圧延とは、金属材料を2本の回転するロールの間に通し、圧力を加えて薄く延ばす塑性加工方法です。この加工法は金属の板厚を調整するだけでなく、材料の内質も改善する重要な工程となっています。圧延は連続加工性に優れているため、鉄鋼メーカーをはじめ様々な業種で広く採用されています。
圧延加工のプロセスでは、ロール間の隙間を調節することで希望の板厚に材料を仕上げていきます。これは単純な原理ですが、実際には材料の特性、ロールの直径、圧延速度、圧下量など多くの要素が複雑に絡み合います。
圧延加工は加工温度によって大きく3つのタイプに分類されます。
圧延によって得られる金属材料は「圧延鋼材」と呼ばれ、板状のものだけでなく、形鋼や棒鋼、線材なども含まれます。これらは建築、自動車、電子機器など様々な産業分野で使用される基礎的な材料となっています。
圧延加工の特徴は、高速・連続生産が可能なことに加え、材料の結晶組織を制御できる点にあります。圧延方向に結晶が配向することで、方向によって異なる機械的性質を持つ材料を作ることができます。
熱間圧延と冷間圧延はそれぞれ異なる特性を持ち、目的に応じて使い分けられています。両者の違いを詳しく見ていきましょう。
熱間圧延の特徴とメリット
熱間圧延は、金属を再結晶温度以上(通常900~1200℃)に加熱して行う加工方法です。この高温下では金属の変形抵抗が小さくなり、比較的少ない力で大きな変形を加えることができます。
熱間圧延の主なメリットは以下の通りです。
一方、デメリット
冷間圧延の特徴とメリット
冷間圧延は、材料を常温のままで圧延する加工方法です。加工中の摩擦熱で温度は上昇しますが、再結晶温度以下に保たれます。
冷間圧延の主なメリットは以下の通りです。
デメリット
両者の比較表
特性 | 熱間圧延 | 冷間圧延 |
---|---|---|
加工温度 | 900~1200℃ | 常温(加工熱で上昇) |
加工性 | ◎ | △ |
寸法精度 | △ | ◎ |
表面品質 | △(酸化膜あり) | ◎(滑らかで光沢あり) |
生産コスト | 低い | 高い |
加工硬化 | 起こらない | 起こる |
加工後熱処理 | 不要 | 必要なことがある |
最低可能板厚 | 比較的厚い | 非常に薄いものまで可能 |
使い分けのポイント
熱間圧延と冷間圧延は、それぞれの特性を活かして使い分けるのが一般的です。例えば。
実際の製造プロセスでは、熱間圧延後の材料を冷間圧延し、必要に応じて焼きなましを行うという複合的な工程が取られることも多いです。
圧延加工で使用される圧延機は、その構造によって様々なタイプに分けられます。ここでは、主要な圧延機の種類とそれぞれの特徴について解説します。
2段圧延機(二重式ロール)
2段圧延機は最も基本的な構造の圧延機で、2本のワークロールだけで構成されています。シンプルな構造ながら、様々な用途に使用されています。
特徴。
2段圧延機の欠点は、圧延荷重がかかるとロールにたわみが生じやすく、板幅方向の板厚が不均一になりやすいことです。このため、精密な薄板加工には向いていません。
4段圧延機(四重式ロール)
4段圧延機は、2本のワークロール(作業ロール)とその背後に2本のバックアップロールを配置した構造です。より精度の高い圧延が可能になります。
特徴。
4段圧延機は、板幅方向の板厚均一性が重要な場合や、比較的薄い材料の圧延に適しています。例えば、自動車用鋼板の製造などにも使用されます。
多段圧延機(クラスターミル)
多段圧延機は、ワークロールと複数のバックアップロールを持った圧延機です。バックアップロールの数や配置によって、さらにいくつかのタイプに分類されます。
主な種類。
多段圧延機の特徴。
圧延機選定のポイント
圧延機の選定では、以下の要素を考慮する必要があります。
例えば、一般的な厚板の熱間圧延では2段圧延機、薄板の冷間圧延では4段や多段圧延機が選ばれることが多いです。また、薄板の幅が広い場合には、たわみ制御がより重要になるため、多段圧延機が適しています。
圧延加工では、最終製品の品質を決定づける重要な要素として、「形状制御」と「表面品質」があります。ここでは、これらを向上させるための技術と方法について詳しく解説します。
板形状の不良とは
圧延加工では、以下のような形状不良が発生することがあります。
これらの形状不良は、ロールのたわみや不均一な圧下、材料の不均一な変形などによって生じます。
形状制御技術
クラウンロールとは、ロールの胴部(材料を圧延する面)にクラウン(中央部が太く両端が細い形状)を加工する技術です。
油圧ベンダーは、チョック間に油圧機構を埋め込み、圧力によりロールの形状を制御する技術です。
多段圧延機の中間ロールを材料の幅方向にシフトさせて形状を制御する技術です。
上下ロールを少し交差させて配置し、形状制御を行う技術です。
表面品質の向上技術
圧延加工では、様々な表面欠陥が発生することがあります。主な欠陥と対策を見ていきましょう。
ロールマークは、圧延ロールに付いたキズや汚れが材料表面に転写される現象です。
対策。
異物混入や鋼材同士の接触などにより材料表面が擦られてできるキズです。
対策。
材料表面に異物が付着したまま圧延ロールに通した際に発生するキズです。
対策。
焼きなました冷延鋼板に対して軽い圧下を行い、表面品質を向上させる技術です。
効果。
適切な圧延油の選定と管理は表面品質向上に大きく貢献します。
ポイント。
表面を酸化させないように焼鈍することで、表面品質を保持する技術です。
効果。
これらの技術を適切に組み合わせることで、高品質な圧延製品を安定して製造することが可能になります。特に高付加価値製品や精密部品向けの材料では、これらの形状制御・表面品質向上技術が重要な差別化要素となっています。
圧延技術は長い歴史を持つ金属加工技術ですが、現在も進化を続けています。ここでは、最新の技術動向と、それらが金属加工業界に与える影響について考察します。
デジタル技術の活用と自動化
圧延加工の分野でも、デジタル技術の活用が急速に進んでいます。
これらのデジタル技術の導入により、従来は経験と勘に頼っていた部分が科学的に解明され、さらに高度な制御が可能になっています。
環境負荷低減への取り組み
持続可能な製造への関心が高まる中、圧延技術でも環境負荷低減が重要なテーマとなっています。
環境対応は単なるコスト増ではなく、エネルギー効率向上によるコスト削減や、環境配慮型製品の市場拡大といった利点もあります。
新素材・新技術への対応
新しい材料や要求に応じて、圧延技術も進化しています。
これらの技術進化により、従来は不可能だった材料特性の実現や、新しい産業分野への応用が可能になっています。
業界再編と競争力強化
圧延技術の進化は、業界構造にも影響を与えています。
圧延技術の革新は、単に生産性や品質の向上だけでなく、新しいビジネスモデルの創出や産業構造の変革にもつながっています。
未来への展望
圧延技術の未来は、さらなる高精度化、省エネルギー化、そして新たな機能性材料の創出に向かっています。特に注目されるのは以下の点です。
これらの技術革新が進むことで、金属加工業界はさらなる進化を遂げ、持続可能な社会の実現に貢献していくでしょう。