金属加工は、目的の形状や機能を持つ製品を生み出すために、金属材料に様々な変化を加える技術の総称です 。その方法は多岐にわたりますが、大きく分けて、不要な部分を取り除く「除去加工」、材料を曲げたり伸ばしたりして形を変える「成形加工」、そして材料を付け加える「付加加工」の3つに分類されます 。特に、部品製造の現場で中心的な役割を果たすのが除去加工です 。
除去加工の基本的な流れは以下のようになります。
この流れの中で行われる除去加工には、いくつかの代表的な種類があります。
これらの除去加工は、それぞれ得意なことや特徴が異なります 。そのため、製品に求められる精度や形状、コストに応じて、最適な加工方法を単独で、あるいは組み合わせて選択することが、高品質なものづくりには不可欠です 。
金属加工において、製品の性能を最終的に決定づけるのが「精度」です 。特に精密機械の部品などでは、ミクロン単位の寸法精度や、鏡のような滑らかな表面が求められます。この高精度な仕上げを実現するために欠かせないのが、研削加工と熱処理の工程です。
研削加工は、高速回転する砥石を使って、工作物の表面を少しずつ削り、形状や寸法を精密に整える技術です 。切削加工の後に行われることが多く、より高い寸法精度と優れた表面粗さを得ることができます。
参考)除去加工とは?その種類(分類)と概要を初心者向けに解説
研削加工で精度を高めるためのコツは以下の通りです。
- 適切な加工条件の設定: 砥石の回転速度、工作物を送る速度、一度に削る量(切り込み量)などの加工条件を最適化することが重要です 。これらのバランスが崩れると、精度が落ちるだけでなく、加工面に「焼け」と呼ばれる変質が起きてしまうこともあります。
- 温度管理の徹底: 加工点では非常に高い熱が発生するため、クーラント(冷却潤滑油)を適切に使用して冷却し、熱による工作物の変形(熱変位)を防ぐことが不可欠です 。
一方、熱処理は、金属を加熱・冷却することで、その内部組織を変化させ、硬さや粘り強さといった機械的性質を改善する技術です 。どれだけ精密に加工しても、材料自体の強度が不足していては意味がありません。
熱処理が精度に与える影響と、そのコツは次の通りです。
- 硬度と靭性の両立: 部品には、硬さだけでなく、衝撃に耐えるしなやかさ(靭性)も求められます。硬度を上げる「焼入れ」だけでは、金属は硬くなる反面、脆くなってしまいます。そのため、焼入れ後に、少し低い温度で再度加熱する「焼戻し」を行い、硬度と靭性のバランスを最適に調整する必要があります 。
- 精密な温度制御: 熱処理は温度管理が命です 。加熱温度や冷却速度がわずかに違うだけで、狙った通りの金属組織が得られず、品質にばらつきが生じてしまいます。
このように、形状を創り出す研削加工と、材質を最適化する熱処理は、車の両輪のような関係にあります。両方の工程で細心の注意を払い、ノウハウを蓄積していくことが、他には真似できない高精度な製品を生み出す鍵となるのです。
研削加工と熱処理の関係性について、より専門的な情報が掲載されています。
初心者もわかるシャフト研磨の基本と熱処理の関係解説 | 日興機械株式会社
金属製品は、形作られた後、そのままで使用されることは稀です。多くの場合、製品の寿命を延ばし、付加価値を高めるために、「表面処理」という最終工程が施されます 。表面処理は、金属の表面に新たな層(皮膜)を形成したり、表面そのものの性質を変化させたりする技術の総称です。その中でも代表的なものが「めっき」です。
表面処理の主な目的は以下の3つに大別されます。
めっきは、これらの目的を達成するための非常に効果的な表面処理技術の一つです 。電気や化学的な方法を用いて、金属の表面に別の金属の薄い膜を析出させます。めっきには様々な種類があり、使用する金属によって得られる効果が異なります。
| めっきの種類 | 主な目的・特徴 | 具体的な用途例 |
|---|---|---|
| 亜鉛めっき | 防錆効果が非常に高い(犠牲防食作用) | 建築用のボルト、ナット、自動車の足回り部品 |
| ニッケルめっき | 耐食性に優れ、硬さも得られる。装飾めっきの下地としても利用される。 | 水道蛇口、機械部品、装飾品 |
| クロムめっき | 非常に硬く、耐摩耗性に優れる。美しい光沢を持つ。 | 自動車のグリル、工具、ピストンリング |
| 金めっき | 電気伝導性が高く、化学的に安定している。 | スマートフォンの電子回路、コネクタ端子 |
製品に求められる性能や使用環境、コストなどを総合的に考慮し、最適な表面処理方法を選択することが、製品の信頼性と価値を最大限に引き出す上で極めて重要です 。一見、地味な工程に見えるかもしれませんが、表面処理はものづくりの品質を支える、なくてはならない基幹技術なのです。
参考)製造業における表面処理の重要性と応用|ショットブラストの教科…
めっきの種類と目的について、図解で分かりやすく解説されています。
表面処理とは?金属加工の表面処理の種類と表面処理でできること | モノト
今日の金属加工の現場では、生産性の向上、品質の安定化、そして技能者不足への対応として、自動化が急速に進んでいます。その中核を担っているのが、「NC(Numerical Control:数値制御)」技術と、それを発展させた「マシニングセンタ」です 。
NCとは、工具の移動距離や速度といった加工に関する情報を、数値化されたプログラム(NCプログラム)によって制御する仕組みです。かつては熟練技能者が手作業で行っていた複雑な加工も、NC工作機械を使えば、プログラムを入力するだけで、正確かつ迅速に再現することができます。
そして、このNC技術をさらに進化させ、自動化を推し進めたのがマシニングセンタです 。マシニングセンタには、以下のような画期的な機能が備わっています。
参考)NC工作機械の特徴や産業用ロボットとの違いを解説-マシロボ
- 多軸制御: 従来の上下・前後・左右の3軸(X, Y, Z軸)の動きに加えて、回転軸や傾斜軸が加わった「5軸制御マシニングセンタ」も普及しています。これにより、一度の段取り(工作物の固定)で、様々な角度から加工を行うことができ、航空機の部品のような複雑な曲面を持つ形状も効率的に削り出すことができます。
- 複合加工: 旋盤加工(回転させて削る)とフライス加工(工具を回転させて削る)など、異なる種類の加工を1台の機械に集約した複合加工機も登場しています。これにより、複数の機械へ工作物を移動させる手間が省け、リードタイムの短縮と精度の向上が実現します。
マシニングセンタの活用は、金属加工の現場に革命をもたらしました。
もちろん、マシニングセンタを最大限に活用するためには、適切なNCプログラムを作成する知識、最適な切削工具や加工条件を選定するノウハウが不可欠です。しかし、この強力なツールを使いこなすことが、現代の製造業における競争力の源泉となっていることは間違いありません。
マシニングセンタの基本的な仕組みが動画で分かりやすく解説されています。
マシニングセンタ | 切削加工 | なるほど!機械加工入門 | キーエンス
金属加工の現場、特に切削加工や研削加工において、機械から勢いよく吹き付けられている液体を見たことがあるでしょうか。あれは「クーラント」または「切削油剤」と呼ばれるもので、実は高精度・高効率な加工を実現するために、そして工具や機械を守るために、非常に重要な役割を担っています 。多くの人が単なる「冷却水」と思いがちですが、その機能は多岐にわたります。
クーラントが持つ、意外と知られていない4つの重要な役割を見ていきましょう。
このように、クーラントは金属加工の品質と効率を支える「縁の下の力持ち」です。しかしその一方で、環境への影響という側面も無視できません。クーラントは使用するうちに劣化し、バクテリアが繁殖して腐敗することもあります。劣化したクーラント(廃液)は、産業廃棄物として適切に処理する必要があり、そのコストや環境負荷が課題となっています。
近年では、この環境問題に対応するため、様々な取り組みが進んでいます。
- 精密なろ過装置の導入: 高性能なフィルターでクーラント中の不純物を常に取り除くことで、液の寿命を延ばし、ランニングコストと環境負荷を同時に低減できます 。
- MQL(Minimum Quantity Lubrication): 必要最小限の油剤を霧状にして加工点に供給する技術です。クーラントの使用量を劇的に削減できるため、環境に優しい加工方法として注目されています。
単なる液体と侮るなかれ。クーラントを適切に管理し、環境に配慮した技術を取り入れていくことも、これからの金属加工従事者に求められる重要な視点と言えるでしょう。