薄板加工の歪み対策と精度を上げる溶接技術のコツ

薄板加工における歪みや精度は永遠の課題です。本記事では、代表的な加工方法から、歪みを抑え精度を高めるための具体的な対策、さらにはTIG溶接やYAG溶接のコツまでを徹底解説。あなたの技術を一段階引き上げるヒントが見つかるかもしれません。

薄板加工の基本と応用

薄板加工マスターへの道
基本を理解する

薄板の定義から、熱延・冷延の違い、代表的な加工方法まで、基礎知識を網羅的に解説します。

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歪みを克服する

加工時に発生する「歪み」の原因を科学的に分析し、具体的な対策方法を詳しく紹介します。

溶接
溶接を極める

難易度の高い薄板溶接について、TIG溶接やレーザー溶接のコツと注意点をプロ目線で解説します。

薄板加工の基礎知識と代表的な種類・方法

 

薄板加工は、その名の通り薄い金属板を様々な形状に加工する技術の総称です 。一言で「薄板」と言っても、その定義はJIS規格などで厳密に定められているわけではありませんが、一般的に板厚が6mm以下、特に3mm以下のものを指すことが多いです 。精密さが求められる電子機器の部品などでは、1mm以下の金属板が使われることも珍しくありません 。これらの製品は、軽量化や小型化が求められる現代の製造業において不可欠な存在となっています 。
薄板材料は、その製造方法によって大きく2種類に分類されます。

 

  • 熱間圧延鋼板(熱延鋼板): 高温で圧延されるため加工しやすく、コストが低いのが特徴です 。表面の美しさはそれほど求められない建築資材や産業機械の部品などに使用されます 。
  • 冷間圧延鋼板(冷延鋼板): 常温で圧延されるため、寸法精度が高く、表面が滑らかで美しい仕上がりになります 。加工硬化により強度が上がるため、自動車のボディや家電製品の外装など、意匠性も強度も求められる部分に多く採用されています

薄板加工には、製品の形状や材質、生産数に応じて様々な方法が用いられます。ここでは代表的な加工方法をいくつか紹介します。

 


主な薄板加工の方法

加工方法 概要 特徴
ブランク加工(抜き加工) 板材から目的の形状を切り出す、または穴を開ける加工 。 タレットパンチプレスやレーザー加工機が主に使われる 。加工の最初の工程となることが多い。
曲げ加工 プレスブレーキなどを用いて、板材をV字やL字、R形状などに曲げる加工 。 R形状に曲げることで、薄板の強度を大幅に向上させることができる 。
絞り加工 一枚の板材にプレス機で圧力をかけ、金型に沿わせて容器状に成形する加工 。 継ぎ目のない一体成形が可能。自動車のボディパネルや飲料缶の製造に用いられる。
溶接 複数の部品を熱で溶かして接合する加工 。 TIG溶接、スポット溶接レーザー溶接など、板厚や材質に応じて最適な方法を選択する必要がある 。
エッチング加工 金属の腐食作用を利用し、化学的に不要な部分を除去して形状を作る加工 。 物理的な力を加えないため、バリや歪みが発生しにくい 。μm単位の微細で複雑な形状の加工が可能 。

これらの加工方法は単独で使われることは少なく、多くの場合、ブランク加工で切り出した後に曲げ加工を行い、最後に溶接で組み立てるなど、複数の工程を組み合わせて一つの製品が作られます 。

薄板加工で発生する歪みの原因と具体的な対策

薄板加工において、加工者が最も頭を悩ませる問題の一つが「歪み(ひずみ)」の発生です。歪みは製品の寸法精度を著しく低下させ、後工程での修正に多大な時間とコストを要する厄介な現象です。歪みの主な原因は、加工時に発生する「熱」と「残留応力」にあります。

 

🔥 加工熱による歪み
レーザー加工や溶接のように、局部的に高い熱を加える加工では、熱が加えられた部分が膨張し、冷える際に収縮します 。この時、周囲の非加熱部分が拘束する力として働き、収縮が妨げられることで内部に応力が残り、結果として板材に反りや波打ちといった歪みが生じます 。特に薄板は熱伝導が早く、板厚が薄い分、熱による変形の影響を非常に受けやすいという特性があります 。

 

参考)鋼板のレーザー加工において歪みが発生しやすい形状と対策 - …

💪 残留応力による歪み
プレスによる抜き加工や曲げ加工のように、外部から物理的な力を加える加工では、材料内部に応力が残ります。これを「残留応力」と呼びます。加工が解放された後もこの応力が内部に不均一に残っていると、時間の経過とともに材料が変形し、歪みとなって現れることがあります 。

 

参考)順送プレス加工における4つの反り対策方法とは?

これらの歪みを最小限に抑えるためには、原因を理解した上で、以下のような対策を多角的に講じることが重要です。

 

歪み対策の具体的なアプローチ

  • 加工順序の最適化: 歪みの影響を最小限に抑えるため、加工する順番を工夫します。例えば、穴あけや細かい形状の加工など、歪みが発生しやすい部分を先に行い、最後に外周を切り出すことで、熱や応力が外に逃げやすくなり、全体の変形を抑制できます 。
  • 治具による適切な固定: 加工中に材料が動いたり、熱で変形したりしないよう、治具を使ってしっかりと固定することが基本です 。特に、磁性を持たないアルミニウムステンレスなどの材料には、バイスで締め付けるとそれ自体が歪みの原因になるため、「真空チャック」を用いて材料全面を均一に吸着・固定する方法が有効です 。
  • 加工条件の最適化: レーザー加工では、出力を必要最低限に抑え、切断速度を上げることで、材料への入熱を減らすことができます 。また、マシニング加工では、一度に大きく削るのではなく、径の小さい刃物で切り込み量を細かくする「ステップ加工」を行うことで、加工時の負荷を分散させ、変形をぎます 。
  • 応力除去の工夫: プレス加工で発生する反りは、抜き加工時の荷重バランスを考慮したり、ストリッパープレートで材料をしっかり押さえつけたりすることで軽減できます 。また、曲げ加工後に逆方向へわずかに曲げ戻す「キックバック」を利用して応力を相殺する技法もあります。

これらの対策は、単独で行うよりも複数組み合わせることで、より高い効果を発揮します。材料の特性や加工方法に応じて、最適な対策を見極めることが、高品質な薄板加工への鍵となります。

 

薄板加工の精度を極める溶接技術のコツ

薄板加工の最終工程として多用される溶接は、製品の強度と外観品質を決定づける非常に重要な工程です。しかし、板厚が薄いほど溶接は格段に難しくなります。その最大の理由は「溶け落ち」です 。薄板は熱容量が小さいため、アーク放電などの熱で母材同士が融合する前に、熱で穴が開いてしまうのです 。特に板厚1mm以下の溶接は、熟練の技術と知識が求められます 。

 

参考)https://stainless-welding.com/usuita_about

ここでは、薄板溶接で高い精度を実現するための代表的な溶接方法と、そのコツについて解説します。

 

薄板に適した溶接方法

  • TIG溶接: 電極棒からアークを飛ばし、その熱で母材を溶かす溶接方法です 。電流の調整が細かくでき、溶接部分がクリーンで美しい仕上がりになるのが特徴です。板厚0.5mm程度まで対応可能で、精密な溶接に適しています 。
  • YAGレーザー溶接/ファイバーレーザー溶接: 集光性の高いレーザー光をピンポイントで照射するため、熱影響範囲を極めて狭く抑えることができます 。これにより、熱による歪みを最小限にしながら、深い溶け込みを得ることが可能です。0.1mmといった極薄板の溶接も可能で、医療機器や電子部品などの精密分野で活用されています 。
  • スポット溶接: 2つの電極で材料を挟み込み、大電流を流してその抵抗熱で接合する方法です 。短時間で加工が完了するため、熱による歪みが少なく、自動車の車体組み立てなどで広く利用されています。

精度を高める溶接のコツ

  1. 適切な開先(かいさき)形状の確保: 溶接する部材同士の接合面を「開先」と呼びます。薄板溶接では、母材同士をぴったりと密着させる「I形開先」が基本です。ここにわずかでも隙間があると、溶け落ちの直接的な原因となります。隙間なく、ズレなく部材をセットすることが最も重要です。
  2. 治具による完全固定: 溶接熱による膨張・収縮で部材が動かないよう、治具でガッチリと固定します。特に、熱伝導率の良い銅などを当て金(バッキングプレート)として裏側から添えると、溶接熱を効率よく逃がし、溶け落ちと歪みの両方を防ぐ効果があります。
  3. 低電流・高速での溶接: 入熱量をいかに抑えるかが薄板溶接の鍵です。基本は「できるだけ低い電流で、できるだけ速く」溶接すること。ただし、速すぎると溶け込み不良になるため、母材が溶ける最小限の熱量を見極める経験が必要です。パルス機能付きの溶接機を使い、断続的にアークを発生させるのも非常に有効な手段です。
  4. 板厚を上げる検討: 設計上可能であれば、歪みが懸念される部分の板厚を上げることも有効な対策です。例えば、板厚を1.0mmから1.5mmに変更するだけで、溶接時の熱変形が大幅に抑制され、後工程の歪み取り作業時間を劇的に短縮できる場合があります 。

薄板溶接は、まさに経験と知識がものを言う世界です。これらのコツを参考に、試行錯誤を重ねながら、自分なりの最適な条件を見つけ出していくことが、技術者としてのスキルアップに繋がります。

 

薄板加工におけるレーザー加工とプレス加工の使い分け

薄板加工において、製品の形状を作り出すブランク加工(抜き加工)では、「レーザー加工」と「プレス加工」が二大巨頭として君臨しています。どちらも優れた加工方法ですが、それぞれに得意・不得意があり、製品の特性や生産量によって賢く使い分けることが、コスト削減と品質向上の鍵となります。ここでは、両者の違いを明確にし、どのような場合にどちらを選択すべきかの判断基準を解説します。

 

レーザー加工 vs プレス加工 徹底比較

比較項目 レーザー加工 プレス加工
加工原理

高出力のレーザー光を照射し、材料を溶解・蒸発させて切断する
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/33506/
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「金型」と呼ばれる雄型(パンチ)と雌型(ダイ)で材料を挟み、せん断力で打ち抜く ​ 。
初期コスト 金型が不要なため、初期費用を大幅に抑えられる。 製品ごとに専用の金型が必要で、その設計・製作に高額な費用がかかる ​ 。
生産性 1点ずつ加工するため、大量生産には時間がかかる。

金型さえあれば、一瞬(1ストローク)で加工が完了するため、大量生産に圧倒的に有利
参考)薄板を精度よく加工するにはどうしたら良いですか?|プレス表面…
​ 。

柔軟性

CADデータさえあれば、すぐに加工を開始でき、複雑な形状や試作品にも柔軟に対応可能
参考)薄板加工とは
​ 。

一度金型を作ると形状の変更は困難。多品種少量生産には不向き。
加工精度 非接触加工のためバリが発生しにくく、滑らかな切断面が得られる。熱影響による微小な歪みには注意が必要 ​ 。 適切なクリアランス(パンチとダイの隙間)管理で高い寸法精度を維持できる。断面には「ダレ」や「バリ」が生じる。
得意な分野 試作品、多品種少量生産、医療機器や航空宇宙分野の複雑形状部品 自動車部品、家電部品、事務用品など、同一形状の大量生産品


【独自視点】どちらを選ぶべき?判断の分かれ道
この二つの加工方法の選択は、単純な優劣ではなく、「作るモノの数」と「形状の複雑さ」が大きな判断基準となります。

 

🤔 こんな時はレーザー加工がおすすめ

  • 試作品や開発品を1個から作りたい時: 金型不要のメリットが最大限に活きます。「明日までにこの形状を試したい」といったスピード感が求められる開発現場では、レーザー加工が第一選択肢となるでしょう。
  • デザイン性が高く、曲線や複雑な輪郭を持つ部品: プログラム制御で自由自在にレーザーを動かせるため、プレスでは難しい入り組んだデザインや、微細なアート作品のような加工も可能です。
  • 定期的に設計変更が見込まれる製品: 金型を作り直すコストと時間を考えれば、データ修正だけで対応できるレーザー加工の方がトータルコストを抑えられます。

🤔 こんな時はプレス加工がおすすめ

  • 数万〜数百万個単位の大量生産を行う時: 高額な金型費用は、大量生産による一個あたりの単価低減効果で十分に回収できます。スピードとコストの両面でプレス加工が圧倒的に有利です。
  • 比較的単純な形状の部品: ワッシャーやシンプルなブラケットなど、形状が単純で大量に必要な部品はプレス加工の独壇場です。
  • 強度や精度が最重要視される部品: 適切な金型管理の下で行われるプレス加工は、非常に安定した品質で部品を生産し続けることができます。

近年では、タレットパンチプレス機にレーザー発振器を搭載した「レーザー・パンチ複合機」も登場しており、一台で両方の加工方法の利点を享受することも可能になっています。自社の製品ポートフォリオや将来的な生産計画を見据え、最適な加工方法を選択する戦略的な視点が、これからの製造業には求められます。

 

薄板加工の意外な材質と最新の加工技術動向

薄板加工というと、鉄(SPCC、SPHC)やステンレス(SUS304など)、アルミニウムといった一般的な材料を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、技術の進歩に伴い、特殊な機能を持つ「意外な材質」の薄板加工へのニーズが高まっています。同時に、これらの難加工材を攻略するための「最新技術」も次々と生まれています。

 

こんなものまで?注目の特殊薄板材料

  • チタン・チタン合金: 軽量、高強度、高耐食性という優れた特性を持ち、航空宇宙分野や医療分野(インプラントなど)で需要が拡大しています。しかし、加工が非常に難しく、特に薄板の切削や溶接には高度なノウハウが求められます。この難題に対し、物理的な力を加えない「フォトエッチング加工」が注目されています。化学的な腐食作用を利用するため、チタンのような難削材でもバリや歪みなく、μm単位の精密な加工が可能です 。
  • パーマロイ: 鉄とニッケルの合金で、非常に高い透磁率を持つ磁性材料です。この特性を活かし、精密機器の磁気シールド部品や、ハードディスクのヘッド部品などに使用されます。デリケートな磁気特性を損なわないよう、加工時の応力や熱を最小限に抑える必要があります 。
  • ベリリウム: 銅合金でありながら高い強度と優れたばね性を持ち、電気伝導性も良好なため、高級なスイッチやコネクタの接点材料として使われます 。薄板のばね部品として、精密な曲げ加工が要求される材料です。
  • インコネル・インバー: インコネルは耐熱性・耐食性に優れたニッケル基の超合金で、ジェットエンジンや化学プラントの部品に使われます。インバーは熱膨張率が極めて低い特殊な合金で、精密測定機器や半導体製造装置のフレームなどに利用されます 。どちらも非常に硬く粘り強い難削材として知られています。

未来を切り拓く!最新の薄板加工技術

  1. ファイバーレーザー技術の進化: 従来のCO2レーザーに代わり、ファイバーレーザーが薄板加工の主流になりつつあります 。ビーム品質が非常に高く、エネルギーを微小な点に集中できるため、熱影響を最小限に抑え、高速かつ高精細な切断が可能です。これにより、これまで熱歪みが課題だった極薄板の加工精度が飛躍的に向上しました 。
  2. 金型不要の逐次成形技術: プレス加工の常識を覆す、金型を使わずに三次元形状を成形する技術の研究開発が進んでいます。例えば、板材を複数のローラーや治具で少しずつ曲げたり延ばしたりしながら、まるで粘土細工のように立体的な形状を作り上げていく「インクリメンタルフォーミング(逐次成形)」がその一つです。

下記の参考リンクでは、広島県立総合技術研究所が開発した、金型なしで薄板を曲げ加工する逐次成形技術が紹介されています。NC制御されたジグが薄板を段階的に押し込むことで、複雑な三次元曲面を成形する様子は、まさに未来の板金加工を予感させます。

 


参考リンク:金型を使わないフレキシブルな曲げ加工技術の研究(動画解説)
https://www.youtube.com/watch?v=kR22G5V5p6w


このような逐次成形技術が実用化されれば、金型が不要になるため、一点ものの試作品やカスタムメイド品の製造コストが劇的に下がり、航空機部品や建築物の装飾パネルなど、多品種変量生産の分野に革命をもたらす可能性があります 。

 

参考)https://dl.acm.org/doi/pdf/10.1145/3687906

常に新しい材料と技術が登場する薄板加工の世界。既存の常識にとらわれず、最新の技術動向にアンテナを張り巡らせることが、他社との差別化を図り、新たなビジネスチャンスを掴むための重要な鍵となるでしょう。

 

 


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