薄板金属加工の基本となるせん断加工は、紙をハサミで切るのと同じ原理で行われる技術です。板金を切断したり、丸穴や角穴をあけたりする際に用いられ、製品の精度を左右する重要な工程となります。せん断加工には主に2つの金型が使用され、この金型の精度が仕上がりの品質を決定します。
せん断加工の仕組みは非常にシンプルですが、その背後には複雑な技術があります。特に板厚0.5mm以下の薄板金属においては、適正な加工条件が完全には確立されていない状況です。加工時には以下の点に注意が必要となります。
特に薄板金属の場合、加工中の材料変形を防ぐために、弾性支持された工具を使用することがあります。これにより、工具の移動と加工力を適切に制御し、高精度な仕上がりを実現します。金属の種類によっても適した加工条件は異なるため、銅系、鉄系、ステンレス系など様々な材料に対応する技術が必要とされています。
薄板金属加工において、材質の選択は製品の機能性や耐久性を決定づける重要な要素です。一般的に使用される材質としては、以下のようなものがあります。
それぞれの材質は特有の特性を持っており、用途に応じて最適な選択が求められます。例えば、電子部品の接点には導電性に優れたリン青銅(C5210)が、バネ部品にはSUS304 CSPなどが選ばれることが多くなっています。
加工硬化(「H」記号で表される)は、金属材料の硬度を高める重要なプロセスです。加工硬化には以下の種類があります。
加工硬化の度合いはHの後に続く数字(1~9)で示され、8は通常の加工で得られる最大引張強さを表します。材料の選定においては、製品の要求する機械的特性(強度、柔軟性、耐久性など)を考慮し、適切な加工硬化状態の材料を選ぶことが重要です。
また、TXの細分記号は特定の処理方法を表しています。例えば、TX51は厚板で1.5%以上3%以下の永久ひずみを与えた状態を意味します。薄板では0.5%以上3%以下の永久ひずみとなります。製品の用途や要求特性に応じて、これらの処理方法を適切に選択することが、高品質な薄板金属部品の製造には欠かせません。
薄板金属のプレス穴あけ加工は、精密な部品製造において不可欠な技術です。特に板厚0.5mm以下の超薄板においては、従来の加工方法では満足な精度を得ることが難しく、適正な加工条件の確立が求められています。
プレス穴あけ加工において重要なのは以下の点です。
超精密な穴あけ加工では、金型レス工法も用いられています。これは初期費用を抑えつつ、トリミングや曲げ加工に対応できる方法です。特にt0.005からのバネ材など超薄板金属の加工に適しており、限定生産や試作にも対応可能です。
精密穴あけ加工の品質は、以下の要素で評価されます。
これらの精度を向上させるためには、弾性支持された工具の使用も効果的です。工具の移動と加工力を精密に測定・制御することで、薄板金属に対しても高精度な穴あけが可能になります。最新の加工技術では、レーザー加工機やワイヤーカットなども活用されており、材質・寸法公差・板厚・形状・製作数に応じて最適な工法が選択されます。
薄板金属加工品の製造は、複数の工程を経て行われます。一般的な製造工程は以下のとおりです。
特に精密な薄板金属加工では、上記の工程に加えて、特殊な技術や設備が必要となります。
品質管理においては、投影機やノギスなどを用いた寸法検査が重要です。特に超精密な製品では、ミクロン単位の精度が要求されることもあります。
薄板金属加工品の一般的な用途としては、以下のようなものが挙げられます。
これらの製品は、高い精度と品質が要求されるため、製造工程の各ステップにおいて厳格な品質管理が必要です。また、二次・三次加工として熱処理や表面処理が施されることも多く、一貫したサービスとして提供する企業も増えています。
薄板金属加工技術は、電子機器の小型化・高性能化に伴い、さらなる微細化と高精度化が進んでいます。現在では0.005mmという極薄の材料加工も可能になっており、今後もこの微細化の傾向は続くと予想されます。
未来の薄板金属加工において注目されている技術トレンドには以下のようなものがあります。
特に環境配慮設計は、今後の製造業において重要な課題となります。薄板金属加工においても、材料使用量の最小化、エネルギー消費の削減、廃棄物の低減などが求められています。例えば、金型レス工法の採用は、初期費用の削減だけでなく、環境負荷の低減にも貢献します。
また、異種金属の接合技術も進化しています。抵抗溶接を中心とした簡易冶具工法の開発により、アルミニウムやマグネシウムといった非鉄金属や特殊金属、さらには異種金属の接合も可能になっています。これにより、軽量化と高機能化を両立した部品の製造が可能となり、自動車や航空宇宙産業などの分野で応用が期待されています。
表面硬化技術も進化しています。従来の火炎焼入れや高周波焼入れに加え、CVD法や溶射法、めっきなどによる表面硬化も広く用いられるようになっています。これらの技術により、表面は硬く耐摩耗性に優れ、内部は強度とねばり強さを保った理想的な部品の製造が可能になっています。
薄板金属加工の未来は、微細化・高精度化の追求と環境への配慮のバランスを取りながら発展していくでしょう。製造業に携わる方々は、これらの技術トレンドを把握し、自社の加工技術を常に最新のものへとアップデートしていくことが求められます。