青銅の金属加工における種類と特性及び切削技術

青銅の金属加工について種類別の特性や最適な切削技術を解説します。りん青銅などの青銅合金の加工条件や工具選択のポイントを知り、高精度な加工を実現するには何が必要なのでしょうか?

青銅の金属加工と切削技術

青銅の金属加工の基本
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種類と特性

銅合金である青銅は種類によって特性が異なり、加工方法も変わります

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加工技術

切削・旋盤・鋳造など様々な加工方法があり、材質に合わせた技術選択が重要です

品質管理

適切な工具選択と加工条件の管理が高品質な青銅加工の鍵となります

青銅の種類と成分による特性の違い

青銅とは銅を主成分とし、錫や亜鉛、鉛などを配合した合金です。一般的には、銅60%~65%、亜鉛25%~30%、鉛5%~10%、錫5%~10%という組成で構成されています。青銅は見た目の印象とは異なり、本来は光沢のある金属であり、添加する錫の量によって色合いが変化します。錫の添加量が少ないと10円玉のような赤銅色になり、多くなると黄金色や白銀色へと変わっていきます。

 

青銅の主な種類としては以下のものがあります。

     

  • すず青銅展延性に優れており、型打加工などに適しています。硬度が比較的高く、多様な加工に対応できます。
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  • りん青銅:弾性、耐摩耗性耐疲労性に優れており、バネや歯車などの機械部品に使用されます。電子部品のコネクタやスプリング端子にも広く使われており、C5191やC5210が代表的な材料です。
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  • 砲金靭性に富み、鋳造が容易で耐摩耗性や耐浸食性に優れています。「ガンメタル」とも呼ばれ、水道メーターやバルブなどに使用されています。一般的には銅85%、錫5%、亜鉛5%、鉛5%の組成が代表的です。10円硬貨は銅95%、亜鉛4%、錫1%の砲金でできています。
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  • アルミニウム青銅:強度と耐食性に優れた特殊な青銅で、特に海水などの腐食環境下で使用される部品に適しています。
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  • 鉛青銅:鉛を含むことで鋳造性と切削性が向上し、軸受材料として優れた特性を持っています。成分は銅77%~81%、錫9%~11%、鉛9%~11%、ニッケル1%以下となっています。

青銅は銅に比べて硬度が高く、錫の添加量が多いほど硬くなりますが、同時にもろくなる傾向があります。このため、用途に応じた適切な成分調整が重要になります。また、青銅は空気中で徐々に酸化され、表面に炭酸塩を形成して緑青となりますが、これは純粋な青銅の色ではなく、経年変化による表面の変色です。

 

青銅の切削加工における工具選択と加工条件

青銅の切削加工は、その種類や成分によって工具選択や加工条件が大きく変わります。最適な切削加工を行うためには、材料の特性を十分に理解し、それに合わせた工具と加工パラメータを設定することが重要です。

 

工具の選択
青銅の切削には以下の点を考慮して工具を選択します。

     

  • 超硬工具:青銅切削の標準的な選択肢で、特にコーティングされたものが耐摩耗性を高めます
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  • ハイスピードスチール(HSS):コスト効率が良く、簡易的な加工や少量生産に適しています
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  • ダイヤモンドコーティング工具:高精度の仕上げ加工や大量生産に適しており、工具寿命を延ばします

りん青銅などの硬い青銅合金を切削する場合は、ステンレス用の刃物を使用するのが効果的です。実際の切削現場では、超硬+コーティングのエンドミルが使われることが多く、これにより工具の摩耗を最小限に抑えることができます。

 

切削条件の設定
青銅の切削加工では、以下の切削条件を適切に設定することが重要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切削パラメータ りん青銅の場合 砲金の場合
切削速度 60~100m/分 80~120m/分
送り速度 0.1~0.3mm/rev 0.15~0.4mm/rev
切込み量 少量・多パスが安全 比較的大きな切込み可
切削油 乳化油推奨 水溶性切削油可

青銅は一般的に鉄よりも加工が容易と考えられていますが、特にりん青銅の場合は実際には刃物を痛めやすく、量産には向かない面もあります。そのため、チャッキング時の注意(強すぎると変形の恐れがある)や、切込み量と送りの調整が重要です。

 

切削油の使用
青銅加工においては、適切な切削油の使用が重要です。切削油は以下の役割を持ちます。

     

  • 熱の発生を抑制し、材料の変形を防止
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  • 工具の摩耗を低減
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  • 切りくずの排出をスムーズに
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  • 加工精度の向上

特にりん青銅のような硬い青銅合金の加工では、適切な切削油を使用しないと加工精度やツール寿命に悪影響を及ぼします。水溶性切削油や乳化油が一般的に使用されますが、加工の難易度や要求精度に応じて最適なものを選択することが重要です。

 

りん青銅の旋盤加工技術と注意点

りん青銅は優れた強度とバネ特性を持ち、電気器具用の材料として広く使用されています。一般的には錫4%~10%、リン0.35%以下、残りが銅の組成となっています。このりん青銅を旋盤加工する際には、その特性を理解した適切な加工技術が必要です。

 

NC旋盤加工の基本工程
りん青銅のNC旋盤加工は、以下の工程で行われます。

  1. チャッキング工程:りん青銅は適度な硬さがあるため、チャッキングには注意が必要です。強すぎると変形する恐れがありますが、弱すぎると加工中に動いてしまう可能性があります。ベンチレースのコレットチャックを使用する場合は、材料を適切に固定します。
  2. 外周加工:りん青銅は切削抵抗が大きいため、刃物選択と切削条件の設定が重要です。外周の荒加工と仕上げ加工を適切に分けて行います。
  3. センタリングと穴あけ:精密な穴加工を行うためには、まずセンター加工を行います。センター加工によってドリルの取っ掛かりができ、位置および寸法の安定性が向上します。
  4. 穴あけ加工:りん青銅に穴を開ける際は、ドリル選択が重要です。例えば、NACHI(不二越)製のSGESSシリーズのような高品質ドリルを使用することで、精度の高い穴加工が可能になります。
  5. タップ加工・面取り:ねじ切り加工や面取り加工においても、りん青銅の硬さに対応した工具選択が必要です。特に細目ねじを加工する場合はタップの種類が限られるため、事前の準備が重要です。

りん青銅加工の具体的な注意点
実務経験から得られたりん青銅加工の重要な注意点をまとめます。

  • 工具の摩耗:りん青銅は非鉄金属であるにもかかわらず、刃物を痛めやすい特性があります。定期的な工具チェックと交換が必要です。
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  • 切削条件:適切な切削速度と送り速度を維持することが重要です。過剰な切削条件は工具寿命を短くし、加工精度も低下させます。
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  • 振動対策:りん青銅は硬さがあるため、加工中の振動が発生しやすくなります。剛性の高いチャッキングと適切な回転数設定が重要です。
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  • 熱の管理:りん青銅は熱伝導率が高いですが、それでも加工熱による変形のリスクがあります。冷却は適切に行う必要があります。
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  • バリ対策:りん青銅は加工後にバリが発生しやすい材料です。最終工程での面取りやバリ取りの処理は丁寧に行います。

りん青銅の旋盤加工では、超硬工具とステンレス用の刃物を使用することで加工効率を高められます。また、りん青銅の精密加工では、正確なセットアップと均一なクーラントの供給が精度向上と工具寿命延長に貢献します。

 

青銅加工における熱処理と品質管理

青銅加工の品質を左右する重要な工程として、熱処理と品質管理があります。これらを適切に行うことで、青銅製品の機械的特性を向上させ、長期的な耐久性を確保することができます。

 

青銅の熱処理方法
青銅の熱処理は種類によって異なりますが、主に以下のような処理が行われます。

     

  • 焼きなまし加工硬化した青銅を軟化させる処理で、内部応力の除去と展延性の回復が目的です。りん青銅の場合、450〜650℃程度で加熱後、徐冷します。
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  • 時効硬化:りん青銅などでは、適切な温度で一定時間保持することで硬度と弾性を向上させることができます。
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  • 応力除去焼きなまし:精密部品の加工後に寸法安定性を確保するために行われます。比較的低温(250〜350℃)で加熱し、内部応力を除去します。

特にりん青銅のバネ材では、適切な熱処理によってばね特性を最大限に引き出すことが可能です。また、精密加工においては、熱処理による寸法変化を見込んだ設計が重要です。

 

青銅加工の品質管理
高品質な青銅加工製品を安定して生産するためには、以下の品質管理ポイントに注意が必要です。

  1. 材料検査:加工前に材料の化学成分や物理的特性を確認し、適切な材料が使用されているか確認します。
  2. 鋳造品質の確認:青銅鋳造では、湯回り不良、ガス欠陥、収縮によるすなどの欠陥が発生しやすいため、適切な鋳型設計と鋳造条件の管理が重要です。
  3. 加工精度の管理


  • 寸法精度:青銅は加工性が良い反面、熱膨張係数が大きいため、温度管理を適切に行い寸法精度を確保します
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  • 表面粗さ:仕上げ加工条件の最適化によって要求される表面品質を達成します
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  • 形状精度:複雑形状の加工では、治具設計と加工順序の最適化が重要です
  1. 非破壊検査:重要部品では、超音波探傷や液体浸透探傷などの非破壊検査を行い、内部欠陥や表面欠陥の有無を確認します。
  2. 機械的特性試験:製品の用途に応じて引張試験、硬度試験、疲労試験などを行い、要求性能を満たしているか確認します。

青銅加工において特に注意すべき点は、材料固有の特性を十分に理解し、それに合わせた加工条件と品質管理を行うことです。例えば、りん青銅は機械的強度に優れていますが、過度な加工硬化を避けるために適切な中間焼きなましが必要な場合があります。

青銅のJIS規格と品質管理に関する詳細情報

青銅の精密加工技術と電気接点への応用


青銅は多様な特性を持つ合金であり、特に精密機械部品や電気接点の製造において重要な役割を果たしています。特にりん青銅は、その優れた導電性と機械的特性から、電子部品のコネクタやスプリング端子などに広く使用されています。

青銅の精密加工技術
青銅の精密加工では、以下のような技術が活用されています。

  • CNC精密切削:コンピュータ制御による高精度な切削加工で、複雑な形状の部品を高い寸法精度で製作できます。青銅の場合、材質に適した切削条件の設定が重要です。
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  • 放電加工:電気放電を利用して金属を除去する加工法で、特に複雑な形状や微細部品の加工に適しています。りん青銅などの硬い青銅合金の精密加工にも応用されています。
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  • 精密プレス加工:電気接点などの大量生産に適しており、りん青銅の優れた展延性を活かした加工方法です。
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  • 微細切削加工:小型医療機器部品や精密機械部品などの製造に用いられる技術で、りん青銅の加工性と強度を生かした用途が広がっています。

電気接点製造における青銅の役割
電気接点の精密加工において、青銅特にりん青銅は重要な材料として使用されています。その理由は以下の通りです。

  1. 優れたバランス:青銅は加工性と導電性のバランスが取れています。純銅ほどの極めて高い導電性はありませんが、その強度と耐久性により魅力的な選択肢となっています。
  2. 導電性と強度:電気接点には導電性は重要ですが、同時に機械的強度も必要です。りん青銅は両方の特性をバランス良く備えています。
  3. 耐摩耗性:電気接点は頻繁に接触と離脱を繰り返すため、耐摩耗性が重要です。りん青銅はこの点で優れた性能を示します。
  4. バネ性能:コネクタには適度なバネ性能が要求されることが多く、りん青銅はこの特性を持っています。

電気接点用りん青銅の加工では、以下の点に特に注意が必要です。

  • 精密な寸法管理:電気的接触を確保するために高い寸法精度が要求されます
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  • 表面仕上げ:電気的接触抵抗を低減するために表面品質が重要です
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  • バリの除去:微細なバリが電気接触を阻害する可能性があるため、完全な除去が必要です
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  • めっき処理との互換性:多くの場合、めっき処理を前提とした加工が必要です

青銅加工の将来展望
青銅加工技術は、製造技術の進歩と市場需要の変化に伴い進化しています。

  1. 微細加工技術の向上:IoTデバイスや医療機器の小型化に伴い、青銅の微細加工技術がさらに発展しています。
  2. シミュレーション技術の活用:切削シミュレーションや構造解析を活用することで、青銅部品の設計と加工の最適化が進んでいます。
  3. 環境配慮型加工:切削油の削減や省エネルギー加工など、環境負荷を低減する青銅加工技術の開発が進んでいます。
  4. 自動化とAI活用:青銅加工においても自動化とAI技術の活用が進み、品質の安定化と生産効率の向上が図られています。

青銅、特にりん青銅は電気・電子部品の重要な材料として今後も使用され続けると予想され、その精密加工技術はさらなる進化を遂げるでしょう。環境配慮型の加工技術と持続可能な材料選択が今後の課題とされています。

 

電気接点の精密加工に関する詳細情報
青銅の金属加工は古代から現代まで続く歴史ある技術ですが、現代の精密加工技術によって新たな可能性が開かれています。材料の特性を十分に理解し、適切な加工条件を選択することで、高品質な青銅製品を効率的に生産することが可能です。特にりん青銅のような特殊青銅合金は、その優れた特性から今後も様々な産業分野で重要な役割を果たすことでしょう。