成型加工の種類と原理、金型技術の進化とCAE解析の重要性

成型加工にはどのような種類があり、それぞれどんな原理で加工されているかご存知ですか?この記事では、鍛造やプレス加工といった主要な加工方法から、金型設計を革新するCAE解析、さらには最新技術との融合まで、成型加工の奥深い世界を徹底解説します。あなたの知らない成型加工の秘密がここにあるかもしれません。

成型加工の基礎知識と応用技術

この記事でわかること
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主要な成型加工法

塑性加工、鋳造、鍛造など、代表的な成型加工の種類とそれぞれの原理や特徴を網羅的に理解できます。

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加工法の比較

特に混同されがちなプレス加工と鍛造加工の違いを、材料、工程、製品特性の観点から明確に比較し解説します。

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最新技術の動向

金型設計の精度を飛躍的に向上させるCAE解析の役割や、アディティブマニュファクチャリングとの融合といった未来の技術動向を学べます。

成型加工の塑性加工、鋳造、鍛造など主要な種類と特徴

 

成型加工は、材料に熱や圧力を加えて特定の形状を作り出す技術の総称です。製品の材質や形状、求められる特性に応じて様々な方法が用いられますが、ここでは代表的な「塑性加工」「鋳造」「鍛造」を中心に、その原理と特徴を掘り下げていきます。
塑性加工(そせいかこう)
塑性加工は、材料が破壊されない範囲で力を加え、変形させて目的の形状にする加工方法です。 金属が持つ「力を加えると変形し、力を取り除いても元に戻らない」という性質を利用しています。塑性加工は、材料のロスが少なく、加工スピードが速いというメリットがあります。代表的なものに、後述するプレス加工や鍛造があります。

  • メリット: 材料の歩留まりが高い、大量生産に向いている、加工硬化により強度が増すことがある。
  • デメリット: 複雑な形状の加工には限界がある、金型などの初期投資が必要。

鋳造(ちゅうぞう)
鋳造は、金属を融点よりも高い温度で溶かし、液体状にしたものを鋳型(いがた)に流し込み、冷やし固めることで製品を作る方法です。 複雑な形状や中空構造の製品を作るのに適しており、大きな製品の製造も可能です。身近な例では、自動車のエンジンブロックやマンホールの蓋などが鋳造で作られています。

  • メリット: 複雑な形状の製品を一体で製造できる、大型製品の製造が可能、使える金属材料の種類が多い。
  • デメリット: 内部に「巣」と呼ばれる空洞ができることがある、精度は他の加工法に劣る場合がある、冷却に時間がかかるため生産性は高くない。

鍛造(たんぞう)
鍛造は、金属をハンマーやプレス機で叩いたり、圧力をかけたりして成形する方法です。 金属の結晶組織を叩くことで緻密にし、強度を高めることができるのが最大の特徴です。「刀鍛冶」が鉄を叩いて日本刀を作るのが、まさに鍛造のイメージです。鍛造は、材料の温度によって「熱間鍛造」と「冷間鍛造」に分けられます。

  • 熱間鍛造: 材料を再結晶温度以上に加熱して加工する方法。比較的小さな力で大きく変形させられるため、複雑な形状の製品に向いています。
  • 冷間鍛造: 材料を常温のまま加工する方法。寸法精度が高く、表面が滑らかに仕上がりますが、大きな力が必要で、加工硬化が起こりやすいです。

これらの加工法は、それぞれに一長一短があり、製品に求められる強度、精度、コスト、生産数などを総合的に考慮して、最適な方法が選択されます。


参考リンク:各種機械加工の種類や工作機械について、以下のサイトで図解されており、基礎知識の習得に役立ちます。
機械加工の基礎知識|加工方法や工作機械の種類を解説

成型加工におけるプレス加工と鍛造の根本的な違い

成型加工の中でも、プレス加工と鍛造は、どちらも金属に圧力をかけて成形するという点で似ていますが、その原理と目的には明確な違いがあります。この違いを理解することは、適切な加工法を選定する上で非常に重要です。
最も根本的な違いは、加工対象となる材料の厚みです。

  • プレス加工: 主に「ブランク」と呼ばれる薄い金属板(板金)を材料とします。 金型で挟み込み、圧力をかけることで、板を曲げたり、打ち抜いたり、絞ったりして立体的な形状を作り出します。イメージとしては、紙を折り曲げて箱を作るのに近いです。製品の厚みは、基本的に元の板厚とほとんど変わりません。
  • 鍛造: 主に「ビレット」と呼ばれる厚い金属の塊を材料とします。 ハンマーやプレス機で叩き潰すように大きな圧力を加え、材料を金型の隅々まで充満させて成形します。この過程で、材料の内部組織が緻密になり、強度が大幅に向上します。

この材料の違いから、加工方法や製品特性にも下記のような差が生まれます。
【プレス加工と鍛造の比較表】

項目 プレス加工 鍛造
主な材料 薄い金属板(ブランク) 厚い金属の塊(ビレット)
加工の目的 形状の成形(曲げ、抜き、絞り) 形状の成形 + 強度の向上
加工温度 主に常温(冷間) 常温(冷間)または高温(熱間)
製品の強度 材料強度に依存 加工により強度が向上する(鍛流線が形成される)
寸法精度 比較的高い 熱間鍛造では劣るが、冷間鍛造では高い
得意な製品例 自動車のボディ、家電の筐体、キッチンシンク 自動車のエンジン部品(コンロッド)、スパナなどの工具
コスト 大量生産でのコスト効率が高い 金型費用が高く、工程も多いため比較的高コスト

意外に知られていない点として、プレス加工の一種である「冷間鍛造プレス」は、常温で鍛造を行うため、熱間鍛造に比べて高い寸法精度と滑らかな表面を得られる一方、加工硬化が著しく、途中で「焼鈍(しょうどん)」という熱処理を挟んで材料を軟化させる必要がある場合があります。 このように、プレスと鍛造は単純に分けられるものではなく、その境界領域に位置するような技術も存在します。


参考リンク:プレス加工と鍛造の違いについて、さらに詳しく解説されています。
プレス加工と鍛造加工はどう違う?|ブログ - 太陽パーツ

成型加工の精度を支える金型設計とCAE解析の重要性

成型加工において、製品の品質やコスト、生産性を左右する最も重要な要素の一つが金型です。そして、その金型設計の成否を握る鍵として、近年CAE(Computer Aided Engineering)解析の活用が不可欠となっています。
CAEとは、コンピュータを用いて製品の設計や開発、製造工程などを仮想的にシミュレーションし、評価・検討する技術のことです。成型加工の分野では、主に以下の目的で活用されています。

  • 不具合の事前予測: 実際に金型を製作する前に、コンピュータ上で成形プロセスをシミュレーションします。これにより、材料が金型にどのように充填されるか(流動解析)、成形品にヒケやソリ、ウェルドラインといった不具合が発生しないかを予測できます。
  • 金型設計の最適化: シミュレーション結果を基に、問題が発生しそうな箇所の金型形状や、樹脂を流し込むゲートの位置などを修正します。これにより、手戻りの少ない最適な金型設計を効率的に行うことができます。
  • 納期短縮とコスト削減: 従来、何度も試作品を作り、金型を修正する「トライ&エラー」に多大な時間とコストがかかっていました。 CAE解析を活用することで、この試作・修正の回数を大幅に削減し、開発期間の短縮とコストダウンを実現します。

あまり知られていないCAEの意外な活用法:金型寿命の予測
CAEの活用は、単に成形品の品質向上に留まりません。意外な活用法として、金型の寿命予測があります。 成形時には、金型に非常に大きな圧力がかかります。CAE解析によって、金型のどの部分にどのくらいの力がかかるかを可視化することで、摩耗や破損しやすい箇所を特定できます。
例えば、局所的に大きな負荷がかかる部分の形状をわずかに変更したり、より耐久性の高い材質に変更したりすることで、金型にかかる負荷を均等にし、寿命を延ばすことが可能になります。これまで1万ショットが限界だった金型が、CAEによる最適化で3万ショットまで延命できれば、金型の交換コストやメンテナンスの手間を大幅に削減できるのです。 これは、製品のトータルコストを劇的に下げる可能性を秘めています。
このように、CAE解析はもはや単なる補助ツールではなく、高品質な製品を、低コストかつ短納期で市場に投入するための戦略的な技術となっているのです。


参考リンク:CAE解析が金型開発にもたらすメリットについて、具体的な事例を交えて解説されています。
プレス金型開発にCAE解析を活用 - 柏崎市 - 山崎工業株式会社

成型加工の未来を拓くアディティブマニュファクチャリングとの融合

従来の成型加工が、金型などを用いて材料を引いたり削ったりする「サブトラクティブ(除去)加工」や「フォーマティブ(成形)加工」であるのに対し、近年注目を集めているのがアディティブマニュファクチャリング(AM)、いわゆる3Dプリンティング技術です。これは、材料を一層ずつ積み重ねていく「アディティブ(付加)」的な製造方法です。
金属を扱うアディティブマニュファクチャリングは、特に航空宇宙や医療といった分野で、複雑な形状を持つ高付加価値部品の製造に利用されてきました。 しかし、この技術が従来の成型加工と対立するものではなく、むしろ融合することで、新たな可能性が生まれています。
独自視点:ハイブリッド製造の可能性
検索上位の記事ではあまり触れられていませんが、成型加工の未来を考える上で極めて重要なのが、アディティブマニュファクチャリングと従来の加工法を組み合わせる「ハイブリッド製造」というアプローチです。
例えば、以下のような活用法が考えられます。

  1. 金型への応用: 従来の切削加工では作ることが困難だった、製品の隅々まで効率的に冷却水を流すための複雑な3次元冷却水管を内部に持つ金型を、金属3Dプリンタで製作します。これにより、冷却効率が劇的に向上し、成形のサイクルタイム短縮や品質向上に繋がります。
  2. 少量生産への応用: プレス加工などで使う試作用の金型を、金属ではなく強化プラスチックを材料とした3Dプリンタで製作する試みも行われています。 金属金型に比べて強度は劣るものの、数個から数十個程度の試作品を作るには十分な耐久性を持ち、圧倒的な低コストと短納期で金型を用意できます。これにより、これまでコスト的に難しかった少量多品種生産のハードルが大きく下がります。
  3. 部品の一体化と高機能化: 複数の部品を溶接やボルトで組み立てていたユニットを、アディティブマニュファクチャリングによって一体で造形します。これにより、部品点数の削減、軽量化、そして組み立て工程の廃止によるコストダウンが実現します。さらに、内部にトポロジー最適化されたハニカム構造などを作り込むことで、従来の加工法では実現不可能なレベルの軽量化と高剛性を両立することも可能です。
  4. 補修・改造への応用: 摩耗したり破損したりした金型や機械部品の表面に、レーザー金属積層技術で肉盛り補修を行うこともできます。単に元に戻すだけでなく、より耐摩耗性の高い材料を積層することで、オリジナル以上の性能を持つ部品として再生させることも可能です。

このように、アディティブマニュファクチャリングは、既存の成型加工を「置き換える」のではなく、その弱点を補い、可能性を拡張する「パートナー」として機能します。両者の長所を組み合わせる「ハイブリッド製造」こそが、これからのものづくりの主流となっていくでしょう。

成型加工における熱処理の役割と品質向上への影響

成型加工において、望みの形状を作り出すことと同じくらい重要なのが、製品に求められる機械的性質(硬さ、粘り強さ、耐衝撃性など)を与えることです。そのために不可欠な工程が熱処理です。 熱処理は、金属を特定の温度に加熱し、適切な速度で冷却することにより、その内部組織を変化させ、性質をコントロールする技術です。
成型加工の様々な場面で熱処理は活用されていますが、主な目的によっていくつかの種類に分けられます。
1. 加工しやすくするための熱処理(焼なまし・焼ならし)

  • 焼なまし(やきなまし): 金属を加熱した後、炉の中でゆっくりと冷却する処理です。これにより、金属の内部組織が均一で柔らかい状態になり、加工しやすくなります。 また、プレス加工や冷間鍛造などで発生した内部のひずみを取り除き、割れをぐ目的でも行われます。
  • 焼ならし(やきならし): 焼なましよりも少し高い温度に加熱した後、空中で放冷する処理です。これにより、結晶組織が微細化・均一化され、強さや粘り強さといった機械的性質が向上します。

2. 硬さや強度を高めるための熱処理(焼入れ・焼戻し)

  • 焼入れ(やきいれ): 金属を高温状態から水や油で急冷することで、非常に硬い組織(マルテンサイト組織)を得る処理です。 これにより、金属の硬度や耐摩耗性が飛躍的に向上します。ただし、硬くなる一方で、非常に脆く(もろく)なるという欠点があります。
  • 焼戻し(やきもどし): 焼入れで硬く脆くなった金属に、粘り強さを与えるために行われる処理です。焼入れ後、再加熱して少し低い温度(150~650℃程度)で保持し、冷却します。 この温度の高低によって、硬さと粘り強さのバランスを調整することができます。日本刀が「焼きを入れてから、焼き戻す」のは、刃の硬さと、折れにくい粘り強さを両立させるためです。

3. 表面だけを硬化させる熱処理(表面硬化処理)
部品全体ではなく、表面だけを硬くしたい場合に使われる方法です。例えば歯車のように、内部は衝撃を吸収する粘り強さを保ちつつ、歯の表面は摩耗に強い硬さが必要な場合に適しています。

  • 浸炭焼入れ: 炭素量が少ない鋼の表面に炭素を浸透させ、その部分だけを焼入れすることで表面を硬化させます。
  • 高周波焼入れ: 高周波電流を流して部品の表面だけを急速に加熱し、すぐに冷却することで表面層のみを焼入れする方法です。

このように、一口に熱処理と言っても、その目的や方法は多岐にわたります。成型加工によって形作られた製品は、適切な熱処理が施されて初めて、その製品に求められる真の性能を発揮することができるのです。形状設計と材料選定、そして熱処理は、三位一体で考えられるべき重要な要素と言えるでしょう。

 

 


流動解析-プラスチック成形 (加工プロセスシミュレーションシリーズ 4)