フライス加工と旋盤加工の違いと特徴と加工品の基本

金属加工の代表的な方法であるフライス加工と旋盤加工について、その違いや特徴、適した加工品について詳しく解説します。あなたの製作物にはどちらの加工法が適しているでしょうか?

フライス加工と旋盤加工の違いと特徴と加工品

フライス加工と旋盤加工の違いと特徴と加工品

フライス加工と旋盤加工の基本情報
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回転の対象

フライス加工は切削工具を回転、旋盤加工はワークを回転させる

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加工適性

フライス加工は平面や角物、旋盤加工は円筒形状に適している

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使用工具

フライス加工はエンドミル等、旋盤加工はバイトを使用

フライス加工と旋盤加工の基本原理と加工方法の違い

 

金属加工の世界において、フライス加工と旋盤加工は最も基本的かつ重要な切削加工方法です。両者は同じ切削加工に分類されますが、その基本原理と加工方法には明確な違いがあります。

 

フライス加工(ミーリング加工とも呼ばれる)は、固定されたワーク(加工対象物)に対して、高速で回転する切削工具を押し当てて削り取る加工方法です。この時、切削工具の刃部はワークと接触と非接触を繰り返すため、「断続切削」と呼ばれています。フライス加工では複数の刃を持つ切削工具が回転しながら材料を削るため、切り粉が分断されてチップ状で排出されるのが特徴です。

 

一方、旋盤加工(旋削加工とも呼ばれる)は、ワークを高速で回転させ、固定された切削工具であるバイトを当てて削り取る加工方法です。この時、バイトの刃部はワークと常に接触し続けるため、「連続切削」と呼ばれています。旋盤加工では、切り粉がリンゴの皮を剥いたような連続的な線状に排出されるのが特徴です。

 

この基本原理の違いから、両加工法は適する形状や精度特性が異なり、製品の要求に応じて適切に選択する必要があります。近年では、コンピュータ制御により自動で加工を行うCNC旋盤やマシニングセンタが主流となり、複雑な形状でも高精度な加工が可能になっています。

 

フライス加工と旋盤加工の刃物と工具の特徴と種類

 

フライス加工と旋盤加工では、使用する刃物や工具も大きく異なります。それぞれの加工方法に適した特殊な工具が開発されており、その特徴を理解することが高品質な加工を実現する鍵となります。

 

旋盤加工で使用される切削工具は「バイト」と呼ばれ、主に以下の5種類に分類されます。

  • 片刃バイト:シャンクの左右どちらかにのみ刃が付いており、円筒形素材の外径研削や端面加工に最適
  • 剣バイト:刃先が剣のように尖っており、精密な溝加工などに使用
  • 突っ切りバイト:外周の溝入れや切断に使用
  • ねじ切りバイト:ねじ山を作成する際に使用
  • 中ぐりバイト:内径を切削する際に使用

これらのバイトは構造の違いによっても、「ムクバイト」(刃先とシャンクが同じ素材で一体)、「付刃バイト」(刃先をシャンクに溶着)、「スローアウェイバイト」(チップ交換式)の3種類に分けられます。

 

一方、フライス加工で使用される主な工具は以下の4種類に分類できます。

  • 正面フライス:高速回転して表面を平らに削る
  • 平フライス:横型フライス盤で平面を削る
  • 溝フライス:ワークの側面や端面に溝を彫るのに適している
  • エンドミル:ドリルの刃に似た縦長の形状で、細かな部分の切削に適している

連続切削である旋盤加工と断続切削であるフライス加工では、工具に求められる特性も異なります。フライス加工の工具には、断続的な衝撃に耐える粘り強さと、接触・非接触による温度差に強い耐熱衝撃性が必要です。一方、旋盤加工の工具には常時接触による摩耗に耐える耐摩耗性が重要となります。

 

フライス加工と旋盤加工に適した加工品と形状の特徴

 

フライス加工と旋盤加工は、それぞれ得意とする加工形状が異なるため、製作する加工品によって適切な加工方法を選択することが重要です。

 

旋盤加工は円筒形状の加工に特化しており、真円度の高い加工を実現できます。そのため、以下のような加工品の製作に適しています。

  • シャフト:回転軸として使用される円柱状の部品
  • ボルト・ピン:機械部品の締結や位置決めに使用される円柱状の部品
  • ブッシュ:摺動部の摩耗を防止する筒状の部品
  • カップリング:回転軸同士を接続する部品
  • ネジ部品:精密なねじ山が必要な部品

特に内径が小さく深い穴加工や、高い真円度が求められる精密部品の製作には旋盤加工が選ばれます。ワークが回転することで加工を行うため、外径や内径の寸法精度が出しやすいという利点があります。

 

一方、フライス加工は平面方向の切削が得意で、四角形状の工作物の切削に特化しています。以下のような加工品の製作に適しています。

  • 角物部品:直角や平面が多い機械部品
  • フランジ系部品:接続用の突起部を持つ部品
  • 複雑な形状の部品:曲面や非対称形状を持つ部品
  • 溝や穴が複数ある部品:様々な位置に加工が必要な部品

フライス加工は特に寸法精度が必要な精密部品加工で用いられ、仕上がりが綺麗で不良品が少ないという特徴があります。外径が大きい加工品においては、ワークを回転させる旋盤加工より、工具を回転させるフライス加工の方が適していることが多いです。

 

連続切削と断続切削の特性と加工精度への影響と対策

 

フライス加工と旋盤加工の根本的な違いである「断続切削」と「連続切削」は、加工精度や表面品質に大きな影響を与えます。これらの特性を理解し、適切に対応することが高品質な加工を実現する鍵となります。

 

連続切削である旋盤加工では、バイトの刃先とワークが常に接触し続けるため、安定した切削力が維持されます。これにより、高い真円度と表面品質が得られる一方で、工具の摩耗が進行しやすいという特徴があります。連続切削の主な特性とその影響は以下の通りです。

  • 切り粉が連続的に線状に排出される
  • 工具の摩耗が均一に進行する
  • 切削熱が蓄積しやすい
  • 表面仕上がりが均一になりやすい

一方、断続切削であるフライス加工では、工具の刃がワークと接触と非接触を繰り返すため、工具に大きな衝撃力が繰り返し作用します。また、接触時と非接触時の温度差により熱亀裂が発生するリスクがあります。断続切削の主な特性とその影響は以下の通りです。

  • 切り粉がチップ状に分断されて排出される
  • 工具に衝撃力が繰り返し作用する
  • 接触・非接触による温度変化が生じる
  • 表面にカスプマーク(波状の痕)が生じやすい

これらの特性が加工精度に与える影響を最小限に抑えるためには、適切な対策が必要です。連続切削では、適切な切削油の使用による熱対策と、定期的な工具交換による摩耗対策が重要です。断続切削では、衝撃に強い工具材料の選択と、適切な回転数・送り速度の設定による振動抑制が効果的です。

 

近年の加工機械では、これらの特性を考慮した制御技術が発達し、高精度な加工が可能になっています。工具メーカーも連続切削用と断続切削用に特化した工具を開発し、それぞれの加工法の弱点を補う取り組みが進んでいます。

 

フライス加工と旋盤加工の複合技術と新たな可能性

 

金属加工技術の進化に伴い、フライス加工と旋盤加工の特性を組み合わせた複合加工技術が注目を集めています。これまで別々の工程で行われていた加工を一台の機械で完結させることで、加工時間の短縮やコスト削減、精度向上を実現しています。

 

複合加工機の代表例である「複合旋盤」や「ターニングセンタ」は、旋盤加工の機能をベースにフライス加工の機能を追加したものです。これにより、一度のチャッキング(材料固定)で複数の加工が可能となり、段取り替えによる精度低下を防止できます。また、「ミルターン」と呼ばれる加工方法では、旋盤の回転軸を利用しながらフライス加工を行うことで、複雑な三次元形状の加工も実現しています。

 

さらに、近年では以下のような新たな技術開発が進んでいます。

  • 超高速加工技術:従来の数倍の回転数で加工することで、加工時間の短縮と表面品質の向上を実現
  • 振動切削技術:意図的に微細な振動を加えることで、難削材の加工性向上や切り粉の分断を促進
  • ハイブリッド加工:切削加工とレーザー加工放電加工などを組み合わせた複合的な加工方法

特に注目すべきは、AIや機械学習を活用した「スマートマシニング」の発展です。切削条件を自動最適化し、工具摩耗を予測することで、熟練工の技能に頼らない高精度加工を可能にしています。これにより、熟練工不足という業界課題の解決にも貢献しています。

 

複合加工機の詳細と最新技術について参考になる情報
複合加工技術の進化により、従来はフライス加工と旋盤加工それぞれの専門性を持つ分業制が主流でしたが、今後は一人のオペレーターが両方の加工技術を理解し、複合的に活用することが求められるでしょう。この技術の融合は、金属加工業界に新たな可能性をもたらすと同時に、技術者にはより幅広い知識と適応力を求めることになります。

 

製造業のデジタル化が進む中、フライス加工と旋盤加工の基本原理を理解した上で、これらを統合的に活用できる技術者の育成が今後ますます重要になるでしょう。両加工法の特徴を熟知し、適材適所で使い分けることで、より効率的で高品質な金属加工を実現することができます。