合金工具鋼の種類と特徴及び用途を解説

合金工具鋼の基本特性から4つの主要分類、材料記号の意味、熱処理方法、選定ポイントまで詳しく解説。金属加工に携わる皆様は、どのように最適な合金工具鋼を選定すべきでしょうか?

合金工具鋼の種類と特性について

合金工具鋼の種類と特性について

合金工具鋼の基礎知識
🔩
多様な種類

JISで32種類が規定され、4つの主要カテゴリに分類されています

🔨
優れた特性

高い耐摩耗性、耐衝撃性、耐熱性を持ち、用途に応じた特性を発揮

🔧
主な用途

切削工具、金型、ゲージなど幅広い工業製品の製造に不可欠

合金工具鋼とは?基本的な特徴と分類

 

合金工具鋼は、炭素工具鋼(SK材)にタングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)などの合金元素を添加して、耐摩耗性、耐衝撃性、不変形性、耐熱性を高めた工具鋼です。「工具鋼」という名称のとおり、主な用途は工具の部品となります。

 

合金工具鋼の主な特徴として、以下の点が挙げられます。

  • 高い耐摩耗性:硬質の炭化物を形成し、工具の摩耗を抑制
  • 優れた耐衝撃性:適切な添加元素により靭性が向上
  • 良好な耐熱性:高温での硬度低下を抑制
  • 優れた焼入れ性:深部まで均一に硬化可能
  • 寸法安定性:熱処理による歪みが少ない

JIS規格では、合金工具鋼は「SK」(Steel Kougu:鋼工具)の後に用途別の記号を付けて分類されています。主な分類としては「SKS」(Special:特殊)、「SKD」(Die:金型)、「SKT」(Tanzo:鍛造)があり、材料記号は用途や素材によって細かく分けられています。

 

合金工具鋼は、炭素工具鋼や高速度工具鋼と区別されますが、それぞれには明確な違いがあります。

  • 炭素工具鋼(SK材):主に炭素を含有し、硬度があり耐摩耗性に優れるが、高温では硬度が低下する
  • 合金工具鋼(SKS/SKD/SKT):各種合金元素を添加し、特性を向上。用途に応じた多様な種類が存在
  • 高速度工具鋼(SKH材):非常に高い硬度を持ち、主に切削工具に使用される

合金工具鋼の種類は非常に多く、JIS規格だけでも32種類が規定されています。用途によって適切な材料を選択することが、製品の品質や寿命に大きく影響します。

 

合金工具鋼の4つの主要種類と用途

 

合金工具鋼は、JIS規格においては主用途によって4つに区分されています。それぞれの種類と特徴、代表的な用途について詳しく見ていきましょう。

 

1. 切削工具用合金工具鋼
切削工具用の合金工具鋼は、焼き入れ硬度が大きいため切削工具に向いたものが分類されており、JISでは8鋼種(SKS11、SKS2、SKS21、SKS5、SKS51、SKS7、SKS81、SKS8)が規定されています。

 

特徴。

  • 比較的炭素含有量が多い(高硬度を実現)
  • ドリル、丸ノコ、帯ノコ、やすりなどの切削工具に適している
  • 添加元素によって特性が調整されている(例:SKS5、SKS51はニッケルを約1%含み、靭性が向上)

実際には、SK材に対して、切削工具用合金工具鋼のCr、W、V、Niなどの含有量は多くはなく、炭素工具鋼とほぼ同じ用途にも使われることがありますが、より耐摩耗性、耐衝撃性に優れています。

 

2. 耐衝撃工具用合金工具鋼
耐衝撃工具用の合金工具鋼は、衝撃に強いことが特徴です。JISでは4鋼種(SKS4、SKS41、SKS43、SKS44)の規定があります。

 

特徴。

  • 切削用と比較して炭素量が少なく、靭性が高い
  • たがね、ポンチ、スナップなどに適している
  • 硬度はやや低め(HRC53~55程度)だが、粘り強さが特徴
  • SKS43、SKS44は表面硬化と心部靭性のバランスを重視

この種の合金工具鋼で大切なのは、硬度よりもむしろ靱性(金属としての粘り強さ)です。そのため、含有する炭素量を減らし、その分CrやWを多く添加して作られています。

 

3. 冷間金型用合金工具鋼
冷間金型用の合金工具鋼は、JIS規格では10の鋼種が規定されています。代表的なものとして、SKS3、SKS31、SKS93、SKS94、SKS95、SKD1、SKD2、SKD10、SKD11、SKD12などがあります。

 

特徴。

  • 高い耐摩耗性と寸法安定性を持つ
  • 焼き入れ後の変形が少ない
  • ゲージ、プレス型などに適している
  • 特にSKD11、SKS3、SKS93は「冷間3鋼種」と呼ばれる重要な位置を占める

冷間金型用の合金工具鋼は、硬度があって変形も少ないためプレス型などに適していますが、機械加工性が悪く、焼き入れ温度も高温になる傾向があります。SKD11の場合は焼き入れに1,000度前後の高温環境が必要です。

 

4. 熱間金型用合金工具鋼
熱間金型用の合金工具鋼は、JIS規格では10の鋼種が規定されています。主なものとして、SKD4、SKD5、SKD6、SKD61、SKD62、SKD7、SKD8、SKT3、SKT4、SKT6などがあります。

 

特徴。

  • 冷間金型用よりも炭素含有量が少ない(0.3~0.6%程度)
  • 高温での強度と耐摩耗性に優れている
  • ヒートクラックに強く、熱疲労に対する抵抗性がある
  • 熱間プレス、ダイカスト、熱間鍛造などの金型に使用

熱間金型用の合金工具鋼のうち、SKDは「熱間ダイス鋼」、SKTは「鍛造用型鋼」を示しています。これらは熱間、すなわち高温下の作業においても硬度が高く、耐摩耗性に優れ、ヒートクラックにも強いという特徴があります。

 

SKD・SKS・SKTの違いと材料記号の見方

 

合金工具鋼を使いこなすためには、材料記号の意味と分類の違いを理解することが重要です。ここでは、合金工具鋼の材料記号について詳しく解説します。

 

SKD・SKS・SKTの基本的な違い

  • SKS(Special:特殊):切削工具用や冷間金型用として使用される合金工具鋼。「S」は特殊を意味し、比較的添加元素の種類や量が少なく、タップやゲージ類によく使用されます。
  • SKD(Die:金型):主に金型用として使用される合金工具鋼。「D」はダイス(金型)を意味し、耐摩耗性と焼入れ性に優れています。冷間金型用と熱間金型用があり、SKD11(冷間)やSKD61(熱間)が代表的です。
  • SKT(Tanzo:鍛造):主に熱間鍛造用の金型として使用される合金工具鋼。「T」は鍛造を意味し、高温での使用を前提とした特性を持っています。

合金工具鋼の材料記号の構成
合金工具鋼の材料記号は、「SK」(Steel Kougu:鋼工具)から始まり、用途別の記号(S、D、T)と数字の組み合わせで表現されます。

 

例えば。

  • SKS11:切削工具または冷間金型用の特殊工具鋼
  • SKD61:熱間金型用のダイス鋼
  • SKT4:熱間鍛造用の鋼材

数字の部分は、基本的に合金元素の種類や含有量の違いを示していますが、必ずしも数字の大小が特定の性質と直接関連しているわけではありません。各鋼種の詳細な特性は、JIS規格や製造メーカーのカタログを参照する必要があります。

 

JIS規格とISO規格の対応
合金工具鋼は、日本の JIS 規格だけでなく、国際規格である ISO 規格でも定められています。JIS規格とISO規格の間には対応関係があり、国際的な取引の際には両方の規格を理解しておくことが重要です。

 

ただし、すべてのJIS規格がISO規格に対応しているわけではなく、一部のJIS規格にのみISO規格が存在します。例えば、熱間金型用合金工具鋼の一部(SKD6、SKD61など)はISO規格に対応していますが、切削工具用の合金工具鋼にはISO規格がありません。

 

材料記号の見方のポイント

  1. 最初の「SK」は全ての工具鋼に共通の記号
  2. 次のアルファベット(S、D、T、H)は用途や特性を示す
  3. 数字は特定の合金組成や種類を表す
  4. 一部の鋼材には、メーカー独自の商標名(DAC、SLD、SGT、YCSなど)が付与されている場合もある

例えば、SKD11(SLD)は冷間金型用の代表的な合金工具鋼で、「SLD」はメーカーの商標名です。このような商標名は、その鋼材が特定のメーカーの独自開発品や改良版であることを示しています。

 

合金工具鋼の熱処理による性質変化と管理方法

 

合金工具鋼は熱処理によって大きく性質が変化します。適切な熱処理は工具の性能や寿命を左右する重要な工程です。ここでは、合金工具鋼の熱処理による性質変化と、効果的な管理方法について解説します。

 

熱処理の基本工程と効果
合金工具鋼の熱処理は主に以下の工程から構成されます。

  1. 焼なまし:内部組織を均一化し、加工性を向上させる工程
  2. 焼入れ:高温に加熱後、急冷して硬さを得る工程
  3. 焼き戻し:焼入れ後に適切な温度で再加熱し、靭性を調整する工程
  4. 深冷処理:一部の合金工具鋼で行われる、マルテンサイト化を促進する低温処理

これらの工程を適切に行うことで、合金工具鋼の潜在的な性能を最大限に引き出すことができます。特に焼き戻し温度は、最終的な硬度と靭性のバランスに大きく影響します。

 

種類別の最適熱処理条件
合金工具鋼の種類によって、最適な熱処理条件は異なります。

  • 切削工具用合金工具鋼:焼き戻し温度は通常150℃~200℃。ただし、ニッケルを添加したSKS5やSKS51は400℃~500℃と高温での焼き戻しが必要。
  • 耐衝撃工具用合金工具鋼:焼き戻し温度は150℃~200℃が一般的。熱処理で表面硬化と心部靭性のバランスを調整。
  • 冷間金型用合金工具鋼残留オーステナイトによる寸法変化を防ぐため、焼入れ後に深冷処理(-80℃程度)を行い、その後150℃~200℃の低温焼き戻しを実施。特にSKD11などは自硬性(空冷でも硬化する性質)があるため、焼入れ条件の管理が重要。
  • 熱間金型用合金工具鋼:600℃前後の高温焼き戻しを行うことで、高温環境下での使用に適した特性を得る。SKD61の場合、焼入れ温度は1000℃前後と高温になる傾向がある。

熱処理による寸法変化と管理方法
合金工具鋼は熱処理によって寸法変化が生じますが、その程度は鋼種や