金属加工における寸法精度は、製品の性能や寿命を決定づける根幹的な要素です 。その精度を達成するためには、まず「どの加工方法を選ぶか」そして「どの工作機械を使用するか」という最初の選択が極めて重要になります。加工方法には、旋盤やフライス盤、マシニングセンタなどを用いる「切削加工」、砥石車で高精度な仕上げを行う「研削加工」、電気エネルギーで硬い金属を加工する「放電加工」など、多岐にわたる選択肢が存在します。
例えば、一般的な部品製作では切削加工が用いられますが、ミクロン単位 (1μm = 0.001mm) の精度が求められる精密金型や光学部品などでは、研削加工や超精密加工と呼ばれるさらに高度な加工技術が必要とされます 。それぞれの加工方法には、達成可能な精度の限界があり、設計図面で要求される公差に応じて適切な方法を選定しなければなりません。不適切な加工方法の選択は、後工程での手戻りや不良品の発生に直結するため、素材の特性やコスト、生産ロット数などを総合的に考慮して決定する必要があります。
工作機械の選定も同様に重要です。機械自体の「位置決め精度」や「剛性」が、そのまま加工精度に反映されるからです 。高精度な加工を目指すのであれば、機械のバックラッシ(送り機構の遊び)が小さい、主軸の振れが少ない、構造的に剛性が高いといった特徴を持つ機械を選ぶべきです。また、長年使用している機械では、経年劣化により摺動面やボールねじが摩耗し、新品時の精度を維持できなくなっている場合があります。そのため、定期的なメンテナンスや精度測定(キャリブレーション)を行い、機械の状態を常に最佳に保つことが、安定した寸法精度を実現するための鍵となります。
以下のリンクは、JIS(日本産業規格)で定められた工作機械の精度検査に関する規格です。機械選定やメンテナンスの際の客観的な指標として非常に有用です。
日本産業標準調査会:JIS検索
丹精込めて加工したはずの部品の寸法が、測定してみるとずれている。その原因は、意外にも「温度」にあるかもしれません。金属は温度が上がると膨張し、下がると収縮する性質を持っています。この「熱変形(熱変位)」は、高精度な加工において決して無視できない大きな問題です 。例えば、長さ100mmの鋼材は、温度が1℃上昇するだけで約1.2μmも伸びてしまいます。精密加工で求められる精度が数μmであることを考えると、これがどれほど大きな影響を与えるかお分かりいただけるでしょう。
熱変形の主な原因は以下の3つです。
これらの熱変形問題を克服するためには、多角的な対策が不可欠です。
温度管理は、時に加工技術そのものよりも寸法精度に大きな影響を与えることがあります。「精度が出ない時、まずは温度を疑え」という言葉を、常に心に留めておくべきでしょう。
「寸法精度」という言葉は、単に「長さ」や「直径」といった数値的な大きさの正確さだけを指すのではありません 。部品が設計通りに機能するためには、形状の歪みや位置関係のズレも規定された範囲に収まっている必要があります。これらを包括的に指示するのが「公差」であり、公差には「寸法公差」と「幾何公差」の2種類が存在します 。
寸法公差は、部品の大きさ(長さ、直径、角度など)に対して許容される誤差の範囲を指定するものです 。図面上では「10±0.1」のように、基準となる寸法に加えて上下の許容限界値で表記されます。一方、幾何公差は、寸法だけでは定義できない「形状」や「姿勢」、「位置」、「振れ」に関する精度を規定します 。
例えば、真っ直ぐであるべき軸が曲がっていたり、直角であるべき面が傾いていたりすると、たとえ直径や長さが寸法公差内に収まっていても、その部品は正しく組み立てることができなかったり、期待された性能を発揮できなかったりします。幾何公差は、このような形状の正確さを保証するために不可欠な指示なのです。
以下に代表的な幾何公差の種類を示します。
| 分類 | 種類 | 記号 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 形状公差 | 真直度 | ― | 直線部分の歪みの許容値 |
| 平面度 | ▱ | 平面部分の凹凸の許容値 | |
| 姿勢公差 | 平行度 | // | 基準となる直線や平面に対して、どれだけ平行であるかの許容値 |
| 直角度 | ⊥ | 基準に対して、どれだけ直角であるかの許容値 | |
| 傾斜度 | ∠ | 基準に対して、どれだけ正確な角度を保っているかの許容値 | |
| 位置公差 | 位置度 | ⊕ | 基準からの正確な位置のズレの許容値 |
| 同軸度 | ◎ | 2つ以上の円筒形体の中心軸が、どれだけ同一直線上にあるかの許容値 |
そして、これらの精度を正しく評価するために欠かせないのが「測定」です。ノギスやマイクロメータといった基本的な測定具から、三次元測定機(CMM)、輪郭形状測定機、真円度測定機といった高精度な測定機器まで、要求される公差に応じて適切な測定器を選定する必要があります 。特に、幾何公差を正確に測定するためには、多くの場合、三次元測定機のような高度な機器が必要となります。また、近年では加工を終えた工作機械から取り外すことなく、機械に搭載されたタッチプローブで寸法や形状を測定する「機上測定(オンマシン測定)」も普及しており、加工精度の向上と時間短縮に貢献しています 。
加工精度の安定化には、工作機械や環境要因だけでなく、直接工作物を削る「工具」の管理と、その使い方である「切削条件」の最適化が不可欠です 。どんなに高性能な機械を使っても、工具の状態が悪かったり、切削条件が不適切だったりすれば、満足のいく寸法精度を得ることはできません。
工具管理の基本は、摩耗と欠損の管理です。切削工具の刃先は、加工を進めるにつれて徐々に摩耗していきます。刃先が摩耗すると切れ味が悪化し、切削抵抗が増加します。これにより、工作物や工具自身に「びびり」と呼ばれる振動が発生し、加工面の悪化や寸法誤差の原因となります 。さらに摩耗が進行すると、刃先が微小に欠ける「チッピング」や、大きく欠ける「欠損」に至り、製品不良や工具の完全な破損につながる恐れもあります 。
このような問題を未然に防ぐためには、以下のような工具管理が重要です。
次に、切削条件の最適化です。切削条件とは、主に「切削速度」「送り速度」「切り込み量」の3つの要素を指します。これらの条件は、加工能率だけでなく、加工精度、仕上げ面粗さ、工具寿命に相互に深く関連しています 。
これらの条件は、工作物の材質、工具の材質や形状、使用する機械の剛性など、様々な要因を考慮して決定する必要があります。例えば、仕上げ加工で高い寸法精度と綺麗な加工面を得たい場合は、切り込み量を小さくし、切削速度を上げて送り速度を適切に調整するといった工夫が求められます。工具メーカーが提供している推奨切削条件表を参考にしつつ、実際の加工状況を観察しながら自社の設備や加工内容に合わせた最適な条件を見つけ出す「試し削り」のプロセスが、安定した品質を生み出す上で不可欠です。
最新の工作機械を導入し、温度管理を徹底し、最適な工具と切削条件を選んでも、なお寸法精度が安定しないことがあります。その最後のピースとして見直すべきなのが、「人」が介在することによる「ヒューマンエラー」です。特に、長年の経験を持つベテラン作業者ほど、「いつも通りで大丈夫」といった慣れや思い込みからくるミスを犯しやすい傾向があります 。これは決して能力の問題ではなく、人間の心理的な特性に起因するものです。
金属加工の現場で起こりうる代表的なヒューマンエラーには、以下のようなものがあります。
これらのヒューマンエラーは、個人の注意力を責めるだけでは根本的な解決にはなりません。エラーが起こりにくい「仕組み」を組織として構築することが重要です。
対策例:
ヒューマンエラーは「ゼロにはできない」という前提に立ち、エラーが発生しても不良品が流出しないような多層的な防御策を講じることが、最終的な品質保証につながるのです。

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