限界絞り比の求め方と絞り率・LDRの正しい計算手順

限界絞り比(LDR)の正しい求め方を知っていますか?計算式の意味から材質ごとの目安値、r値(ランクフォード値)との関係まで、金属加工の現場で即使えるポイントを詳しく解説します。あなたは正しく計算できていますか?

限界絞り比の求め方と絞り率・LDRを正しく使う方法

材質が変わっても限界絞り比は常に2.0で計算すれば問題ない」と思っていませんか?実は材質・板厚・加工条件によって限界絞り比は大きくズレ、工程ミスが連発します。


この記事のポイント3つ
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限界絞り比(LDR)の基本的な計算式

LDR=最大ブランク径(Dmax)÷パンチ径(d)で求める。一般的な軟鋼では2.0〜2.2が目安ですが、材質・板厚によって変わります。

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材質・相対板厚・r値が数値に直結する

r値(ランクフォード値)が大きいほど深絞り性が高く、LDRも上がります。材料選定と引張試験データのセットで管理するのが現場の基本です。

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再絞り工程での絞り率の緩め方が品質を決める

初絞り・再絞りで絞り率の基準値が異なります。工程が増えるごとに絞り率を段階的に緩める(数値を大きくする)設計が不可欠です。


限界絞り比(LDR)とは何か:定義と基本の計算式

深絞り加工の設計で最初にぶつかる壁が「限界絞り比(LDR:Limiting Drawing Ratio)」の意味を正確に理解することです。LDRとは、1回の絞り加工で破断を起こさずに成形できる、最大ブランク径(Dmax)をパンチ径(d)で割った値のことです。


$$LDR = \frac{D_{max}}{d}$$


この式で表されるように、LDRはブランクとパンチの直径の比率であり、数値が大きいほど「深い形状まで一発で絞れる材料・条件」を意味します。つまりLDRが高い材料ほど深絞り性に優れているということです。


一般的な軟鋼(SPC材)の場合、LDRはおよそ2.0〜2.2の範囲に収まります。しかし「特殊な方法を除外すれば大抵の軟金属において2.0〜2.5の範囲」というのが技術文献での基準であり、ステンレス・アルミ・真鍮など材質が変わればこの値も変わります。これが基本です。


注意したいのは「絞り比(Z)」と「絞り率(m)」の違いです。混同しがちですが、それぞれ以下のように定義が異なります。


| 名称 | 計算式 | 数値の見方 |
|------|--------|-----------|
| 絞り比(Z) | Z = D ÷ d | 値が大きい=絞り加工が厳しい |
| 絞り率(m) | m = d ÷ D | 値が小さい=絞り加工が厳しい |
| 限界絞り比(LDR) | LDR = Dmax ÷ d | 値が大きい=深絞り性に優れる |


絞り比と絞り率は逆数の関係(Z=1/m)です。現場では「絞り率」を用いることが多いですが、文献や金型メーカーの設計資料では「絞り比」で表記されることもあります。どちらで示されているかを確認してから使うことが重要です。


深絞り加工の品質管理において、LDRはブランク材の絞り性を示す代表的な指標として幅広く用いられています。ここを正確に押さえておけば、その後の工程設計が一気に楽になります。


円筒絞りの絞り回数・絞り率の求め方(ミスミ技術情報)


限界絞り比の求め方:実験計測とr値(ランクフォード値)による推定

限界絞り比を正確に求める方法は、大きく2つに分かれます。一つは実験的に求める方法、もう一つは材料の引張試験データ(特にr値)から推定する方法です。


① 実験による計測(円筒絞り試験)


最も信頼性が高い方法は、円筒絞り試験を実施して実測することです。素板直径(D)を0.025単位ずつ変化させながら絞り試験を繰り返し、破断が生じない最大のブランク径(Dmax)を記録します。その後、下式で計算します。


$$LDR = \frac{D_{max}}{d_{punch}}$$


たとえばパンチ径が50mmで、破断なく成形できた最大ブランク径が105mmであれば、LDR=105÷50=2.10となります。500円玉の直径(約26mm)を基準に考えると、パンチ径50mmは直径的にほぼ2枚分のサイズ感です。


② r値(ランクフォード値)からの推定


引張試験で得られるr値(Lankford値)は、板材の塑性異方性を表す指標です。幅方向の対数ひずみを板厚方向の対数ひずみで割った値で定義されます。


$$r = \frac{\varepsilon_w}{\varepsilon_t}$$


板厚方向の測定は難しいため、体積一定条件を利用して幅方向と長さ方向のひずみから計算するのが実務上の標準です。さらに圧延方向の0°・45°・90°の3方向で測定した平均r値(r̄)を求める方法が多く使われます。


$$\bar{r} = \frac{r_0 + 2r_{45} + r_{90}}{4}$$


r値が大きい材料は、板厚方向への変形が起きにくく、面方向への塑性変形が容量に流れるため、LDRが高くなります。言い換えれば「薄くなりにくい材料ほど深絞りに向いている」ということです。これは使えそうです。


実際のデータ例として、冷延鋼板(SPCE)のr値は一般に1.5〜2.0の範囲にあり、r̄が高い材料ほど限界絞り比も向上します。一方、アルミニウム合金板は室温でのr値が低い(0.6〜0.8程度)ため、LDRは2.1前後にとどまることが多いです。


なお、r値の測定はJIS Z 2254に基づく引張試験で実施しますが、「表面の潤滑状態を全く加味していない評価方法」との指摘もあり、あくまで絞り性能の目安として扱うことが実務上の常識です。材質が変わるたびに試験データを確認する姿勢が大切です。


r値(ランクフォード値)の定義と測定方法(ものづくりデータベース)


限界絞り比に影響する主な要因:板厚・材質・金型条件の関係

LDRは材料の種類だけで決まるわけではありません。いくつかの加工条件や金型設計が複合的に影響します。この点を見落とすと、計算値と実際の破断限界にズレが生じやすくなります。


相対板厚による影響


相対板厚とは「素材板厚(t)÷ブランク径(D)×100(%)」で表される数値です。この値が小さいほど絞りにくく、割れやしわが発生しやすくなります。0.3%以下になるような薄板では、特に慎重な設計が必要です。


$$\text{相対板厚(\%)} = \frac{t}{D} \times 100$$


相対板厚に応じて絞り率の選定基準値も変わります。たとえば鋼板の初絞りの場合、相対板厚が2.0〜1.5%なら絞り率0.48〜0.50が適正ですが、0.15〜0.08%の薄板では0.60〜0.63まで緩める必要があります。


材質ごとのLDR目安値(実用データ)


下表に代表的な材料の限界絞り率(初絞り・再絞り)の目安をまとめます。


| 材質 | 初回絞り率(m1) | 再絞り率(m2) |
|------|----------------|--------------|
| 深絞り鋼(SPC系) | 0.48〜0.55 | 0.75〜0.80 |
| ステンレス(SUS304) | 0.50〜0.55 | 0.80〜0.85 |
| アルミニウム | 0.53〜0.60 | 0.75〜0.85 |
| 黄銅(真鍮) | 0.50〜0.55 | 0.75〜0.80 |
| チタン | 0.65〜 | 0.85〜 |


チタンの絞り率が他材質より高め(緩め)なのは、加工硬化が大きく流動抵抗が強いためです。厳しいですね。


ダイ肩半径・パンチ肩半径の影響


ダイ(ダイス)の肩半径が大きいほどLDRは高くなる傾向があります。一般的な経験則では、ダイ肩半径が板厚の4〜8倍程度のとき成形が安定し、8〜15倍のときにはさらに大きな数値が採用できます。反対に小さすぎると材料に傷がつき、破断の引き金になります。


しわ押さえ力と潤滑条件


しわ押さえ力が過剰だと、絞り力が増大してパンチ肩部に過大な引張負荷がかかります。これにより本来の限界絞り比より低い段階で破断が発生します。潤滑不足の場合も摩擦力が増え、同様に加工限界を押し下げます。潤滑油の粘度・種類の選定は、計算だけでは見えてこない重要な現場知識です。


絞り回数・限界絞り率の実用的な求め方(アイダプレス情報館)


工程設計での限界絞り比の使い方:絞り回数の計算手順

LDRの概念を理解したら、次は実際の工程設計に落とし込む段階です。ここでは、ブランク径φ60から製品内径φ22.5の円筒を深絞り鋼で成形する工程を例にとって、計算の流れを整理します。


ステップ1:ブランク径を求める


まず、最終製品と同等の体積となるブランク径を算出します。ピアスやトリムのスクラップ体積も含めて計算するのが正確です。板厚一定と仮定した簡易式では次のように求めます。


$$D = \sqrt{d^2 + 4dh}$$


(d=製品底径、h=製品高さ)


ステップ2:各工程の絞り径を計算する


ブランク径が決まったら、限界絞り率の目安表を参照しながら各工程の絞り径を計算します。


- 第1絞り径:d1 = D × m1(初絞り絞り率を使用)
- 第2絞り径:d2 = d1 × m2(再絞り絞り率を使用)
- 第3絞り径:d3 = d2 × m3


深絞り鋼の場合、初絞り絞り率を0.55、再絞り絞り率を0.80とすると。


- d1 = φ60 × 0.55 = φ33
- d2 = φ33 × 0.80 = φ26.4
- 第3絞り確認:φ22.5 ÷ φ26.4 = 0.85 → 再絞り許容範囲(0.80〜0.85)内


よって、絞り回数は3回と決定できます。


再絞りで絞り率を徐々に緩めるのが原則です。


加工硬化が蓄積される再絞り工程では、初絞りと同じ絞り率を使うと破断のリスクが高まります。工程が1つ増えるごとに絞り率を0.02〜0.05ほど大きな値(例:0.80→0.82→0.85)へと段階的に緩める設計にすることで、安定した成形が実現できます。


順送加工・トランスファー加工と手作業加工の違い


順送加工やトランスファー加工では潤滑・位置精度・加工速度が安定しているため、絞り率は大きめ(緩め)の値を採用して工程数を減らすことが可能です。一方、手作業による加工では各工程の位置ずれや潤滑ムラが生じやすいため、絞り率を小さめ(厳しめ)に設定して安全マージンを確保します。


計算値に端数が出た場合は、プレス機のストローク・ダイ設計に合わせて整理し直すことも覚えておいてください。


絞り加工力の計算式と係数Kの選定方法(ミスミ技術情報)


限界絞り比を改善する現場のアプローチ:温間成形・潤滑・金型対策

計算上のLDRを超えた形状を成形したい場合、工程数を増やすだけが答えではありません。加工条件を変えることでLDRそのものを引き上げる方法があります。


温間成形(ウォームフォーミング)によるLDR向上


常温では成形が困難なアルミニウム合金やステンレス鋼は、温間成形によってLDRを大幅に改善できます。たとえばA5182アルミニウム合金では、室温での限界絞り比がおよそ2.1ですが、ダイス温度を250℃まで加熱することで約2.8まで向上したとの報告があります。数値だけ見るとわずかな差に感じるかもしれませんが、LDRが0.7上がるというのは、パンチ径50mmで換算するとブランク径を35mmも大きく取れることを意味します。これは使えそうです。


ただし温間成形では専用の加熱装置・金型・潤滑剤が必要になります。二硫化モリブデン系潤滑剤が従来使われてきましたが、近年は専用温間成形潤滑油の採用が増えています。


潤滑管理による摩擦低減


適切な潤滑は、限界絞り比を引き上げる最もコストパフォーマンスに優れたアプローチです。潤滑油が金型とブランク間の摩擦を低減することで、しわ押さえ部からパンチ肩部への材料の流入がスムーズになります。粘度・洗浄性・冷却性の3点を加工材料に合わせて選定することが基本です。


潤滑不足はLDRの低下だけでなく、金型の焼き付き・かじりを引き起こし、型の損耗コストに直結します。月に数十万円規模の型修繕コストが発生するケースもあり、潤滑管理の重要性は数字として表れてきます。痛いですね。


金型設計:ダイ肩半径の最適化


ダイ肩半径(Rd)が板厚の4倍以下になると材料に強い曲げ負荷がかかり、LDRが低下します。一方で半径が大きすぎるとしわが発生しやすくなります。Rd=板厚×5〜10倍の範囲を起点に試験を行い、実際の材料データと照合しながら最適値を決定する手順が確実です。


シミュレーション活用による事前確認


近年は有限要素法(FEM)による成形シミュレーションで、LDRや破断発生箇所を事前に可視化できる環境が整っています。金型製作前にシミュレーションを行うことで、試作コストや工程設計のやり直しを大幅に削減できます。ソフトウェア導入を検討している場合は、AutoForm・Pam-Stampなどのプレス成形専用CAEツールが代表的です。


アルミニウム合金の温間成形と限界絞り比向上データ(日本製鉄技術資料)