合金工具鋼は、炭素工具鋼(SK材)にタングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)などの合金元素を添加して、耐摩耗性、耐衝撃性、不変形性、耐熱性を高めた工具鋼です。「工具鋼」という名称のとおり、主な用途は工具の部品となります。
合金工具鋼の主な特徴として、以下の点が挙げられます。
JIS規格では、合金工具鋼は「SK」(Steel Kougu:鋼工具)の後に用途別の記号を付けて分類されています。主な分類としては「SKS」(Special:特殊)、「SKD」(Die:金型)、「SKT」(Tanzo:鍛造)があり、材料記号は用途や素材によって細かく分けられています。
合金工具鋼は、炭素工具鋼や高速度工具鋼と区別されますが、それぞれには明確な違いがあります。
合金工具鋼の種類は非常に多く、JIS規格だけでも32種類が規定されています。用途によって適切な材料を選択することが、製品の品質や寿命に大きく影響します。
合金工具鋼は、JIS規格においては主用途によって4つに区分されています。それぞれの種類と特徴、代表的な用途について詳しく見ていきましょう。
1. 切削工具用合金工具鋼
切削工具用の合金工具鋼は、焼き入れ硬度が大きいため切削工具に向いたものが分類されており、JISでは8鋼種(SKS11、SKS2、SKS21、SKS5、SKS51、SKS7、SKS81、SKS8)が規定されています。
特徴。
実際には、SK材に対して、切削工具用合金工具鋼のCr、W、V、Niなどの含有量は多くはなく、炭素工具鋼とほぼ同じ用途にも使われることがありますが、より耐摩耗性、耐衝撃性に優れています。
2. 耐衝撃工具用合金工具鋼
耐衝撃工具用の合金工具鋼は、衝撃に強いことが特徴です。JISでは4鋼種(SKS4、SKS41、SKS43、SKS44)の規定があります。
特徴。
この種の合金工具鋼で大切なのは、硬度よりもむしろ靱性(金属としての粘り強さ)です。そのため、含有する炭素量を減らし、その分CrやWを多く添加して作られています。
3. 冷間金型用合金工具鋼
冷間金型用の合金工具鋼は、JIS規格では10の鋼種が規定されています。代表的なものとして、SKS3、SKS31、SKS93、SKS94、SKS95、SKD1、SKD2、SKD10、SKD11、SKD12などがあります。
特徴。
冷間金型用の合金工具鋼は、硬度があって変形も少ないためプレス型などに適していますが、機械加工性が悪く、焼き入れ温度も高温になる傾向があります。SKD11の場合は焼き入れに1,000度前後の高温環境が必要です。
4. 熱間金型用合金工具鋼
熱間金型用の合金工具鋼は、JIS規格では10の鋼種が規定されています。主なものとして、SKD4、SKD5、SKD6、SKD61、SKD62、SKD7、SKD8、SKT3、SKT4、SKT6などがあります。
特徴。
熱間金型用の合金工具鋼のうち、SKDは「熱間ダイス鋼」、SKTは「鍛造用型鋼」を示しています。これらは熱間、すなわち高温下の作業においても硬度が高く、耐摩耗性に優れ、ヒートクラックにも強いという特徴があります。
合金工具鋼を使いこなすためには、材料記号の意味と分類の違いを理解することが重要です。ここでは、合金工具鋼の材料記号について詳しく解説します。
SKD・SKS・SKTの基本的な違い
合金工具鋼の材料記号の構成
合金工具鋼の材料記号は、「SK」(Steel Kougu:鋼工具)から始まり、用途別の記号(S、D、T)と数字の組み合わせで表現されます。
例えば。
数字の部分は、基本的に合金元素の種類や含有量の違いを示していますが、必ずしも数字の大小が特定の性質と直接関連しているわけではありません。各鋼種の詳細な特性は、JIS規格や製造メーカーのカタログを参照する必要があります。
JIS規格とISO規格の対応
合金工具鋼は、日本の JIS 規格だけでなく、国際規格である ISO 規格でも定められています。JIS規格とISO規格の間には対応関係があり、国際的な取引の際には両方の規格を理解しておくことが重要です。
ただし、すべてのJIS規格がISO規格に対応しているわけではなく、一部のJIS規格にのみISO規格が存在します。例えば、熱間金型用合金工具鋼の一部(SKD6、SKD61など)はISO規格に対応していますが、切削工具用の合金工具鋼にはISO規格がありません。
材料記号の見方のポイント
例えば、SKD11(SLD)は冷間金型用の代表的な合金工具鋼で、「SLD」はメーカーの商標名です。このような商標名は、その鋼材が特定のメーカーの独自開発品や改良版であることを示しています。
合金工具鋼は熱処理によって大きく性質が変化します。適切な熱処理は工具の性能や寿命を左右する重要な工程です。ここでは、合金工具鋼の熱処理による性質変化と、効果的な管理方法について解説します。
熱処理の基本工程と効果
合金工具鋼の熱処理は主に以下の工程から構成されます。
これらの工程を適切に行うことで、合金工具鋼の潜在的な性能を最大限に引き出すことができます。特に焼き戻し温度は、最終的な硬度と靭性のバランスに大きく影響します。
種類別の最適熱処理条件
合金工具鋼の種類によって、最適な熱処理条件は異なります。
熱処理による寸法変化と管理方法
合金工具鋼は熱処理によって寸法変化が生じますが、その程度は鋼種や