弾性変形とは、物体に外力を加えた際に生じる変形のうち、その力を除去すると完全に元の形状に戻る変形現象です。この現象は分子レベルでの原子間距離の微小な変化によって起こり、原子間の結合自体は破断せずに保たれています。
参考)弾性変形と塑性変形の違いとは?【材料力学的解説】|機械工学・…
弾性変形における応力とひずみの関係は、フックの法則で表現されます。
σ = E × ε
この法則により、応力とひずみは比例関係にあることが示されています。実際の金属加工現場では、この関係を理解することで、材料にかかる負荷を適切に制御できます。
参考)弾性変形とは?塑性変形との違いや関係性をわかりやすく解説 -…
金属材料の弾性変形量は非常に微小で、例えば断面積100mm²、長さ0.1mの鉄の棒に10Nの荷重を加えた場合、約48nmという目視では確認困難な変形が生じます。この微小な変形こそが、精密加工において重要な要素となります。
弾性変形の重要な特徴として、変形量が加える力に正確に比例することが挙げられます。これにより、設計段階で予測可能な変形量を計算でき、機械部品の精度管理に活用されています。
塑性変形は、物体に弾性限界を超える応力を加えた際に生じる永久的な変形です。この変形は原子レベルでの構造変化を伴い、原子間のつながり方自体が変わることで新しい安定した配置に移行します。
参考)塑性変形(ソセイヘンケイ)とは? 意味や使い方 - コトバン…
塑性変形の発生メカニズムは、金属結晶内部の転位(dislocation)の移動によって説明されます。転位とは結晶格子の不完全性であり、これが外力によって移動することで巨視的な変形が生じます。この現象は特に金属材料において顕著に現れ、金属の延性や展性といった特性の源となっています。
塑性変形が始まる応力を降伏応力(降伏点)と呼び、この値は材料固有の特性として材料選定の重要な指標となります。降伏応力を超えると、応力とひずみの関係は直線的ではなくなり、加工硬化現象も生じるため、加工条件の設定に細心の注意が必要です。
工業的には、塑性変形は金属加工の基盤技術として活用されています。鍛造、圧延、引き抜き、プレス加工などの塑性加工は、この性質を巧みに利用した製造プロセスです。
応力-ひずみ曲線において、弾性変形領域は原点を通る直線として表現されます。この直線の傾きがヤング率(弾性係数)を表し、材料の剛性を示す重要なパラメータとなります。
参考)【3分で解説】弾性変形とは?塑性変形との違い、どれくらいの大…
弾性変形領域では、応力とひずみが完全に比例関係にあるため、任意の応力に対するひずみを正確に予測できます。この予測可能性こそが、構造設計や機械設計において弾性変形理論が広く活用される理由です。
材料によってヤング率は大きく異なります。
これらの数値は、同じ応力を加えた場合の変形のしやすさを表しており、用途に応じた材料選定の基準となります。
弾性変形の応力-ひずみ関係は、材料の微細組織にはほとんど依存せず、主に原子間結合力によって決定されます。このため、熱処理や加工履歴による影響を受けにくく、設計時の信頼性が高い特性といえます。
降伏点は弾性変形から塑性変形への移行点であり、材料工学における最も重要な特性値の一つです。この点を境に材料の挙動が劇的に変化するため、安全設計では降伏点に安全率を掛けた値を許容応力として設定します。
参考)許容応力の具体的な考え方とは?ー弾性変形と塑性変形ってなんだ…
降伏現象には明確な降伏点を示す材料(軟鋼など)と、徐々に降伏する材料(アルミニウム合金など)があります。後者の場合、0.2%耐力を実用的な降伏点として使用することが一般的です。
降伏点に影響する要因。
これらの要因を理解することで、実際の加工条件に適した材料選定や加工パラメータの最適化が可能となります。特に高温環境や動的負荷条件下での使用では、これらの影響を十分に考慮する必要があります。
弾性変形の可逆性を利用した工業製品は数多く存在し、我々の日常生活においても重要な役割を果たしています。
板ばね応用では、自動車のサスペンション、クリップ、洗濯ばさみなど、繰り返し変形に対する耐久性が要求される部品に活用されています。これらの製品では、弾性限界内での使用により長期間の機能維持が実現されています。
精密測定機器における弾性変形の利用も重要です。ロードセル、圧力センサー、ひずみゲージなどは、弾性変形量を電気信号に変換することで高精度な測定を可能としています。
機械要素としては、以下のような応用があります。
これらの応用では、材料の弾性限界を正確に把握し、安全率を考慮した設計が不可欠です。特に疲労破壊を避けるため、繰り返し応力に対する耐久限度の評価も重要となります。
産業界では、弾性変形特性を最大限に活用するため、表面処理技術(ショットピーニング、浸炭など)による残留応力制御も広く実施されています。