鉄材質一覧:鋼の種類とJIS規格記号ごとの特徴や用途

鉄材質には炭素鋼や合金鋼など多様な種類があり、それぞれJIS規格で記号が定められています。本記事では、代表的な鉄鋼材料の特徴や用途、加工性や熱処理による性質の変化までを網羅的に解説します。あなたの業務に最適な材質選びができていますか?

鉄材質の一覧

この記事でわかること
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鉄鋼材料の分類

炭素鋼、合金鋼、鋳鉄など、基本的な鉄の種類とその特徴が分かります。

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JIS規格と記号

SS400やS45Cといった、よく見る記号の具体的な意味を理解できます。

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加工と熱処理

材質ごとの加工のしやすさや、熱処理による硬度の変化について学べます。

鉄材質の主な種類と特徴:炭素鋼・合金鋼・鋳鉄の分類

 

金属加工の世界で最も身近な材料である「鉄」。しかし、一口に鉄と言っても、その性質は含まれる成分によって大きく異なります。鉄と炭素の合金である「鉄鋼」は、炭素の含有量によって厳密に定義が分かれており、これが材質の基本的な性格を決定づけます 。大きく分けると、「炭素鋼」「合金鋼」「鋳鉄」の3つに分類することができます 。それぞれの特徴を理解することが、適切な材料選定の第一歩です。
炭素鋼 (Carbon Steel)
炭素鋼は、その名の通り鉄と炭素を主成分とする合金で、炭素の含有量が0.02%〜約2.1%のものを指します 。炭素量によってさらに3つに分類され、それぞれ異なる特徴を持ちます。

  • 低炭素鋼 (C ≦ 0.25%): 柔らかく、延性に富んでいるため、プレス加工や曲げ加工に適しています。SS400などが代表的で、建築資材や自動車のボディパネルなど、幅広い用途で使われます 。溶接性も良好です。
  • 中炭素鋼 (0.25% < C < 0.6%): 強度と靭性のバランスが良い材質です。熱処理(焼入れ・焼戻し)によって硬度を高めることができるため、機械部品に多用されます 。S45CやS50Cがこれに該当し、歯車や軸、ボルトなどに利用されます 。
  • 高炭素鋼 (C ≧ 0.6%): 非常に硬く、耐摩耗性に優れていますが、その反面もろくなります。工具鋼(SK材)が代表で、切削工具や金型、ばねなどに使われます 。

合金鋼 (Alloy Steel)
炭素鋼に、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)などの元素を1種類以上添加し、性質を特定の方向に強化した鋼が合金鋼です 。まるで料理の隠し味のように、これらの元素が鋼のポテンシャルを最大限に引き出します。目的別に様々な種類があります。

  • 構造用合金鋼: 強度や靭性、耐食性を向上させたもので、SCM材(クロムモリブデン鋼)やSNCM材(ニッケルクロムモリブデン鋼)が代表的です。自動車のクランクシャフトや航空機の部品など、高い信頼性が求められる箇所に使用されます 。
  • 工具鋼: 高炭素鋼にさらに合金元素を加え、高温での硬度維持や耐衝撃性を高めたものです。SKD11ダイス鋼)などが有名です 。
  • ステンレス鋼: クロムを10.5%以上含み、表面に不動態皮膜を形成することで非常に高い耐食性(錆びにくさ)を実現した鋼です 。SUS304(オーステナイト系)やSUS430(フェライト系)など多くの種類があり、家庭用品から化学プラントまで用途は多岐にわたります 。

鋳鉄 (Cast Iron)
炭素含有量が約2.1%を超える鉄合金で、融点が低く流動性が良いため、複雑な形状の製品を鋳造(溶かした金属を型に流し込む製法)で作るのに適しています 。振動減衰能や耐摩耗性に優れるという特徴もあります。代表的なものに、安価で加工しやすい「ねずみ鋳鉄」や、強度と延性を向上させた「ダクタイル鋳鉄」があります。マンホールの蓋や水道管、自動車のエンジンブロックなどに使われています。
以下の参考リンクは、鉄鋼材料の種類とそれぞれの用途について、JIS規格の記号と共に非常に分かりやすくまとめられています。
株式会社ミスミグループ本社 技術情報:金属材料の種類と用途1

鉄材質のJIS規格と記号の読み方:SS400やS45Cの意味

現場で飛び交う「SS400」や「S45C」といった記号。これらは日本産業規格(JIS)によって定められた、鉄鋼材料の「身分証明書」のようなものです 。この記号を正しく読み解くことで、その材料が持つおおよその性質や用途を把握することができます。記号は通常、材質の種類を示すアルファベットと、強度や炭素量などを示す数字の組み合わせで構成されています 。
例えば、記号の先頭に来るアルファベットには以下のような意味があります。

  • S (Steel): 鋼(Steel)全般を意味する最も基本的な記号です。S45CやSCM435のように、多くの鋼材記号の頭につきます。
  • SS (Steel Structure): 一般構造用圧延鋼材を示します 。建築物や橋梁、船舶など、一般的な構造物に使われる材料です。
  • F (Ferrum): ラテン語の「鉄(Ferrum)」に由来し、主に鋳鉄品や鍛造品に使われます。
  • SUS (Steel Use Stainless): ステンレス鋼を示す記号です。「サス」と呼ばれ、非常に馴染み深い記号の一つです 。

これらのアルファベットに続く数字が、材料の具体的な特性を表します。代表的な鉄鋼記号とその意味を見てみましょう。

JIS記号 名称 概要と意味 主な用途
SS400 一般構造用圧延鋼材 「SS」は一般構造用、「400」は最低引張強さが400N/mm²(メガパスカル)であることを示す。市場に最も広く流通している安価な鋼材の一つ 。 建築、橋梁、船舶、車両、機械部品など
S45C 機械構造用炭素鋼 「S」は鋼、「45」は炭素含有量が約0.45%であることを示す。「C」はCarbon(炭素)の略。熱処理による硬化が可能 。 歯車、シャフト、ボルト、ナットなど強度が必要な機械部品
SCM435 クロムモリブデン鋼 「SCM」は構造用クロムモリブデン鋼を示す。「4」はクロムモリブデン鋼のグループ番号、「35」は炭素含有量が約0.35%であることを示す 。 自動車のクランクシャフト、高強度のボルト類など
SKD11 合金工具鋼 (ダイス鋼) 「SKD」は合金工具鋼のダイス鋼系統を示す。「11」はその中の規格番号。冷間金型によく使われる 。 プレス金型、抜き型、ゲージなど
SUS304 オーステナイト系ステンレス鋼 最も代表的なステンレス鋼で、「18-8ステンレス」とも呼ばれる(クロム18%、ニッケル8%を含むため)。耐食性、溶接性が良好 。 厨房設備、食品設備、建築内外装、化学設備など

このように、JIS記号は材料の化学成分や機械的性質をコード化したものであり、これを理解することで、図面に書かれた指示の意図を正確に読み取り、適切な材料選定や加工方法の検討に繋げることができます。特にSS材とS-C材の違いは重要で、SS材が「強さ」を保証するのに対し、S-C材は「化学成分(炭素量)」を規定しているという根本的な違いがあります。そのため、S45Cは熱処理によって性質を調整することが前提の材料と言えるでしょう。
鉄鋼記号の一覧や詳細な規定については、以下の日本鉄鋼連盟のウェブサイトが役立ちます。
一般社団法人 日本鉄鋼連盟

鉄材質の加工性と熱処理による硬度の変化

鉄鋼材料の価値は、そのままで決まるわけではありません。目的の形状に加工し、熱処理を施すことで、その真価が発揮されます。材質によって「加工のしやすさ(加工性)」は大きく異なり、また熱処理によって「硬さ(硬度)」を劇的に変化させることができます 。この二つの要素は、製品の品質とコストを左右する重要なポイントです。
加工性とは?
加工性には、切削加工のしやすさを示す「被削性」や、曲げたり伸ばしたりする塑性加工のしやすさを示す「延性」などがあります。一般的に、硬い材料は削りにくく(被削性が悪い)、柔らかい材料は削りやすい傾向にあります。しかし、柔らかすぎると工具に絡みついてしまい、逆に加工しにくい場合もあります。

  • 被削性が良い材料: 炭素鋼に硫黄(S)や鉛(Pb)などを添加した「快削鋼(SUM材)」が有名です 。これらは切りくずが細かくなりやすく、工具の寿命を延ばし、生産効率を大幅に向上させることができます。
  • 加工が難しい材料: ステンレス鋼、特にSUS304などのオーステナイト系は、粘り気が強く加工硬化(加工によって硬くなる現象)しやすいため、難削材として知られています。

熱処理による硬度のコントロール
熱処理は、鉄鋼材料に秘められた潜在能力を引き出す「魔法」のような技術です 。適切な温度に加熱し、適切な速度で冷却することで、同じ材料でも全く異なる性質を持たせることができます 。
🔥 代表的な熱処理の種類

  • 焼入れ (Quenching): 高温状態から水や油で急冷することで、組織をマルテンサイトという非常に硬い状態に変化させます。S45Cなどの炭素鋼や合金鋼の硬度を飛躍的に高めることができます 。
  • 焼戻し (Tempering): 焼入れした鋼は硬い反面、非常にもろくなっています。そこで、焼入れ後に再度、比較的に低い温度で加熱することで、硬さを少し下げる代わりに「靭性(粘り強さ)」を回復させます。
  • 焼なまし (Annealing): 加工で硬くなった材料を柔らかくし、組織を均一化するために行います。加工前の材料や、加工途中の材料に施されます。
  • 焼ならし (Normalizing): 鋼材の組織を標準的な状態に戻し、機械的性質を改善する目的で行われます。鋳造品や鍛造品の内部応力を取り除くためにも重要です。

例えば、S45Cの丸棒を例にとると、熱処理をしていない「生材」の状態では硬度HRC20程度ですが、適切な焼入れ・焼戻しを行うことでHRC45〜55程度まで硬度を高めることができます 。この硬度の変化は、材料内部の原子の並び方(結晶構造)が変化することによって起こります。熱処理の温度や冷却速度を精密にコントロールすることが、狙い通りの硬度を得るための鍵となります。
熱処理前後の加工工程も重要です。SKD11のような工具鋼は、生材の状態でも比較的硬い(HRC25程度)ですが、まず切削加工で大まかな形状を作り、その後に熱処理で硬化させ、最後に研磨加工で精密に仕上げるのが一般的です 。
熱処理の基本的な種類や目的については、以下の資料が図解も豊富で理解の助けになります。
大同熱処理工業株式会社 熱処理用語辞典

鉄材質の意外な用途と特殊鋼の世界

鉄といえば、ビルや橋、自動車の骨格など、私たちの生活を支える巨大な構造物を思い浮かべるかもしれません。しかし、鉄鋼材料の活躍の場はそれだけにとどまりません。最先端技術の分野では、特殊な機能を持たせるために開発された「特殊鋼」が、意外な場所で重要な役割を担っています。
💡 形状記憶合金としての鉄
形状記憶合金といえば、ニッケルチタン合金が有名ですが、実は鉄系の形状記憶合金も実用化されています。鉄・マンガン・シリコンなどをベースにした合金で、一度記憶させた形状を、加熱することによって復元する性質を持ちます。安価で加工性が良いという利点から、建物の耐震補強材や、配管の継手などに利用されています。例えば、地震で歪んだ部材が、火災の熱によって元の形状に戻り、建物の倒壊を防ぐといった応用が研究されています。
🔋 省エネルギーに貢献するアモルファス合金
通常の金属が原子の規則正しい結晶構造を持つのに対し、意図的に原子をバラバラの状態で凝固させた「アモルファス(非晶質)合金」という特殊な金属があります。鉄を主成分とするアモルファス合金は、非常に優れた磁気特性を持ち、特に変圧器(トランス)の鉄心として使用された場合、電力損失を劇的に低減することができます。家庭や工場に送られる電気の多くは変圧器を経由するため、この材料の普及は社会全体の省エネルギーに大きく貢献します。見た目はただの薄い金属リボンですが、現代社会のエネルギー効率を陰で支える重要な材料です。
⚔️ 日本刀の原料「玉鋼」と現代に生きる「餅鉄」
歴史に目を向ければ、日本刀の原料として知られる「玉鋼(たまはがね)」も特殊な鉄です。これは、砂鉄を原料に「たたら製鉄」という日本古来の製法でのみ作られる、非常に純度の高い鋼です。不純物が極めて少ないため、鍛錬と熱処理によって、硬さと靭性という相反する性質を高いレベルで両立させることができます。現代では、この「たたら製鉄」の伝統を守る職人によって作られ、刀剣の製作や文化財の修復に用いられています。また、同じく砂鉄から作られた「餅鉄(もちてつ)」は、古代の鋳造品にも使われた歴史ある鉄です 。
👂 振動を吸収する制振鋼板
鉄は音を伝えやすい性質を持ちますが、その性質を逆手に取り、振動や騒音を吸収するために開発されたのが「制振鋼板」です。これは、2枚の鋼板の間に粘弾性の高い樹脂を挟み込んだサンドイッチ構造をしています。自動車のダッシュパネルや床材、家電製品(洗濯機やエアコンの室外機など)、建築物の床や壁に使われ、振動によって発生する不快な騒音を熱エネルギーに変換して吸収します。静かな車内空間や生活環境は、こうした特殊な鉄鋼材料の技術によって支えられているのです。
このように、鉄鋼材料は単に「硬くて丈夫」なだけでなく、様々な機能を付与することで、私たちの知らないところで最先端技術や快適な生活を支えています。次に金属部品を見る機会があれば、それがどのような目的で選ばれた特殊な鉄なのか、想像を膨らませてみるのも面白いかもしれません。

 

 


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