応力-ひずみ曲線は、材料に引張荷重を加えていく過程で得られる応力(σ)とひずみ(ε)の関係をグラフ化したものです。縦軸に応力、横軸にひずみを取り、材料試験機で試験片が破断するまでのデータをプロットして作成されます。この曲線はS-Sカーブとも呼ばれ、材料の機械的性質を総合的に把握する上で欠かせないツールとなっています。
参考)応力とひずみの関係
応力-ひずみ曲線から読み取れる情報は多岐にわたります。材料の硬さや柔らかさ(ヤング率)、降伏強度、最大強度、破断強度、さらに材料の変形性能(靭性)まで判断可能です。金属加工従事者にとって、これらの特性を正確に理解することは、適切な加工方法の選択や品質管理において極めて重要な要素となります。
参考)http://kentiku-kouzou.jp/koukouzou-ouryokuhizumikyokusen.html
実際の応力-ひずみ曲線では、荷重を加え始めた当初は直線的な線が描かれ、応力とひずみが比例していることを示します。この直線の勾配こそがヤング率Eを表しており、材料の弾性的な性質を数値化した指標です。
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/50010/
応力-ひずみ曲線において最も重要な転換点の一つが、弾性域から塑性域への移行点です。フックの法則が成り立つ弾性域では、応力を取り除くと材料は元の形状に完全に戻る性質を示します。しかし、ある限界を超えると材料は永久変形を起こし、完全には元に戻らない塑性域に入ります。
参考)応力ーひずみ曲線とは?応力とひずみの関係からわかることやグラ…
弾性限度は、荷重を取り去ると応力とひずみが初めの点に戻る性質を示す限度として定義されます。この弾性限度を超えると荷重を完全に取り除いても「残留ひずみ」が生じ、材料の形状変化が恒久的なものとなります。一方、比例限度は応力σとひずみεが比例関係を示す限度のことで、比例限または比例限界とも呼ばれています。
降伏点は材料が弾性領域から塑性領域に移行するときの強度を表し、特に鋼材では上降伏点と下降伏点が明確に現れます。上降伏点では比例限度を超えて応力度が下降し始めるピーク点が観測され、下降伏点では応力が反転する現象が確認できます。
参考)機械的性質
ヤング率の測定には、主に静的試験法、横振動法、超音波法の3種類が用いられています。静的試験法では、両端支持の板状試料に荷重をかけて生じるたわみを差動トランスで検出し、ヤング率を算出します。この方法は幅広い材料に適用可能で、測定原理も直感的に理解しやすい特徴があります。
参考)https://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~masako/exp/ewing/03sokutei/sokuteihou.htm
横振動法は動的測定法の一つで、薄板状試料片に周波数1kHz前後で電磁的に共鳴振動を生じさせ、共鳴振動数からヤング率を算出する手法です。この方法では、試料片の長さ、幅、厚さ、質量、および共振周波数から精密にヤング率を求めることができます。高温測定では300℃まで対応可能な装置も開発されており、実用的な測定範囲を提供しています。
参考)物理測定
超音波パルス法は、材料中を伝播する超音波の速度を利用してヤング率を非破壊的に測定する技術です。この手法は大型構造物や貴重なサンプルの評価に特に有効で、機械的試験法では困難な状況での測定を可能にします。
応力-ひずみ曲線からは、金属加工において重要な複数の機械的性質を定量的に評価できます。引張強さは応力の最大値として曲線上に現れ、材料の引張荷重に対する最大抵抗力を示します。例えば、鋼材の引張強さが400N/mm²の場合、一般構造用鋼材はSS400、溶接構造用鋼材はSM400として規格化されています。
参考)機械設計者なら知っておきたい金属の機械的性質 |パーソルクロ…
伸びは材料が破断時の長さから元の長さを引いた値を、元の長さで割って百分率で表した数値です。伸びの良い素材は塑性加工に適している一方、切削加工には不向きとされています。これは材料の変形特性が加工方法の選択に直接影響することを意味しており、金属加工従事者にとって極めて実用的な情報となります。
硬さは外からの力による変形に耐える抵抗力の大きさを示し、ブリネル、ビッカース、ロックウェル、ショアの4つの試験方法が規定されています。興味深いことに、硬さと引張強さは比例関係にあり、引張強さが大きく、硬さが小さい(軟らかい)材料が良好な特性を示すとされています。
金属材料の応力-ひずみ曲線には、単純な弾性・塑性変形以外にも注目すべき特殊現象が存在します。降伏棚は下降伏点の応力度を保ったままひずみのみ増加する領域で、俗に「踊り場」とも呼ばれています。この現象は特に軟鋼において顕著に現れ、材料の変形メカニズムを理解する上で重要な手がかりとなります。
ネッキング現象は引張強さに達した後、試験片にくびれが生じ始める現象です。この段階では応力が減少に転じ、最終的に破断に至ります。ネッキングの発生は材料の延性を示す重要な指標であり、加工限界を判断する際の基準として活用されています。
レーザー誘起衝撃波を利用したレーザーピーニング技術では、金属表面に圧縮残留応力層を形成し、疲労強度を向上させる効果が確認されています。この技術は従来のショットピーニングの問題点を補完する形で発展しており、金属の機械的性質を改善する新たなアプローチとして注目されています。興味深いことに、レーザーピーニングによって材料の降伏点や弾性限界が変化し、応力-ひずみ曲線の形状にも影響を与えることが報告されています。
参考)レーザー誘起衝撃波による金属の表層加工