クラッド材とは、2種類以上の異なる金属を特殊な技術によって接合した複合材料です。単一の金属では実現できない機能や特性を持たせることを目的として製造されています。例えば、ステンレスと銅をクラッド化することで、ステンレスの強度や耐食性と、銅の優れた導電性や熱伝導性を兼ね備えた材料を作ることができるのです。
クラッド材の基本構造は、異なる金属層が強固に接合された状態になっています。この接合は単なる物理的な接着ではなく、金属間で原子レベルでの結合が生じており、熱処理によって形成される拡散層(合金層)が特徴です。この拡散層があることで、通常のめっきや単純な接着では実現できない強固な接合強度を持ちます。
クラッド材の層構成はその用途によって様々です。
これらのクラッド材は、相反する特性(軽量性と強度、導電性と耐食性など)を一つの材料で実現できる点が最大の特徴です。単一金属や合金では得られない複合特性により、製品の高性能化、加工工程の効率化、トータルコストの削減につながります。
クラッド材の製造には様々な方法がありますが、最も一般的なのは「圧接法」です。圧接法とは、熱または圧力を加えて金属同士を共有結合させ、熱処理を行うことで拡散結合を促進し、強固な接合を実現する方法です。
圧接法は大きく分けて以下の3つに分類されます。
それぞれの方法には特徴があり、接合する金属の種類や求められる特性によって最適な製法が選択されます。特に異種金属間の接合では、熱膨張係数や融点の違いを考慮した製造条件の設定が重要になります。
例えば、日立金属ネオマテリアルが開発したアルミニウム/銅(Al/Cu)クラッド材は、独自の圧接法と最適な熱処理を組み合わせることで、きわめて強固な接合強度を実現しています。この強固な接合により、過酷な環境下でも高い信頼性を保持できる製品が生まれるのです。
クラッド材の製造プロセスで重要なのは、接合界面に形成される「拡散層」です。この層は熱処理によって促進される金属原子の相互拡散によって形成され、単純な機械的接合よりも遥かに強固な結合を実現します。特に活性金属ろう材を用いたクラッド材では、微細な金属化合物が分散した構造となり、優れた特性を発揮します。
製造工程における品質管理も非常に重要です。接合面の清浄度、圧力と温度の正確な制御、熱処理条件の最適化などが、最終製品の品質を大きく左右します。また、最終製品の形状や用途に応じて、圧延、引抜き、プレス加工などの二次加工技術も重要な要素となります。
クラッド材は様々な産業分野で幅広く活用されています。以下にいくつかの代表的な活用事例を紹介します。
電子・パワーデバイス分野
パワーデバイスの分野では、活性金属ろう材と銅をクラッド化した「活性金属ろう材/銅クラッド材」が注目されています。この材料は、セラミックス回路基板の製造において重要な役割を果たしています。従来のペースト状活性金属ろう材と比較して、任意の形状へのプレス加工が容易で、ろう付温度を低温化できるメリットがあります。これにより、セラミックスへのダメージを抑えつつ、高品質な接合が実現できるのです。
自動車・電池分野
電気自動車やハイブリッド車の普及に伴い、リチウムイオン電池(LIB)の高出力化や軽量化が求められています。日立金属ネオマテリアルが開発したAl/Cuクラッド端子は、過酷な環境下で使用される車載用LIBの接続信頼性向上、組み立て工数削減、さらには電池全体重量の低減に貢献しています。
クラッド端子は端子頭部がアルミニウム、脚部が銅で構成されており、アルミバスバーとの溶接接合が可能になることで、接合部の信頼性が向上します。また、複数素材による組み立て工数の削減や車載バッテリーの軽量化も実現しています。
刃物・工具分野
私たちの身近なところでは、包丁や大工道具などの刃物材料としてクラッド材が広く使われています。「二層鋼」や「三層鋼」と呼ばれる刃物は、高級な鋼材と比較的安価な母材を組み合わせることで、コストを抑えつつ高性能な刃物を実現しています。
特に「ダマスカス模様」で知られる多積層鋼は、複数の異なる金属を幾重にも重ね合わせることで、美しい模様と優れた切れ味を両立しています。また、チタンクラッドやチタードと呼ばれるクラッド材も、高い切れ味や耐食性が求められる刃物や大型の工具に使用されています。
産業機器・化学プラント分野
化学プラントや食品加工設備など、腐食環境下で使用される機器にもクラッド材が活用されています。例えば、構造材としての強度が必要な部分にはステンレスよりも安価な炭素鋼を使用し、耐食性が必要な表面部分にのみステンレスをクラッドすることで、コストと性能のバランスを最適化しています。
電気接点や熱交換器などの部品にも、それぞれの用途に適した金属の組み合わせによるクラッド材が使用されており、製品の高性能化と長寿命化に貢献しています。
クラッド材を金属加工に活用する際のメリットとデメリットについて詳しく見ていきましょう。
メリット
デメリット
クラッド材の選択は、これらのメリット・デメリットを踏まえ、用途や要求特性、コスト、生産性などを総合的に評価して判断する必要があります。特に、異種金属接合の信頼性確保と加工性のバランスが重要なポイントとなります。
クラッド材は金属加工技術の進化とともに、さらに新たな可能性を広げつつあります。ここでは、クラッド材の将来性と金属加工産業における展望について考察します。
新素材開発と機能性向上
近年の材料工学の進歩により、従来は接合が困難だった金属の組み合わせも実現可能になりつつあります。例えば、チタンやマグネシウムなどの軽量金属と高強度金属のクラッド化は、航空宇宙産業や次世代モビリティ向けの軽量高強度部材として注目されています。
また、従来のクラッド材の概念を拡張し、金属と非金属(セラミックス、高分子材料など)のハイブリッド材料の開発も進んでいます。AgCuSnTi合金を用いた活性金属ろう材の開発のように、新たな合金組成の開発によって、クラッド材の性能向上と用途拡大が期待されています。
微細加工技術との融合
MEMS(微小電気機械システム)やナノテクノロジーの進展に伴い、マイクロスケールのクラッド材も注目されています。特に半導体パッケージングや小型センサーなどの分野では、微細なクラッド構造の電気接点や熱界面材料の需要が高まっています。
精密なマイクロ加工技術とクラッド材の製造技術を組み合わせることで、次世代デバイスのための高機能部材が実現しつつあります。活性金属ろう材/銅クラッド材のようなプレス加工可能な材料は、この流れをさらに加速させるでしょう。
エネルギー・環境分野での応用拡大
再生可能エネルギーや水素エネルギー関連設備では、過酷な環境下での長期信頼性が要求されます。例えば、燃料電池や水電解装置では、高温・高圧・腐食環境に耐える材料が必要とされていますが、クラッド材はこうした要求に応える有力な選択肢となっています。
リチウムイオン電池用クラッド端子のように、既存のエネルギーデバイスの信頼性向上や軽量化にもクラッド材の活用が広がっています。今後、エネルギー変換効率の向上や資源の有効利用の観点からも、クラッド材の重要性は増していくでしょう。
デジタル技術との連携
製造業のデジタルトランスフォーメーションの流れの中で、クラッド材の製造プロセスもより高度化しています。シミュレーション技術を活用した最適な接合条件の導出や、AIによる品質管理の自動化など、デジタル技術との連携により、より高品質で安定したクラッド材の製造が可能になりつつあります。
また、アディティブマニュファクチャリング(3Dプリンティング)技術との融合により、従来では困難だった複雑な構造を持つクラッド材の製造も検討されています。層状に異なる金属を積層することで、部位ごとに最適な特性を持つ「傾斜機能材料」の実現も期待されています。
サステナビリティへの貢献
資源の効率的利用や環境負荷低減の観点から、クラッド材は持続可能なものづくりにも貢献します。高価で希少な金属材料を必要な部分にのみ使用できるため、資源の節約につながります。また、従来のめっき処理などと比較して、有害物質の使用や排出を減らせる可能性もあります。
今後は、リサイクル性を考慮したクラッド材の設計や、使用済み製品からの効率的な素材分離・回収技術の開発も重要な課題となるでしょう。材料のライフサイクル全体を考慮した持続可能なクラッド材の活用が求められています。
クラッド材は、金属加工技術の進化とともに、さらに多様な産業分野での応用が広がることが予想されます。素材技術、加工技術、デジタル技術の融合により、次世代のものづくりにおいて重要な位置を占めていくでしょう。