ブリネル硬さ一覧と測定原理の完全解説

ブリネル硬さ試験の基本から応用まで、様々な材料の硬さ値一覧とともに解説します。金属加工の品質管理に最適な硬さ試験はどれでしょうか?

ブリネル硬さと測定方法の一覧

ブリネル硬さと測定方法の一覧

ブリネル硬さの基礎知識
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測定原理

球状圧子を一定荷重で押し込み、できた圧痕の大きさから硬さを算出

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表記方法

例:200 HBS 10/3000(硬さ値200、鋼球10mm、試験力3000kgf)

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適用範囲

鋳物や鍛造品など不均質な材料の平均的硬さ評価に最適

ブリネル硬さの基本原理と歴史的背景

 

ブリネル硬さ(Brinell hardness)は、工業材料の硬さを表す重要な尺度の一つであり、押込み硬さの一種です。この試験法は1900年にスウェーデンの工学者ヨハン・ブリネル(Johan August Brinell)によって考案されました。当時の製鉄業界では、鋼の品質を均一に保つため、信頼性の高い硬さ測定法が求められていました。

 

ブリネル硬さの基本原理はシンプルです。硬化鋼または超硬合金でできた球状の圧子を、一定の荷重で材料表面に押し込み、その結果生じる永久的な圧痕(くぼみ)の大きさから硬さを算出します。この方法の最大の特徴は、比較的大きな圧痕(最大で5mm程度)を生じさせることによって、材料の平均的な硬さを評価できる点にあります。

 

ブリネル硬さは記号「HB」で表され、「Brinell hardness number(BHN)」とも呼ばれますが、HBの方が一般的です。値そのものに単位はありません。より詳細に表記する場合は、圧子の種類によってHB(鉄)・HBS(鋼)・HBW(超硬合金)と表記し、その後に球の直径(mm単位)と荷重(kgf単位)を記述します。例えば「200 HBS 10/3000」は「直径10mmの鋼球で3000kgfの圧力を加えたときの硬さ値が200」を意味します。

 

国際標準化機構では ISO 6506で、日本工業規格ではJIS Z 2243でブリネル硬さ試験が定義されており、標準化された測定が行われています。

 

ブリネル硬さ測定の方法と計算式

 

ブリネル硬さの測定は専用の試験機を用いて行います。測定の基本的な手順は以下の通りです。

  1. 試験片の表面を平滑に研磨・準備します
  2. 材料に適した圧子と試験力を選択します
  3. 圧子を試験面に対して垂直に配置します
  4. 規定の試験力を一定時間(通常30秒)加えます
  5. 荷重を除去した後、残った圧痕の直径を測定します
  6. 測定した直径から硬さ値を計算します

ブリネル硬さ(HB)の計算式は次のようになります。
荷重P(kgf)を算出した表面積S(mm²)で割った値(荷重÷面積)がブリネル硬さです。圧子が球面形状のため、圧痕はお椀のような形状となり、圧子の球面の直径と圧痕円の直径を用いて面圧を計算します。

 

世界的に広く行われている標準的な測定条件は以下の通りです。

  • 荷重P = 3000 kgf = 29400 N
  • 球の直径D = 10 mm
  • 圧子の材質:熱処理した鋼(鋼球より硬いものを測定する際は超硬合金)
  • 加圧時間:30秒

圧子のサイズは実際には1mm、2.5mm、5mm、10mmが用意されており、材料の種類や厚さに応じて適切なものを選びます。測定時の注意点としては、試験片の裏面に変形が生じないよう十分な厚さが必要です。また、圧痕の縁がはっきりと見えるよう、表面状態の良い試験片を準備することが重要です。

 

鋼球を使用した場合、HB = 450前後で圧子自体が変形してしまうため、それ以上の硬さを測定する際はより硬い超硬合金の球を使用する必要があります。

 

ブリネル硬さ一覧表と材料別の特性

 

金属加工に携わる専門家にとって、様々な材料のブリネル硬さ値を把握しておくことは非常に重要です。以下に、代表的な材料とそのブリネル硬さ値の一覧を示します。
【非金属材料】

  • 木材(針葉樹材):1.6 HBS 10/100
  • 木材(堅木):2.6〜7.0 HBS 10/100
  • ガラス:1550 HB

非鉄金属

【鉄鋼材料】

【超硬材料】

これらの値は一般的な参考値であり、実際の値は合金組成、熱処理条件、加工履歴などによって変動します。また、測定条件(荷重、圧子径)によっても値が異なる場合があるため、正確な仕様が必要な場合は、統一された条件での測定値を使用することが重要です。

 

材料の硬さは、その材料の機械的性質を示す重要な指標の一つです。例えば、工具材料では高い硬さが要求される一方、加工性を重視する場合には適度な硬さが求められます。金属材料に強度と靭性をもたせる場合には、内部(芯部)硬さは低くしつつ、表面硬度を浸炭・焼き入れなどにより高くすることが一般的です。

 

ブリネル硬さと他の硬さ試験法の比較

 

金属材料の硬さ測定には、ブリネル硬さ以外にも様々な試験法があります。それぞれの特徴を理解し、用途に応じて適切な試験法を選択することが重要です。

 

ビッカース硬さ(HV)】

  • 圧子:ダイヤモンド製の正四角錐形状
  • 特徴:圧痕の対角線長さから硬さを算出、逆ピラミッド形状の圧痕が生じる
  • 試験力範囲:1〜50kgf程度(マイクロビッカースは1kgf以下)
  • 適用範囲:表面硬化層の評価、微小領域の硬さ測定
  • 表記例:670HV1(試験荷重1kgfでのビッカース硬さ値670)

ロックウェル硬さ(HR)】

  • 圧子:ダイヤモンドまたは鋼球(スケールによって異なる)
  • 特徴:圧子の食い込み深さから硬さを算出、測定が迅速
  • スケール:Cスケール(HRC)など、材料に応じて使い分け
  • 適用範囲:熱処理鋼などの硬い材料(HRC)や軟らかい材料(HRB)

ショア硬さ(HS)】

  • 測定原理:圧子を試料に衝突させ、その反発高さから硬さを算出
  • 特徴:持ち運び可能な小型装置で現場測定に適する
  • 制約:試料は重量物で表面が平面であることが必要
  • 表記:HS(ショア硬さ)

【ブリネル硬さ(HB)との比較】
ブリネル硬さ試験は、他の試験法と比較して以下のような特徴があります。

  1. 圧痕が大きい(最大約5mm)ため、材料の平均的な硬さを評価できる
  2. 鋳物や鍛造品など不均質な粒子構造を持つ材料に適している
  3. 測定値の信頼性が高く、広範囲の材料に適用可能
  4. 鋳造品、鍛造品、熱処理品などの金属材料の評価に広く利用される
  5. 比較的大きな圧痕を残すため、表面が粗く不均質な大型試料に適している
  6. くぼみの周囲が不明瞭になる場合があり、測定に時間がかかることがある

硬さ試験法の選択ポイント。

  • 均質な材料の表面硬さ分布を調べる場合:ビッカース硬さ試験
  • 生産ラインでの迅速な品質管理:ロックウェル硬さ試験
  • 不均質な大型材料の平均的硬さ:ブリネル硬さ試験
  • 現場での簡易測定:ショア硬さ試験

ブリネル硬さ試験機の種類と最新技術動向

 

ブリネル硬さ試験は古典的な方法ですが、現代の製造業においても重要な役割を果たしています。試験機の種類と最新技術動向について見ていきましょう。

 

【試験機の種類】
現在市場で入手可能なブリネル硬さ試験機には、以下のようなタイプがあります。

  1. デジタル表示式ブリネル硬さ試験機
    • 特徴:測定値をデジタル表示、データの記録・管理が容易
    • 適用:研究室や品質管理部門での精密測定
  2. ポータブルブリネル硬さ計
    • 特徴:持ち運び可能で現場測定に適する
    • 適用:大型構造物や設置済み設備の硬さ測定
  3. 自動画像解析式ブリネル硬さ試験機
    • 特徴:圧痕の直径を光学的に自動測定、人為的誤差を低減
    • 適用:大量の試験片を扱う生産ラインでの品質管理
  4. 多機能硬さ試験機
    • 特徴:ブリネルだけでなくビッカース、ロックウェルなど複数の硬さ試験が可能
    • 適用:様々な材料を扱う研究開発部門や総合的な品質検査

試験力範囲による分類例。

  • デュラミン-40:試験力範囲 10 gf 〜 62.5 kgf(微小〜マクロ硬さ測定用)
  • デュラミン-100:試験力範囲 10 gf 〜 250 kgf(ユニバーサル硬さ試験機)
  • デュラミン-600:試験力範囲 5 〜 3000 kgf(大型材料用)

【最新技術動向】

  1. 自動測定システムの進化

    デジタル画像処理技術とAIを活用した画像認識により、圧痕の直径測定が高精度化しています。これにより測定の客観性が向上し、オペレーターによる測定誤差が低減されています。

     

  2. IoT対応と遠隔モニタリング

    最新の試験機はネットワーク接続機能を備え、測定データのリアルタイム共有や遠隔でのモニタリングが可能になっています。これにより、生産現場と品質管理部門の連携がスムーズになり、迅速な品質判断が可能です。

     

  3. 非破壊的評価手法との組み合わせ

    超音波や電磁気的手法を用いた非破壊検査と、ブリネル硬さの相関関係を利用した新しい評価方法も研究されています。これにより、製品を破壊することなく内部の硬さ分布を推定する技術が発展しています。

     

  4. シミュレーション技術との連携

    CAEシミュレーションと実際のブリネル硬さ測定結果を組み合わせることで、製品の設計段階から硬さ分布を予測し、最適な生産条件を導き出す取り組みも進んでいます。

     

  5. 微小荷重での精密測定

    従来のブリネル硬さ試験では大きな荷重を用いますが、微小な部品の測定に対応するため、より小さな荷重と圧子を用いた測定技術も発展しています。

     

ブリネル硬さ試験の表示例としては「350HBW10/3000」のように表記され、これは「硬さ値350、超硬合金球圧子直径10mm、試験力29.42kN(3,000kgf)」を意味します。日本では試験方法はJIS Z 2243、試験機はJIS B 7724、基準片はJIS B7736で規格化されています。

 

これらの技術進歩により、シンプルな原理に基づいた従来のブリネル硬さ試験は、最新のデジタル技術と組み合わさることで、現代の製造業においても不可欠な品質評価手法として進化を続けています。金属加工業に携わる技術者は、こうした動向を把握し、適切に活用することで品質管理の効率化と高精度化を実現できるでしょう。