SCM420は「錆びにくいステンレス系の鋼」だと思い込んでいると、現場で大きなクレームにつながります。
SCM420は、JIS G4053(機械構造用合金鋼鋼材)で規定されるクロムモリブデン鋼(Cr-Mo鋼)の一種です。 名称の「SCM」はSteel Chromium Molybdenumの略で、末尾の「420」は炭素含有量の中心値が約0.20%であることを示しています。 材質として最も重要な特徴は「はだ焼鋼(浸炭鋼)」として設計されている点で、熱処理を前提に使われる材料であることを最初に理解しておく必要があります。 toishi(https://www.toishi.info/sozai/scm/scm420.html)
現場では「SCM420」と「SCM420H」の2種類が流通しています。 末尾に「H」が付くものは焼入れ性を保証した規格(JIS G4052)であり、熱処理後の品質安定性を求める場合はSCM420Hを選ぶのが一般的です。 現在の市場でも主流はSCM420Hです。 tec-note(https://tec-note.com/741)
主な化学成分(SCM420)は以下のとおりです。 tec-note(https://tec-note.com/741)
| 元素 | 含有量(%) | 役割 |
|---|---|---|
| C(炭素) | 0.18〜0.23 | 強度・硬さの基礎 |
| Cr(クロム) | 0.90〜1.20 | 焼入れ性向上・耐摩耗性 |
| Mo(モリブデン) | 0.15〜0.25 | 焼戻し軟化抵抗・靭性向上 |
| Mn(マンガン) | 0.60〜0.90 | 焼入れ性補助 |
| Si(ケイ素) | 0.15〜0.35 | 脱酸・強度補助 |
つまり、Crによる焼入れ性とMoによる靭性の両立が、この材質の核心です。
SCM420の真価は、浸炭焼入れ・焼戻しを施したあとに発揮されます。表面にはHRC58〜62という高硬度が得られ、歯車やカムのような「表面は硬く、芯部は粘り強く」という要求に対して理想的な特性を示します。 同じ炭素鋼S45Cの浸炭後硬度が約HRC50止まりなのに対し、SCM420は最大HRC63まで達します。 これは見た目が同じでも、摩耗寿命に数倍の差がつく数値です。 kuriyamanetusyori(https://kuriyamanetusyori.com/2024/04/23/%E6%B5%B8%E7%82%AD%E7%84%BC%E5%85%A5%E3%82%8C%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E8%A1%A8%EF%BC%9A%E6%9D%90%E8%B3%AA%E5%88%A5%E6%B5%B8%E7%82%AD%E3%81%A7%E5%BE%97%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%86%E3%81%A9/)
熱処理後の機械的性質(焼入れ焼戻し)は以下のとおりです。 tec-note(https://tec-note.com/741)
| 特性 | 値 |
|---|---|
| 引張強さ | 930 MPa以上 |
| 伸び | 14%以上 |
| 絞り | 40%以上 |
| シャルピー衝撃値 | 59 J/cm²以上 |
| 硬度 | HB 262〜352 |
参考:浸炭焼入れの材質別硬度と処理条件の詳細(栗山熱処理)
浸炭焼入れ対応表:材質別浸炭で得られる硬度 | 栗山熱処理
「浸炭焼入れ前提の低炭素クロムモリブデン鋼」という特性から、SCM420が活躍するのは表面摩耗と内部衝撃が同時にかかる部品です。 代表的な用途は次のとおりです。 anm7242(https://anm7242.net/pingye.sakura.ne.jp/carburizing/)
- 🦷 歯車(自動車トランスミッション、産業機械用)
- 🔩 カム・カムシャフト
- ⛓️ チェーンのピン・ローラー
- 🔧 シャフト(駆動軸・スプライン軸)
- 🏗️ 建設機械の内部構造部品
これらは共通して「表面は硬く摩耗に強い/芯部は粘り強く衝撃に耐える」という二律の性能が必要な部品です。 これがSCM420の存在意義でもあります。 n-factory004(https://n-factory004.com/scm435-vs-scm420-material-differences-and-applications/)
同じ浸炭鋼であるSCM415と比べると、SCM420は炭素量がやや多いため、芯部硬さ・全体強度が必要な場面で使われます。 少しだけ強さが求められる部品に使う、という使い分けが基本です。 tec-note(https://tec-note.com/741)
参考:SCM415・SCM420の浸炭焼入れ適性と材料選定の考え方(埼玉熱処理)
知っておきたい浸炭焼入れ | 埼玉熱処理
SCM420は「加工性に優れる」とされる一方で、溶接については要注意です。 炭素当量が0.50〜0.70に達しており、この値は「0.44%以上で溶接割れを起こしやすい」とされる基準を大きく超えています。 数字だけ見ると「少し超える程度」に思えますが、実際には溶接熱影響部が急硬化し、冷却中に割れが生じるリスクが高い材質です。 hanshinmetalics.co(https://www.hanshinmetalics.co.jp/materials/51/)
現場で溶接を行う場合は次の対策が必要になります。 kamimura.co(https://www.kamimura.co.jp/special-material-welding-encyclopedia/)
- 🌡️ 溶接前に200〜350℃の予熱を実施する
- 🔥 溶接後は急冷せず徐冷する(残留応力の低減)
- 📋 溶接棒・溶接条件を炭素当量に合わせて選定する
「少し炙ってから溶接すれば大丈夫」という感覚的な判断は危険です。 温度管理を数値で行うことが、溶接割れ防止の条件です。 kamimura.co(https://www.kamimura.co.jp/special-material-welding-encyclopedia/)
また、「クロムが入っているからSCM420は錆びない」という認識も誤りです。 クロム含有量は0.90〜1.20%に過ぎず、ステンレス鋼(Cr 10.5%以上)とは全く別物です。錆を防ぐには表面処理や防錆管理が必要と覚えておきましょう。 hanshinmetalics.co(https://www.hanshinmetalics.co.jp/materials/51/)
参考:S45C・SCM材の溶接割れ原因と予熱対策(上村溶接技術百科)
特殊材料溶接技術百科 | 上村溶接研究所
「SCM420かSCM435か」は金属加工の現場でよく迷う選択です。 結論から言えば、熱処理の種類と求める性能で決まります。 n-factory004(https://n-factory004.com/scm435-vs-scm420-material-differences-and-applications/)
| 比較項目 | SCM420 | SCM435 |
|---|---|---|
| 炭素含有量 | 0.18〜0.23% | 0.33〜0.38% |
| 主な熱処理 | 浸炭焼入れ・焼戻し | 焼入れ・焼戻し(ズブ焼き) |
| 表面硬度 | HRC58〜62(浸炭後) | HRC46〜53(全体焼入れ後) |
| 芯部靭性 | 高い(低炭素で粘り強い) | やや低い |
| 溶接性 | 不向き(炭素当量0.50〜0.70) | さらに不向き |
| 主な用途 | 歯車・カム・シャフト | 高強度ボルト・軸・工具 |
renue.co(https://renue.co.jp/posts/heat-treatment-drawing-hrc-quenching-carburizing-nitriding-guide-2026)
SCM435以上の中炭素鋼に浸炭処理を施すと、過剰浸炭となり焼割れや靭性低下を招く可能性があります。 SCM420の「浸炭焼入れが前提」という設計思想を理解して使えば、SCM435では実現できない「高表面硬度+高芯部靭性」という組み合わせを手に入れられます。これが条件です。 anm7242(https://anm7242.net/pingye.sakura.ne.jp/carburizing/)
材質選定に迷った場合は、部品に要求される「表面硬さの数値」と「芯部への衝撃有無」を先に整理してから判断すると、選択ミスを防げます。 判断基準を明確にするのが最短ルートです。 n-factory004(https://n-factory004.com/scm435-vs-scm420-material-differences-and-applications/)
参考:SCM420・SCM435の特性比較と産業別適用事例の解説
鋼材SCM435とSCM420、どこが違う?産業別適用例を解説