後熱処理をきちんとやっているつもりなのに、溶接部が冷めてから24時間以内に割れが入った現場が実際にあります。
「後熱処理」という言葉は、現場では2つの意味で使われることがあります。これは混同しやすいため、まず整理しておくことが大切です。
「後熱(直後熱)」は、溶接完了の直後に250℃〜350℃で加熱し、溶接部に侵入した拡散性水素を外へ逃がすことを目的とした処理です。同時に、熱影響部(HAZ)の硬化を軽減する効果もあります。加熱時間は30分程度が目安で、主に高張力鋼・低合金鋼・Cr-Mo鋼などの水素割れ(低温割れ)が懸念される材質に適用されます。
一方、PWHT(Post Weld Heat Treatment=溶接後熱処理)は、後熱よりもずっと高温の550℃〜750℃で加熱し、溶接部に残存する残留応力を除去・低減することが主目的です。加熱温度は成分系により異なり、Ac₁変態点との関係で決まります。残留応力の緩和のほか、溶接熱影響部の軟化、延性の向上、水素の除去、耐食性の改善など、多岐にわたる効果があります。
つまり、後熱とPWHTは目的も温度も別物です。日本溶接学会(JWS)のQ&Aでも、「後熱は水素逃散・硬化軽減が目的、PWHTは残留応力低減が目的」と明確に区別されています。現場で「後熱したからPWHTは省略できる」という誤解が残っている場合、施工不備につながるリスクがあります。注意が必要ですね。
図面や仕様書では「PWHT」と略して記載されるケースが多く、JIS Z 3700「溶接後熱処理方法」やASME規格などでその施工条件が規定されています。
参考:日本溶接学会 溶接技術Q&A「どうして後熱処理をするのですか」(後熱の目的・温度・効果)
https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0110020050
溶接を行うと、母材は局所的に高温に加熱されたあと急冷されます。この急激な熱サイクルによって、溶接部とその周辺(熱影響部)には大きな引張残留応力が発生します。この残留応力が残ったままでは、使用中の疲労き裂・応力腐食割れ・水素脆性などの原因になります。これが基本です。
PWHTがもたらす主な効果は次の4点です。
Cr-Mo-V鋼の多層溶接部では、溶接完了後に350℃×4時間の脱水素熱処理(後熱)を行い、低温割れを防止する事例が報告されています(日立造船・技術論文)。この「350℃で4時間」という数字は、熱影響部の水素を十分に放出させるための最低ラインです。時間が短すぎると、見た目は問題なくても内部に水素が残留したまま割れが進行する可能性があります。
参考:日本溶接学会Q&A「PWHT(溶接後熱処理)による残留応力の低減機構と注意点」
https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0010040250
後熱処理(PWHT)の施工条件は、材質・板厚・適用法規によって細かく異なります。「とりあえず600℃で1時間」という経験則では対応しきれない場面があるため、代表的な材質ごとの目安を把握しておくことが現場では重要です。
| 材質 | PWHT温度の目安 | 保持時間の目安 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 炭素鋼(SS400・SM材など) | 600〜700℃ | 板厚25mm以上で1時間以上。板厚1mmにつき約25分加算 | 過度なPWHTで強度・靭性が低下する場合あり |
| 低合金鋼(HT60・HT80など) | 550〜650℃ | 同上 | 焼戻し温度を超えると強度が著しく低下する |
| Cr-Mo鋼(STPA22・STPA24など) | 700〜760℃ | 板厚1mmにつき約25〜30分 | SR割れ(再熱割れ)が発生しやすい鋼種 |
| オーステナイト系ステンレス(SUS304など) | 原則不要(固溶化処理は1050℃急冷) | 通常のPWHTは耐食性を逆に低下させる | 450〜850℃域でクロム炭化物が析出し粒界腐食の原因に |
| マルテンサイト系ステンレス | 600〜760℃程度 | 材料仕様による | 組成による溶接金属の変態挙動に注意 |
保持時間については、ASME(米国機械学会)の規格では板厚1インチ(約25mm)あたり1時間、JISやJWECの発電設備規格では最低保持温度と最低保持時間を仕様書に明記することが求められています。
板厚が50mmの場合、保持時間は単純計算で約2時間が目安になります。東京ドームのグラウンドの面積(約1.3万m²)を1人で清掃するような膨大な作業量に匹敵するほど、大型構造物のPWHTは時間と設備が必要な工程です。
Cr-Mo鋼など一部の鋼種では、PWHT温度が高すぎると「焼戻し脆化」を起こし、靭性が逆に低下する危険性があります。これは知っておけばOKです。温度管理の精度が製品の安全性に直結します。
参考:溶接前後の熱処理について解説(YesWelder)
https://wholesale.yeswelder.com/ja/blog/pre-and-post-weld-heat-treatment/
「とにかく後熱処理をしておけば安心」と思っている方も多いですが、実は省略できるケースと義務化されているケースの両方があります。これが条件です。
省略できる代表的なケースは以下の通りです。
一方、法規上でPWHTが義務化されているケースも明確に存在します。
法規に基づく義務を省略した場合、検査不合格・製品のリコール・最悪の場合は事故責任につながるリスクがあります。特に圧力容器や配管溶接部でこれを見落とすと、運用後に重大な問題が発覚するケースがあります。痛いですね。
逆に、PWHTが不要な材質に誤って実施してしまうケースも問題です。オーステナイト系ステンレスを450〜850℃の敏感化温度域に加熱すると、クロム炭化物が粒界に析出して耐食性が著しく低下します。「念のためやった」が逆効果になる典型例です。
参考:圧力容器構造規格(厚生労働省)第3章 工作及び水圧試験・第43条(熱処理)
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-10/hor1-10-4-1h3-0.htm
PWHTの実施そのものが新たな欠陥を生む可能性がある、というのは意外と知られていません。これが「SR割れ(再熱割れ)」の問題です。
SR割れとは、溶接後熱処理(応力除去焼なまし)の加熱・冷却過程で、熱影響部(HAZ)の粗粒域に発生する粒界割れです。クロム・モリブデン・バナジウムなどの合金元素を含むCr-Mo鋼やCr-Mo-V鋼などのHAZが450℃以上に加熱されると、炭化物の析出による粒界強化が粒内より先行し、粒界に応力が集中してき裂が進行します。
SR割れが発生しやすい条件は次の通りです。
冷却速度の管理も非常に重要な工程です。PWHTの冷却中に生じる温度差は、新たな残留応力を生み出す原因になります。日本溶接学会のQ&Aでも「炉温の冷却速度を十分小さくすること」「熱処理炉からの取出し温度を十分低くすること」を明確に求めています。
大型構造物では、局部加熱(バンドヒーター方式)を採用する場合、加熱範囲内の温度勾配にも注意が必要です。加熱域の端部が急冷に近い状態になると、局所的な熱応力が発生してSR割れを助長することがあります。結論は温度管理の均一性が品質の鍵です。
また、Cr-Mo鋼のように炉冷によってPWHT中に焼戻し脆性を生じる鋼種では、550〜650℃の温度域を速やかに通過させる必要があります。こうした材料依存の冷却プロトコルを事前に確認しておくことで、SR割れのリスクを大幅に低減できます。
参考:矢内精工 溶接欠陥の種類とその対策(SR割れの詳細説明)
https://yanai-seiko.jp/welding-defect-types/
PWHTの実施方法は大きく「炉内熱処理」と「局部熱処理(現地熱処理)」に分かれます。どちらを選ぶかは、構造物の大きさ・形状・設置場所によって決まります。これが原則です。
炉内熱処理は、構造物全体を熱処理炉に入れて均一に加熱・保持・冷却する方法です。温度の均一性が高く、大型圧力容器・タンク類・溶接フレームなど工場製作品に適用されます。ただし、炉に入らないサイズの構造物や現地組立品には適用できません。
局部熱処理(局熱)は、配管の周溶接部や現地組立の継手部に発熱体(電気抵抗ヒーター・誘導加熱コイルなど)を巻き付け、電流を流して部分的に加熱・保持・冷却する方法です。プラント配管の施工や定期検査時の補修溶接で広く使われています。
局部熱処理の場合、加熱範囲の設定が非常に重要です。加熱幅が不足すると、溶接部の外側で急冷に近い状態が生じ、新たな残留応力が発生します。JIS Z 3700では加熱幅・温度保持・冷却速度について基準が設けられています。
実施中の注意点として、以下を押さえておくと現場での判断精度が上がります。
現場での局部加熱では、スポットヒーターのズレや熱電対の接触不良が温度管理の誤差につながるケースがあります。施工前に機器の点検と校正を済ませることが大切ですね。溶接後熱処理の専門業者(NDI・熱処理施工会社)と連携する際も、施工仕様書に規格・温度・保持時間・冷却速度を明記しておくことで、手戻りや施工ミスを防ぐことができます。
参考:T&I社 溶接後熱処理ページ(炉内・局部熱処理の概要と特長)
https://www.toandi.co.jp/NDI/heattreatment.html

水道 蛇口 【2024新登場&タッチセンサー水栓】 LED温度表示 キッチン センサー 自動水栓 電池式 ステンレス製 おしゃれ 多機能 キッチン水栓 引き出し式 2つの水出口モード 360°回転可能 冷熱混合水栓 ニッケル処理 洗面用水栓 メタルセンサー水栓 取り付けは簡単 (シルバー)