断面収縮率とは何か|絞り・計算・引張試験の基本を解説

断面収縮率(絞り)とは何か、引張試験での求め方から計算式、伸びとの違い、材料選定での活用まで徹底解説。高強度材料ほど値が低くなる理由や冷間鍛造への影響も知っていますか?

断面収縮率とは|絞り・計算・材料評価の基本知識

引張強さが高い材料ほど断面収縮率は低くなり、深絞り加工で割れやすくなります。


この記事でわかること
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断面収縮率(絞り)の定義と計算式

引張試験で破断後の断面積がどれだけ減少したかを百分率で表す指標。φ=(A0−A)/A0×100(%)で求められる延性の評価値です。

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伸びとの違いと材料選定での使い分け

伸びは長さ方向の変化、断面収縮率は径方向の変化を見ます。深絞り加工や冷間鍛造では断面収縮率が材料選定の重要な判断基準になります。

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強度と断面収縮率のトレードオフ

引張強さが高い高強度材料ほど断面収縮率が低下する傾向があります。材料の強度と加工性のバランスを理解することで、加工不良を未然に防げます。


断面収縮率とは|定義と「絞り」という別名の意味

断面収縮率とは、引張試験において試験片が破断するまでに、その断面積がどれだけ減少したかを数値化した指標です。金属材料の「ねばさ(延性)」を定量的に評価するための重要なパラメータとして位置づけられています。


別名「絞り(しぼり)」とも呼ばれ、JIS Z 2241「金属材料引張試験方法」にも正式に規定されています。記号はφ(ファイ)で表されることが多く、単位は百分率(%)です。


計算式は以下のとおりです。


$$\phi = \frac{A_0 - A}{A_0} \times 100 \; \ %]$$


ここで、A₀は引張試験前の原断面積(mm²)、Aは破断後の最小断面積(mm²)です。破断後の試験片を突き合わせて、くびれた部分(最も細くなった箇所)の断面積を測定します。これが原断面積に対してどれほど小さくなったかが断面収縮率です。


たとえば、直径10mmの丸棒試験片(原断面積≒78.5 mm²)が破断後に最小径6mmになった(断面積≒28.3 mm²)とすると、断面収縮率は約64%になります。つまり、元の断面積のおよそ3分の2近くが潰れ、くびれた状態で破断したことを意味します。断面収縮率が高いということですね。


「絞り」という別名は、このくびれた(絞られた)外観から来ています。視覚的にもイメージしやすい名称です。


なお、数値は整数で表記するのが一般的で、端数は四捨五入します。測定は必ず「円形断面の試験片」を用いることがJIS規格上の条件となっています。これは原則です。


滋賀県工業技術総合センター|金属材料の引張試験の基礎(絞りの計算方法・JIS規格の詳細を収録)


断面収縮率の計算方法と引張試験での求め方

断面収縮率を実際に求めるには、引張試験の手順を正しく理解しておく必要があります。試験はJIS Z 2241に準拠した万能試験機を使用し、試験片はJIS Z 2201に規定された形状のものを使います。


試験の流れは以下のとおりです。










手順 内容
①原断面積(A₀)の測定 標点間の両端と中央部3か所の断面積を測定し平均値を算出する
②試験機にセット 軸方向だけに力が加わるようにつかみ装置で固定する
③引張り・破断 所定の速度で引張り、試験片が破断するまで荷重を加え続ける
④最小断面積(A)の測定 破断片を突き合わせ、くびれ部(最も細い部分)の断面積を測定する
⑤計算 φ=(A₀−A)/ A₀×100で断面収縮率を算出する


実際の現場では、破断後の試験片を2つに割れた状態で正確に突き合わせる作業が求められます。これが測定誤差につながりやすいポイントです。突き合わせが不正確だと最小断面積の値がずれるため、測定精度が断面収縮率の信頼性を左右します。


計算自体はシンプルです。たとえばA₀=50.26 mm²(直径8mm)、A=19.63 mm²(直径5mm)のとき、断面収縮率は次のようになります。


$$\phi = \frac{50.26 - 19.63}{50.26} \times 100 \approx 61 \; \ %]$$


61%という数値は、軟鋼SS400など)の典型的な断面収縮率に近い水準です。この数値の大小が、材料の延性・加工性の評価に直結します。大きいほど延性が高い、というのが基本です。


注意点として、試験片の形状は「円形断面」が前提です。板状試験片では断面収縮率の測定が難しいため、4号試験片・10号試験片など丸棒タイプの試験片が多く用いられます。板材の場合は伸びを主な延性評価指標とするケースが一般的です。


断面収縮率と伸びの違い|それぞれの役割と使い分け

断面収縮率と並んでよく登場するのが「伸び(破断伸び)」です。どちらも延性の指標ですが、測定対象が異なります。この2つを混同すると、材料評価を誤る原因になります。







指標 測定対象 計算式 主な用途
断面収縮率(絞り) 破断部の断面積の変化 φ=(A₀−A)/ A₀×100 局部変形能の評価(冷間鍛造・深絞り)
破断伸び 標点間距離の伸び δ=(l−l₀)/ l₀×100 一様変形能の評価(プレス加工・曲げ加工)


端的に言うと、伸びは「材料が均一に伸びる能力」、断面収縮率は「材料が局所的に大きく変形しながら破断に至る能力」を示します。


深絞り加工では、素材金型ダイス内に引き込まれる際に局部的な収縮が起きます。このような加工では、断面収縮率が高い材料ほど加工割れが起きにくいとされています。一方、曲げ加工やプレス成形では均一な変形が求められるため、伸びの値が設計上の判断材料になります。


加工硬化した材料や熱処理後の焼入れ材では、引張強さが上がる反面、断面収縮率は低下する傾向があります。これは反比例の関係です。一般的に強度と延性はトレードオフの関係にあり、高強度材料ほど断面収縮率は小さくなります。


逆に、焼なましアニール)処理によって軟化させた材料は、引張強さが下がる一方で断面収縮率は高くなる傾向があります。深絞りや冷間鍛造など大きな塑性変形を伴う加工の前に焼なまし処理を行うのは、この延性を高めるためです。つまり加工の前処理が鍵です。


冷間鍛造の分野では、断面収縮率が材料の変形能を評価する重要な指標とされており、鍛造素材の受け入れ検査でもこの値が確認されます。変形能の評価に断面収縮率を使う場面は多いです。


溶接情報センター|材料の静的強度(破断伸び・断面収縮率の計算式と説明を収録)


断面収縮率の代表的な数値と材料別の目安

断面収縮率の値は材料によって大きく異なります。現場での材料選定や受け入れ検査での合否判定に活用するため、代表的な金属材料の目安を把握しておくことが重要です。


以下に代表的な鋼材の断面収縮率の目安を示します。









材料 引張強さの目安 断面収縮率の目安 特徴
SS400(一般構造用圧延鋼) 400〜510 MPa 約50〜65% 柔らかく延性が高い。プレス・溶接用途に多用
S45C(機械構造用炭素鋼 570〜700 MPa 約45〜60% 熱処理で強度調整可能。機械部品に使用
SCM440(クロムモリブデン鋼)調質材 980 MPa以上 約40〜50% 高強度・高靭性。強度は高いが延性は低下
SUS304(オーステナイトステンレス 520 MPa以上 約50〜70% 耐食性に優れ延性も比較的高い


注目したいのはSCM440のような高強度の調質材です。引張強さが980 MPaを超える水準になると、断面収縮率は40〜50%程度まで低下します。一方でSS400のような軟鋼では50〜65%前後と高い水準を保っています。


比較するとその差は歴然です。引張強さが2倍以上になっても、断面収縮率は大きく下がるため、高強度材料を使ったプレス加工や冷間鍛造では特別な設計上の配慮が必要になります。


実際の現場では、JIS規格で材料ごとの最低限の断面収縮率が規定されていることもあります。たとえばSCM440の場合、JIS G4053では引張強さ980 N/mm²以上、伸び12%以上、硬さ285〜352 HBWと規定されており、断面収縮率も合わせて材質確認の指標として活用されます。これは必須の確認事項です。


なお、断面収縮率の測定値は熱処理条件の影響を強く受けます。同じS45Cでも焼入れ・焼戻し後(調質材)と焼なまし材では断面収縮率に10ポイント以上の差が出ることもあります。ミルシートを受け取った際には、試験値として記載されている断面収縮率の値と熱処理状態を必ずセットで確認することが重要です。


阪神メタリックス|SCM440の機械的性質(引張強さ・伸び・硬さの規格値を掲載)


断面収縮率が現場の加工判断に与える影響|深絞り・冷間鍛造との関係

断面収縮率は単なる数値評価だけでなく、実際の加工現場における材料選定や不良対策に直結する指標です。特に影響が大きいのが深絞り加工と冷間鍛造の2つです。


深絞り加工における断面収縮率の役割


深絞り加工では、ブランク材が金型のダイス内に引き込まれる際に、素材が局部的に引張応力を受けながら大きく塑性変形します。この変形に耐えられるかどうかの指標が断面収縮率です。


断面収縮率が低い材料(たとえば調質鋼や高強度鋼板)では、変形の限界が低く、底部や肩部で割れが発生しやすくなります。一般的に高強度鋼板は深絞り成形をできる限り低減し、張出し成形に置換するよう設計がなされる理由がここにあります。現場で割れが多発するということですね。


一方、SS400や焼なまし後のS45Cのように断面収縮率が高い材料は、大きな絞り深さにも対応できます。成形性が良くなるということです。


冷間鍛造における断面収縮率の役割


冷間鍛造の分野では、断面収縮率が材料の変形能を評価する重要な指標として位置づけられています。鍛造素材の受け入れ検査においても、変形抵抗と合わせてこの値が確認されます。


冷間鍛造に適した材料には、高い断面収縮率が求められます。変形量の大きい工程(すえ込みや押出しなど)では、素材が局部的に大きく変形するため、延性の低い材料を使うと金型破損や製品割れのリスクが高まります。


冷間鍛造素材として使われるSPCE(冷間圧延鋼板)やSPCC系材料の断面収縮率は60%以上と高い水準を持ち、優れた冷間鍛造性の要因の一つとなっています。


実務での確認ポイント


加工現場での割れや不良をぐために、材料受け入れ時に断面収縮率の数値(ミルシートに記載)を確認しておくことは非常に有効です。特に以下の点に注意してください。


- 熱処理状態(焼なまし・調質など)と断面収縮率はセットで把握する
- 高強度化のための熱処理後は断面収縮率が大幅に低下することを前提に設計する
- 深絞りや冷間鍛造で加工割れが続く場合は、断面収縮率の低下が原因の一つである可能性を疑う


引張強さだけで材料を選ぶのは危険です。加工割れリスクを減らすには断面収縮率を含めた延性指標の確認が欠かせません。引張強さと延性のバランスに注意が必要です。


ねじ締結技術ナビ|機械的性質について(引張試験・降伏点・延性指標の解説)