ステンレス規格のJISと種類、用途で選ぶ強度と加工性

ステンレス規格はJISで細かく定められ、種類によって強度や加工性が大きく異なります。本記事では、主要なステンレス規格の種類と特徴、用途に応じた最適な選び方を徹底解説。あなたの用途にぴったりのステンレスを見つけるには、どの規格に注目すればよいのでしょうか?

ステンレス規格の全貌

この記事でわかること
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規格の基本

JIS規格を中心に、ステンレス鋼の種類と分類の全体像を理解できます。

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適切な選定

強度、耐食性、加工性など、用途に合わせた最適なステンレスの選び方がわかります。

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専門知識

熱処理による性質変化や、あまり知られていない特殊ステンレスの世界まで深掘りします。

ステンレス規格の基本:JIS規格と種類の全体像

 

ステンレス鋼は、その優れた耐食性から幅広い分野で利用されていますが、その性能を正しく理解し活用するためには「規格」の知識が不可欠です 。日本産業規格(JIS)では、ステンレス鋼は「SUS」という記号で表され、これは"Steel Special Use Stainless"の略です 。JIS規格には多種多様なステンレス鋼が登録されており、例えばJIS G 4305(冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯)には65種類もの規格材質が存在します 。
ステンレス鋼は、その金属組織によって大きく5つに分類されます。それぞれの特徴を理解することが、適切な材料選定の第一歩となります 。

  • オーステナイト: 最も代表的なステンレスで、クロム(Cr)とニッケル(Ni)を主成分とします 。優れた耐食性と溶接性、加工性を持ちますが、一般的に磁性はありません。代表的な鋼種にSUS304があり、「18-8ステンレス」とも呼ばれます 。JISで規定されているステンレス鋼のうち、半数以上がこのオーステナイト系に属します 。
  • フェライト系: ニッケルを含まず、クロムを主成分とするステンレスです 。オーステナイト系より安価で、加工性が高く、磁性を持つのが特徴です。代表鋼種はSUS430で、厨房機器や建材などに広く使われます 。
  • マルテンサイト: 高い強度と硬度を持つステンレスで、クロムのほか炭素(C)を含みます 。焼入れによってさらに硬化させることができるため、刃物やシャフトタービンブレードなどに利用されます 。代表鋼種はSUS410やSUS420J2です 。
  • オーステナイト・フェライト(二相)系: オーステナイト相とフェライト相が混在する組織を持ち、それぞれの長所を兼ね備えています 。高強度で、特に塩化物環境下での応力腐食割れ(SCC)に強いという特徴があります。代表鋼種はSUS329J1などです 。
  • 析出硬化系: 熱処理によって銅(Cu)やアルミニウム(Al)などの元素を析出させることで、非常に高い強度を得られるステンレスです 。代表的なSUS630は、航空宇宙分野の部品や高強度シャフトなどに使用されます 。

これらの分類とJIS記号を理解することで、製品に求められる特性に応じた材料の絞り込みが可能になります。例えば、ねじの規格であるJIS B 1054-1では、鋼種区分がアルファベットで示され、Aはオーステナイト系、Cはマルテンサイト系、Fはフェライト系を表します 。
以下の参考リンクは、ステンレス協会の公式サイトで、JIS規格の一覧がまとめられています。規格番号から具体的な内容を確認したい場合に非常に役立ちます。
https://www.jssa.gr.jp/jssa_publication/j_s_s_a_stand/

ステンレス規格の用途別選び方:強度と耐食性を中心に

ステンレス鋼を選ぶ際には、使用される環境や目的に応じて、「強度」や「耐食性」といった特性を総合的に比較検討する必要があります。数ある鋼種の中から最適なものを選ぶための、実践的なアプローチを紹介します。
まず基準となるのが、最も汎用性の高いSUS304です 。耐食性、溶接性、機械的性質のバランスが良く、家庭用品から工業設備まで幅広く使用されています 。しかし、より特定の性能が求められる場合には、他の鋼種を検討します。
✅ 耐食性を特に重視する場合

海水や化学薬品に触れるなど、厳しい腐食環境下ではSUS304では不十分な場合があります。その場合に第一候補となるのがSUS316です 。SUS304の成分にモリブデン(Mo)を添加することで、孔食(点状に発生する腐食)や隙間腐食への耐性が格段に向上します 。沿岸地域の建築部材や、化学プラント、医療用器具などでその真価を発揮します 。さらに厳しい環境向けには、より多くのモリブデンや窒素を含む「スーパーステンレス」と呼ばれる高耐食ステンレス鋼(例:SUS836L)も存在します 。
✅ 強度や硬度を求める場合

高い機械的強度が要求される部品には、マルテンサイト系ステンレスが適しています。例えば、SUS410は焼入れにより硬度を高めることができ、SUS440Cに至ってはステンレス鋼の中でも最高レベルの硬度を実現できます 。これらは、シャフトやベアリング、刃物などの高い耐摩耗性が求められる用途に選ばれます。ただし、一般的にマルテンサイト系はオーステナイト系に比べて耐食性が劣るため、使用環境には注意が必要です 。強度と耐食性の両立が難しい場合には、前述の二相系ステンレスや析出硬化系ステンレスが有力な選択肢となります。
✅ 加工性やコストを優先する場合

複雑な形状への加工や、コストを抑えたい場合には、フェライト系のSUS430がよく用いられます 。ニッケルを含まないため比較的安価で、冷間加工性にも優れています。また、切削加工の効率を上げたい場合には、「快削ステンレス」と呼ばれる硫黄(S)やセレン(Se)を添加した鋼種があります。オーステナイト系のSUS303やフェライト系のSUS430Fがその代表で、これらはボルト、ナットなどの大量生産される精密部品に適しています 。
以下の表は、代表的なステンレス鋼種の特性を比較したものです。選定の際の参考にしてください。

鋼種(系統) 強度 耐食性 加工性 溶接性 磁性 主な用途例
SUS304(オーステナイト) なし 家庭用品、建築、化学設備
SUS316(オーステナイト) なし 沿岸部設備、化学プラント、医療器具
SUS430(フェライト) あり 厨房機器、自動車部品、家電製品
SUS410(マルテンサイト) あり 刃物、ねじ、タービン部品
SUS630(析出硬化) あり 航空機部品、高強度シャフト

☆:特に優れる ◎:優れる ○:良好 △:やや劣る

ステンレス規格と加工性:熱処理による性質の変化

ステンレス鋼の優れた特性は、含有される合金元素だけでなく、熱処理によっても大きく左右されます。熱処理は、ステンレスの硬度、強度、耐食性を調整し、目的の性能を引き出すための重要な工程です 。代表的な熱処理と、それによってステンレスの性質がどう変化するのかを見ていきましょう。
🔥 焼入れ・焼戻し(主にマルテンサイト系)

マルテンサイト系ステンレスの最大の特徴は、熱処理によって硬度を劇的に高められる点です 。


  • 焼入れ: 鋼を高温状態(約950〜1050℃)から急冷することで、金属組織を硬いマルテンサイト組織へと変化させます。これにより、ステンレスは非常に高い硬度と強度を得ることができます 。刃物やベアリングに求められる耐摩耗性は、この処理によって付与されます。

  • 焼戻し: 焼入れされたままの状態では、硬すぎる反面、もろく(靭性が低く)なっています。そこで、焼入れ後に比較的低い温度(約150〜400℃)で再加熱し、ゆっくり冷却する「焼戻し」を行います。これにより、硬度を適度に保ちつつ、粘り強さを回復させ、よりバランスの取れた機械的性質を実現します 。

💧 固溶化熱処理(主にオーステナイト系)

オーステナイト系ステンレスは焼入れでは硬化しませんが、「固溶化熱処理」という別の目的の熱処理が施されます 。


  • 目的: 加工や溶接の過程で、ステンレス内部に炭化物(クロム炭化物など)が析出することがあります。この炭化物が形成されると、その周囲のクロム濃度が低下し、耐食性が著しく劣化する「粒界腐食」の原因となります 。固溶化熱処理は、この劣化した耐食性を回復させるために行われます 。

  • 方法: 約1050〜1150℃の高温に加熱し、炭化物などの析出物を鋼中に完全に溶け込ませ(固溶させ)、その後急冷します 。急冷することで、炭素が再び析出するのをぎ、均一なオーステナイト組織を取り戻すことができます。これにより、ステンレス本来の優れた耐食性が回復します。また、加工によって生じた内部応力を除去する効果もあります 。

❄️ 応力除去焼なましサブゼロ処理

加工や溶接によって製品内部に残った「残留応力」は、寸法精度の狂いや応力腐食割れの原因となります。これを軽減するために、比較的低い温度(約200〜450℃)で加熱し、応力を緩和させるのが応力除去焼なましです。特に精密部品などでは重要な処理となります。また、マルテンサイト系ステンレスでは、焼入れ後も組織内に残留するオーステナイトをマルテンサイト化させるため、0℃以下の極低温に冷却する「サブゼロ処理」が行われることもあります。これにより、経年変化が少なく、より安定した高い硬度を得ることができます。
以下の参考リンクは、熱処理技術に関する詳細な解説が掲載されています。各種熱処理の目的やプロセスをより深く理解するのに役立ちます。
https://www.west-hill.co.jp/technical-information/heat-treatment-of-stainless-steel-sus/

ステンレス規格の豆知識:意外と知らない特殊ステンレスの世界

一般的に知られるSUS304やSUS316以外にも、特定の機能や用途に特化した「特殊ステンレス鋼」が数多く開発されています。これらは最先端技術やニッチな市場の要求に応えるもので、その存在を知ることは、材料選定の幅を大きく広げることにつながります。
🔬 二相(デュプレックス)ステンレス鋼

21世紀の合金とも呼ばれる二相ステンレス鋼は、オーステナイト相とフェライト相を約半々ずつ含むことで、両者の利点を併せ持つ画期的な材料です 。


  • 特徴: SUS304やSUS316といったオーステナイト系ステンレスの約2倍の強度を持ちながら、塩化物イオンに対する応力腐食割れ(SCC)に非常に強いという特性があります 。さらに、窒素の添加技術が進んだことで、溶接性や耐食性が大幅に向上しました 。

  • 種類と用途: 含有される合金元素の量によって、「リーン」「標準」「スーパー」「ハイパー」といったグレードに分類されます 。海水を利用する淡水化プラントの設備や、石油・ガスのパイプライン、化学プラントのタンクなど、高強度と高耐食性が同時に求められる過酷な環境で活躍しています 。

💡 高窒素ステンレス鋼

窒素(N)は、ステンレス鋼の特性を向上させる非常に有効な元素です。特にオーステナイト系ステンレスに添加することで、以下のような効果が得られます。


  • 強度向上: ニッケル(高価なレアメタル)の一部を窒素で置き換えることで、コストを抑えつつ強度を高めることができます。

  • 耐食性向上: 特に孔食や隙間腐食に対する耐性が向上します。

  • 非磁性: 高強度でありながら非磁性を維持できるため、電子機器の精密部品や医療機器(MRI関連など)での需要があります。例えば、DSN6という鋼種はVTRのガイドピンに、DNM110は非磁性のドリルカラーやバネに使われています 。

✨ その他のユニークなステンレス鋼

特定のニーズに応えるため、さらにユニークな機能を持つステンレスも開発されています。

  • 快削ステンレス鋼: 前述の通り、硫黄(S)などを添加し、被削性を劇的に向上させた鋼種です 。SUS303やSUS430Fが代表的で、自動盤での大量生産部品に不可欠です。
  • ばね用ステンレス鋼: 適度な弾性と強度、そして耐食性を併せ持つステンレス。SUS304-WPB(硬質線)や析出硬化系のSUS631-WPCなどが、精密ばねや皿ばねに使用されます。
  • 抗菌ステンレス鋼: 銅(Cu)や銀(Ag)を添加することで、表面に抗菌性を付与したステンレスです。病院のドアノブ、食品加工機器、厨房設備など、衛生管理が重要な場所で採用が進んでいます。
  • 高純度ステンレス鋼: 不純物を極限まで低減し、内部組織を均一にした超高清浄ステンレスです。CLEANSTARシリーズなどが知られ、半導体製造装置の超高真空チャンバーやバイオ関連設備など、ガスの放出が許されないクリーンな環境で使用されます 。

これらの特殊ステンレスは、一般的な材料では解決できない課題をクリアするための切り札となり得ます。設計や開発に行き詰まった際、こうした特殊材料に目を向けてみることで、新たなブレークスルーが生まれるかもしれません。

 

 


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