ショア硬さの試験と金属硬度測定
ショア硬さの試験の基本
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動的硬さ試験
ショア硬さは反発係数を利用した試験法で、圧子の押し込みではなくハンマーの跳ね返りで硬さを測定します
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非破壊測定
測定物に傷がつかないため、仕上がり品や材料をそのまま試験することが可能です
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現場での活用
電源不要で大型構造物の測定にも適しており、鉄道レールなどの硬さ測定に利用されています
ショア硬さの試験原理とダイヤモンドハンマーの反発測定
ショア硬さ試験は、材料の硬さを測定するための動的硬さ試験法の一つです。この方法では、ダイヤモンドの先端を持つハンマーを試験片に対して一定の高さから落下させ、その跳ね返りの高さを測定することで硬さを判定します。材料が硬いほど弾性が高く、落下させたハンマーの反発も大きくなるという物理的原理に基づいています。
ショア硬さ(HS)は、次の式で表されることが一般的です。
HS=(10000/65) × (h/ho)
ここで、hoは初期の落下高さ、hは跳ね返りの高さを示します。この計算式からわかるように、跳ね返りの高さが初期の落下高さに近いほど、材料の硬さは高いということになります。
試験装置は比較的単純な構造で、主にダイヤモンドチップを備えたハンマー、落下機構、跳ね返り高さを測定するスケールから構成されています。測定時には試験片を水平に設置し、表面の平坦さを確保することが重要です。表面の粗さや傾きは測定結果に大きく影響するため、可能な限り平滑な面で測定を行うべきです。
ダイヤモンドハンマーが使用される理由は、ダイヤモンドが非常に硬く、測定対象の材料よりも硬度が高いことが保証されるためです。これにより、測定中にハンマー自体が変形することなく、材料の硬さのみを正確に測定することができます。
ショア硬さの測定方法と硬度計の特徴
ショア硬さを測定するための硬度計は、主にポータブルタイプとスタンド設置タイプの2種類があります。ポータブルタイプは現場での迅速な測定に適しており、スタンド設置タイプは実験室などでより精密な測定が必要な場合に使用されます。
測定手順は以下のとおりです。
- 測定面の清掃と準備:表面の汚れや油分を除去し、できるだけ平滑な状態にします。
- 硬度計の設置:ポータブルタイプの場合は垂直に保持し、スタンドタイプの場合は水平に調整します。
- 測定の実施:ハンマーを落下させ、跳ね返りの高さを読み取ります。
- 複数回の測定:同一箇所または近接した複数箇所で測定を繰り返し、平均値を算出します。
- 結果の記録と評価:測定値を記録し、必要に応じて材料規格との照合を行います。
ショア硬さ計の特徴として、以下の点が挙げられます。
- 携帯性:小型で持ち運びが容易なため、現場での測定に適しています。
- 非破壊性:測定対象に大きな傷を付けないため、完成品でも測定可能です。
- 速効性:測定が迅速に行えるため、多数のサンプルを短時間で評価できます。
- 電源不要:多くのモデルは機械式で電源が不要なため、どこでも使用できます。
- シンプルな操作:特別な技術訓練がなくても比較的容易に操作できます。
測定精度を向上させるためには、以下の点に注意することが重要です。
- 測定面の平坦さ確保
- 試験片の十分な質量と厚み(薄すぎる場合は適切な台に固定)
- 周囲の振動の排除
- 温度条件の管理(標準は23±2℃)
- 定期的な校正による精度維持
また、測定値のばらつきを小さくするために、同一箇所で複数回測定して平均値を採用することが推奨されています。ISO 7619-1では少なくとも5回の測定が推奨されており、その中央値を硬さ値として採用することが多いです。
ショア硬さの試験における金属材料の適合性
ショア硬さ試験は、様々な硬さ試験法の中でも特に金属材料の現場測定に適しています。しかし、すべての金属に対して同等の精度で適用できるわけではありません。材料の特性によって測定の適合性が異なります。
ショア硬さ試験に適した金属材料。
- 中~高硬度の鋼材:焼入れされた鋼や工具鋼など硬度の高い材料
- 大型の鋳造品や鍛造品:質量が十分あり反発を適切に測定できる部品
- 厚肉の金属部品:裏当てが不要で正確な反発測定が可能な厚みのある部品
- 表面処理された金属:浸炭処理や高周波焼入れなどで表面硬化した部品
一方、以下のような場合はショア硬さ試験の適合性が低く、他の硬さ試験法を検討すべきです。
- 非常に軟らかい金属(純アルミニウムなど):反発が小さすぎて精度が低下
- 薄板材料:裏面の支持条件によって測定値が大きく変動
- 多孔質の金属材料:反発の一貫性が得られにくい
- 不均質な内部構造を持つ材料:測定位置によってばらつきが大きい
金属の熱処理状態とショア硬さの関係も重要です。一般的に、焼入れによって硬化した材料はショア硬さも高い値を示します。焼戻し温度が上がるにつれてショア硬さは低下する傾向があります。このため、熱処理工程の品質管理にもショア硬さ試験が活用されることがあります。
測定精度を向上させるためには、材料の表面状態にも注意が必要です。理想的には表面粗さRa 3.2μm以下の平滑な仕上げが望ましいですが、現場での簡易測定の場合は研磨紙やポータブル研磨器具で測定面を調整することも一般的です。
ショア硬さの試験と他の硬さ試験との比較
硬さ試験には様々な方法があり、それぞれに特徴があります。ショア硬さ試験を他の主要な硬さ試験法と比較してみましょう。
- ロックウェル硬さ試験との比較。
- ロックウェル法:圧子を試験片に押し付け、圧痕の深さで硬さを測定
- 特徴:広い硬さ範囲で測定可能、操作が簡単、圧痕が小さい
- ショア法との違い:ロックウェルは静的押込み試験、ショアは動的反発試験
- 使い分け:精密部品の硬さ測定にはロックウェル、現場での簡易測定にはショア
- ビッカース硬さ試験との比較。
- ビッカース法:ダイヤモンド製の四角錐圧子による圧痕の表面積から硬さを測定
- 特徴:精密な測定が可能、微小領域の測定に適する、研磨面が必要
- ショア法との違い:ビッカースは微小領域の測定に適し、ショアはマクロ的な硬さの評価に適する
- 使い分け:材料の微視的構造評価にはビッカース、現場での迅速な硬さチェックにはショア
- ブリネル硬さ試験との比較。
- ブリネル法:球形圧子を押し付け、圧痕の表面積から硬さを測定
- 特徴:不均質な材料の平均的硬さ評価に適する、大きな圧痕を形成
- ショア法との違い:ブリネルは大きな圧痕を残すが平均的な硬さを評価でき、ショアは非破壊的で瞬時に測定可能
- 使い分け:鋳造品や鍛造品の全体的硬さ評価にはブリネル、製品の現場検査にはショア
以下の表は各硬さ試験法の特性を比較したものです。
試験方法 |
測定原理 |
圧痕サイズ |
非破壊性 |
精度 |
適用材料 |
ショア |
反発高さ |
なし/微小 |
高い |
中程度 |
広範囲(現場向き) |
ロックウェル |
圧痕深さ |
小 |
中程度 |
高い |
中~高硬度金属 |
ビッカース |
圧痕面積 |
極小~小 |
低い |
非常に高い |
広範囲(精密測定) |
ブリネル |
圧痕面積 |
大 |
低い |
高い |
中~低硬度金属、不均質材料 |
ショア硬さ試験の最大の利点は、測定の迅速さと非破壊性にあります。製品の品質検査や現場での確認作業に適していますが、高精度な硬さデータが必要な場合は、実験室環境でのロックウェルやビッカース試験を検討すべきです。
ショア硬さの試験データ活用とトラブルシューティング
ショア硬さ試験で得られたデータは、単なる数値以上の価値を持っています。これらのデータを効果的に活用することで、製造プロセスの管理や品質保証に役立てることができます。
まず、ショア硬さデータの活用方法について考えてみましょう。
- 熱処理の品質管理。
- 同一バッチの熱処理品のショア硬さを測定し、ばらつきを評価
- 熱処理条件とショア硬さの相関関係を把握し、最適な処理条件を特定
- 定期的な測定によるプロセス安定性の監視
- 材料の経年変化監視。
- 使用環境下での硬さ変化を定期的に測定し、材料劣化の早期発見に活用
- 特に高温環境や振動環境での使用部品の健全性評価に有効
- 迅速な受入検査。
- 納入された材料や部品の硬さを短時間で検証
- 規格外の製品を早期に発見し、不良品の混入を防止
- 現場でのトラブル調査。
- 故障部品の硬さ分布を調査し、異常な硬さ変化がないか確認
- 想定外の硬さ変化があれば、原因究明の手がかりとして活用
しかし、ショア硬さ試験には特有の問題点やトラブルも存在します。以下にその対処法を示します。
【よくある問題点とトラブルシューティング】
- 測定値のばらつきが大きい。
- 原因:表面状態の不均一、装置の保持方法が不安定、試験片の固定が不十分
- 対策:表面を適切に研磨する、測定点を増やして平均値を採用する、試験片を安定した台に固定する
- 硬度計の指示値が安定しない。
- 原因:機械部分の摩耗や損傷、ダイヤモンド先端の摩耗、スケールの汚れ
- 対策:定期的な校正と点検、ダイヤモンド先端の状態確認、清掃の徹底
- 基準試験片との値が大きく異なる。
- 原因:校正ずれ、装置の損傷、使用環境の影響
- 対策:認証された基準片を用いた再校正、必要に応じて修理や部品交換
- 測定場所によって値が大きく変動する。
- 原因:材料の不均一性、内部欠陥の存在、表面処理のムラ
- 対策:複数箇所の測定と統計的評価、他の非破壊検査法との併用
【測定精度向上のためのヒント】
- 測定前に試験片を標準温度(23±2℃)に十分馴染ませる
- 振動の少ない安定した場所で測定を行う
- 測定面に対して硬度計を垂直に保持する
- 同一材料の基準試験片を用いて測定値の妥当性を確認する
- 定期的(少なくとも年1回)に専門機関での校正を実施する
ショア硬さ試験は、適切な条件と正しい手法で行えば、現場での材料評価に非常に有用なツールとなります。しかし、その限界と特性を理解した上で、必要に応じて他の硬さ試験法と組み合わせることで、より信頼性の高い材料評価が可能になります。
金属加工の現場では、材料の硬さ特性を正確に把握することが高品質な製品製造の基盤となります。ショア硬さ試験は、その迅速性と非破壊性から、工程管理や品質保証の有力なツールとして今後も広く活用されていくでしょう。