クロムとは金属の特性と用途や加工

金属加工に欠かせないクロムは、ステンレス鋼やめっきの主要な添加元素として知られています。高い耐食性と硬度を持ち、さまざまな工業用途で活用されているクロムについて、その性質や種類を知りたくありませんか?

クロムとは金属

この記事で分かること
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クロムの基本特性

融点1907°C、硬質で耐食性に優れた銀白色の金属元素

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クロムの用途

ステンレス鋼やめっき、合金への添加など幅広い工業用途

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クロムめっきの種類

装飾クロムめっきと硬質クロムめっきの違いと特徴

クロムの基本的な物理特性

 

クロムは原子番号24の遷移金属で、銀白色の光沢を持つ硬質な金属元素です。融点は1907°C、沸点は2671°Cという高い耐熱性を示し、密度は7.19g/cm³となっています。クロムの最大の特徴は、表面が酸素と反応して不動態皮膜(酸化皮膜)を形成することで、優れた耐食性を発揮する点にあります。この不動態皮膜により、クロムは大気中や水中で変色せず、塩酸以外の酸やアルカリに対して高い耐性を持ちます。常温・常圧下では体心立方構造(BCC)の結晶構造を持ち、硬度が高く摩擦係数が小さいため、耐摩耗性にも優れています。
参考)クロム元素特性と用途

クロムの電気抵抗率は2.3×10⁻⁶Ω-mで、熱伝導率は93W/m-Kと金属の中では比較的良好な導電性・熱伝導性を示します。また、希塩酸や希硫酸には溶解しますが、濃硝酸や王水などの酸化力の強い酸に対しては不動態を形成して反応しにくくなる性質があります。クロム単体は硬く脆いため金属材料としての加工は困難ですが、この硬度と耐食性が他の金属との合金化やめっきとして活用される理由となっています。
参考)【錆びる?】クロムめっきとステンレスの見た目や機能性の違い:…

クロムの主要な用途と工業応用

国内で消費されるクロムの90%以上は、ステンレス鋼やクロムめっきなどの金属加工に利用されています。ステンレス鋼は鉄に一定量以上のクロムを含ませた合金鋼で、クロムの不動態皮膜形成能力により高い耐食性を実現しています。全クロム消費量の約95%はフェロクロムの形でステンレス鋼などの特殊鋼へ添加されており、鉄の脱酸・脱硫や特性向上に寄与しています。クロム含有量によってステンレス鋼はクロム系とニッケル系に大別され、クロム系はニッケル系に比べて変形しにくく安価であることから近年需要が高まっています。
参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2021/06/material_flow2020_Cr.pdf

クロムめっきは自動車のバンパーやモール、水栓金具、バイクのマフラーなど幅広い製品に採用されています。装飾クロムめっきは0.3~1μm程度の薄膜で美しい青白色の光沢を提供し、硬質クロムめっきは数μm~数百μmの厚膜でHV800~1000の高硬度と優れた耐摩耗性を実現します。金属クロムは航空機エンジンのローターや発電用タービンブレード、化学プラント素材などの耐熱合金(スーパーアロイ)への添加が主要用途で、ハードディスクや液晶パネル用スパッタリングターゲット材、アルミ合金・銅合金への添加剤としても使用されています。
参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2019/03/material_flow2018_Cr.pdf

金属加工以外では、酸化クロムが顔料や研磨剤、耐火煉瓦の原料に、重クロム酸ナトリウムは皮革なめし剤や染色、金属表面処理の主剤として利用されています。羊毛や絹の染色にクロムを使用すると色落ちに強く光沢感のある仕上がりになり、革のなめしに用いると傷や水濡れに強く耐久性が向上します。
参考)【クロムの特性】金属加工や体内でどう作用する?

クロムを含むステンレス鋼と合金の特性

ステンレス鋼は鉄に約11%以上のクロムを含有させた合金で、表面に形成される不動態皮膜により優れた耐食性を発揮します。この不動態皮膜はクロムと酸素が反応して生成される緻密な酸化クロム層で、腐食の進行を防ぐバリア機能を果たしています。ステンレス鋼は建築材料、調理器具、医療機器、輸送機器など多岐にわたる分野で使用されており、クロム含有量や他の添加元素によってさまざまなグレードが存在します。クロム系ステンレスは磁性を持ち、加工性に優れる一方、ニッケルを含むオーステナイト系ステンレスは非磁性で低温特性に優れるという違いがあります。
参考)ニュース - クロムとステンレス鋼:詳細な比較はじめに

クロム銅合金は銅にクロムを添加した合金で、銅の高い導電性・熱伝導性を維持しながらクロムにより強度と耐摩耗性が向上しています。電気伝導率は50~70%IACS、引張強度は約400~500MPa、硬度は100~150HB程度で、スポット溶接シーム溶接の電極として広く使用されています。コバルトクロム合金は800°Cを超える高温下でも性能を維持する耐熱性と、クロムの酸化被膜による高い耐食性・耐摩耗性を兼ね備えており、航空機エンジン部品や医療用インプラントとして利用されています。
参考)クロム銅の特性と加工性|金属・樹脂加工部品の海外調達、試作加…

二元クロム炭化物(Cr₇C₃、Cr₃C₂、Cr₂₃C₆)は優れた耐摩耗性、極度の剛性、高温下での耐酸化性を示し、高クロム鋳鉄などの材料で炭化物として析出することで硬度と耐摩耗性を大幅に向上させています。高クロム鋳鉄はマルテンサイト組織と析出炭化物により、通常の白鋳鉄よりも4~18%高い硬度を実現し、鉱山機械や粉砕機などの摩耗環境で長寿命を発揮します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8779879/

クロムめっきの種類と加工技術

クロムめっきは大きく装飾クロムめっきと硬質クロムめっきの2種類に分類されます。装飾クロムめっきは外観の美しさと軽度の防を目的とした薄膜めっき(0.3~1μm程度)で、自動車のバンパーやモール、水栓金具、バイクの装飾パーツなどに広く採用されています。青白色の光沢が特徴で、大気中や水中で変色せず長期間美観を保ちますが、単独では素地金属を完全に被覆できないため、通常は銅やニッケルめっきを下地として施工されます。
参考)クロムめっきの基礎知識|特徴・用途・種類をわかりやすく解説|…

硬質クロムめっきは機能性を重視した工業用めっきで、数μm~数百μmの厚膜を形成し、HV800~1000という非常に高い表面硬度を実現します。優れた耐摩耗性、耐熱性、良好な潤滑性を提供するため、金型部品、油圧シリンダー、シャフト、ローラー、ピストンなど過酷な摺動環境や長寿命が求められる産業用機械部品に採用されています。硬質クロムめっきは均一性にも優れており、複雑形状部品の機能性向上にも寄与します。​
ステンレス鋼へのめっき加工は可能ですが、表面に形成された不動態皮膜が密着性を阻害するため、専用の前処理が必要です。適切な前処理を行うことで、ステンレス表面にはんだ付け性や電気導電性などの新たな機能を付与できます。クロムめっき加工では、鉄だけでなくステンレスやアルミニウムにも施工可能であり、母材の材質は表面がクロムめっきでも必ずしも鉄とは限りません。
参考)ステンレス上にめっき加工はできる?注意点も解説

近年、六価クロムを使用する従来のクロムめっきは発がん性などの健康・環境リスクから規制が強化されており、三価クロムめっきへの代替や環境対応技術の開発が進められています。三価クロムは六価クロムに比べて毒性が低く、技術的にも実用化が確立しています。
参考)環境に配慮した金属調フィルムの加飾展開

クロム資源の生産と供給状況

2020年の世界全体のクロム鉱石生産量は約3,700万トンで、10年前と比較して年間生産量は約1.5倍に増加しています。生産上位3カ国(南アフリカ、カザフスタン、インド)の合計で世界全体の約76%、上位10カ国合計で約98%を占める集中型の生産構造となっています。世界最大の生産国である南アフリカ共和国は2020年に約850万トンを生産し、主要資源開発地域であるブッシュフェルド・コンプレックスのラステンバーグ近隣とスチールプルト近隣がクロム生産の中心地です。南アフリカは世界の商業的に採掘可能なクロム埋蔵量の70%以上を保有し、世界の高炭素フェロクロムの約46.2%を生産しています。
参考)https://www.ajol.info/index.php/wsa/article/download/50913/39596

クロム鉱石の埋蔵量は2021年時点で約5億7,000万トンとされ、カザフスタン(1億8,000万トン)と南アフリカ(1億3,000万トン)で世界全体の約75%を占めています。その他の主要生産国としてトルコ、インド、ジンバブエ、フィンランド、ブラジル、中国などがあります。主要生産国におけるクロム鉱山で産出されたクロム鉱石は、主に自国内のプラントで鉄との合金であるフェロクロムに精製された後、世界のステンレス需要国へ出荷されるほか、クロム鉱石の状態での輸出も行われています。
参考)クロムの主な生産国 - 資源について

クロムは国家戦略的に最も重要な材料の一つとされており、鉄や鋼、非鉄合金中にクロムを用いることで耐性を高め、腐食や酸化を防ぐことができます。日本を含む多くの工業国はクロム資源を海外からの輸入に依存しており、安定供給の確保が重要な課題となっています。ロシアも一定量のクロムを生産していますが、近年の地政学的要因により供給リスクが存在します。
参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2020/05/material_flow2019_Cr.pdf

クロムの安全性と環境への影響

クロムは酸化状態によって性質が大きく異なり、一般的に3価クロムと6価クロムの2つの形態が環境や産業で見られます。通常の食事から摂取される3価クロムは毒性が低く、インスリン感受性や糖代謝に関与する必須微量元素として機能します。体内での吸収率も低いため、通常の食生活では過剰症が問題となることはほとんどありませんが、長期間にわたる過剰摂取では嘔吐、下痢、腎尿細管障害、肝障害などが起こる可能性があります。一方、クロムは加齢とともに体内含量が減少する唯一のミネラルであり、完全静脈栄養などでクロム不足が生じると耐糖能異常、窒素代謝異常、末梢神経障害などが発生します。
参考)https://www.mdpi.com/2076-3417/11/2/638/pdf

6価クロムは3価クロムの100倍の毒性を持つ高度に溶解性の高い環境汚染物質で、クロムメッキ、石炭採掘、皮革産業、塗料産業などが主要な発生源となっています。6価クロムは国際がん研究機関(IARC)により「ヒトに対して発がん性がある」と分類されており、長期的な暴露により皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、呼吸器系疾患、鼻中隔穿孔、肺がん、男性不妊などの健康被害を引き起こします。6価クロムから3価クロムへの還元過程で活性酸素種(ROS)が生成され、腎障害、肝不全、心不全、皮膚疾患、肺機能障害など多臓器にダメージを与えます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9774749/

環境への影響として、6価クロムは水質汚染、土壌汚染、大気汚染を引き起こし、自然分解されにくく長期間環境中に残留します。産業排水や廃棄物から流出した6価クロムは、土壌や水を汚染し、人間や野生生物に重大な健康リスクをもたらします。このようなリスクを踏まえ、欧州REACH規制などにより6価クロムの使用が規制されており、近年では6価クロムを使用しない製造工程の導入や、三価クロムなど低毒性への変更が進められています。クロムメッキ業界でも三価クロムめっき技術が確立され実用化されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8973695/

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