非破壊検査の種類と特徴が詳しくわかる完全ガイド

金属加工業界で不可欠な非破壊検査について、各種類の特徴や適用対象、メリットを詳しく解説します。あなたの製品の品質保証に最適な非破壊検査は何でしょうか?

非破壊検査の種類について

非破壊検査の種類について

非破壊検査の種類と特徴
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品質保証の要

製品を壊さずに内部欠陥や表面きずを検出し、品質と安全性を確保する技術

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多様な検査方法

放射線、超音波、磁粉、浸透、渦流など目的に応じた多様な検査技術

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専門技術と資格

精度の高い検査には専門知識と技術が必要であり、資格制度も整備されている

非破壊検査とは何か定義と目的を解説

 

非破壊検査(NDI: Non-destructive Inspection)とは、製品や材料を破壊せずに、内部や表面の欠陥、劣化状態などを調べる技術です。日本工業規格(JIS Z 2300)では、「素材や製品を破壊せずに、傷の有無・その存在位置・大きさ・形状・分布状態などを調べる試験」と定義されています。

 

非破壊検査と似た言葉に非破壊試験(NDT: Non-destructive Testing)があります。厳密には、非破壊試験は試験そのものを指し、非破壊検査は試験結果に基づいて合否判定を行うことを意味します。しかし、現場では両者が明確に区別されず使われることも多いです。

 

非破壊検査の主な目的は以下の2つです。

  1. 品質評価:製造した製品や部品に問題がないか確認する
    • 鋳造品の内部に鋳巣がないか
    • 溶接部分に欠陥がないか
  2. 寿命評価:製品が安全に使用できるか確認する
    • 構造物やインフラの安全性評価
    • 経年劣化の状態確認

非破壊検査のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 検査精度が高く、表面からは見えない隠れた欠陥も検出可能
  • 検査対象を傷つけないため、全数検査が可能
  • 製品の信頼性を担保できる
  • 補修や交換の必要性を判断できる

人間の健康診断に例えると分かりやすく、製品や材料の「健康状態」を壊すことなく診断する技術と言えるでしょう。

 

放射線透過試験と超音波探傷試験の特徴

 

放射線透過試験(RT: Radiographic Testing)と超音波探傷試験(UT: Ultrasonic Testing)は、ともに材料や製品の内部欠陥を検出するのに優れた非破壊検査方法です。

 

【放射線透過試験】
X線やガンマ線などの放射線を用いる方法で、レントゲン写真と同じ原理で内部の状態を可視化します。放射線は物体の密度や厚みによって透過率が変化するため、内部の欠陥や空洞を検出できます。

 

・特徴。

  • 内部欠陥の形状や大きさを視覚的に確認できる
  • 複雑な形状の部品でも検査可能
  • 記録性に優れている(フィルムや画像として保存可能)

・適用対象。

  • 鋼板の厚み測定
  • 建造物の内部調査
  • リチウムイオン電池の内部解析
  • 電子回路基板の実装確認
  • パイプや溶接部の欠陥確認

・注意点。

  • 放射線を使用するため、安全管理が必要
  • エックス線作業主任者やガンマ線透過写真撮影作業主任者の資格が必要な場合がある
  • 比較的コストが高い

【超音波探傷試験】
超音波を材料に照射し、その反射波(エコー)を解析する方法です。超音波は材質の境界面で反射する性質があり、内部の欠陥からの反射波を検出することで、欠陥の位置や大きさを特定します。

 

・特徴。

  • 安全性が高く、放射線のような危険性がない
  • 厚い材料でも検査可能
  • リアルタイムで結果が得られる
  • 持ち運び可能な装置もあり、現場での検査に適している

・適用対象。

  • 鋼材や溶接部の内部欠陥の検出
  • 圧延製品や材料などの均質な材料内部の傷の検査
  • 板厚測定
  • 材料の結晶粒度や硬度の測定にも応用可能

・注意点。

  • 複雑な形状のものの検査には向かないことがある
  • 表面状態や材質によっては精度が低下する場合がある
  • 操作者の技量によって結果が左右される面がある

両方法とも、それぞれ長所と短所があるため、検査対象や目的に応じて適切な方法を選択することが重要です。特に重要な部品や安全性が求められる構造物では、複数の検査方法を組み合わせることで、より確実な品質保証が可能になります。

 

磁粉探傷試験と浸透探傷試験の違い

 

磁粉探傷試験(MT: Magnetic Particle Testing)と浸透探傷試験(PT: Penetrant Testing)は、どちらも表面や表面近くの欠陥を検出するための非破壊検査方法ですが、その原理と適用対象には明確な違いがあります。

 

【磁粉探傷試験】
強磁性体(主に鉄系材料)に磁場を与え、欠陥部分から漏れる磁束に磁粉を吸着させることで欠陥を可視化する方法です。

 

・原理。
検査対象に電磁石を近づけ電流を流し、磁界を発生させます。表面や表面近くに欠陥部分があると、そこから磁束が漏れ出し(漏れ磁束)、磁粉がその部分に集まることで欠陥を視覚的に確認できます。

 

・特徴。

  • 表面開口だけでなく、表面直下の欠陥も検出可能
  • 比較的簡易な装置で実施可能
  • 大型部品や構造物にも適用可能
  • リアルタイムで結果が得られる

・適用対象。

  • 鉄鋼材料(強磁性体)のみ
  • 航空機や自動車、鉄道の部品
  • 溶接部の欠陥検査
  • 鍛造品や圧延品の亀裂検査

・注意点。

  • 非強磁性体(アルミニウム、ステンレス、チタンなど)には適用できない
  • 磁化と消磁の工程が必要
  • 表面処理(塗装など)があると検出精度が下がる

【浸透探傷試験】
毛細管現象を利用して、表面開口欠陥に浸透液を浸み込ませ、現像剤で引き出して可視化する方法です。

 

・原理。
検査対象を浸透液に浸し、毛細管現象により液体が欠陥の中に入り込みます。表面を洗浄した後、現像剤を塗布すると、欠陥内部に残った浸透液が現像剤に吸い上げられ、欠陥の形状が浮かび上がります。

 

・特徴。

  • あらゆる非多孔質材料に適用可能(金属、プラスチック、セラミックスなど)
  • 複雑な形状でも検査可能
  • 欠陥の形状が明確に確認できる
  • 比較的低コストで実施可能

・適用対象。

  • 金属材料全般(アルミニウム、ステンレス、チタンなども検査可能)
  • プラスチック、セラミックス部品
  • ジェットエンジンのタービンブレード
  • 自動車部品
  • 精密機械部品

・注意点。

  • 表面開口欠陥のみ検出可能(表面下の欠陥は検出できない)
  • 工程が多く、時間がかかる
  • 多孔質材料には適さない
  • 表面状態の影響を受けやすい

これらの検査方法は、検出できる欠陥の種類や適用可能な材料が異なるため、検査対象や目的に応じて適切な方法を選択することが重要です。両方法を組み合わせることで、より確実な品質保証も可能になります。

 

材料の種類や欠陥の性質に応じた選択ガイドライン

  • 鉄系材料で表面下の欠陥も検出したい → 磁粉探傷試験
  • 非鉄金属やプラスチックなどの検査 → 浸透探傷試験
  • 表面開口欠陥の詳細な形状を確認したい → 浸透探傷試験
  • 現場での迅速な検査が必要 → 磁粉探傷試験(適用可能な材料の場合)

渦流探傷試験と赤外線サーモグラフィの応用

 

【渦流探傷試験(ET: Electromagnetic Testing)】
渦流探傷試験は、電磁誘導の原理を利用した非破壊検査方法です。交流電流を流したコイルを検査対象の近くに置くと、導電性材料内に渦電流(渦流)が発生します。材料内に欠陥があると渦電流の流れが変化し、その変化を検出することで欠陥を見つけ出します。

 

・特徴。

  • 前処理や後処理が不要でシンプル
  • 自動検査に適している
  • 高速で検査可能
  • 接触せずに検査できる(非接触検査)
  • 表面や表面近くの欠陥検出に優れている

・適用対象。

  • 導電性をもつ金属材料(非磁性体・磁性体どちらも検査可能)
  • 熱交換器のチューブや配管
  • 航空機の外板や部品
  • 厚み測定
  • 材料の熱処理状態の評価

・応用分野。

  1. 自動車産業:部品の品質検査、特に表面欠陥の検出
  2. 航空宇宙産業:航空機の外板検査、疲労亀裂の早期発見
  3. 電力産業:発電所のボイラーチューブや熱交換器の検査
  4. 鉄鋼業:鋼板の連続検査ライン

・注意点。

  • 導電性をもつ物体しか検査できない
  • 欠陥の深さによっては検出感度が低下する
  • 表面状態や材料の不均一性の影響を受けやすい

【赤外線サーモグラフィ(Infrared Thermography)】
赤外線サーモグラフィは、物体表面からの赤外線放射を測定して温度分布を可視化する技術です。材料内部の欠陥や異常があると、熱の伝わり方に影響を与えるため、表面温度分布の異常として検出できます。

 

・特徴。

  • 非接触で広範囲を一度に検査可能
  • リアルタイムで温度分布を可視化
  • さまざまな材料に適用可能
  • 動作中の装置や構造物も検査可能

・適用対象。

  • 建築物の断熱性評価
  • 電気設備の異常発熱検出
  • 複合材料の内部欠陥検出
  • 太陽光パネルの不良セル検出
  • 配管の漏れや詰まりの検出

・応用分野。

  1. 建設業:建物の断熱性能検査、漏水検査
  2. 電力業:送電線や変電設備の異常発熱検査
  3. 製造業:製造プロセスのモニタリング、品質管理
  4. 医療分野:体表面の温度異常による診断補助(乳がん検診など)

・検査方法。

  1. パッシブ法:対象物が自然に放出する熱を測定
  2. アクティブ法:対象物に意図的に熱を加え、その拡散や反応を測定

・注意点。

  • 環境温度の影響を受けやすい
  • 表面の状態(塗装、汚れなど)が結果に影響する
  • 深部の欠陥検出には限界がある

【両技術の新たな応用事例】
最近では、これらの技術を組み合わせたり、AIと連携させたりする新たな応用が進んでいます。

  1. ドローンを活用した赤外線検査。

    高所や危険な場所にあるインフラ設備の検査にドローンに搭載した赤外線カメラを使用

  2. IoTセンサーと渦流探傷の組み合わせ。

    常時監視システムとして、設備の状態をリアルタイムでモニタリング

  3. 機械学習による検査データ解析。

    過去の検査データを学習し、欠陥検出の精度向上や予測保全に活用

  4. アレイ型渦流探傷技術。

    複数のコイルを配置したアレイセンサーにより、より広範囲で高精度な検査を実現

これらの技術は、産業の高度化とともに進化を続けており、従来は困難だった検査課題の解決に貢献しています。特に予防保全の観点から、早期の異常検出による設備トラブルの未然防止に役立てられています。

 

非破壊検査技術者の資格と業界動向

 

非破壊検査の精度や信頼性は、実施する技術者の知識と技能に大きく依存します。そのため、検査品質の標準化と技術者のスキル保証を目的とした資格制度が設けられています。

 

【非破壊試験技術者の資格制度】
日本では、一般社団法人日本非破壊検査協会(JSNDI)が「非破壊試験技術者」の認証を行っています。この資格は国際規格ISO 9712に準拠しており、世界的にも通用する認証です。

 

・資格のレベル。

  1. レベル1:指示書に従って非破壊試験を実施できる
    • 非破壊試験の原理や装置に関する基礎知識
    • 指示に従った試験の実施と記録
    • 試験結果の分類(合否判定は行わない)
  2. レベル2:試験手順に従って非破壊試験を実施し、結果を評価できる
    • 試験の選択と手順の確立
    • 試験結果の解釈と評価
    • 合否判定の実施
    • レベル1技術者の指導・監督
  3. レベル3:試験方法全般を管理・統括できる
    • 試験技術や規格の深い知識
    • 試験方法や手順書の作成・承認
    • 検査計画の立案・管理
    • 資格試験の運営

・認証試験の種類。

  • RT(放射線透過試験)
  • UT(超音波探傷試験)
  • MT(磁粉探傷試験)
  • PT(浸透探傷試験)
  • ET(渦流探傷試験)
  • ST(ひずみ測定)
  • LT(漏れ試験)
  • VT(目視試験)

各試験種類とレベルごとに、筆記試験と実技試験が行われ、合格基準を満たした場合に認証されます。資格の有効期間は5年間で、更新または再認証手続きが必要です。

 

【業界動向と将来性】
非破壊検査業界は、インフラの老朽化対策や製造業の品質向上要求の高まりを背景に、継続的な成長が見込まれています。

 

・現在の主要トレンド。

  1. デジタル化・自動化の進展。
    • 画像認識AIを用いた欠陥自動判別
    • ロボットやドローンを活用した検査の自動化
    • デジタルツインとの連携による予測保全
  2. 技術の高度化。
    • フェーズドアレイUT(超音波探傷の高度化)
    • コンピュータ断層撮影(CT)技術の発展
    • 新素材(複合材料など)に対応した検査技術の開発
  3. 人材不足への対応。
    • 熟練技術者の減少と技術伝承の課題
    • 外国人技術者の採用増加
    • 資格取得支援制度の充実

・将来の展望。

  1. IoTとの融合。
    • 常時監視システムの普及
    • ビッグデータ解析による異常予測
    • リモート検査の拡大
  2. カーボンニュートラル関連。