切削油の成分と種類による特性と選び方ガイド

切削油の成分や種類ごとの特徴と、加工材料や方法に合わせた最適な選び方を解説します。あなたの工場では適切な切削油を使用できていますか?

切削油の成分と種類による特性と選び方

切削油の成分と種類による特性と選び方

切削油の重要ポイント
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成分の違い

水溶性と不水溶性で成分構成が大きく異なり、それぞれ特性が違います

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用途に合わせた選択

加工材料や方法によって最適な切削油は異なります

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環境と健康への配慮

近年は環境対応型の切削油も増えています

切削油の基本成分と水溶性・不水溶性の違い

 

金属加工において切削油は工具と加工物の間に介在し、摩擦を軽減しながら加工精度を高める重要な役割を担っています。切削油は大きく「水溶性切削油」と「不水溶性切削油」の2種類に分類され、それぞれ成分構成が大きく異なります。

 

不水溶性切削油の成分
不水溶性切削油は油をベースとした切削油であり、原液をそのまま使用するのが基本です。主な成分は以下の通りです。

 

  • 鉱油:石油由来の油で、熱安定性に優れています
  • 油脂類:動植物系油脂で、摺動性や浸透性に優れています
  • 極圧添加剤:硫黄系の添加剤で、重切削時に使用されます
  • 防錆剤:金属の錆を防止する成分です

これらの成分は、切削対象や加工内容によって配合比率が調整されています。不水溶性切削油は、摩擦面の油膜強度を高めるために添加する成分によって、「活性形(N4種)」と「不活性形(N1種~N3種)」の2種類に分けられます。

 

水溶性切削油の成分
水溶性切削油は、原液を水で希釈して使用するタイプの切削油です。水をベースにすることで冷却性を高めています。主な成分は以下の通りです。

 

  • :ベースとなる成分で、冷却性を担保します
  • 鉱油・油脂:潤滑性を得るために添加されます
  • 界面活性剤:油を水に可溶化・乳化させ、浸透性を高めます
  • 防錆剤:水による錆を防止します
  • 防腐剤:水と油の混合による腐敗を防止します

水溶性切削油は、含まれる油分の量によって「エマルジョン(A1種)」「ソリュブル(A2種)」「ソリューション(A3種)」の3種類に分類されます。

 

切削油の種類による特性と用途の比較

 

切削油はその種類によって特性が異なるため、加工目的や環境に合わせて適切に選択することが重要です。ここでは、各種類の特性と適した用途について詳しく見ていきましょう。

 

水溶性切削油の種類と特性比較
水溶性切削油は、油分の含有量と配合によって3種類に分類され、それぞれ異なる特性を持っています。

 

種類 外観 冷却性 潤滑性 主な用途
エマルジョン(A1種) 乳白色 汎用切削、重切削
ソリュブル(A2種) 半透明~透明 切削、研削など幅広い用途
ソリューション(A3種) 透明(緑色着色) 研削加工

エマルジョン(A1種)は、鉱油や油脂を多く含み、界面活性剤によって水に乳化させた切削油です。水で希釈すると乳白色になります。冷却性と潤滑性のバランスが良く、一般的な切削作業から重切削まで幅広く対応できます。
ソリュブル(A2種)は、界面活性剤のような水に溶ける成分を主体に、少量の鉱油を含む切削油です。水に溶かすと半透明または透明になります。潤滑性・洗浄性・冷却性のバランスが良好で、切削から研削まで幅広い用途に対応します。
ソリューション(A3種)は、油を一切含まず、水に溶ける成分だけで作られています。本来は透明ですが、多くは緑色に着色されています。消泡性や冷却性が高いのが特徴で、主に研削加工に使用されます。
不水溶性切削油の種類と特性比較
不水溶性切削油は、添加する成分によって「活性形」と「不活性形」に分けられます。

 

種類 特徴 冷却性 潤滑性 主な用途
不活性形(N1~N3種) 低刺激性、非腐食性 精密加工、非鉄金属加工
活性形(N4種) 極圧添加剤配合 重切削、難削材加工

不活性形(N1~N3種)は、低刺激性で非腐食性の特性を持ち、精密加工や非鉄金属の加工に適しています。特にアルミニウムや銅合金などは、活性形を使用すると変色や腐食の恐れがあるため、不活性形が推奨されます。
活性形(N4種)は、硫黄系などの極圧添加剤を含み、高い潤滑性を持っています。重切削や難削材の加工に適していますが、非鉄金属には腐食性があるため使用を避けるべきです。

切削油の選び方:加工材料と加工方法から考える

 

切削油を選定する際は、作業時に重視したいポイントを明確にし、それに沿って種類を絞り込むと効率的です。ここでは、加工材料と加工方法の観点から適切な切削油の選び方を解説します。

 

被削材からの切削油選定方法
加工する材料によって、必要とされる切削油の性質は大きく異なります。

 

鋼材の加工
鋼材の切削では潤滑性が重要になります。

 

  • 水溶性切削油:エマルジョンタイプが適しています
  • 不水溶性切削油:活性形が適しており、特に硬度の高い鋼材には極圧添加剤を含む活性形が効果的です

鋳鉄の加工
鋳鉄は摩擦熱が発生しやすく、切りくずが細かいという特徴があります。

 

  • 防錆性が重要なため、不水溶性切削油が適しています
  • 切りくずの排出性を考慮すると、洗浄性の高い水溶性切削油も選択肢となります

アルミ合金の加工
アルミ合金は熱伝導率が高く、変色しやすい特性があります。

 

  • 変色抑制に配慮された切削油を選ぶことが重要です
  • 不水溶性なら不活性形、水溶性ならソリュブルやソリューションが適しています
  • 腐食性のある活性形は避けるべきです

銅合金の加工
銅合金は腐食しやすい性質があります。

 

  • 不水溶性切削油を使用する場合、活性形は銅腐食性があるため避ける必要があります
  • 不活性形や、特殊な防食添加剤を含む水溶性切削油が適しています

加工方法からの切削油選定方法
加工方法によっても、最適な切削油は異なります。

 

旋盤加工
旋盤加工は高速加工が求められることが多いため、冷却性に優れた水溶性切削油が適しています。特にエマルジョンやソリュブルタイプが効果的です。

 

フライス加工
フライス加工では、チッピング防止のために不水溶性切削油の持つ潤滑性が求められます。特に精密加工を行う場合は、不活性形の不水溶性切削油が適しています。

 

穴あけ加工
穴あけ加工は、ドリルと被削材の接触面積が大きく、摩擦熱が発生しやすいため、冷却性が重要です。水溶性のエマルジョンが多く使われます。深穴加工では、潤滑性も重要になるため、エマルジョンや活性形の不水溶性切削油が適しています。

 

研削加工
研削加工では、摩擦熱の発生を抑制するための潤滑性と、発生した熱を除去するための冷却性の両方が重要です。水溶性のソリュブルやソリューションが適しています。

 

タップ加工・ねじ切り
タップ加工やねじ切りは高い潤滑性が求められるため、不水溶性の活性形切削油が適しています。特に精密なねじ切りには、油性剤を多く含む切削油が効果的です。

 

切削油の環境対応型と作業環境への配慮

 

近年、環境問題や作業者の健康への関心が高まり、切削油の選定においても環境や健康への配慮が重要視されています。ここでは環境対応型切削油と作業環境への配慮について解説します。

 

環境対応型切削油の特徴
環境対応型切削油は、従来の切削油と比較して環境負荷が低く、作業者の健康にも配慮された製品です。主な特徴は以下の通りです。

 

  • 生分解性が高い成分を使用
  • 刺激性の低い添加剤の採用
  • 揮発性有機化合物(VOC)の削減
  • 長寿命設計による廃油量の削減

環境対応型切削油は、バイオ由来の油脂を基剤とするものや、特殊な添加剤によって性能と環境性を両立させたものなど、様々なタイプがあります。加工性能を維持しながら環境負荷を低減するため、従来品よりもコストが高い傾向にありますが、廃油処理コストの削減や作業環境の改善によるメリットも大きいです。

 

ミスト対策と作業環境の改善
切削加工中に発生するミスト(霧状の切削油)は、作業者の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。特に不水溶性切削油は、ミストが発生しやすく、吸入による健康被害が懸念されます。

 

ミスト対策の方法

  • ミストコレクターの設置:加工エリアに発生したミストを捕集する装置を導入する
  • 低ミスト型切削油の使用:ミスト発生を抑制する特殊な添加剤を含む切削油を選ぶ
  • 水溶性切削油への切り替え:不水溶性切削油に比べてミスト発生が少ない
  • 加工機械のカバー強化:ミストの飛散を防ぐ

排水処理と廃油対策
切削油の廃棄処理も重要な環境問題です。不水溶性切削油は産業廃棄物として専門業者による処理が必要ですが、水溶性切削油は適切な処理を行えば排水処理が比較的容易です。

 

水溶性切削油の排水処理

  • 油水分離装置による油分の除去
  • 凝集沈殿法による浮遊物質の除去
  • 活性炭処理による有機物の吸着
  • 生物処理による有機物の分解

廃油量削減の取り組み

  • 切削油の濾過装置の導入による長寿命化
  • 濃度管理の徹底による希釈率の最適化
  • 微生物による汚染防止対策の実施
  • 清浄化装置の導入による油質の維持

環境規制は年々厳しくなる傾向にあり、ISO14001などの環境マネジメントシステムを導入している企業では、切削油の選定や管理も重要な環境側面として取り組まれています。

 

切削油の管理方法と長期使用のためのメンテナンス

 

切削油の性能を長期間維持し、コスト削減と加工品質の安定化を図るためには、適切な管理とメンテナンスが欠かせません。ここでは、切削油の効果的な管理方法と長寿命化のためのポイントを解説します。

 

水溶性切削油の管理方法
水溶性切削油は腐敗しやすく、性能が劣化しやすいという特性があるため、定期的な管理が重要です。

 

濃度管理
水溶性切削油の濃度は、加工性能や防錆性に直接影響します。低すぎると防錆性が低下し、高すぎると経済性が悪化します。

 

  • 測定方法:屈折計を使用して濃度を測定します(一般的に1~2週間に1回)
  • 適正濃度:製品により異なりますが、一般的に加工用で3~10%、研削用で2~5%程度
  • 調整方法:濃度が低下した場合は原液を追加し、高すぎる場合は水を追加して調整します

pH管理
水溶性切削油のpHは、腐敗や金属との反応で変化します。低下すると腐敗や腐食の原因となります。

 

  • 測定方法:pH試験紙またはpHメーターで測定します(1週間に1回程度)
  • 適正pH:製品により異なりますが、一般的に8.5~9.5程度
  • 調整方法:pHが低下した場合は、専用の調整剤を添加するか、液の入れ替えを検討します

微生物・カビ対策
水溶性切削油は微生物が繁殖しやすく、悪臭や性能低下の原因となります。

 

  • 定期的な液体チェック:悪臭や変色、泡立ちの増加などをチェックします
  • 週末の機械稼働:長期休暇前に30分程度機械を稼働させ、液を循環させます
  • 殺菌剤の添加:微生物増殖の兆候が見られた場合は専用の殺菌剤を添加します
  • タンクの清掃:定期的にタンクを清掃し、スラッジを除去します

不水溶性切削油の管理方法
不水溶性切削油は水溶性に比べて管理は容易ですが、以下の点に注意が必要です。

 

異物混入対策
切り粉や水分の混入は油の劣化を早める原因となります。

 

  • 濾過:マグネットセパレーターやフィルターによる切り粉の除去
  • 水分除去:オイルスキマーや遠心分離による水分の除去

劣化チェック
不水溶性切削油も長期使用により劣化します。定期的に以下の点をチェックしましょう。

 

  • 外観:色の変化や濁り、異臭がないか
  • 粘度:明らかな粘度変化がないか
  • 酸価:定期的な酸価測定による劣化度のチェック

切削油の長寿命化のためのポイント
切削油を長く使用するためには、以下のポイントに注意しましょう。

 

  • 適切な濾過装置の導入:切り粉や異物を効率的に除去できる濾過装置を導入する
  • 定期的なスキミング:油面に浮いた不純物を定期的に除去する
  • タンク清掃の実施:年に1~2回はタンクを完全に清掃する
  • 適切な補充:減少分を適宜補充し、極端な性能低下を防ぐ
  • 温度管理:極端な高温状態を避け、適切な温度範囲(20~40℃程度)を維持する

切削油の管理を徹底することで、加工精度の安定化、工具寿命の延長、コスト削減など多くのメリットが得られます。特に水溶性切削油は管理が不十分だと短期間で劣化するため、定期的なチェックと適切なメンテナンスを心がけましょう。