磁歪材料の例と種類・用途・逆磁歪効果の活用

磁歪材料とはどんな金属なのか、具体的な例や種類・用途、逆磁歪効果まで金属加工従事者向けにわかりやすく解説。あなたの現場でも活用できるかも?

磁歪材料の例と種類・逆磁歪効果・現場活用まで徹底解説

鉄は磁場をかけると「縮む」のに、ニッケルは逆方向に変形します。


この記事でわかること
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磁歪材料の基本と代表例

鉄・ニッケル・コバルトから希土類合金まで、具体的な材料名と磁歪量の数値を解説します。

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超磁歪材料と逆磁歪効果の活用

通常の1000倍以上の変位を示す超磁歪材料の特性と、センサ・アクチュエータへの応用を紹介します。

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金属加工現場での実用事例

トルクセンサ・超音波振動子・振動発電など、製造現場で今すぐ参考になる実例を具体的に紹介します。


磁歪材料とは何か・鉄・ニッケル・コバルトを例に基本を理解する


磁歪(じわい)とは、強磁性体に外部から磁場をかけると材料の形状がわずかに変化する現象のことです。1842年にイギリスの物理学者ジェームズ・プレスコット・ジュールが鉄で発見し、「ジュール効果」とも呼ばれています。金属加工の現場ではあまり意識されませんが、実は鉄系材料を扱う設備や装置の至るところで、この現象が起きています。


磁歪の大きさを示す数値を「磁歪定数(λs:飽和磁歪)」といい、単位には ppm(100万分の1)が使われます。身近な例でいうと、長さ1mの棒の場合に「10 ppm」ならわずか0.01mm変化する、という水準です。カッターナイフの刃厚が約0.1mmなので、その1/10以下の微小変形です。


主要な強磁性体の飽和磁歪の値を以下の表に示します。







































材料名 飽和磁歪 λs(ppm) 磁歪の方向
鉄(Fe) 約 −7 負の磁歪(収縮)
コバルト(Co) 約 −60 負の磁歪(収縮)
ニッケル(Ni) 約 −34 負の磁歪(収縮)
鉄-コバルト合金(FeCo) 約 +70 正の磁歪(伸長)
ガルフェノール(Fe-Ga合金) 200〜300 正の磁歪(伸長)
テルフェノール-D(Tb-Dy-Fe) 800〜1,600 正の磁歪(伸長)


ここで重要なのが「正の磁歪」と「負の磁歪」の違いです。鉄やニッケルは磁場をかけると磁化方向に収縮します(負の磁歪)。一方、Fe-Co合金やFe-Ga合金は磁化方向に伸長します(正の磁歪)。つまり同じ強磁性体でも変形の向きが逆になります。これは設計上の大きなポイントです。


磁歪が生じるメカニズムは、原子スケールの話です。強磁性体内部には「磁区」と呼ばれる領域があり、その中では電子スピンが一定の方向に揃っています。外部磁場を加えると磁区が外部磁場の方向に揃い、それに伴って結晶格子の間隔が変化することで、材料全体の形状が変化します。原子の電子軌道とスピンが連動して変形を生み出す、微細なメカニズムです。


金属加工に従事している方にとって重要な点は、磁歪が「材料強度や形状精度に影響を与えうる要因」であるということです。たとえば、磁場の影響を受ける環境に鉄系部材を置いた場合、想定外の寸法変化が起きる可能性があります。これが基本です。


参考:東北大学工学部 材料科学総合学科「磁歪ってなに?」では、磁歪現象の原理と応用について研究者レベルの解説が掲載されています。


東北大学工学部「磁歪ってなに?」


磁歪材料の代表例:ガルフェノール・テルフェノール-Dの特性と選び方

金属加工や産業機器の設計で「磁歪材料を使いたい」となったとき、真っ先に候補に上がるのがガルフェノール(Galfenol/Fe-Ga合金)とテルフェノール-D(Terfenol-D/Tb-Dy-Fe合金)の2種類です。それぞれの特性をしっかり理解しておくことで、用途に合わせた選択ができます。


まずテルフェノール-Dは、テルビウム(Tb)・ジスプロシウム(Dy)・鉄(Fe)の化合物で、1970年代にアメリカ海軍研究所が開発しました。飽和磁歪は800〜1,600 ppmと非常に大きく、通常の磁歪材料(鉄で約7 ppm)と比べると100〜200倍以上もの変形量を示します。長さ1mの棒で1.6mmも変化するイメージです。軍用機の翼アクチュエータや潜水艦の音響装置にも採用されてきました。


ただし、テルフェノール-Dにはデメリットがあります。希土類元素を大量に使用しているため製造コストが非常に高い点、単結晶の育成が必要で加工に専門的な工程が必要な点、機械的な靭性(粘り強さ)が低く脆いという点です。精密加工や量産品への採用が難しいのはそのためです。


一方のガルフェノール(Fe-Ga合金)は、2000年頃からアメリカ海軍研究所で本格的に研究が進んだ鉄ベースの磁歪材料です。磁歪量は200〜300 ppmとテルフェノール-Dより小さいですが、鉄ベースなので延性があり、圧延や切削などの一般的な金属加工が可能という大きな利点があります。これは使えそうです。住友金属鉱山が開発したFe-Ga磁歪合金単結晶は、66mm×66mmまでの四角柱形状での育成に成功しており、様々なサイズへの加工対応力も高まっています。


2つを比較するとこのようになります。


































項目 テルフェノール-D ガルフェノール(Fe-Ga)
磁歪量 800〜1,600 ppm(◎) 200〜300 ppm(○)
機械的特性 脆い(△) 延性あり・加工しやすい(◎)
製造コスト 高コスト(△) 比較的低コスト(○)
結晶配向制御 必要 応力熱処理が必要
主な用途 ソナー・大出力アクチュエータ 振動発電・センサ・精密アクチュエータ


近年は、大阪大学が研究を進める「Cu-Coフェライト(銅コバルトフェライト)」という新たな磁歪材料も注目されています。希土類元素を一切使わず、歪み量は約320〜470 ppm(|ΔL/L|)とガルフェノールを上回る水準を示しており、製造コスト面での優位性も期待されています。結晶配向制御や後処理が不要という点も、量産に向いた材料特性といえます。


用途に応じた選び方の基準は「大きな変位が必要か、それとも機械的耐久性や加工しやすさを優先するか」で決まります。コストと特性のバランスが原則です。


逆磁歪効果を利用した磁歪センサの原理とトルクセンサへの応用例

磁歪効果には「逆方向」の現象もあります。磁歪効果が「磁場→形状変化」であるのに対し、逆磁歪効果(ビラリ効果)は「力(応力)→磁気特性の変化」という現象です。材料に応力を加えると、その材料の透磁率(磁気の通りやすさ)が変化する、という性質を利用します。


逆磁歪効果を用いたセンサの中で、金属加工・自動車・産業機械の分野で最も実用化が進んでいるのが「磁歪式トルクセンサ」です。NSK(日本精工)や日立Astemoなどが自動車向けに実用化を進めており、シャフトにトルクが加わると±45°方向に引張・圧縮応力が働き、その応力によって磁歪材料の透磁率が変化します。この変化をコイルのインダクタンス変化として電気信号に変換することで、非接触でトルクを計測できます。


磁歪式トルクセンサが優れている理由は3点あります。


- 非接触計測が可能:シャフトに直接配線する必要がなく、摩耗やノイズ混入が少ない
- 高い応答速度:回転中のシャフトのトルク変化をリアルタイムで検出できる
- 耐久性が高い:機械的な接触部がないため、長期使用でも精度が劣化しにくい


電動アシスト自転車のペダル踏力センサも、この逆磁歪効果を応用した製品の代表例です。ペダルに取り付けられた磁歪膜(Fe-Ni合金めっき)に踏力が加わると透磁率が変化し、その変化がコイルのインダクタンス変化として検出されます。この信号でモーターの回転を精密にコントロールしています。毎日使っている電動アシスト自転車に、実は磁歪技術が入っているのは意外ですね。


また、橋梁のインフラ点検にも応用が広がっています。関西大学の事例では、橋桁と橋脚の間に円柱状のFe-Ga磁歪材料を使ったセンサデバイスを挟み込み、橋上を車両が通過したときの振動を電圧信号として取得。その信号から橋の健全性を診断する自立型センサシステムの研究が進んでいます。


金属加工の現場での応用として参考になるのは、切削工具や研削工具に加わる荷重(切削抵抗)を磁歪センサで非接触計測するという方向性です。工具の先端に磁歪材料を組み込み、加工中の応力変化をリアルタイムで監視することで、工具摩耗の兆候を早期検知する研究も進んでいます。加工品質の安定化につながる技術です。


参考:車載トランスミッション用磁歪式トルクセンサの詳細は、プロテリアル(旧日立金属)の技術報告書に掲載されています。


プロテリアル 技術報告「車載トランスミッション用磁歪式トルクセンサー」(PDF)


磁歪材料を使った超音波振動子の例と金属加工への具体的な応用

磁歪材料の活用として、金属加工従事者にとって最も身近な用途のひとつが「超音波振動子」です。磁歪振動子とは、コイルに交流電流を流すことで磁場を周期的に変化させ、磁歪効果によって材料を機械的に振動させる素子のことです。周波数が20kHz以上になると、人間には聞こえない超音波の振動として利用できます。


超音波洗浄機の振動子には、かつてニッケル系の磁歪材料が多く使われていました。この構造は現在でも大出力の産業用超音波洗浄機に採用されており、切削油金属粉が付着した精密部品の洗浄に活用されています。圧電素子(セラミック系)と比較して、磁歪型は機械的強度が高く、大出力で安定した振動が得られるのが特徴です。


超音波振動を工具に与える「超音波援用切削」という加工法も実用化されています。工具に10〜20マイクロメートル(μm)程度の振幅・20〜40kHzの超音波振動を重畳させることで、切削抵抗の低減・切りくずの細断・加工面粗さの改善といった効果が得られます。難削材(チタン合金インコネルなど)の加工や、深穴加工での切りくず排出改善に特に効果的です。


🔍 超音波振動援用切削の主なメリットをまとめます。


- 切削抵抗の低減:通常切削に比べて切削力が20〜40%低下するケースが報告されています
- 加工面粗さの向上:鏡面に近い仕上げ面を得やすくなります
- 工具寿命の延長:断続的な切削により工具の熱負荷が減少します
- 難削材対応:チタン・炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の加工精度が向上します


また、魚群探知機のトランスデューサー(変換器)も磁歪材料が活躍する分野のひとつです。ニッケルや鉄-コバルト系の磁歪材料でできた振動子に交流磁場をかけることで、超音波を水中に発信し、海底からの反射波を受信してターゲットの位置を検出します。漁業用だけでなく、港湾設備の水中構造物点検や、水中の異物検知にも使われています。


超磁歪材料を用いたアクチュエータは、長さ1cmの素子で最大数十マイクロメートルの変位と400kgf/cm²(1cm²で400kgの重量を動かせる力)の出力応力を持ちます。TDKが量産したテルフェノール系超磁歪アクチュエータは、1マイクロ秒という高速応答と数ボルトの低電圧駆動が特長で、自動車の燃料噴射インジェクタのバルブ駆動速度を従来の10倍に向上させる応用も検討されていました。こうした特性は精密加工機の微小送り機構や、工作機械の振動制御(アクティブ除振)にも応用可能です。


磁歪振動発電の仕組みと工場IoTへの活用例・電磁鋼板を使った最新動向

磁歪材料の「逆磁歪効果」を使うと、振動エネルギーを電気に変換する「振動発電」が実現できます。これがエネルギーハーベスティング(環境発電)と呼ばれる技術で、製造現場のIoT化において非常に注目されているポイントです。


仕組みはシンプルです。磁歪材料の周囲にコイルを巻き、外部磁場をかけておきます。振動が加わると磁歪材料がたわみ、逆磁歪効果によって内部の透磁率が変化します。透磁率の変化はコイルを貫く磁束の変化を意味し、ファラデーの電磁誘導の法則によってコイルに起電力が生じます。この電力を取り出す、というのが基本的な流れです。圧電素子を使った振動発電に比べて、磁歪型は大出力が得られる点と機械的な耐久性が高い点が強みです。


日鉄ケミカル&マテリアル(日本製鉄グループ)は2025年の技術報告で、電磁鋼板(一方向性電磁鋼板:GO)を磁歪振動発電材料として活用することに成功した事例を発表しています。特筆すべき点は、従来は「磁歪が小さいため発電材料として非適」とされていたGO材に、残留応力の制御を加えることで高い発電性能を引き出した点です。これは意外ですね。弾き振動実験では最大59Vのピーク電圧・6.2 mWsの発電量が確認され、Zigbee®や Bluetooth®を用いた無線通信の駆動に成功しています。また、真空ポンプ上での連続振動環境(加速度約15 m/s²・周波数100 Hz)でも30分の蓄電後にLoRa無線通信が動作することを確認しています。


この技術が金属加工現場にとって意味するのは次のことです。


- 電池交換不要のセンサが実現:モーターや圧縮機などの振動環境に置くだけで自立電源になります
- 配線コスト削減:電源ケーブルの配線が不要になり、設備のレイアウト変更への対応が容易になります
- メンテナンスフリー化:電池切れによるセンサダウンタイムがゼロになります


山梨県工業技術センターの報告でも、磁歪振動発電材料を使った「外部電源・電池不要の完全ワイヤレス無線センサ」の研究開発が進んでいることが報告されています。金属加工現場にある旋盤や加工センターは常に振動を発生しています。つまり、その振動そのものを電源として活用できる可能性があるということです。


振動発電デバイスの導入を検討する際は、金沢大学の振動発電研究室(V-GENERATOR)や、日本製鉄グループが進める磁歪振動発電モジュールの事例資料を参照することで、現場の振動条件との適合性を確認することができます。


参考:日本製鉄グループによる磁歪振動発電技術の開発と工場適用事例の詳細は以下に掲載されています。


日本製鉄技報「磁歪振動発電技術の開発と適用事例」(PDF)


磁歪材料の選定で失敗しないための独自視点:「磁歪が悪さをする場面」を知る

ここまで磁歪材料の「便利な使い方」を解説してきましたが、金属加工従事者にとって見落とせない視点があります。それは「磁歪が意図せず悪影響を及ぼすケース」です。これを知らないと、現場で原因不明のトラブルに悩まされる可能性があります。


最も典型的なのが変圧器の騒音問題です。変圧器の鉄心には電磁鋼板(ケイ素鋼)が使われています。交流電流が流れると、鉄心の磁束が50Hz〜60Hzで周期的に変化し、磁歪による形状変化が繰り返されます。この微小な振動が変圧器のブーンという騒音(コイル鳴き)の正体です。都市近郊や工場内に設置された変圧器でこの騒音が問題になるケースがあり、対策として「低磁歪の方向性電磁鋼板(高磁束密度GO材)」を採用することが有効とされています。


もうひとつの落とし穴は「加工による磁歪特性の変化」です。Fe-Ga合金(ガルフェノール)などの磁歪材料を切削・研削などの機械加工にかけると、加工ひずみや加工誘起応力が材料内部に残留します。これが磁歪特性を大幅に変化させることがあります。結晶配向が乱れると磁歪量が設計値より著しく低下するため、磁歪材料の仕上げ加工には応力熱処理や電解研磨などのひずみ除去プロセスが必要です。加工後の特性確認が条件です。


また、パーマロイ(Fe-Ni合金)のように「意図的に磁歪をゼロに近づけた材料」があることも、知っておくと役立ちます。パーマロイはFe約80%・Ni約20%の組成で、FéとNiの正負の磁歪が互いに打ち消し合うことで飽和磁歪がほぼゼロになります。磁歪によるノイズ発生を嫌う高感度磁気センサのコア材や、精密な電気計器のシールド材に使われています。磁歪を「積極的に使う材料」と「徹底的に排除する材料」の両方が存在するのです。


整理しておくべき磁歪の「困る場面」は以下の通りです。


- ⚠️ 変圧器・モータの騒音:電磁鋼板の磁歪が振動を引き起こす
- ⚠️ 磁気センサの誤差:磁歪に伴う透磁率変化がセンサ精度を下げる
- ⚠️ 加工後の特性劣化:機械加工ひずみが磁歪材料の性能を損なう
- ⚠️ 磁場環境での意図せぬ変形:強磁場環境下で鉄系部品が微小変形し、寸法精度に影響する


これらのトラブルを未然にぐには、設計段階で「どの金属部材が磁場環境にさらされるか」を把握し、必要であれば低磁歪材料への変更や磁気シールドの検討を行うことが有効です。磁歪は「使いこなせれば武器、知らなければ敵」といえる現象です。つまり知識が現場の品質を守るのです。


参考:磁歪材料の種類・特性・軟磁性・硬磁性との分類については、大同特殊鋼の技術資料が実務参照に適しています。


大同特殊鋼「磁性材料とは」




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