ガルバニック腐食と異種金属の電位差による問題と防止策

金属加工の現場でしばしば発生するガルバニック腐食のメカニズムと防止策について解説します。あなたの製品設計でガルバニック腐食のリスクを見落としていませんか?

ガルバニック腐食とその防止策について

ガルバニック腐食の基礎知識
電気化学的現象

異種金属間の電位差により発生する腐食現象

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必要条件

異なる金属の接触と電解質(水分)の存在

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産業への影響

製品寿命の短縮と安全性への悪影響

ガルバニック腐食の基本メカニズムと電位差の影響

ガルバニック腐食(異種金属接触腐食)は、異なる種類の金属が接触し、さらに水分や電解質が存在する環境下で発生する腐食現象です。この現象は静かに進行するため、気づいた時には深刻な劣化が進んでいることもあります。

 

ガルバニック腐食が発生するメカニズムは、異なる金属間の「電位差」によるものです。金属がイオン化してプラスの電荷を持つ性質を「イオン化傾向」と呼びますが、この傾向は金属によって異なります。異種金属が接触した状態で水分(海水・雨水・湿気など)が存在すると、電池のような状態となり、微弱な電流が生じます。この状態をガルバニック電池作用と呼びます。

 

この電気化学的反応により、イオン化傾向が大きい(電位が低い)金属が「卑金属」となり、電子を失って選択的に腐食が進行します。反対に、イオン化傾向が小さい(電位が高い)金属は「貴金属」として働き、腐食が抑制されます。例えば、ステンレス鋼と亜鉛メッキ鋼が接触した場合、亜鉛メッキ部分が先に腐食してしまいます。

 

腐食の発生は以下の3つの条件がすべて揃ったときに起こります。

  • 電位の異なる異種金属の接触
  • 電解質(水分など)の存在
  • 電気的な連続性

特に建築物や屋外設置機器では、「見えない部分」ほど腐食が発生しやすく、配管のフランジ接続部やボルト周辺、絶縁処理のされていない接合部で進行しやすい傾向があります。

 

腐食の進行速度は以下の要因によって変化します。

  • 金属間の電位差の大きさ(差が大きいほど腐食速度が速い)
  • 電解質の導電性(海水>雨水>真水の順で腐食が促進)
  • 環境温度(高温ほど化学反応が活性化)
  • 金属の表面積の比率(貴金属:卑金属の比率)

ガルバニック腐食が発生しやすい異種金属の組み合わせ

ガルバニック腐食のリスクを正しく評価するためには、各金属の電位(イオン化傾向)を理解することが重要です。海水中における各金属の電位を参考にすると、どの組み合わせが危険かが明確になります。

 

一般的に危険度の高い組み合わせは以下のとおりです。

  1. アルミニウムと銅の組み合わせ
    • 電位差が非常に大きく、アルミニウムが急速に腐食します
    • 建築用金具や電子機器の冷却部品でよく見られる問題です
  2. 鉄鋼とステンレス鋼の組み合わせ
    • 炭素鋼製の配管にステンレス製のボルト・ナットを使用した場合、炭素鋼側の腐食が促進されます
    • 工場配管や屋外構造物でよく見られる問題です
  3. 亜鉛メッキ鋼と銅合金の組み合わせ
    • 水道配管などで亜鉛メッキ鋼管と銅管を直接接続すると亜鉛側が急速に腐食します
    • 水道・給湯設備で特に注意が必要です
  4. アルミニウムとステンレス鋼の組み合わせ
    • 電位差によりアルミニウム側が腐食します
    • 屋外設置の機器、船舶、航空機部品で問題となります
  5. 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と金属の組み合わせ
    • CFRPに含まれる炭素繊維は電気を通し、特にアルミニウムとの組み合わせで深刻なガルバニック腐食を引き起こします
    • 航空宇宙分野や高級スポーツ用品で注意が必要です

興味深いことに、金属だけでなく、導電性を持つ材料はすべてガルバニック腐食の原因となり得ます。例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、含まれる炭素繊維が電気を通すため、金属(特にアルミニウム)と接触するとガルバニック腐食を引き起こします。

 

また、特殊な事例として、溶液中の銅やニッケルなどの重金属イオンがアルミニウムに析出すると、その部分が局部電池となってガルバニック腐食が進行するケースも報告されています。このように、単なる金属接触だけでなく、環境中の金属イオンによっても腐食が促進される場合があります。

 

ガルバニック腐食の効果的な防止策と絶縁技術

ガルバニック腐食を効果的に防止するためには、設計段階からの対策が最も重要です。以下に主要な防止策を紹介します。

 

1. 材料選定の最適化

理想的には、同じ金属または電位の近い金属を使用することがガルバニック腐食の根本的な解決策となります。設計の自由度が許す限り、以下のポイントを考慮しましょう。

  • 電位差が100mV以下の金属組み合わせを選定する
  • やむを得ず異種金属を使用する場合は、貴な方の金属の表面積を卑な方よりも小さくする
  • 特に過酷な環境(海洋・屋外・高湿度)での設計は注意が必要

2. 絶縁技術の活用

異種金属間の直接接触を避けることは、ガルバニック腐食を防ぐ最も確実な方法の一つです。

  • 金属間に非導電性の絶縁材(プラスチック、ゴム、テフロン等)を挿入する
  • ボルト・ナットの絶縁には、樹脂製ワッシャーやスリーブを使用する
  • フランジ接続部では、絶縁ガスケットを採用する
  • 電気的接触が必要な場合は、接点部分を防水・防湿処理する

絶縁材は、金属同士の直接的な接触を避けることで、電流の流れを遮断し、ガルバニック腐食のリスクを大幅に低減します。特に、電解質が存在する環境では、絶縁材が金属間の電位差を抑える役割を果たし、腐食の進行を防ぎます。

 

3. 犠牲陽極法の活用

防食対象の金属よりもさらに卑な金属を意図的に接触させることで、卑な方が先に腐食する性質を利用した防食方法です。

  • 船舶や海洋設備では、鋼材の保護のために亜鉛やアルミニウム合金の犠牲陽極を取り付ける
  • 地下埋設配管の保護にマグネシウム陽極を使用する
  • メタルガードテープ(亜鉛含有)を金属とボルトの接触部分に挿入する

犠牲陽極は定期的な交換が必要ですが、主要構造物の腐食を効果的に防止できます。

 

4. 環境制御

設計段階での対策に加えて、使用環境を制御することも重要です。

  • 屋外設置機器には適切な防水・排水設計を行う
  • 塩分や酸性物質のある環境では、定期的な洗浄を行う
  • 温度・湿度の管理が可能な場所では、低湿度環境を維持する
  • 結露対策として、適切な換気や断熱処理を施す

ガルバニック腐食対策としてのメッキ処理の活用法

メッキ処理はガルバニック腐食対策として非常に有効な手段です。適切なメッキを施すことで、異種金属間の電位差を減少させたり、金属表面を保護したりすることができます。

 

メッキ選択の基本原則

メッキ選択では以下の点を考慮することが重要です。

  1. 犠牲防食型メッキ
    • 鉄鋼材料に対する亜鉛メッキは、亜鉛が鉄よりも卑な金属のため、亜鉛が優先的に腐食されて鋼材を保護します
    • 傷がついても下地金属が露出しにくく、長期的な防食効果があります
    • 一方で、亜鉛メッキした部品がステンレスや銅と接触すると、亜鉛の腐食が急速に進行するため注意が必要です
  2. バリア防食型メッキ
    • ニッケルメッキやクロムメッキは、下地金属と環境を遮断するバリアとして機能します
    • 緻密な皮膜が形成されるため、優れた防食性を発揮します
    • ただし、メッキ層に傷がつくと、局部的に激しい腐食が起こる可能性があります
  3. 複合メッキ
    • 下層に犠牲防食型、上層にバリア防食型のメッキを施す複合処理も効果的です
    • 例:亜鉛-ニッケル合金メッキは、純亜鉛メッキより耐食性に優れています

具体的なメッキ処理の活用例

  1. 異種金属接合部の電位差調整
    • 自社製品のステンレス部品が客先で亜鉛メッキ部品に組付けられる場合、ステンレスにも亜鉛メッキを施すことで電位差を低減できます
    • アルミニウムと鉄の接触部では、両方に同種のメッキを施すことで電位差を小さくします
  2. ジオメット処理による防食
    • アルミニウムと鉄のガルバニック腐食問題では、鉄部品にジオメット(非電気メッキの無機ジンクリッチコーティング)を採用することで解決できます
    • ジオメットは環境負荷が少ない上に、優れた耐食性を発揮します
  3. アルマイト処理の活用
    • アルミニウム合金の表面にアルマイト処理を施すことで、電気的な絶縁性を持たせられます
    • 特に1000系や3000系のアルミニウム合金は、アルマイト処理による耐食性向上に適しています
  4. 特殊表面処理
    • 摩擦係数安定剤を塗布することで、異種金属間の締結トラブル(軸力低下・かじりなど)を防止できます
    • このような表面処理は、締結部における金属間接触の安定化に効果的です

メッキ処理は単なるサビ防止だけでなく、化学的な金属特性に従って金属間の電位差を低下させることで、ガルバニック腐食によるロスを低減させる重要な技術です。適切なメッキ選択には、使用環境や接触する金属の組み合わせを十分に考慮することが不可欠です。

 

ガルバニック腐食と高湿度環境における製品設計の注意点

高湿度環境は、ガルバニック腐食の発生・進行を著しく促進します。特に日本の気候のように湿度が高く、また沿岸部では塩分を含んだ海風にさらされる環境では、製品設計において特別な配慮が必要です。

 

高湿度環境がガルバニック腐食に与える影響

高湿度環境では、金属表面に水分の薄い層(水膜)が形成されやすくなります。この水膜は電解質として機能し、以下のような影響をもたらします。

  • 結露の発生により、目に見えない微小な水滴が電解質として作用
  • 空気中の汚染物質(塩分・酸性物質)が水分に溶け込み、電解質の導電性が向上
  • 温度変化によって結露と乾燥が繰り返されることで、腐食が加速

特に屋外と屋内の境界部分や、温度差が生じやすい箇所では注意が必要です。例えば、エアコンの室外機など、温度変化が激しい機器では、金属部品の接合部に結露が発生しやすく、ガルバニック腐食が進行しやすくなります。

 

高湿度環境における設計上の注意点

  1. 水分の滞留防止
    • 製品設計では、水はけを良くし、水分が滞留しない構造を心がける
    • 可能な限り排水穴を設け、水が溜まらないようにする
    • 水平面よりも傾斜面を多用し、水分の滞留を防ぐ
  2. シーリング処理の活用
    • 異種金属接合部は防水シール剤で保護し、水分の侵入を防ぐ
    • シリコーン系やポリウレタン系の防水シーラントを適切に選択する
    • シーリング材の耐久性を考慮し、定期的な点検・メンテナンス計画を立てる
  3. 通気性と乾燥性の確保
    • 密閉構造よりも適度な通気性を持たせ、湿気が溜まらない設計にする
    • 製品内部の空気循環を促進する設計を取り入れる
    • 結露が発生しやすい部分には断熱材を使用する
  4. 塩害対策
    • 沿岸部に設置される製品には、特に厳重な防食対策が必要
    • 耐食性の高いステンレス(SUS316など)や特殊合金の使用を検討
    • 定期的な洗浄によって塩分の蓄積を防止する維持管理計画を立てる

業界別の対策事例

  1. 電子機器製造業
    • 基板上の異種金属接点にコンフォーマルコーティングを施す
    • 筐体の接合部には防湿シールを使用し、内部への湿気侵入を防止
    • 必要に応じて防湿剤や乾燥剤を内蔵する
  2. 屋外設置機器メーカー
    • 太陽光発電システムのフレームとアルミ架台の接続部に絶縁ワッシャーを使用
    • ステンレスボルトと異種金属の接合部にはナイロンスリーブを採用
    • 定期点検で腐食の初期兆候を確認する体制を構築
  3. 建築金物製造業
    • 建築用金具のファスナー類には同種金属または互換性のある金属を使用
    • 異種金属接合が避けられない場合は、両部材に同じメッキ処理を施す
    • 雨水や結露の影響を受けやすい部位には追加の防水対策を実施

実際の事例として、ある通信機器メーカーでは、屋外設置型アンテナの接合部に使用していたアルミニウム部品とステンレスボルトの間でガルバニック腐食が発生し、製品の早期故障につながっていました。対策として、接合部にナイロンワッシャーによる絶縁処理を施し、さらにアルミニウム部品にアルマイト処理を追加したところ、製品寿命が従来の3倍以上に延長されたという報告があります。

 

このように、高湿度環境におけるガルバニック腐食対策は、製品の信頼性と寿命に直結する重要な設計要素です。初期設計段階での適切な対策実施が、長期的なコスト削減と顧客満足度の向上につながります。