ、硬さ、形状によって、表面粗さや処理効果が変わってきます。
ショットブラスト処理を施すことで、金属表面には様々な変化が生じます。これらの変化がもたらす効果は、金属加工において非常に重要な役割を果たしています。
1. 表面粗さの形成
ショットブラストにより金属表面に微細な凹凸(アンカーパターン)が形成されます。この凹凸により表面積が増加し、次の工程での処理効果を高めます。
2. 密着性の向上
表面の凹凸により、塗装やコーティング材が金属に密着しやすくなります。これにより。
3. 表面の清浄化
ショットブラスト処理は以下のような不要物を効果的に除去します。
この清浄化作用により、新たな表面処理の下地として理想的な状態を作り出します。
4. 金属強度の向上
投射材の衝突により金属表面に圧縮応力が生じ、以下の効果が得られます。
特に、ショットピーニングと呼ばれる処理では、この強化効果を主目的としています。疲労破壊が懸念される部品には効果的な処理方法です。
5. 外観の改善
金属表面に均一な質感を与え、製品の見た目を向上させます。
これらの効果により、ショットブラスト加工は単なる表面処理以上の価値を金属部品に付加できる技術となっています。
金属加工における最大の敵の一つが「錆」です。特に鉄鋼材料において、錆の発生と進行は製品の寿命や品質に直結する問題となります。ショットブラスト処理は、この錆対策において重要な役割を果たします。
錆の発生メカニズムとショットブラストの効果
鋼材の表面には、製造過程で「ミルスケール」と呼ばれる鉄の酸化物が形成されています。このミルスケールは、一見すると保護層のように見えますが、実際には以下の問題を引き起こします。
ショットブラスト処理は、このミルスケールを物理的に除去することで、錆の発生源を断ちます。処理後の表面は清浄で、微細な凹凸が形成されるため、塗装の密着性が飛躍的に向上します。
錆防止のためのショットブラスト処理の手順
特に海洋構造物や屋外設置機器など、厳しい環境で使用される鋼材に対しては、適切なショットブラスト処理が不可欠です。日本工業規格(JIS)では、ブラスト処理の品質に関して「Sa」という等級が定められており、要求される防錆性能に応じた処理レベルの選択が重要です。
ショットブラスト処理後の防錆効果持続時間
ショットブラスト処理後の鋼材は、環境条件によって異なりますが、無処理の状態では数時間から数日で発錆する可能性があります。そのため、処理後は速やかに次の工程(塗装・コーティングなど)に進むことが重要です。理想的には、同一の環境内で連続処理を行うことで最大の効果を得られます。
ショットブラスト加工を行うためには、目的や加工物に適したショットブラスト機を選ぶことが重要です。主なショットブラスト機の種類と、選定ポイントについて解説します。
ショットブラスト機の主要タイプ
ショットブラスト機の動力源による分類
ショットブラスト機選定の重要ポイント
選定時に考慮すべき主なポイントは以下の通りです。
選定ポイント | 検討内容 |
---|---|
処理能力 | 1時間あたりの処理量、稼働率 |
加工物サイズ | 最大・最小サイズ、形状の複雑さ |
加工目的 | 錆除去、塗装下地、強度向上など |
投射材回収効率 | 投射材の再利用効率、分別精度 |
環境対策 | 粉塵対策、騒音対策 |
ランニングコスト | 電力消費量、投射材消費量、メンテナンス頻度 |
設置スペース | 必要床面積、高さ、付帯設備 |
近年のショットブラスト機は、IoT技術を活用した運転データの収集・分析や、自動調整機能を搭載した高効率モデルも増えています。導入時には、初期コストだけでなく、長期的な運用コストや生産性向上効果も含めて総合的に判断することが重要です。
ショットブラスト加工は、基本的な金属表面処理としての用途を超え、様々な産業で多様な応用がなされています。また、技術の進化により新たな可能性も広がっています。
産業別ショットブラスト応用例
自動車産業
航空宇宙産業
建築・土木分野
医療機器分野
最新の技術トレンド
環境負荷の低減を目指し、バイオマス由来の投射材や、生分解性を持つ素材の開発が進んでいます。特に食品機械や医療機器の処理に適した無害な投射材の需要が高まっています。
極めて小さな投射材を用いた超精密ショットブラスト技術が発展し、半導体部品や精密電子部品などの微細加工に応用されています。
ショットブラスト処理と化学処理を組み合わせたハイブリッド表面処理が注目されています。例えば、ブラスト後の表面に特殊コーティングを施すことで、撥水性や抗菌性などの機能を付与する技術が発展しています。
デジタルツインを活用した処理シミュレーションにより、最適な投射条件や処理時間を事前に予測することが可能になりました。これにより、試作回数の削減や品質の安定化が実現しています。
AIとロボット技術の融合により、複雑形状の加工物に対しても均一な処理が可能な全自動ショットブラスト装置が開発されています。人手不足の解消や作業環境改善に貢献しています。
日本では特に、高品質な金属加工技術としてショットブラスト処理の研究が活発で、特に自動車産業や精密機械産業において世界をリードする技術開発が行われています。環境規制の強化に伴い、低環境負荷と高効率を両立する次世代型のショットブラスト技術が求められています。
こうした技術革新により、ショットブラスト加工の適用範囲は今後さらに拡大していくことが予測されます。従来は困難だった素材や形状への応用も可能になり、金属加工の可能性がさらに広がっていくでしょう。