非破壊検査(NDI: Non-destructive Inspection)とは、製品や材料を破壊せずに、内部や表面の欠陥、劣化状態などを調べる技術です。日本工業規格(JIS Z 2300)では、「素材や製品を破壊せずに、傷の有無・その存在位置・大きさ・形状・分布状態などを調べる試験」と定義されています。
非破壊検査と似た言葉に非破壊試験(NDT: Non-destructive Testing)があります。厳密には、非破壊試験は試験そのものを指し、非破壊検査は試験結果に基づいて合否判定を行うことを意味します。しかし、現場では両者が明確に区別されず使われることも多いです。
非破壊検査の主な目的は以下の2つです。
非破壊検査のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
人間の健康診断に例えると分かりやすく、製品や材料の「健康状態」を壊すことなく診断する技術と言えるでしょう。
放射線透過試験(RT: Radiographic Testing)と超音波探傷試験(UT: Ultrasonic Testing)は、ともに材料や製品の内部欠陥を検出するのに優れた非破壊検査方法です。
【放射線透過試験】
X線やガンマ線などの放射線を用いる方法で、レントゲン写真と同じ原理で内部の状態を可視化します。放射線は物体の密度や厚みによって透過率が変化するため、内部の欠陥や空洞を検出できます。
・特徴。
・適用対象。
・注意点。
【超音波探傷試験】
超音波を材料に照射し、その反射波(エコー)を解析する方法です。超音波は材質の境界面で反射する性質があり、内部の欠陥からの反射波を検出することで、欠陥の位置や大きさを特定します。
・特徴。
・適用対象。
・注意点。
両方法とも、それぞれ長所と短所があるため、検査対象や目的に応じて適切な方法を選択することが重要です。特に重要な部品や安全性が求められる構造物では、複数の検査方法を組み合わせることで、より確実な品質保証が可能になります。
磁粉探傷試験(MT: Magnetic Particle Testing)と浸透探傷試験(PT: Penetrant Testing)は、どちらも表面や表面近くの欠陥を検出するための非破壊検査方法ですが、その原理と適用対象には明確な違いがあります。
【磁粉探傷試験】
強磁性体(主に鉄系材料)に磁場を与え、欠陥部分から漏れる磁束に磁粉を吸着させることで欠陥を可視化する方法です。
・原理。
検査対象に電磁石を近づけ電流を流し、磁界を発生させます。表面や表面近くに欠陥部分があると、そこから磁束が漏れ出し(漏れ磁束)、磁粉がその部分に集まることで欠陥を視覚的に確認できます。
・特徴。
・適用対象。
・注意点。
【浸透探傷試験】
毛細管現象を利用して、表面開口欠陥に浸透液を浸み込ませ、現像剤で引き出して可視化する方法です。
・原理。
検査対象を浸透液に浸し、毛細管現象により液体が欠陥の中に入り込みます。表面を洗浄した後、現像剤を塗布すると、欠陥内部に残った浸透液が現像剤に吸い上げられ、欠陥の形状が浮かび上がります。
・特徴。
・適用対象。
・注意点。
これらの検査方法は、検出できる欠陥の種類や適用可能な材料が異なるため、検査対象や目的に応じて適切な方法を選択することが重要です。両方法を組み合わせることで、より確実な品質保証も可能になります。
材料の種類や欠陥の性質に応じた選択ガイドライン
【渦流探傷試験(ET: Electromagnetic Testing)】
渦流探傷試験は、電磁誘導の原理を利用した非破壊検査方法です。交流電流を流したコイルを検査対象の近くに置くと、導電性材料内に渦電流(渦流)が発生します。材料内に欠陥があると渦電流の流れが変化し、その変化を検出することで欠陥を見つけ出します。
・特徴。
・適用対象。
・応用分野。
・注意点。
【赤外線サーモグラフィ(Infrared Thermography)】
赤外線サーモグラフィは、物体表面からの赤外線放射を測定して温度分布を可視化する技術です。材料内部の欠陥や異常があると、熱の伝わり方に影響を与えるため、表面温度分布の異常として検出できます。
・特徴。
・適用対象。
・応用分野。
・検査方法。
・注意点。
【両技術の新たな応用事例】
最近では、これらの技術を組み合わせたり、AIと連携させたりする新たな応用が進んでいます。
高所や危険な場所にあるインフラ設備の検査にドローンに搭載した赤外線カメラを使用
常時監視システムとして、設備の状態をリアルタイムでモニタリング
過去の検査データを学習し、欠陥検出の精度向上や予測保全に活用
複数のコイルを配置したアレイセンサーにより、より広範囲で高精度な検査を実現
これらの技術は、産業の高度化とともに進化を続けており、従来は困難だった検査課題の解決に貢献しています。特に予防保全の観点から、早期の異常検出による設備トラブルの未然防止に役立てられています。
非破壊検査の精度や信頼性は、実施する技術者の知識と技能に大きく依存します。そのため、検査品質の標準化と技術者のスキル保証を目的とした資格制度が設けられています。
【非破壊試験技術者の資格制度】
日本では、一般社団法人日本非破壊検査協会(JSNDI)が「非破壊試験技術者」の認証を行っています。この資格は国際規格ISO 9712に準拠しており、世界的にも通用する認証です。
・資格のレベル。
・認証試験の種類。
各試験種類とレベルごとに、筆記試験と実技試験が行われ、合格基準を満たした場合に認証されます。資格の有効期間は5年間で、更新または再認証手続きが必要です。
【業界動向と将来性】
非破壊検査業界は、インフラの老朽化対策や製造業の品質向上要求の高まりを背景に、継続的な成長が見込まれています。
・現在の主要トレンド。
・将来の展望。