金属加工業界において、サイクルタイムは競争力を左右する重要な指標です。サイクルタイムとは「製品1つを作り上げるのにかかった正味の時間」を指します。例えば、60分で30個の製品を製造した場合のサイクルタイムは2分(60分÷30個)となります。
この指標は単なる時間の測定に留まらず、以下の要素に直結しています。
金属加工においては特に、素材の切断から複雑な形状の加工まで多くの工程を経るため、各工程のサイクルタイムを短縮することが全体の生産性向上に大きく貢献します。競争が激化するグローバル市場では、0.1秒単位のサイクルタイム短縮が年間の生産量に大きな差をもたらすケースも珍しくありません。
また、サイクルタイムに似た用語として「タクトタイム」と「リードタイム」があります。タクトタイムは「製品1つの製造にかけるべき時間」(稼働時間÷必要生産数)であり、顧客からの発注数に基づく指標です。一方、リードタイムは「発注から納品までにかかる時間」を意味します。これらの違いを理解し、適切に管理することが現代の製造業においては不可欠です。
サイクルタイムを効果的に短縮するためには、まず「切削時間」と「非切削時間(アイドリングタイム)」の二つに分けて考えることが重要です。
切削時間の最適化
切削時間は工作機械が実際にワークを加工している時間です。この時間を短縮するためには。
切削条件を上げることで時間短縮は可能ですが、ツールの摩耗が早まるというトレードオフも考慮する必要があります。コストと時間のバランスを取りながら、最適な条件を見つけることが大切です。
非切削時間(アイドリングタイム)の削減
アイドリングタイムは、ワーク交換や工具交換、機械の移動など、実際に切削していない時間を指します。こちらを短縮するアプローチ
特に金属加工においては、アイドリングタイムの削減が見落とされがちですが、全体のサイクルタイムに占める割合は意外と大きいものです。例えば、ある工場では作業分析の結果、全体の30%以上がアイドリングタイムだったという事例もあります。
実際の作業を動画撮影して分析することで、どの工程にどれだけの時間がかかっているかを視覚的に把握し、改善点を発見するのも効果的な手法です。
サイクルタイムを短縮する詳細な方法について(ブラザー工作機械)
金属加工におけるサイクルタイム短縮には、最新の工作機械とツーリング技術の導入が大きな効果をもたらします。従来の方法で限界まで改善を行っても、抜本的な短縮には設備投資が必要になる場面も少なくありません。
最新工作機械の導入メリット
最新のCNC加工機や複合加工機には以下のような特徴があります。
例えば、最新のマシニングセンタを導入した企業では、サイクルタイムが20%以上短縮できたという事例があります。初期投資は必要ですが、長期的には大きなコスト削減と生産性向上を実現できます。
高度なツーリング技術
ツーリング技術の進化もサイクルタイム短縮に大きく寄与します。
特に近年注目されているのが、AI技術を活用した切削条件の自動最適化です。工具の摩耗状態や材料の硬さなどの変動要因を考慮しながら、リアルタイムで最適な切削条件を導き出すシステムが実用化されています。
金属加工の現場では、これらの最新技術を積極的に取り入れることで、品質を維持・向上させながらもサイクルタイムを大幅に短縮することが可能になっています。ただし、導入にあたっては自社の生産体制や加工内容に最適なシステムを選定することが重要です。
CNC加工効率向上のためのサイクルタイム短縮テクニック(Zintilon)
近年、工作機械メーカーから提供されているプログラム最適化機能を活用することで、プログラミングの専門知識がなくても効果的にサイクルタイムを短縮できるようになっています。
プログラム最適化機能とは
プログラム最適化機能は、既存のNCプログラムを自動的に分析し、無駄な動きや非効率な経路を検出して改善する機能です。具体的には以下のような最適化を行います。
実践事例
ある中村留精密工業の複合加工機では、プログラム最適化機能の導入により約11%のサイクルタイム短縮を実現しています。特筆すべきは、この最適化がプログラミングの専門知識を持たないオペレーターでも簡単に実行できる点です。
実際の例では、機械座標系のGコード(G53)に【P1】を追記することで、減速によるロスタイムを低減し、アイドルタイムを短縮しています。この小さな変更が、量産加工では大きな時間短縮につながります。
導入効果
量産向けの小型ワークでは、サイクルタイムが約1分程度の場合が多いですが、その加工時間を0.1秒短縮するだけでも、1日8時間稼働の工場では。
0.1秒 × 60個/時 × 8時間 = 48秒/日の短縮
これが年間240日の稼働なら、3.2時間/年の短縮になります。複数の機械で同様の改善を行えば、その効果は倍増します。
このようなプログラム最適化機能は、日本だけでなく欧米・中国からも注目を集めており、「プログラミング初心者でも使えた」という声も多く寄せられています。スキルのあるエンジニアが多忙な現場では、マニュアルやトレーニングいらずのプログラミング最適化ツールの価値は非常に高いものとなっています。
複合加工機のプログラム最適化機能によるサイクルタイム短縮事例(モノトウ)
サイクルタイム短縮は生産性向上とコスト削減だけでなく、環境負荷低減にも大きく貢献します。この視点は従来の製造業では見落とされがちでしたが、SDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まる現代においては重要な観点です。
サイクルタイム短縮による環境メリット
効率化によって得られる環境面のメリットには以下のようなものがあります。
特に最新の工作機械は省エネ性能に優れており、従来機と比較して電力消費を30〜40%削減できるケースもあります。サイクルタイム短縮と組み合わせることで、製品1個あたりの環境負荷を大幅に低減できます。
持続可能な金属加工への取り組み
環境に配慮した金属加工の実現には、以下のアプローチが効果的です。
ある自動車部品メーカーでは、サイクルタイム短縮と環境対策を同時に進めることで、CO2排出量を年間15%削減しながら生産性を10%向上させた事例があります。このように、効率化と環境配慮は対立するものではなく、適切な技術とアプローチによって両立可能です。
環境対応と競争力の両立
環境への配慮は単なるコスト要因ではなく、以下のような競争優位性につながります。
金属加工業界においても、サイクルタイム短縮と環境対策を統合的に推進することで、持続可能なビジネスモデルの構築が可能になります。この両面からのアプローチが、これからの製造業に求められる重要な戦略となるでしょう。
サイクルタイムの効果的な短縮には、現状分析から改善、検証までの一連のプロセスを確立することが重要です。ここでは、現場で実践できるサイクルタイム分析と改善サイクルの具体的な方法について解説します。
サイクルタイムの可視化と分析
まずは現状のサイクルタイムを正確に把握することから始めます。
特に効果的なのがビデオ撮影による分析です。実際の作業を記録し、後から細かく分析することで、作業者自身も気づいていない無駄な動きや待機時間を発見できます。
改善サイクルのステップ
このPDCAサイクルを回すことで継続的な改善が可能になります。重要なのは、一度に大きな変革を目指すのではなく、小さな改善を積み重ねる「カイゼン」の考え方です。
現場参加型の改善活動
サイクルタイム短縮には、現場作業者の参加が不可欠です。
現場作業者は日々の作業を通じて多くの気づきを得ているため、その知見を活かした改善が効果的です。例えば、ある金属加工工場では、作業者からの提案で工具配置を変更したところ、工具交換時間が40%短縮された事例があります。
先進的なサイクルタイム分析技術
近年では、IoTやAIを活用した先進的な分析技術も登場しています。
これらの技術を活用することで、より精緻な分析と効果的な改善が可能になります。ただし、技術導入の前に、基本的な分析手法と改善サイクルを確立しておくことが成功の鍵です。
サイクルタイム改善は一度きりの取り組みではなく、継続的な活動として組織に根付かせることが重要です。日々の小さな改善の積み重ねが、最終的には大きな生産性向上とコスト削減をもたらします。
以上、金属加工におけるサイクルタイム短縮について、基本的な考え方から最新技術、実践的な改善方法まで解説しました。これらの知見を活かし、自社の製造現場に合った改善活動を展開していくことで、生産性向上と競争力強化を実現しましょう。