プレスブレーキの種類と特徴から選び方まで解説

金属加工の現場で活躍するプレスブレーキの種類や特徴、メリット・デメリットを詳しく解説します。高精度な曲げ加工を実現するプレスブレーキ、あなたの工場に最適な機種はどれでしょうか?

プレスブレーキの基本と活用法

プレスブレーキの基本知識
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板金加工の要

金属板を精密に曲げる加工機械

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多様な駆動方式

機械式、油圧式、サーボモータ式、ハイブリッド式

選定ポイント

加工精度、生産性、コストパフォーマンスのバランス

プレスブレーキは、金属板などの素材に対して精密な曲げ加工を行うための工作機械です。上部のラム(スライド)と下部のボルスタープレートによって構成され、その間に金型(パンチとダイ)を設置して素材を挟み込み、圧力をかけることで曲げ加工を実現します。製造業や金属加工業界において、キャビネットや機械部品、建材など、さまざまな製品の製造に欠かせない設備となっています。

 

金属板の曲げ加工において、プレスブレーキは高い精度と柔軟性を提供するため、多品種少量生産から中規模の生産まで幅広く対応可能です。現代の製造現場では、CNC制御を搭載した高度なプレスブレーキも増えており、複雑な曲げ加工も容易に行えるようになっています。

 

プレスブレーキの種類と駆動方式による違い

プレスブレーキは駆動方式によって大きく4つのタイプに分類されます。それぞれに特徴と適した用途があるため、加工内容や予算に合わせて選択することが重要です。

 

  1. 機械式プレスブレーキ
    • モーターの回転運動でプレス部分を駆動
    • 加工スピードが速く、生産性が高い
    • 機械構造がシンプルでメンテナンスが容易
    • 圧力調整やスピード制御が難しく、精密加工には不向き
    • 加圧力が低いため、厚板の加工には適していない
  2. 油圧式プレスブレーキ
    • 油圧シリンダーでラムを上下させる方式
    • 高い加圧力を得られるため、厚板加工に適している
    • 圧力調整が容易で、多様な材料に対応可能
    • 油漏れのリスクや環境対応の必要性がある
    • 油温による精度変化があるため、安定した環境が必要
  3. サーボモータ式プレスブレーキ
    • サーボモーターを使用して電気的に制御
    • 高精度な位置決めと速度制御が可能
    • エネルギー効率が良く、作動油不要で環境に優しい
    • 静音性に優れ、クリーンな作業環境を維持できる
    • 初期導入コストが高い
  4. ハイブリッド式プレスブレーキ
    • 油圧と電動の両方の利点を組み合わせた方式
    • エネルギー効率と精度の両立を実現
    • 油圧式の加圧力と電動式の精密制御を兼ね備える
    • 複雑なシステム構成により、メンテナンスコストが高くなる傾向

各駆動方式は一長一短あるため、加工する材料の種類、板厚、必要な精度、生産量などを総合的に考慮して適切なタイプを選定することが重要です。近年では、特にサーボモータ式とハイブリッド式の人気が高まっており、エネルギー効率と環境負荷の低減が求められる現代の製造現場に適した選択肢となっています。

 

プレスブレーキの主なメリットと製造現場での活用事例

プレスブレーキは、多くの製造現場で重宝される理由があります。その主なメリットと活用事例について詳しく見ていきましょう。

 

🔹 多様な金型対応

プレスブレーキの最大の魅力の一つは、金型の種類や組み合わせが豊富なことです。

 

  • V字形、U字形、箱形など、多様な折り曲げ形状を実現可能
  • 金型の組み合わせにより、複雑な折り曲げパターンや連続的な加工が可能
  • カスタマイズされた特殊な設計要件にも柔軟に対応
  • 一台の機械で多様な加工が可能になるため、設備投資の効率化につながる

活用事例:
電子機器の筐体製造では、複数の曲げ角度を持つ部品を一台のプレスブレーキで加工することで、工程集約と品質安定を実現しています。

 

🔹 長尺材への対応力

プレスブレーキは、長い素材の曲げ加工にも優れた対応力を持っています。

 

  • 大型の機種では6m以上の長尺材にも対応可能
  • 建築用パネルや長い棚板など、大型部品の製造に適している
  • 均一な曲げ角度を長尺にわたって維持できる
  • 長尺材を1工程で曲げられるため、接合による品質低下や工程増加を防止

活用事例:
建築金物メーカーでは、3mを超える長さの金属製レインガーターをプレスブレーキで一度に曲げ加工することで、溶接による歪みを最小限に抑え、美観と強度を両立しています。

 

🔹 高精度な曲げ加工

プレスブレーキは精度の高い曲げ加工が可能です。

 

  • 最新のCNC制御により、±0.01mm単位の精密な位置決めを実現
  • バックゲージによる正確な曲げ位置の制御
  • アングルセンサーによるリアルタイムの角度測定と補正
  • 材料の反発(スプリングバック)を考慮した加工が可能

活用事例:
医療機器部品の製造では、プレスブレーキの高精度な角度制御により、複雑な形状の部品を高い精度で量産しています。薄い金属板でも正確に曲げられるため、小型で高精度な部品の製造に不可欠な設備となっています。

 

🔹 操作性と安全性

現代のプレスブレーキは、操作性と安全性にも優れています。

 

  • 直感的な操作インターフェースで熟練工でなくても扱いやすい
  • レーザーセンサーなど多彩な安全装置を標準装備
  • オペレーターの安全を確保するための緊急停止機能
  • 作業効率と安全性を両立したシステム設計

活用事例:
自動車部品工場では、安全センサーを装備したプレスブレーキを導入し、作業者の安全を確保しながら効率的な生産を実現。操作性の向上により、熟練作業者の技術伝承の課題も軽減されています。

 

これらのメリットを活かし、プレスブレーキは金属加工業界において不可欠な設備として位置づけられています。さまざまな業種や製品に対応できる柔軟性と、高精度な加工能力が評価されています。

 

プレスブレーキを選ぶ際のデメリットと注意点

プレスブレーキの導入を検討する際には、そのメリットだけでなく、デメリットや注意点も十分に理解しておくことが重要です。適切な判断のために、以下の点を考慮しましょう。

 

生産性の課題

プレスブレーキは、高い精度を誇る一方で、生産性については課題があります。

 

  • セットアップに時間がかかる
    • 適切な金型の選択や位置決め、プログラム設定など、準備に30分程度必要
    • 他の加工機と比較して2〜3倍の準備時間がかかることも
  • 加工サイクルタイムが長い
    • 曲げ加工1回あたり数十秒かかる
    • 複雑な形状の場合、複数回の曲げ工程が必要で時間を要する
  • 連続生産には不向き
    • 大量生産には効率が悪く、コスト高になる可能性がある
    • 特に小さな部品の大量生産には非効率

    これらの生産性の課題に対処するためには、加工内容に応じて以下のような代替手段も検討する価値があります。

    • パネルベンダー:大型パネルの高速自動加工に適している
    • ロールフォーミングマシン:長尺材の連続的な曲げ加工に最適
    • 自動パンチングマシン/レーザーカットマシンとの組み合わせ:複合加工による効率化

    環境面での考慮事項

    特に油圧式プレスブレーキを選択する場合は、環境面での配慮が必要です。

     

    • 作動油の管理
      • 定期的な油の交換や漏れチェックが必要
      • 油の品質管理が加工精度に影響する
      • 漏油時の環境対応が必要
    • 熱対策の必要性
      • 長時間の使用で熱が発生
      • 温度変化による精度低下を防ぐ温度管理が必要
      • 工場内の冷却設備や空調との兼ね合いを考慮
    • 電力消費
      • 特に大型機種では大きな電力を消費
      • 省エネ対応機種の選定や電力管理が重要

      コスト面での検討ポイント

      プレスブレーキは初期投資だけでなく、運用コストも考慮する必要があります。

       

      • 導入コスト
        • 機種や性能によって数百万円〜数千万円と幅広い
        • 付帯設備(金型、搬送装置など)の費用も必要
        • 設置スペースの確保や基礎工事なども考慮
      • 維持管理コスト
        • 定期的なメンテナンス費用
        • 消耗品や交換部品の費用
        • トラブル時の修理費用や生産停止リスク
      • 人材育成コスト
        • オペレーターの教育・訓練費用
        • 技術継承のための人材育成

        これらのデメリットを踏まえた上で、自社の生産内容や環境、予算に合わせた最適なプレスブレーキを選定することが重要です。特に導入前には、実際の加工テストや他社の事例調査を行うことで、より実態に即した判断が可能になります。

         

        プレスブレーキとパワープレスの比較と使い分け

        金属加工の現場では、プレスブレーキとパワープレスという二つの主要な加工機械が使用されています。一見似ているように思えるこれらの機械ですが、用途や特性に大きな違いがあります。それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることが効率的な生産につながります。

         

        基本的な違い

        特性 プレスブレーキ パワープレス
        主な用途 金属板の曲げ加工 打ち抜き、成形、絞り加工
        加工原理 上下の金型で挟み込んで曲げる 金型間に強い圧力をかけて加工
        制御方法 位置とストロークを精密に制御 固定ストロークで高速繰り返し
        生産速度 比較的遅い(精密志向) 非常に速い(量産志向)

        プレスブレーキの強み

        プレスブレーキが特に優れている点は以下の通りです。

        • 柔軟性:さまざまなサイズの金属板に対応可能で、金型交換により多様な曲げ形状を実現できます。
        • 素材効率:高い精度で加工できるため、素材の無駄が少なく、コスト効率に優れています。
        • 金型コスト:使用する金型は比較的低コストで寿命も長く、維持費が抑えられます。
        • 操作性:現代のプレスブレーキは操作が簡便で、専門技能の習得が比較的容易です。
        • 安全面:レーザーセンサーなど先進の安全装置を備え、作業者の安全確保に優れています。

        パワープレスの強み

        対して、パワープレスには以下のような利点があります。

        • 操作の簡便さ:構成部品が相互に接続されているため、操作が単純で操作コストが低い。
        • 高速性:スピードが速く、生産性が非常に高い。大量生産に適しています。
        • メンテナンス:油圧を使用しない機種では漏れの問題がなく、メンテナンスが容易です。

        材料ハンドリング能力の違い

        材料の種類や形状によって、適した機械が異なります。

        • プレスブレーキ
          • 大型で重い金属板の加工に適している
          • 厚く密度の高い材料(鋼板やアルミニウム板など)の加工に向いている
          • 多様な形状の板金に柔軟に対応可能
        • パワープレス
          • 特に薄い素材の加工に適している
          • 大量生産に向いている
          • 薄い金属板の切断、打ち抜き、成形などの作業に理想的

          コスト比較と投資判断

          設備投資を検討する際の経済的観点からの比較。

          • 初期投資
            • プレスブレーキは初期投資が比較的高いが、精度、汎用性に優れ、長期的な材料コスト節約につながる
            • パワープレスは用途に応じた機種を選ぶことで、初期投資を最適化できる
          • 運用コスト
            • プレスブレーキは金型コストが低く、多品種生産に適している
            • パワープレスは生産性が高く、大量生産時のコストパフォーマンスに優れている
          • 投資回収
            • 生産量や製品構成により、最適な投資判断は異なる
            • 多品種少量生産ならプレスブレーキ、単一製品の大量生産ならパワープレスが有利な傾向

            このように、プレスブレーキとパワープレスはそれぞれ異なる特性を持ち、加工内容や生産形態によって使い分けることが重要です。両方の設備を導入し、それぞれの強みを活かした生産体制を構築することで、最適な製造プロセスを実現できます。

             

            プレスブレーキの未来技術と自動化への展望

            製造業全体でデジタル化と自動化が進む中、プレスブレーキ技術も急速に進化しています。従来の手動操作中心の機械から、高度なデジタル制御や自動化機能を備えた次世代機へと発展しつつあります。ここでは、プレスブレーキの最新技術動向と今後の展望について探ります。

             

            デジタル制御とスマートファクトリー対応

            現代のプレスブレーキは、高度なデジタル制御システムを搭載し、工場全体のスマート化に貢献しています。

             

            • IoT連携機能
              • 稼働状況のリアルタイムモニタリングが可能
              • 生産データの自動収集と分析による予防保全の実現
              • 工場管理システム(MES)との連携による生産の最適化
            • シミュレーション機能
              • 3Dモデルを活用した曲げ加工のシミュレーション
              • 干渉チェックによる金型選定や段取りの最適化
              • 曲げ順序の自動最適化による効率向上
            • リモート診断・サポート
              • インターネット経由での遠隔診断システム
              • オンラインでのソフトウェアアップデート
              • AR(拡張現実)を活用したリモートサポート

              これらのデジタル技術により、プレスブレーキの操作性や保全性が大幅に向上し、工場全体の生産効率化に貢献しています。

               

              ロボット連携と自動化技術

              プレスブレーキの操作を自動化するためのロボット技術も急速に進化しています。

               

              • ロボットハンドリングシステム
                • 産業用ロボットとプレスブレーキの連携による無人化
                • ワークの自動搬入出による作業効率の向上
                • 複雑な曲げ工程の自動化による品質の安定化
              • 自動ツールチェンジャー
                • 金型の自動交換による段取り時間の短縮
                • 多品種少量生産への柔軟な対応
                • 人的作業の削減による安全性向上
              • 自動プログラミングシステム
                • CAD/CAMデータからの自動プログラム生成
                • 3Dデータを活用した効率的な加工ルート作成
                • AI技術を活用した最適加工条件の自動設定

                アマダ株式会社のロボット曲げシステム紹介ページ - 自動化システムの実例が参考になります

                省エネルギーと環境技術

                環境負荷の低減も、プレスブレーキの重要な開発テーマとなっています。

                 

                • 省電力化技術
                  • サーボモータ駆動による消費電力の削減
                  • 待機時のエネルギー消費を抑える省エネモード
                  • 回生エネルギーの再利用システム
                • 作動油レス化
                  • 電動式プレスブレーキによる油圧レスシステム
                  • 環境負荷の低減と保守管理の簡素化
                  • クリーンな作業環境の実現
                • 環境対応素材への適応
                  • 高強度鋼板など新素材への対応
                  • 軽量化のための最適な曲げ技術の開発
                  • 素材特性に合わせた加工条件の自動最適化

                  AIと機械学習の応用

                  人工知能と機械学習の活用により、プレスブレーキのさらなる性能向上が期待されています。

                   

                  • 自己学習機能
                    • 過去の加工データを基にした最適条件の自動調整
                    • スプリングバックの予測と自動補正
                    • 材料特性のばらつきに対応した適応制御
                  • 予知保全システム
                    • センサーデータの分析による故障予測
                    • 部品寿命の予測と最適なメンテナンスタイミングの提案
                    • 突発的な故障の防止による稼働率向上
                  • 品質監視システム

                    これらの先進技術により、プレスブレーキは単なる曲げ加工機から、デジタル製造環境における中核的な役割を担う設備へと進化しています。特に中小製造業においても導入しやすい段階的な自動化ソリューションが登場しており、規模を問わず製造現場の高度化に貢献しています。

                     

                    今後は、これらの技術をさらに発展させ、個々の製造現場の特性に合わせたカスタマイズや、より直感的なユーザーインターフェースの開発が進むことで、技能伝承の課題にも対応した次世代のプレスブレーキが普及していくでしょう。