シーム溶接と金属加工における気密性と抵抗溶接技術の実践ガイド

シーム溶接の原理からメリット・デメリット、気密性や防水性を実現する金属加工技術としての応用例まで詳しく解説します。あなたの製品品質は、この溶接法でどう向上するでしょうか?

シーム溶接と金属加工の基礎知識

シーム溶接の基本
連続的な線状溶接

シーム溶接は円板電極を回転させながら連続的に行う抵抗溶接法で、線状に溶接できるのが特徴です

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高い気密性

連続した溶接ラインにより優れた気密性と防水性を実現し、液体やガスの漏れを防止します

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産業応用

燃料タンク、電子部品ケース、センサーなど高い気密性が求められる製品に広く活用されています

シーム溶接の原理と抵抗溶接の仕組み

シーム溶接は、その名の通り「継ぎ目(シーム)」を作る溶接方法で、電気抵抗によって発生する熱を利用した抵抗溶接の一種です。この溶接方法は、2枚の円板状電極を用いて連続的に線状の溶接を行うことが特徴です。

 

溶接のプロセスは以下のように進行します。

  1. 溶接材料を2つの円板状電極で挟み込みます
  2. 電極に圧力をかけながら電流を流します
  3. 材料の接触部分で電気抵抗によりジュール熱が発生します
  4. この熱によって材料が溶融し、金属同士が結合します
  5. 円板電極を回転させながら移動することで、連続した線状の溶接が完成します

抵抗溶接の原理では、材料自体の電気抵抗を利用して熱を発生させるため、外部から加熱する必要がなく、効率的な溶接が可能になります。一般的に、シーム溶接では下記の式に基づいて発熱量が決まります。
Q = I²Rt
ここで、Qは発熱量、Iは電流、Rは電気抵抗、tは通電時間を表します。つまり、高い電流を流すほど、また抵抗が大きいほど発熱量は増加します。

 

シーム溶接は「ラップシーム溶接」とも呼ばれ、主に重ね合わせた材料同士を溶接するために使用されます。材料を突き合わせて溶接する「バットシーム溶接」や、板端をわずかに重ねて押しつぶしながら溶接する「マッシュシーム溶接」などのバリエーションもあります。

 

シーム溶接とスポット溶接の違いと選択基準

シーム溶接とスポット溶接は共に抵抗溶接の一種ですが、それぞれに特徴と適した用途があります。主な違いを理解することで、製品に最適な溶接方法を選択できます。

 

【シーム溶接とスポット溶接の比較】

特徴 シーム溶接 スポット溶接
溶接形状 連続した線状 点状
使用電極 円板型(回転) 棒状(固定)
気密性 非常に高い 低い(点のみ)
速度 比較的速い 個別の点ごとに時間が必要
設備コスト 高い 比較的低い
電力消費 大きい 比較的小さい

シーム溶接の大きな利点は連続した気密性の高い溶接ができることです。一方、スポット溶接は必要な箇所のみを点で溶接するため、材料への熱影響が局所的で、変形が少ない特徴があります。

 

溶接方法を選ぶ際の判断基準。

  • 気密性や防水性が必要→シーム溶接が最適
  • コスト重視の場合→スポット溶接が経済的
  • 薄い材料の溶接→どちらも可能だが、シーム溶接は連続的な熱制御が必要
  • 大量生産→両方とも自動化可能だが、要件による
  • 製品の外観→シーム溶接は連続した美しい溶接線を形成

例えば、自動車の燃料タンクには漏れを防ぐためにシーム溶接が使用される一方、車体パネルの接合には多数の点でスポット溶接が用いられています。このように製品要件に応じて適切な溶接方法を選択することが重要です。

 

シーム溶接の気密性がもたらす金属加工製品の価値向上

シーム溶接の最大の特長である高い気密性は、多くの産業分野で製品の品質と信頼性を飛躍的に向上させています。連続した線状の溶接により形成される緻密な接合部は、液体やガスの漏れを効果的に防止します。

 

気密性が重要視される主な応用分野。

  1. 電子部品パッケージング
    • センサーやジャイロなどの精密電子部品では、外部環境からの保護が不可欠です
    • 真空や特殊ガスを封入したパッケージには、長期間にわたる気密性が求められます
    • シーム溶接により、部品の長期安定性と信頼性を確保できます
  2. 流体制御機器
    • タンクやコンテナ、パイプラインなど液体・気体を扱う機器
    • 危険物質や高価な流体の漏洩防止が重要な場面
    • 環境規制の厳しい分野では、わずかな漏れも許されません

気密性の数値評価と品質保証。
気密性の評価には、ヘリウムリーク試験や圧力保持試験などが用いられます。例えば、10⁻⁸ Pa・m³/s以下のリークレートが要求される超高真空機器でも、適切に施工されたシーム溶接は要求を満たすことができます。

 

シーム溶接の気密性による付加価値。

  • 製品の長寿命化(外部環境からの保護による)
  • メンテナンスコストの削減(漏れによる修理の低減)
  • 安全性の向上(危険物質の封じ込め)
  • 製品性能の安定化(内部環境の維持)

特に最近では、電気自動車のバッテリーケースや水素燃料電池など、新エネルギー分野での高い気密性要求に対応するためにシーム溶接技術の重要性が高まっています。適切な溶接パラメータの選定と品質管理により、製品の信頼性と安全性を大幅に向上させることができます。

 

シーム溶接機の種類と最新技術動向

シーム溶接機は、用途や対象材料によって様々なタイプが存在します。それぞれの特徴を理解し、適切な設備を選択することで、金属加工の品質と効率を最大化できます。

 

主なシーム溶接機の種類。

  1. ローラー式シーム溶接機
    • 最も一般的なタイプで、円板電極がローラーのように回転
    • 長い直線や曲線の連続溶接に適している
    • 電極冷却システムを備えているものが多い
  2. 真空シーム溶接機
    • 真空環境下で溶接を行うための専門装置
    • 電子部品や精密機器の気密封止に使用
    • 水晶振動子やジャイロセンサーなどの製造に不可欠
  3. 高周波シーム溶接機
    • 高周波電流を利用して迅速な溶接を実現
    • 薄い金属材料の高速溶接に適している
    • エネルギー効率が高い特徴がある

2025年の最新技術動向としては、以下のような革新が注目されています。

  • 省エネルギー化:従来の変圧器に比べて電気容量を10分の1に削減する技術が開発され、初期投資と運用コストの両面でメリットが生まれています。
  • デジタル制御の高度化:溶接パラメータをリアルタイムで監視・調整するAI制御システムの導入により、品質の安定化と歩留まり向上が実現しています。
  • マルチマテリアル対応:異種金属の溶接や、特殊合金への対応が進み、応用範囲が拡大しています。

国内主要メーカーのランキング(2025年4月現在)。

  1. 株式会社ダイヘン
  2. 電元社トーア株式会社
  3. 愛知産業株式会社

これらのメーカーは、それぞれ独自の技術や特徴を持ち、産業ニーズに合わせた溶接機を開発しています。選定の際には、溶接対象の材質や厚さ、生産量、求められる品質レベルなどを総合的に検討することが重要です。

 

シーム溶接機メーカーの最新ランキング情報はこちら

シーム溶接を活用した金属メッシュ加工の実践テクニック

金属メッシュの溶接は、シーム溶接の特殊な応用分野であり、独自の技術とノウハウが求められます。メッシュ素材は一般的な金属板と異なる特性を持つため、溶接時には特別な配慮が必要です。

 

メッシュ溶接の基本ポイント。

  1. メッシュ材料の特性理解
    • 線径や網目サイズによって溶接パラメーターが大きく変わる
    • 材質(ステンレス、アルミ、銅など)ごとに適切な設定が異なる
    • メッシュの交差点と辺部分では熱の伝わり方が異なることを考慮
  2. 電極選択と調整
    • メッシュ専用の溝付き電極を使用することで安定した通電
    • 電極圧力は通常の板材より低めに設定(網目の変形防止)
    • 電極のメンテナンス頻度を上げて接触不良を防ぐ
  3. 溶接パラメーター最適化
    • パルス電流の活用でメッシュの溶け落ちを防止
    • 通電時間を短く、電流値を適切に調整
    • 冷却時間の確保でメッシュの熱変形を抑制

メッシュ溶接の産業応用例。

  • フィルター製造:異なる目の粗さのメッシュを組み合わせた多層フィルター
  • 電磁シールド:精密機器の電磁波保護用メッシュカバー
  • 建築装飾:意匠性の高いメッシュパネル
  • 研究機器:実験用の特殊メッシュスクリーン

実践テクニック。
メッシュと板材の接合においては、メッシュ側の熱容量が小さいため、溶けすぎを防ぐ工夫が必要です。具体的には、電流波形を制御し、立ち上がりを緩やかにすることで安定した溶接品質を確保できます。

 

また、メッシュ溶接では通常のシーム溶接機を産業用ロボットに組み込むことで、複雑な形状にも対応可能になります。溶接ラインの設計段階から、メッシュの特性を考慮したジグ設計が重要になります。

 

メッシュ溶接の品質検査。

  • 引張試験:溶接部の強度確認
  • 顕微鏡観察:溶接部のミクロ構造評価
  • 通気度試験:フィルター用途での性能確認

メッシュ溶接の実例と技術詳細はこちら
シーム溶接を活用したメッシュ加工技術は、今後も医療機器や環境技術など、さまざまな分野で需要が拡大していくと予想されます。特に精密フィルターや特殊形状メッシュの製造において、その価値が高まっていくでしょう。

 

シーム溶接の適用においては、溶接品質と生産性のバランスを見極めることが重要です。材料特性を理解し、適切な溶接パラメータと設備を選択することで、高品質なメッシュ製品の製造が可能になります。溶接技術の継続的な改善と新たな応用分野の開拓が、金属加工業界の発展に寄与するでしょう。