亜鉛めっきの規格改正と種類及び白さび対策の基礎知識

JIS規格が改正された亜鉛めっきの基本知識から種類、耐食性、白さび対策まで詳しく解説。環境負荷が少なく持続可能な亜鉛めっき技術の最新動向とは?

亜鉛めっきの基礎知識と実用ガイド

亜鉛めっきの基礎から応用まで
🔧
種類と特徴

電気亜鉛めっきと溶融亜鉛めっき(どぶ漬け)の違いと特性

📝
規格改正の重要ポイント

2021年12月の規格改正でHDZからHDZTへ変更された詳細

♻️
環境対応と再生技術

持続可能性を高める再生亜鉛の可能性と最新動向

亜鉛めっきとは:種類と特徴

亜鉛めっきとは、鉄や鋼などの金属表面に亜鉛を被覆させることで、素材の耐食性を高める表面処理技術です。この技術は防食処理として幅広い産業分野で利用されており、建築資材から自動車部品、電気設備まで様々な用途に適用されています。

 

亜鉛めっきには主に2種類の方法があります。

  1. 電気亜鉛めっき:電気分解を利用して亜鉛イオンを素材表面に析出させる方法です。比較的薄い膜厚(5〜25μm程度)で均一な仕上がりが特徴で、精密部品や装飾性を重視する用途に適しています。
  2. 溶融亜鉛めっき(どぶ漬けめっき):約450℃の溶融した亜鉛浴に素材を浸漬する方法です。厚い膜厚(40〜200μm程度)が得られ、屋外での使用や厳しい環境条件下での高い耐食性が求められる場合に適しています。

亜鉛めっきの最大の特徴は「犠牲防食作用」にあります。これは亜鉛が鉄よりもイオン化傾向が大きいことを利用した防食メカニズムで、素材(鉄)よりも先に亜鉛が腐食することで素材を保護します。この性質から、亜鉛めっきは「錆びないめっきの王様」とも呼ばれています。

 

さらに、亜鉛めっきの表面は空気中で酸化被膜を形成し、これが下地の亜鉛を保護する「バリア効果」も兼ね備えています。この二重の防食機能により、亜鉛めっきは非常に効果的な防食処理として広く利用されています。

 

亜鉛めっき鋼板や亜鉛めっき鋼管などの製品も広く普及しており、これらは工場で予めめっき処理された状態で流通しています。このように、亜鉛めっきは現代の金属加工産業において不可欠な技術となっています。

 

亜鉛めっきのJIS規格改正:HDZからHDZTへの変更点

2021年12月20日、溶融亜鉛めっきに関する日本産業規格(JIS H 8641および JIS H 0401)が大きく改正されました。この改正は金属加工業界に大きな影響を与えるもので、特に注目すべき点をご紹介します。

 

改正の主なポイント:

  1. 基準値の変更:従来のHDZ規格では亜鉛の「付着量(g/m²)」を品質基準としていましたが、新規格では「膜厚(μm)」を基準とするように変更されました。これにより、国際規格ISO 1461:2009との整合性が高まりました。
  2. 規格名称の変更:従来の「HDZ」(Heavy Duty Zinc coating)から「HDZT」(Heavy Duty Zinc coating Thickness)へと変更されました。この「T」は膜厚(Thickness)を意味しています。
  3. 測定方法の変更:従来の付着量試験に代わり、電磁式膜厚計による測定が主流となります。技術の進歩により膜厚計の精度が向上し、より簡便に測定できるようになったことが背景にあります。

新旧規格の対応関係:
下表は旧規格(HDZ)と新規格(HDZT)の対応関係を示しています。

 

旧規格 新規格 膜厚(μm) 適用例
HDZ 35 HDZT 35 35以上 厚さ5mm以下の素材、直径12mm以上のボルト・ナット等
HDZ 40 HDZT 56 56以上 厚さ1mm以上の素材
HDZ 45 HDZT 63 63以上
HDZ 50 HDZT 70 70以上
HDZ 55 HDZT 77 77以上

換算方法:
膜厚と付着量の間には次の関係式が成り立ちます。

 

膜厚[μm] = 付着量[g/m²] ÷ 7.2(亜鉛の密度[g/cm³])
例えば、HDZ 40(付着量400g/m²)は約56μm(= 400 ÷ 7.2)の膜厚に相当するため、新規格ではHDZT 56となります。

 

経過措置と実務への影響:
この改正には1年間の経過措置期間が設けられ、2022年12月19日までは旧規格を適用することも認められていました。現在はすでに新規格への移行が進んでいますが、業界内では従来の「HDZ」という呼称が慣習的に使われるケースもあり、混乱を避けるため正確な規格表記に注意が必要です。

 

日本溶融亜鉛鍍金協会による規格改正の詳細資料

亜鉛めっきの耐食性と耐用年数

亜鉛めっきの最大の利点は優れた耐食性ですが、その耐用年数は使用環境によって大きく異なります。適切な耐久性を見積もるためには、環境要因を正しく理解することが重要です。

 

環境要因と腐食速度:
亜鉛めっきの耐食性に影響を与える主な環境要因には以下のものがあります。

 

  • 降水量・降雨パターン
  • 風向きと風速
  • 湿度
  • 亜硫酸ガス濃度(工業地域)
  • 海塩粒子の量(海岸地域)

これらの要因により、同じ仕様の亜鉛めっきでも地域や設置場所によって耐用年数が大きく変わることがあります。

 

環境別の亜鉛腐食速度と耐用年数:
日本溶融亜鉛鍍金協会などの機関による暴露試験から、環境別の亜鉛腐食速度と推定耐用年数が明らかになっています。

 

環境区分 平均腐食速度(g/m²/年) 耐用年数(年)※
都市工業地帯 9.3 53
田園地帯 4.5 110
海岸地帯 11.1 45

※亜鉛付着量550g/m²(HDZT 77相当)の場合で、めっき皮膜の90%が消耗するまでの期間
特筆すべき点は、屋内環境では同じ地域の屋外に比べて5倍以上の耐用年数が期待できることです。つまり、田園地帯の屋内であれば、理論上は500年以上の耐久性も可能ということになります。

 

また、橋梁などの大型構造物では、部材の厚みが9~30mmと厚く、亜鉛めっき付着量も800~2,000g/m²程度が見込まれるため、事実上「半永久的」な耐用年数を持つと考えられています。

 

膜厚と耐用年数の関係:
亜鉛めっきの膜厚と耐用年数はおおむね比例関係にあります。例えば、膜厚が2倍になれば、理論上の耐用年数も約2倍になります。ただし、これは環境条件が一定である場合の目安であり、実際の耐用年数は複数の要因の影響を受けます。

 

適切な仕様選定のポイント:
用途や設置環境に合わせて適切なめっき仕様を選定することが重要です。特に腐食環境の厳しい場所では、より厚い膜厚(HDZT 70以上)が推奨されます。ただし、素材の厚みによって適用できる膜厚には制限があるため、素材設計段階から考慮する必要があります。

 

溶融亜鉛めっきの耐食性について詳しく解説した資料

亜鉛めっきの白さび:原因と効果的な対策

亜鉛めっき製品で頻繁に問題となる「白さび」について、その正体と対策方法を解説します。

 

白さびとは:
白さびとは、亜鉛めっき表面に生じる白色の腐食生成物(主に水酸化亜鉛)です。通常の亜鉛めっき表面は空気中で緻密な保護性酸化被膜を形成しますが、特定の条件下ではこの保護被膜が適切に形成されず、白い粉状の腐食物が発生します。

 

発生原因:
白さびが発生する主な条件は次の通りです。

 

  1. 高湿度環境:相対湿度が70%を超える環境
  2. 水分の滞留:めっき表面に水滴や結露が長時間留まる状態
  3. 通気不良:製品同士が密着していたり、包装材に覆われたりして空気の流通が悪い状態
  4. 温度変化:急激な温度変化による結露の発生

これらの条件が重なると、白さびが発生するリスクが高まります。特に梅雨から夏場にかけての高温多湿の時期は要注意です。

 

白さびの影響:
白さびは見た目の問題として嫌われますが、実は「赤さび」のように鉄を腐食させる存在ではなく、むしろ鉄の腐食を遅らせる良性の存在とも言えます。しかし、美観を損なうため、製品価値を下げる原因となります。

 

予防対策:
白さび発生を防ぐための主な対策は以下の通りです。

 

  1. 適切な保管環境の確保
    • 風通しの良い場所で保管
    • 温度差が少ない環境を維持
    • 相対湿度70%以下を保つ
  2. 水分接触の防止
    • 製品同士を密着させない
    • 雨水が溜まらないよう傾斜をつける
    • 結露防止のため温度変化を緩やかにする
  3. クロメート処理などの表面処理
    • めっき後の追加処理で耐食性を高める
    • 環境配慮型のクロムフリー処理も増加中

白さび除去方法:
すでに白さびが発生した場合の除去方法には以下があります。

 

  1. お酢やクエン酸を使う方法
    • pHが低い酸性溶液で白さびを溶解
    • 効果的だが酸っぱい臭いが発生する欠点あり
  2. 専用の白さび除去剤の使用
    • 亜鉛めっき層の表面数μmのみを溶かして白さびを除去
    • 亜鉛めっき層全体にダメージを与えない
    • 悪臭が少なく環境にも配慮された製品が増加中
  3. 機械的な除去方法
    • ブラシやサンドペーパーで軽く擦り落とす
    • めっき層を過度に傷つけないよう注意が必要

白さび対策で重要なのは、めっき直後から適切な環境で保管・輸送することです。特に季節の変わり目や湿度の高い時期には、より一層の注意が必要です。

 

白さび除去剤の効果と使用方法についての詳細

亜鉛めっきと環境:再生亜鉛の可能性と課題

近年、サステナビリティへの関心が高まる中、亜鉛めっき業界でも環境負荷低減の取り組みが進んでいます。特に「再生亜鉛」の活用は、循環型経済への転換において重要な役割を果たしています。

 

再生亜鉛とは:
再生亜鉛(二次亜鉛ともいう)は、使用済みの亜鉛製品や亜鉛を含む廃棄物から回収・精製された亜鉛のことです。主な回収源には、溶融亜鉛めっき鋼材のスクラップ、黄銅製品の製造過程で発生する副産物、使用済み乾電池などがあります。一次亜鉛(鉱石から新たに精錬された亜鉛)と比較して、製造時のエネルギー消費量や二酸化炭素排出量が大幅に削減できる点が大きな特徴です。

 

再生亜鉛の市場動向:
マーケットリサーチセンターの調査によると、世界の再生亜鉛市場は2023年から2030年にかけて着実に成長すると予測されています。この成長を後押しする要因として、以下の点が挙げられます。

 

  1. 資源の有効活用:限りある鉱物資源の消費抑制
  2. 環境規制の強化:CO₂排出削減目標に対応した生産方法への移行
  3. コスト効率:一次亜鉛と比較して製造コストが低い
  4. アジア地域の需要増加:特に建設・自動車産業の成長による需要拡大

再生亜鉛のメリット:

  • 環境負荷低減:一次亜鉛の生産に比べ、エネルギー消費量が約60%削減
  • 資源循環:亜鉛は繰り返し再生しても性能劣化がほとんどない
  • 廃棄物削減:亜鉛含有廃棄物の埋立量削減に貢献
  • 経済性:原料費削減によるコストメリット

課題と今後の展望:
再生亜鉛の普及にはいくつかの課題も存在します。

 

  1. 品質の安定性:回収源によって不純物の量や種類が異なり、品質にばらつきが生じる可能性がある
  2. 回収システム:効率的な回収・分別システムの構築が必要
  3. 技術的課題:より高品質な再生亜鉛を低コストで製造する技術の開発
  4. 認知度と信頼性:一部の用途では再生材料の使用に対する懸念がある

これらの課題に対して、業界では品質管理の強化や新たな精製技術の開発が進められています。また、環境認証や品質保証制度の整備も進行中です。

 

日本企業の取り組み:
日本国内でも、複数の企業が再生亜鉛の活用に積極的に取り組んでいます。例えば、リサイクル技術の高度化や、再生亜鉛を用いためっき浴の調整技術の開発などが行われています。こうした取り組みは、環境面だけでなくコスト競争力の強化にも貢献しています。

 

亜鉛めっき業界全体としても、従来のクロム酸処理から環境負荷の低い代替処理への移行や、めっき浴の長寿命化技術など、様々な環境対応が進められています。こうした一連の取り組みにより、亜鉛めっき業界は持続可能な金属加工技術としての地位を強化しています。

 

2025年以降も、アジアを中心とした鋼材需要の高まりと循環型経済への世界的なシフトにより、再生亜鉛市場のさらなる拡大が見込まれています。亜鉛めっき関連企業にとっては、これらの市場動向を見据えた戦略の構築が重要となるでしょう。

 

二次亜鉛の世界市場に関する最新調査データ