防錆性の基本と重要性
防錆性のすべて
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錆の発生メカニズム
水と酸素が引き起こす化学反応を理解する
🛡️
多様な防錆処理
塗装、めっき、化成処理などの違いを知る
💡
日常的な防錆対策
防錆油やもらい錆対策など、現場でできることを学ぶ
防錆のメカニズムと金属が錆びる根本原因
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金属の「
錆び」は、単なる見た目の問題だけでなく、製品の強度や機能を著しく低下させる深刻な現象です 。特に鉄が錆びるプロセスは、
電気化学的な反応によるものです 。空気中の酸素と水が存在する環境で、鉄(Fe)が電子を失い鉄イオン(Fe²⁺)へと変化する「アノード反応」と、酸素(O₂)が水(H₂O)と反応して水酸化物イオン(OH⁻)を生成する「カソード反応」が同時に発生します。この二つの反応によって生成された鉄イオンと水酸化物イオンが結合し、水酸化第一鉄(Fe(OH)₂)となり、さらに酸化が進むことで、私たちが一般的に目にする赤錆(主成分:水和酸化鉄(III) Fe₂O₃·nH₂O)が形成されるのです 。
錆にはいくつかの種類が存在し、それぞれ色や性質が異なります。
- 🔴 赤錆: 最も一般的で、鉄の腐食が進行している状態を示します。体積が膨張し、金属の強度を大きく損ないます。
- ⚫ 黒錆: 赤錆とは異なり、緻密な四三酸化鉄(Fe₃O₄)の皮膜を形成します。この皮膜は内部を保護する役割を果たし、さらなる腐食の進行を抑制する効果があります。南部鉄器や中華鍋の「焼き入れ」は、この黒錆を意図的に生成させる技術です 。
- ⚪ 白錆: 亜鉛めっき鋼板などに見られる白い斑点状の錆です。亜鉛が鉄の代わりに腐食することで、下地の鉄を守る「犠牲防食作用」の結果として発生します。
- 🔵 青錆(緑青): 銅や銅合金の表面に発生する緑がかった錆です。古くは毒性があると考えられていましたが、現在では無害であることがわかっています。緻密な皮膜を形成し、内部を保護する役割があります。
また、意外な錆の原因として「異種金属接触腐食(
ガルバニック腐食)」があります。これは、
イオン化傾向が異なる2種類以上の金属が接触し、そこに電解質溶液(雨水など)が存在すると、イオン化傾向の大きい(錆びやすい)金属が優先的に腐食してしまう現象です。例えば、アルミ製品に
ステンレスのネジを使用すると、アルミ側が激しく腐食する可能性があります。このため、部品の選定には細心の注意が必要です。
下記リンクは、鉄が錆びるメカニズムについて図解で分かりやすく解説しています。
鉄の錆びるメカニズムと防錆処理の種類
防錆処理の種類と特徴、塗装とめっきの比較
金属を錆から守るための防錆処理には、様々な方法が存在します。これらは大きく「
塗装」「めっき」「
化成処理」「防錆油・防錆剤」の4つに分類されます 。それぞれの処理は、目的、コスト、耐久性、そして製品が使用される環境に応じて選択されます。
塗装は、塗料の膜で金属表面を覆い、錆の原因となる水や酸素を遮断する最も一般的な方法です 。コストが比較的安価で、大型の構造物から小さな部品まで幅広く適用できます 。塗料には、油性系、合成樹脂系(アクリル、ウレタン、エポキシ、フッ素など)といった種類があり、特にエポキシ樹脂系の錆止め塗料は、下地への密着性と防錆効果に優れているため、広く使用されています 。
一方、
めっきは、金属の表面に別の金属の薄い膜を被せる処理です。耐食性に優れた金属で覆うことで、母材となる金属を錆から守ります 。代表的なものに、安価で汎用性の高い亜鉛めっきや、美しい外観と高い耐食性を両立するクロムめっき、ニッケルめっきなどがあります 。めっきは塗装に比べて硬度が高く、傷がつきにくいという利点がありますが、一度傷がつくと、そこから腐食が始まる可能性がある点には注意が必要です 。
以下に塗装とめっきの主な特徴を比較します。
| 項目 |
塗装 |
めっき |
| 防錆原理 |
遮断(水・酸素をブロック) |
遮断 + 犠牲防食(亜鉛めっきなど) |
| コスト |
比較的安価 |
種類によるが、一般的に塗装より高価 |
| 外観 |
色の選択肢が豊富 |
金属光沢、種類により色が決まる |
| 膜厚 |
厚い(数十μm~) |
薄い(数μm~数十μm) |
| 耐摩耗性 |
比較的低い |
比較的高い |
| 適用範囲 |
形状の自由度が高い、現場施工も可能 |
槽に入るサイズに限られる、複雑な形状は不向きな場合も |
この他にも、リン酸塩やクロメートなどで化学的に皮膜を生成する
化成処理や、一時的な保管・輸送時に用いられる
防錆油・防錆剤による処理があり 、それぞれの長所と短所を理解し、製品の用途や求められる性能に最適な方法を選択することが極めて重要です。
防錆油と防錆剤の効果的な使い方と注意点
加工中や保管、輸送といった一時的な期間の錆を防ぐためには、防錆油や防錆剤が非常に有効です 。これらは手軽に利用できる反面、効果を最大限に引き出すためには正しい知識と使い方が求められます。
防錆油は、金属表面に油の膜を形成することで、水分や
腐食性ガスとの接触を物理的に遮断します。塗布方法としては、スプレー、刷毛塗り、
浸漬(ディッピング)などがあります。防錆油には、指紋除去タイプ、溶剤希釈タイプ、潤滑油タイプなど様々な種類があり、防錆期間や後の工程を考慮して選定する必要があります。例えば、加工後すぐに洗浄する部品には除去しやすいタイプを、長期保管する部品には粘度が高く保護性能の強いタイプを選ぶのが一般的です。
近年、注目を集めているのが
気化性防錆剤(VCI: Volatile Corrosion Inhibitor)です。これは、常温で気化(昇華)し、金属表面に吸着して目に見えない薄い保護被膜を形成することで防錆効果を発揮する薬剤です 。
- ✅ 複雑な形状にも対応: 気体となって拡散するため、スプレーや油が届きにくい部品の内部や隙間にも防錆成分が行き渡ります。
- ✅ 作業性の向上: 防錆油のようにベタつくことがなく、後工程での洗浄が不要な場合が多いため、作業効率が大幅に向上します。
- ✅ 多様な形態: 防錆剤を練り込んだフィルム(防錆フィルム)や紙(防錆紙)の形で提供されることが多く、製品を包むだけで手軽に防錆梱包が可能です 。
気化性防錆剤を使用する際の注意点として、密閉空間で効果を発揮するという点が挙げられます。段ボール箱やポリ袋などで製品を覆い、防錆成分が外部に逃げないようにすることが重要です。また、効果を発揮するまでにある程度の時間が必要なため、梱包直後から完全な効果が得られるわけではないことも理解しておく必要があります。ワイヤカット加工の現場では、加工液に防錆添加剤を投入することで、加工中の電蝕を防ぎ、錆の発生を抑制する方法も取られています 。
下記リンクは、様々な防錆剤の種類と特徴をまとめた専門的なガイドです。
防錆剤の種類と特徴 | 防錆ガイド
意外と知らない?ステンレスのもらい錆と対策
「ステンレス(Stainless Steel)」は、その名の通り「錆びにくい(Stain-less)」鋼として知られており、厨房設備や建築資材、機械部品など幅広い用途で利用されています。しかし、そのステンレスも特定の条件下では錆びてしまうことがある、という事実は意外と知られていません 。
ステンレスが錆びにくい理由は、主成分である鉄にクロム(Cr)を添加することで、表面に非常に薄く強固な
不動態皮膜と呼ばれる保護膜が自動的に形成されるためです 。この皮膜がバリアとなり、酸素や水が内部の鉄に触れるのを防ぎ、錆の発生を抑制します。傷がついても、空気中の酸素があれば自己修復する優れた特性も持っています。
しかし、この万能に見える不動態皮膜にも弱点があります。その一つが
「もらい錆」です。これは、ステンレス自体が錆びるのではなく、表面に付着した他の金属(主に鉄粉)が錆びることで、あたかもステンレスが錆びたように見える現象です。
もらい錆の主な原因は以下の通りです。
- 🏭 工場内での鉄粉付着: 近くで鉄製品の切断や研磨作業を行っていると、飛散した鉄粉がステンレス表面に付着します。
- 🔩 金属製工具の使用: 鉄製の工具でステンレスを叩いたり、こすったりすると、工具の鉄が付着することがあります。
- 💧 水道水中の鉄分: 水道水に含まれる鉄分が、蒸発・濃縮されることで表面に付着し、錆の原因となるケースもあります。
もらい錆を発見した場合、初期段階であれば市販のステンレス用洗浄剤や中性洗剤で比較的簡単に除去できます。重要なのは、もらい錆を放置しないことです。放置すると、付着した錆がステンレスの不動態皮膜を破壊し、ステンレス自体の腐食(
孔食)に繋がる恐れがあります。
もう一つの注意点は、
塩素イオンに対する脆弱性です 。海岸地帯の塩害や、洗浄に使用される次亜塩素酸ナトリウムなどに含まれる塩素イオンは、不動態皮膜を局部的に破壊する性質があります。そのため、沿岸部で使用するステンレス製品には、より耐食性の高いSUS316(モリブデン含有)などを選定するといった配慮が求められます。「ステンレスだから絶対に錆びない」と過信せず、その特性を正しく理解し、適切な環境で使用・メンテナンスすることが、その性能を長く維持する秘訣です。
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