炭素当量(Ceq)が0.4%以下なら、予熱なしで必ず安全に溶接できると思っていませんか?
炭素当量(Ceq)とは、鋼材に含まれる合金元素の溶接への影響を、炭素量(C)に換算して一つの数値で表したものです。JIS規格およびWES(日本溶接協会)で規定されている計算式は次の通りです。
| 式の名称 | 計算式(各元素は重量%) |
|---|---|
| JIS/WES(軟鋼・高張力鋼用) | Ceq = C + Si/24 + Mn/6 + Ni/40 + Cr/5 + Mo/4 + V/14 |
| IIW(国際溶接学会)式 | CE = C + Mn/6 + (Cu+Ni)/15 + (Cr+Mo+V)/5 |
| 道路橋示方書式 | Ceq = C + Mn/6 + Si/24 + Ni/40 + Cr/5 + Mo/4 + V/4 + (Cu/13)※ |
※Cu(銅)が0.5%以上の場合のみ加算
式の中の「分母の数値」が小さいほど、その元素の炭素当量への影響が大きいことを意味します。つまり、分母が小さいほど溶接性への悪影響が強い元素と考えてください。
| 元素 | 計算式の分母 | 影響の大きさ | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| C(炭素) | 基準(1) | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 硬度・強度向上 |
| Mo(モリブデン) | 4 | ⭐⭐⭐⭐ | 焼入れ性向上・高温強度保持 |
| Cr(クロム) | 5 | ⭐⭐⭐⭐ | 耐食性・硬度向上 |
| Mn(マンガン) | 6 | ⭐⭐⭐ | 強度・硬さ向上、脱酸剤 |
| V(バナジウム) | 14 | ⭐⭐ | 結晶粒微細化 |
| Si(ケイ素) | 24 | ⭐ | 脱酸・強度向上 |
| Ni(ニッケル) | 40 | 微小 | 靭性向上 |
例えば、Mo(モリブデン)は分母が「4」と小さいため、少量でも炭素当量を大きく押し上げます。モリブデンを多く含む鋼材(SCM材など)は高強度である反面、溶接にはより慎重な管理が必要です。つまり、分母の数値が溶接難易度のバロメーターです。
溶接情報センターは炭素当量の計算式と変態温度の詳細な関係を公開しています(溶接施工条件の検討に役立ちます)。
炭素当量と変態温度の計算式 - 溶接情報センター(JWES)
炭素当量の最大の実務活用場面は「予熱の要否判断」です。これが間違うと、溶接後数時間〜数日後に低温割れ(遅れ割れ)が発生します。気づきにくい。
一般的な目安として、Ceq値と溶接性・予熱の関係を以下に整理します。
| Ceq(%) | 溶接性の評価 | 予熱の目安 |
|---|---|---|
| 0.4%以下 | 良好・通常施工可能 | 原則不要 |
| 0.4〜0.6% | やや低下・管理が必要 | 推奨(低水素系溶接材料の使用も) |
| 0.6%超 | 不良・厳格な管理が必須 | 必須(板厚・拘束度に応じて高め設定) |
ただし、ここで注意が必要な点があります。Ceq 0.4%以下でも、板厚が増えるにつれ低温割れのリスクは上昇します。板厚25mm以上になると、拘束度(継手が動けない度合い)が高まり、同じCeq値でも予熱なしでは危険なケースが出てきます。
予熱の目的は大きく2つあります。まず「冷却速度を遅らせて硬化組織の形成を抑制すること」、次に「溶接部を100℃以上に保持することで拡散性水素を逃がすこと」です。拡散性水素が多いまま冷却されると、低温割れの引き金になります。これが原則です。
低温割れの発生要因は、①母材の炭素当量(化学成分)、②拡散性水素量、③溶接部の残留応力、④冷却速度(熱履歴)の4つが絡み合っています。Ceq値だけ見て安心するのは危険です。
なお、被覆アーク溶接棒を使う場合は、溶接棒の乾燥管理も重要です。吸湿した溶接棒を使うと拡散性水素量が跳ね上がり、炭素当量が低い材料でも割れが起きるリスクがあります。溶接棒の乾燥管理はセットで覚えておいてください。
炭素当量と溶接性の関係について、溶接情報センターが詳しく解説しています。
Q炭素鋼を類別して溶接するときの注意点 - 溶接情報センター(JWES)
炭素当量は溶接性だけでなく、溶接熱影響部(HAZ: Heat Affected Zone)の最高硬度(HVmax)を予測するためにも使われます。実験式として広く知られているのが以下です。
| 予測式 | 概要 |
|---|---|
| HVmax ≈ 1200 × Ceq − 200 | 鋼材の化学成分から溶接後のHAZ最高硬度を事前に推定する実験式 |
例えば、Ceq = 0.45%の鋼材の場合、HVmax = 1200 × 0.45 − 200 = 340 HV と推定されます。これはHV350を下回るため、割れの危険性は比較的低いと判断できます。一方、Ceq = 0.50%では HVmax ≈ 400 HV となり、低温割れのリスクが高まります。
業界では「HV350以下が安全の目安」とされています。HV350超えが要注意です。
硬度が高くなりすぎると何が起きるか。溶接熱影響部が硬くなるほど延性・靭性が低下し、脆性破壊を起こしやすくなります。これは特に厚板や拘束が強い継手で問題になります。
硬度管理の実務としては、施工後にHAZ部の硬度測定を行い、計算値と実測値を照らし合わせる確認作業が重要です。計算で「大丈夫なはず」でも、実際に測って確認することが品質保証の基本です。
なお、炭素量が0.6%を超えると焼入れ硬度はほぼ頭打ち(約62〜63 HRC程度)になるため、高炭素鋼では硬度の上昇よりも延性の著しい低下に注意が必要です。炭素量だけが条件ではありません。
鋼の熱処理・炭素量から最高焼入れ硬さを推定する方法(大一ステンレス工業)
「炭素当量(Ceq)」と「溶接割れ感受性組成(Pcm)」はどちらも溶接性の評価指標ですが、目的と使い分けが異なります。この違いを知らないと、誤った予熱管理につながりかねません。
| 項目 | Ceq(炭素当量) | Pcm(溶接割れ感受性組成) |
|---|---|---|
| 規格 | JIS・WES規定 | WES(日本溶接学会)規定 |
| 計算式 | C + Si/24 + Mn/6 + Ni/40 + Cr/5 + Mo/4 + V/14 | C + Si/30 + Mn/20 + Cu/20 + Ni/60 + Cr/20 + Mo/15 + V/10 + 5B |
| 得意な適用範囲 | 軟鋼・一般高張力鋼(C含有量が比較的高め) | 高張力鋼・厚板(C含有量が低め・低炭素系) |
| 特徴 | Cへの依存度が高い。従来から広く使われる | B(ボロン)まで含み、低C系鋼の割れ感受性を精密評価 |
Pcmの式にはボロン(B)が「5B」として含まれています。ボロンは少量(数十ppm)でも焼入れ性を大きく向上させる元素で、CeqよりPcmを使うほうが実態に近い評価ができます。これは使えそうです。
例えば、道路橋示方書(平成24年版)では、SM400(板厚25mm以下)のPcm上限値は「0.24%以下」と規定されています。同じ鋼材でも板厚が40mm超になれば要求値が変わる場合があり、一律に同じ判断基準を当てはめることはできません。
実務的な使い分けのポイントをまとめると以下のようになります。
Ceqだけ見ていれば十分、という思い込みは捨ててください。使う鋼材が変わったら計算指標も見直す習慣が大切です。
CeqとPcmの違いをわかりやすくまとめた実務向け資料はこちらが参考になります。
多くの金属加工現場で日常的に使われるSS400(一般構造用圧延鋼材)ですが、実はJIS G 3101では炭素(C)量そのものの上限値が規定されていません。これは意外ですね。
なぜそうなっているのか。SS400はあくまで「引張強さ400〜510 N/mm²」という機械的性質が保証されている規格であり、化学成分については不純物である燐(P)と硫黄(S)の上限値しか規定されていないのです。
つまり、SS400のミルシートには炭素量の記載がない場合があり、炭素当量(Ceq)の計算ができないケースが存在します。
溶接性保証なしというわけです。
実際のSS400の炭素含有量はおおむね0.15〜0.2%前後であることが多く、低炭素鋼に分類されます。薄板(50mm以下)であれば多くの場合、溶接は問題なく行えます。しかし「規格上の保証がない」という点は厳然たる事実です。
これが現場でどんなリスクになるか。板厚が厚くなると話が変わります。板厚が50mmを超えるSS400の溶接は、炭素量が不明なまま予熱管理の根拠を作れないため、非常に難しい判断を求められます。重要構造物やトレーサビリティが必要な溶接工事では、SS400ではなくSN材(建築構造用圧延鋼材)やSM材を選定する理由がここにあります。
さらに重要な情報があります。ミルシートにCeqやPcmを記載させるには、鋼材の発注時に明示的に指示する必要があります。
発注時に指示しないと、メーカーはCeq・Pcmの表示も、計算に必要な化学成分の表示も行いません。これは知らないと損します。
溶接施工計画を立てるとき、まずミルシートを確認することから始める習慣をつけてください。それが低温割れゼロへの第一歩です。
SS400の化学成分規定と溶接性についての詳細は以下を参照してください。
わかりやすい建築構造用鋼材「Q&A」集 SN材シリーズ編(日本鉄鋼連盟)