自作の工具でも、下穴の向きを1つ間違えるだけでフランジが確実に割れます。
バーリング加工の治具(ジグ)は、大きく「パンチ(オス型)」と「ダイ(メス型)」の2部品で構成されています。パンチを下穴に押し込むことで穴の縁が円筒状に立ち上がり、フランジが形成される仕組みです。これがバーリング加工の基本原理です。
パンチの先端形状は砲弾型(ラジアス形状)が最も一般的ですが、先端角度や曲率によって成形高さと加工荷重が変わります。ミスミの技術資料によると、パンチ先端形状の違いはバーリングの高さに直結するため、自作する際は目標フランジ高さを先に決めてから形状設計に入るのが原則です。
ダイ(メス型)は、パンチが材料を押し込んだときに「受け」として機能します。ダイの内径はパンチ外径より板厚分(クリアランス)だけ大きく設計するのが基本で、この寸法差が成形精度に大きく影響します。つまり「クリアランス=板厚」が基本です。
自作工具を使ってプレスする方法は、主に以下の3種類があります。
各方法は板厚や材質によって向き不向きが明確に異なります。いきなり油圧プレスを選べば万能というわけではなく、加工素材に合った選択が大切です。
ミスミ技術情報:バーリングの方法(バーリング加工4)パンチ形状と加工工程の詳細解説
自作工具を作る際、パンチ素材の選定は最も重要な工程のひとつです。工具鋼としてよく使われるのはSKD11(合金工具鋼)やSCM435(クロムモリブデン鋼)で、特にSKD11は耐摩耗性に優れており、繰り返し使用する工具に向いています。これは必須の素材知識です。
旋盤を使ったパンチ製作の大まかな流れは次のとおりです。まず外径を狙い値より0.1mm程度大きく荒削りし、焼き入れ・焼き戻し処理を行ってから仕上げ研削に進みます。焼き入れ後は材料が硬化して寸法変化が生じるため、仕上げ前に焼き入れを済ませておくのが鉄則です。
ダイの製作は、パンチより少し複雑です。内径の仕上げには中繰りバイトを使い、真円度と面粗度を確保します。クリアランス設定の目安は板厚の10〜15%とする方法もありますが、バーリング加工では板厚とほぼ同じクリアランスを設ける「普通バーリング」が標準的です。クリアランスを板厚より狭く設定すると「しごきバーリング」になり、寸法精度は上がる反面、加工荷重が大幅に増します。
旋盤がない環境での代替手段として、汎用のボルトを加工する方法があります。先端を砥石で砲弾型に成形し、オス型として使う簡易的な方法で、ホームDIYの現場では実際に活用されています。ただし、工具強度は市販品に劣るため、鉄板1mm以下の薄板・少量加工に限定するのが安全です。
なお、バーリング工具の市販品として「バーリングリーマー(エスコ製)」や「ピアスバーリングパンチ(タカノ製)」などが流通しており、少量・単発の加工であれば市販品とのコスト比較も検討する価値があります。
下穴径の設定ミスは、自作工具以前の段階での失敗原因になりやすい箇所です。これが最も見落とされやすいポイントです。下穴が大きすぎると立ち上がり高さが不足し、小さすぎると材料が割れます。
下穴径の理論式は次のように表されます。
$$d \approx d_m - 2t$$
ここで d は下穴径、dm はフランジ中央径、t は板厚を示します。例として、M4ねじ(ピッチ0.7mm)用のバーリングを板厚1.6mmの鋼板に施す場合、必要なフランジ高さは「ねじ山3山以上」のため約2.1mm以上が必要です。H≈2tと仮定すると、板厚1.05mm以上が最低ラインという計算になります。
ただし、この計算はあくまでも理論値です。実際の加工では材料の加工硬化や、フランジ先端の薄肉化などが生じるため、推奨値はメーカーが公開している寸法表を参照するのが最も確実です。下穴径は「計算で出した値よりメーカー推奨表が正しい」と覚えておきましょう。
アマダが公開している板金加工基礎講座のタップ加工編には、ネジの呼び径ごとの推奨下穴径・内径・フランジ高さの対応表が掲載されており、現場での設計に直接役立てられます。
これらの値は板厚や材質によって変動するため、あくまで目安として扱い、現物テストで確認することをすすめします。
また、見落としがちな注意点として「下穴の打ち抜き方向」があります。穴を打ち抜いた際、ダレ面(入り口側)とバリ面(出口側)が生じます。バーリング加工はバリ面側からパンチを入れるのが正しい方向で、ダレ面側から加工すると割れが発生しやすくなります。つまり「下穴の向きを間違えると、どんな工具を使っても割れる」というのが正確な表現です。
アマダ 板金加工の基礎講座 第12回タップ加工:バーリング下穴径・内径・フランジ高さの推奨表を掲載
同じ自作工具・同じ寸法で加工しても、材質が変われば結果は大きく変わります。材質の理解が条件です。
鉄(SPCC)は延性と強度のバランスが良く、最も扱いやすい材料です。適切な下穴径と方向さえ守れば、割れのリスクは低く、安定した加工が可能です。いいことですね。自作工具での試作・練習は、まずSPCC板から始めるのが定石といえます。
ステンレス鋼(SUS304)は加工硬化性が高く、バーリング中に材料が急速に硬くなります。鉄と比べて加工荷重が1.5〜2倍程度大きくなることも珍しくなく、ボルト締め方式では対応できないことがほとんどです。SUS304には油圧プレスが条件です。また、潤滑油の塗布も必須で、塗布を怠ると焼き付きやフランジ先端の割れが発生します。SUSのバーリング不良の相談事例では「外形11mm・高さ2mmのフランジで縁が割れた」というケースが多く報告されています。加工硬化によって材料の延性が一気に失われることが主因です。
アルミニウムは成形自体は容易ですが、ねじ山の耐久性が最大の弱点です。バーリング後にタップを立てても、繰り返しの締め付けでねじ山が変形・摩耗しやすく、M4以下の小径ではとくに顕著です。アルミの薄板に雌ねじが必要な場合は、バーリング加工より圧入ナット(クリンプナット)の使用が業界標準です。どうしてもバーリングで対応する場合は、M6以上のサイズかつA5052等の合金系を選ぶのがリスク低減の基本です。
割れを防ぐ実践的なテクニックをまとめると以下の通りです。
「自作すれば安い」は、ある条件のもとでしか成立しません。これは見落とされやすい事実です。
自作工具のコスト構造を整理すると、旋盤・研削機などの設備費用は除外したとしても、SKD11丸棒材(φ20mm×100mm程度)は1本あたり1,000〜2,000円、焼き入れを外部委託すると1工程あたり数千円〜1万円程度が発生します。つまり材料費だけで市販の簡易バーリングパンチ(1,500〜3,000円程度)と同等になることもあります。
では、自作が有利になるのはどんな場合か。答えは「既製品にない特殊サイズが必要なとき」「量産ラインで多数個を繰り返し使う専用ジグが必要なとき」の2パターンです。逆に、1mm鉄板にM3のバーリングを数個施す程度なら、市販のバーリングリーマーや簡易ホールプレスを購入した方がトータルコストは低くなります。
また、意外と知られていない代替手法として、千枚通し(最大径3mm程度)とセンターポンチ、座金の組み合わせによる「手打ちバーリング」があります。これは専用工具を一切使わずに実施できる手法で、1mm鉄板・M3バーリングであれば十分な実用強度が得られます。プレス設備のない小規模現場や緊急の修理対応では非常に有効です。
市販工具でコスト比較した場合の目安を参考として整理します。
| 方法 | 初期費用目安 | 対応板厚 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| 手打ち(センターポンチ+千枚通し) | 500円〜 | 〜1mm | 少量・M3程度 |
| 市販ホールプレス+バイス | 2,000〜5,000円 | 〜1.5mm | 薄板・少中量 |
| 市販ホールプレス+油圧プレス | 5,000〜20,000円 | 〜2mm | 中量・鉄・SUS |
| 自作工具(SKD11旋盤加工) | 5,000〜15,000円+加工費 | 設計次第 | 特殊サイズ・量産 |
コストだけで判断するのではなく、「加工頻度」「素材」「仕上がりの精度要求」の3軸で自作か市販かを決めることが、現場で失敗しない選択基準です。結論は「用途に合わせた選択」が正解です。
モノタロウでは「バーリングリーマー(エスコ)」や「ピアスバーリングパンチ(タカノ)」などの市販品が一覧で比較できるため、自作の前に一度市販品ラインナップを確認することをすすめします。
モノタロウ:バーリング工具のおすすめランキング一覧(市販品の比較・価格確認に)
ミスミmeviy:バーリング加工とは?メリット・デメリットや材質別の注意点も解説(設計・素材選定の参考に)
十分なリサーチが完了しました。記事を生成します。