板金加工 基礎知識と各工程の特徴と技術

板金加工の基礎から各工程の特徴、使用機械、技術ポイントまで詳しく解説します。製造業に携わる方々は、この知識をどのように現場で活かしていけるでしょうか?

板金加工 基礎知識と工程

板金加工 基礎知識と工程

板金加工の基本工程
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図面展開

製品設計から板金展開図を作成し、加工の基礎となる工程

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切断・成形加工

ブランク加工、曲げ加工など金属板に形状を与える工程

🔧
仕上げ・検査

バリ取り、塗装、溶接などの最終工程と品質検査

板金加工の定義と主要な加工種類

 

板金加工とは、金属製の板材に切断・穴あけ・曲げ・溶接などの加工を施し、目的の形状に仕上げていく技術です。この加工方法は、「塑性変形」を利用した「塑性加工」の一種であり、金属材料の性質を活かしながら立体的な製品を生み出すことができます。

 

板金加工の主な特徴としては以下が挙げられます。

  • 薄い金属板を素材として使用する
  • 複雑な形状の製品を一体成形できる
  • 少量多品種の生産に適している
  • 軽量かつ高強度の製品が製造可能

主要な加工種類には以下のようなものがあります。

  1. 切断加工:シャーリング、レーザー切断、タレットパンチプレスなどを用いて金属板を必要な形状に切り出します。
  2. 曲げ加工:プレスブレーキやベンダーと呼ばれる機械を使用して、金属板を折り曲げ立体形状を作り出します。
  3. 絞り加工:平らな金属板を引き伸ばしながら容器状に成形する技術です。
  4. 穴あけ加工:ドリルやパンチプレスを使用して、板材に穴を開ける加工です。
  5. 溶接加工:複数の板金部品を接合するために行われる加工です。

これらの加工を組み合わせることで、電子機器の筐体、自動車部品、家電製品、建築金物など、私たちの生活に欠かせない様々な製品が作られています。

 

板金加工における図面展開の重要性

 

板金加工において、図面展開は全工程の中でも特に重要な最初のステップです。図面展開とは、立体形状の製品を平面に展開して、実際の加工に必要な寸法や形状を決定するプロセスです。

 

この図面展開には以下のような重要な役割があります。

  • 加工精度の確保:正確な図面展開がなければ、部品同士の寸法誤差や組立不良を引き起こします。
  • 材料のロス削減:効率的な図面展開により、材料の無駄を最小限に抑えることができます。
  • 曲げ加工の精度向上:金属板を曲げる際に発生する「伸び」や「縮み」を考慮した正確な計算が必要です。

図面展開作業では、CAD(Computer Aided Design)ソフトウェアが活用されています。現代の板金設計では、3Dモデルを作成し、それを自動的に展開図に変換する手法が一般的です。しかし、自動変換だけでは不十分な場合も多く、板金技術者の経験や知識が重要な役割を果たします。

 

特に注意すべき点として、材質や板厚による伸び率の違い、曲げ半径によるストレッチ量の違い、曲げ加工時の角度戻り(スプリングバック)などがあり、これらを正確に計算して図面展開に反映させる必要があります。

 

製品の品質と生産効率を高めるためには、図面展開段階での綿密な検討が不可欠です。熟練の技術者は、加工方法や材料特性を考慮しながら、最適な展開図を作成することができます。

 

板金加工の切断加工と曲げ加工の基礎技術

 

板金加工における二大主要工程である切断加工と曲げ加工は、製品の品質を左右する重要な技術です。それぞれの基礎技術について詳しく見ていきましょう。

 

切断加工の基礎技術
切断加工には以下のような方法があります。

  1. シャーリング加工:上下の刃物で金属板をハサミのように切断する方法です。直線切りに適しており、比較的低コストで加工できる特徴があります。
  2. レーザー切断:高出力レーザーを使用して金属を溶融・蒸発させながら切断する方法です。複雑な形状も高精度で切断でき、生産性も高いため現代の板金加工の主流となっています。
  3. タレットパンチプレス:金型(パンチ)を使って金属板に穴や形状を打ち抜く方法です。多数の穴あけ加工に適しています。

切断加工で重要なポイントは、切断面の品質とバリ(切断時に生じる不要な突起)の発生を抑えることです。特にバリは怪我や事故の原因となるため、適切な処理が必要です。

 

曲げ加工の基礎技術
曲げ加工は主にプレスブレーキという機械を用いて行われます。この工程では以下のような技術が重要です。

  1. V曲げ:最も一般的な曲げ方法で、V字型の金型で板材を押し曲げます。
  2. 箱曲げ:ブランクの4辺を同一方向に曲げて箱状にする加工方法です。
  3. ヘミング曲げ:板を折り曲げてさらに潰す加工で、端部の強度向上や安全性確保に用いられます。

曲げ加工で特に注意すべき点は、スプリングバック(弾性回復)です。金属は曲げ加工後に若干形状が戻る性質があるため、これを見越した加工角度の設定が必要になります。また、曲げ部分の材料伸びも考慮する必要があります。

 

板金職人の技術と経験は、特に複雑な形状の曲げ加工において重要な役割を果たします。正確な曲げ順序の決定や複数曲げの干渉を避ける工夫など、熟練の技が求められる場面が多いのです。

 

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板金加工の前処理と仕上げ作業のポイント

 

板金加工において、主要工程である切断や曲げに注目されがちですが、前処理と仕上げ作業は製品の品質と機能性を大きく左右する重要な工程です。ここでは、これらの工程についての基礎知識と重要ポイントを解説します。

 

前処理の重要性と主な作業
前処理とは、切断加工後に曲げ加工や溶接加工を行う前に施す処理のことです。主な前処理作業には以下のようなものがあります。

  1. バリ取り:切断加工で生じたバリ(不要な突起)を除去する作業です。バリを放置すると怪我の原因になるだけでなく、組立精度の低下や機能不良を引き起こす可能性があります。
  2. タップ加工:ネジ穴を開ける加工です。曲げ加工後にタップ加工を行うことは困難なため、ほとんどの場合は曲げ加工前に実施します。
  3. バーリング:板に開けた穴の周りを円筒状に伸ばしてフランジを形成する加工です。これにより、薄い板にもネジ締結のための十分な山数を確保できます。

前処理のポイントは、後工程での不具合を未然に防ぐことにあります。特に曲げ加工を考慮した穴位置の調整や、加工変形を見越した前処理が重要になります。

 

仕上げ作業の種類とテクニック
仕上げ作業は、板金製品に最終的な機能性と美観を与える工程です。主な仕上げ作業には以下のようなものがあります。

  1. 溶接加工:複数の板金部品を接合する作業です。アーク溶接レーザー溶接、スポット溶接など様々な方法があります。
  2. 研磨作業:表面の凹凸やキズを取り除き、滑らかな表面に仕上げる作業です。特にステンレス製品では重要な工程となります。
  3. バフ研磨:金属表面に光沢を与える研磨方法で、鏡面仕上げなどの高級感のある外観を実現します。
  4. 塗装:防錆や美観向上のために塗料を塗布する作業です。静電塗装や粉体塗装など様々な方法があります。
  5. 電解研磨化学研磨:化学的・電気化学的処理によって表面を均一に溶解し、光沢を出す方法です。

仕上げ作業のポイントは、製品の用途に応じた適切な仕上げ方法の選択にあります。例えば、食品機械部品には衛生面を考慮した研磨が、屋外で使用される部品には耐候性のある塗装が必要です。

 

また、検査工程も仕上げ作業の重要な一部です。寸法検査、外観検査、機能検査などを通じて、製品が要求仕様を満たしているかを確認します。

 

板金加工における技術革新とデジタル化の展望

 

板金加工業界は長い歴史を持つ伝統的な製造分野ですが、近年では技術革新とデジタル化が急速に進んでいます。これからの板金加工はどのように変わっていくのか、その展望について考察します。

 

デジタル化による板金加工の変革
従来の板金加工は熟練工の経験と技術に依存する部分が大きい産業でしたが、現在では以下のようなデジタル技術の導入が進んでいます。

  1. 3DCADとシミュレーション技術:設計段階での3DCADの活用により、製品の仮想的な検証が可能になりました。板金の展開図作成も自動化され、曲げ加工のシミュレーションによって実際の加工前に問題点を発見できるようになっています。
  2. デジタルツイン:実際の製造ラインをデジタル空間に再現し、最適な生産方法をシミュレーションする技術です。これにより生産効率の向上やコスト削減が実現できます。
  3. IoT技術の活用:機械の稼働状況をリアルタイムで監視し、予防保全や生産スケジュールの最適化に役立てる取り組みが増えています。

自動化技術の進化
板金加工における自動化技術も日々進化しています。

  1. 自動材料供給システム:材料の搬入から完成品の搬出まで、人手をかけずに自動で行うシステムが普及しつつあります。
  2. ロボット技術の活用:曲げ加工や溶接工程にロボットを導入することで、24時間稼働や高精度な加工が可能になっています。特に協働ロボット(コボット)の導入により、人間とロボットが安全に共存できる環境が実現しています。
  3. AI技術の応用機械学習を活用した不良品検出や、最適な加工条件の自動設定など、AIを活用した取り組みが始まっています。

持続可能な板金加工への取り組み
環境負荷低減のための取り組みも重要なテーマになっています。

  1. 省エネルギー型機械の導入:電力消費を抑えた最新の板金加工機械の導入が進んでいます。
  2. 材料歩留まりの向上:ネスティング(材料取り)の最適化によって、材料の無駄を最小限に抑える取り組みが強化されています。
  3. 環境に配慮した洗浄剤・塗料の使用:VOC(揮発性有機化合物)の排出量削減など、環境負荷の少ない材料への切り替えが進んでいます。

技能伝承と新たな人材育成
デジタル化・自動化が進む中でも、板金加工には熟練の技術や経験が必要な場面が多く存在します。このため、技能伝承は依然として重要な課題です。最近では、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用した技術訓練システムの開発も進んでおり、効率的な人材育成が可能になりつつあります。

 

また、プログラミングやデータ分析など、従来の板金加工とは異なるスキルを持った人材の需要も高まっています。板金加工技術と最新のデジタル技術の両方に精通した複合型人材の育成が、今後の業界発展の鍵を握っているといえるでしょう。

 

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