レーザー溶接は、高エネルギーのレーザービームを金属に照射して、局所的に溶かすことで接合する加工方法です。一般的な溶接方法と比較して、エネルギー密度が高く精密な溶接が可能なことが特徴です。
レーザー溶接の仕組みは、まず「発振部」でレーザー光を生成します。YAG結晶などを光源として、ミラーで光を繰り返し反射させて増幅することで、高エネルギーのレーザー光が作られます。この光は「光路」を通して「集光部」へと伝送され、レンズやミラーによって適切なスポット径に集光されて母材に照射されます。
レーザービームが金属材料に照射されると、まず材料の表面が融点を超えて溶け始めます。さらにエネルギーが加わると、溶融した金属が蒸発し、「キーホール」と呼ばれる細い穴が形成されます。このキーホールには金属蒸気が充満し、レーザーエネルギーをより効率的に吸収するため、より深い溶け込みが可能になります。
キーホール型溶接の流れは以下のとおりです。
溶融金属が大気中の酸素と接触すると、酸化反応により溶接継手強度の低下や変色の原因となります。これを防ぐため、レーザー溶接では加工点周囲に窒素やアルゴンなどのシールドガスを低圧で吹きかけて大気から保護します。このガス圧管理も重要で、高すぎると溶融金属を吹き飛ばしてしまう恐れがあります。
レーザー溶接の精度や品質を左右する主な要素としては、レーザーの種類と波長、出力、溶接速度、焦点外し距離などが挙げられます。これらのパラメータを材料や用途に応じて適切に設定することで、高品質な溶接結果を得ることができます。
レーザー溶接は多くの金属材料に対応できますが、材料の特性によって溶接条件や難易度が異なります。ここでは、代表的な金属材料とその溶接特性、最適な条件設定について解説します。
【主な金属材料とレーザー溶接特性】
金属材料 | 特性 | レーザー溶接の難易度 | 推奨条件 |
---|---|---|---|
鋼(炭素鋼・ステンレス鋼) | レーザー吸収率が高い | 容易 | ほとんどのレーザー種で対応可能 |
アルミニウム | 反射率と熱伝導率が高い | 難しい | ファイバーレーザー、高出力条件が有効 |
チタン | 適度な反射率と熱特性 | 比較的容易 | シールドガスの使用が重要 |
銅 | 高反射率・高熱伝導性 | 非常に難しい | ブルーレーザーや波長制御技術が有効 |
材料の厚さによっても適切な溶接条件は変わります。薄い材料の場合は、溶け落ちや過剰な熱入力を防ぐために、レーザー出力を低く、溶接速度を高くする必要があります。一方、厚い材料では、十分な浸透と融合を確保するために、より高いレーザー出力とより遅い溶接速度が必要になります。
炭素含有量の高い炭素鋼や鋳鉄の溶接では、「溶接割れ」が発生しやすいという課題があります。これは溶融金属が焼き入れ硬化するためです。この問題に対処するためには、ワイヤを添加して炭素元素を希釈する方法が効果的です。レーザー溶接の深い溶け込み形状を活かしつつ、1パスで溶接することで、熱影響部の硬化を狭い範囲に抑えることができます。
A6000系のアルミニウム合金の場合も、割れ防止のためにワイヤ添加が有効です。また、アルミニウムの反射率の高さに対応するため、表面処理や特殊な波長のレーザーを使用することで吸収率を向上させる工夫も