粉末射出成形PIMで複雑形状部品を高精度量産する方法

粉末射出成形(PIM)は金属加工の常識を変える技術ですが、正しく理解しないとコストや品質で大きな損失を招きます。MIMとの違いや工程、選定基準を知っていますか?

粉末射出成形PIMの基礎から選定まで徹底解説

PIMで作った部品は、焼結後に15〜20%も収縮するので、金型設計を間違えると全ロット使えなくなります。


この記事でわかること
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PIM/MIMの基本と工程

フィードストック作製から焼結まで、4つの製造工程と各工程で押さえるべき注意点を解説します。

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他工法との比較・選定基準

機械加工・粉末冶金・ロストワックスとの違いを数字で比較し、PIMが本当に有利な場面を明確にします。

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市場動向と今後の展望

2032年に約90億ドル規模へ成長が予測されるMIM市場の最新トレンドと、金属加工従事者が取るべき行動を紹介します。


粉末射出成形PIMとは何か:MIM・CIMとの違いを整理する

粉末射出成形(Powder Injection Molding:PIM)とは、金属またはセラミックの粉末にバインダー(結合剤)を加えて混練し、プラスチック射出成形と同じ原理で金型に充填したあと、脱脂・焼結を経て高精度な部品を作り上げる製造技術です。1970年代にアメリカで開発され、粉末冶金とプラスチック射出成形という2つの技術を融合させた点が最大の特徴です。


PIMは大きく2種類に分けられます。金属粉末を使うものをMIM(Metal Injection Molding:金属粉末射出成形)、セラミック粉末を使うものをCIM(Ceramic Injection Molding:セラミック粉末射出成形)と呼びます。金属加工の現場で「PIM」という言葉が出てきたとき、多くの場合はMIMのことを指しています。つまりMIMはPIMの一形態です。


従来の粉末冶金(PM:Powder Metallurgy)は「プレス成形」で成形体を作るため、比較的シンプルな形状の部品しか作れませんでした。これに対してPIMは射出成形の原理を使うため、アンダーカットや内部空洞、微細溝といった三次元的な複雑形状にも対応できます。これが決定的な違いです。


使用できる金属粉末は多岐にわたります。


- 低合金鋼(Fe-Ni-C、SCM415など):一般機械・自動車部品向け
- ステンレス鋼(SUS304、SUS316、SUS630、SUS440など):耐食性部品向け
- 工具鋼(SKD、SKH):高硬度・工具部品向け
- チタン合金(Ti、Ti-6Al-4V):時計・眼鏡・医療部品向け
- タングステン合金・超硬合金:ヒートシンク・振動子向け


チタンや超硬合金のような難削材にも対応できるのが原則です。切削加工では「削れない材料」と判断されがちな素材でも、PIMなら加工できるケースがあります。これは覚えておくべき重要なポイントです。


参考:PIMの基本概念とバインダー技術の詳細は旭化成プラスチックスの解説が詳しいです。


粉末射出成形(PIM)に適したバインダー関連製品のご提案|旭化成プラスチックス


粉末射出成形PIMの製造工程:4ステップで理解するフィードストックから焼結まで

PIM(MIM)の製造工程は、大きく4つのステップで構成されています。各工程を正確に理解することが、品質不良やコストロスをぐ第一歩です。


①フィードストック作製(混練・造粒)


金属粉末と有機バインダーを均一に混ぜ合わせ、ペレット状に成形します。この中間材料を「フィードストック」と呼びます。金属粉末の粒径は一般に10ミクロン前後と非常に細かく、はがきの紙厚(約0.1mm)の10分の1以下のサイズです。


バインダーには主にポリアセタール(POM)系樹脂ポリエチレン(PE)、ワックス類などが用いられます。バインダーの配合比率と均一性が最終製品の密度や寸法精度に直接影響するため、この工程の管理が品質を左右します。フィードストックの出来栄えが全工程の基盤です。


②射出成形


フィードストックを射出成形機で溶融し、精密な金型キャビティに充填します。この工程はプラスチック成形とほぼ同じ原理ですが、MIM材料は一般樹脂と比べて熱伝導率が高く固まりやすいため、バリやショートなどの成形不良が起きやすい点が課題です。成形条件の設定可能範囲が樹脂よりも狭く、条件出しには経験と技術が必要になります。


成形直後の製品は「グリーンパーツ(生部品)」と呼ばれ、金属粉末とバインダーが混在した状態です。この時点では強度が低く、取り扱いに注意が必要です。


③脱脂


グリーンパーツからバインダーを除去する工程です。脱脂方法は主に3種類あります。


| 脱脂方法 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 溶媒脱脂(酸脱脂) | 硝酸ガスなどの溶媒でPOMを分解除去 | 精密小型部品・量産品 |
| 加熱脱脂 | 高温加熱でバインダーを熱分解 | 複雑形状・肉厚部品 |
| 触媒脱脂 | 触媒を使い低温でPOMを分解 | 変形リスクが低い製品 |


脱脂後の成形体は「ブラウンパーツ」と呼ばれ、多孔質な構造になっています。バインダーが除去された分、非常に脆く壊れやすいため、取り扱いには細心の注意が必要です。


④焼結


1,000〜1,400℃の高温炉でブラウンパーツを焼き固め、最終的な金属製品を得ます。焼結により金属粉末同士が結合し、理論密度の95〜98%という高密度の焼結体が完成します。この密度は鋳造品に近い水準です。


重要な注意点として、焼結中にバインダーが抜けた空間が埋まることで製品が15〜20%収縮します。この収縮率を正確に見込んだ金型設計が必要で、誤差があると全ロット使用不能になるリスクがあります。厳しいところですね。焼結後に必要に応じて機械加工表面処理、熱処理を施して完成品になります。


参考:MIMの各工程と射出成形機の技術的詳細はソディックの解説記事が参考になります。


粉末射出成形PIMのメリットとデメリット:他工法との数字で見る比較

PIM(MIM)のメリットとデメリットを正確に把握することで、工法選定の精度が格段に上がります。感覚や思い込みではなく、数字で判断することが大切です。


MIMのメリット


🔷 複雑形状の一体成形が可能
アンダーカット、内部空洞、薄肉(0.3〜0.8mm)など、機械加工や粉末冶金では複数部品に分けなければならない形状を、一体成形で作れます。これにより組み立て工程と部品点数を削減でき、トータルコストの大幅な削減につながります。


🔷 高い製品密度と強度
焼結体の相対密度は95〜98%に達し、鋳造品(ロストワックス:約90%)や通常の粉末冶金品(80〜85%)を大きく上回ります。引張強度も機械加工品の95%程度まで確保できます。


🔷 難削材への対応
チタン、超硬合金、タングステン合金などの切削加工が困難な材料でも、MIMなら材料ロスをほぼゼロに抑えながら成形できます。切削では発生する切り粉がなく、高価な難削材の歩留まりを大幅に改善できます。これは使えそうです。


🔷 高い寸法精度
一般公差として5mm以下の寸法で±0.03mm、20〜30mmの寸法で±0.15mm程度を達成可能です。ロストワックスの一般公差±1%と比較すると、精度の高さは明らかです。


MIMのデメリット


⚠️ 金型コストが高く、小ロット生産には不向き
金型製作費が発生するため、少量生産には向きません。一般的にMIMが経済メリットを発揮するのは数千個以上の量産品からとされています。


⚠️ 製品サイズに制約がある
MIMの得意とする製品重量は一般に50g以下、長さは30mm以下の小型部品に限られます。大型部品になると金型コストと粉末使用量が増大し、コストメリットが出にくくなります。


⚠️ 焼結収縮の管理が難しい
前述のとおり、焼結収縮率は15〜20%に達します。材料配合や工程条件によっても変動するため、精密な管理なしに安定した寸法精度を得ることは困難です。


各工法との比較表


| 項目 | 機械加工 | 粉末冶金 | ロストワックス | MIM(PIM) |
|---|---|---|---|---|
| 形状複雑度 | 中 | 低 | 高 | 高 |
| 製品密度 | ◎(100%) | △(80〜85%) | ○(90%) | ◎(95〜98%) |
| 寸法精度 | ◎ | △〜○ | ○ | ○〜◎ |
| コスト(小ロット) | 中 | 低 | 低〜中 | 高 |
| コスト(大量生産) | 高 | 低 | 中 | 中 |
| 対応材料幅 | 低 | 高 | 低 | 高 |


この比較から明確なのは、MIMが「複雑形状×難削材×量産」の三条件が重なったときに最も威力を発揮するという点です。複雑形状ならMIMが原則です。


粉末射出成形PIMが選ばれる用途と市場動向:自動車・医療・電子分野での活用事例

PIM(MIM)技術の世界市場規模は2024年に約46億5,000万ドルに達し、2032年には約89億9,000万ドルへ成長すると予測されています(年平均成長率8.6%)。東京ドームのグラウンド面積が約1.3万㎡であることと同様に、この数字の大きさは製造業における「規模の実感」として、MIMが今や主要な加工工法として定着していることを示しています。


自動車産業(市場の約35%を占める最大セクター)


燃費・排気規制の強化により、エンジン周辺部品や電動化関連部品での採用が急増しています。ターボチャージャーのベーン部品、燃料インジェクター部品、各種センサーハウジングなど、高温・高圧環境に耐える複雑形状の耐熱鋼部品にMIMが採用されています。特に電動車(EV)向けのモーター・トランスミッション部品でのニーズが拡大中です。


医療機器分野(年平均成長率8.45%の高成長セクター)


医療用途のMIM市場は2024年に約5億7,800万ドルで、2032年には約11億ドルへの成長が予測されています。内視鏡の先端部品、歯科インプラント用コンポーネント、外科用メスの刃部、骨固定プレートなど、生体適合性と高精度が同時に求められる部品でMIMの強みが発揮されています。SUS316Lやチタン合金(Ti-6Al-4V)を使った医療部品は、MIM以外では量産困難なものが多く存在します。


電子・通信機器分野(年率12.5%という最も高い成長率)


スマートフォンのカメラモジュール内の微小部品、ノートパソコンのヒンジ部品、5G通信機器のコネクタ部品などへの採用が急拡大しています。特に重量0.1g以下の極小部品を高精度で量産できる点が評価されています。これは意外ですね。


エレクトロニクス以外の注目用途:磁性材料部品


あまり知られていませんが、MIMは磁性材料の複雑形状加工にも有効です。純鉄、Fe-Si合金、パーマロイといった軟磁性材料を使ったMIM部品は、磁気シールドやセンサーコア部品への応用が研究されており、一部では量産化も始まっています。従来の加工法では「磁性特性を損なわずに複雑形状を作る」ことが困難でしたが、MIMによりこの制約を克服できるようになりました。


参考:世界のMIM市場動向と国内調達・海外調達の事例については以下が参考になります。


金属粉末射出成形(MIM)とは?海外調達のメリットを徹底解説|メタナビ(深江特殊鋼)


粉末射出成形PIMの工法選定基準:金属加工担当者が判断に迷わないための3つの条件

PIMを検討するにあたって、「どんな場合にMIMを選ぶべきか」という判断基準を持つことが重要です。選定を間違えると、高い金型費用を投じたにもかかわらず量産段階でコスト高になる、あるいは精度不足が判明してやり直しになるリスクがあります。選定ミスは時間とお金の両方を失います。


条件①:製品サイズと形状の複雑さ


MIMが最も効果を発揮するのは、次の条件を満たす部品です。重量が50g以下(目安として単4電池2本分くらい)、長さが30mm以下(名刺の短辺程度)、かつ三次元的な複雑形状または薄肉形状(0.3〜5mm)を持つもの。これを外れると、コストメリットが急速に低下します。サイズの条件が基本です。


条件②:生産数量


MIMでコストメリットが出始めるのは一般に年間数千個以上の量産品からです。試作・少量生産であれば、切削加工や積層造形(3Dプリント)の方がトータルコストを抑えられます。ただし、金型費用さえ回収できれば、MIMの1個あたりコストは他工法を大きく下回ります。数量が多いほど有利なのが原則です。


条件③:要求精度と材料特性


MIM単体で達成できる寸法公差は約±0.3〜0.5%です。5mmの寸法なら±0.015〜0.025mmの範囲に収まります。これ以上の精度(例:±0.001mm級)が必要な箇所は、MIM後に機械加工を組み合わせることで対応できます。むしろ「MIM+二次加工」の組み合わせで、純粋な切削加工より大幅なコストダウンが実現した事例も多数あります。


材料面では、Ti-6Al-4VやSUS316Lなどの難削材で複雑形状が必要な場合は、MIMが実質的に唯一の量産手段となるケースが存在します。切削で作ると材料歩留まりが30〜40%台になることもある難削材でも、MIMなら材料利用率はほぼ100%に近づきます。材料ロスの問題ならMIMに注目すれば大丈夫です。


見落とされがちな独自視点:PIMと3Dプリント(AM)の併用戦略


近年、PIM技術を応用したフィラメント式3Dプリント(FFF方式) との組み合わせが注目されています。第一工業製薬などは「PIM技術を応用した3D積層造形」として、金属粉末入りフィラメントを3Dプリンターで造形したあと、脱脂・焼結するプロセスを開発・研究しています。この手法は、MIMの金型コストをかけずに試作品を作れる点が利点で、少量試作→大量量産の移行を同一の材料・工程で実現できます。


金型を使うMIMで量産する前に、3Dプリントで形状検証を行い、同じフィードストック系の材料で材料特性を確認できるため、開発リードタイムの大幅短縮につながります。この「PIM+AM」の融合は、今後の金属加工現場で注目すべき戦略の一つです。


参考:粉末射出成形を応用した3D積層造形の研究については以下を参照してください。


粉末射出成形(PIM)技術を応用した3D積層造形|第一工業製薬(PDF)


粉末射出成形PIMの品質管理と失敗しないための実践ポイント

PIM(MIM)の現場で実際に起こりがちな問題と、その対策を具体的に整理します。「知らなかった」では済まない失敗が多い工程です。


ポイント①:収縮率の管理を最優先にする


焼結時の収縮率は15〜20%と非常に大きく、バインダーの配合比率・焼結温度・雰囲気ガスなどの条件で変動します。MIM部品の金型設計では「最終製品寸法×(1 + 収縮率)」で金型キャビティ寸法を算出しますが、収縮率のバラつきを±1%以内に制御できないと、寸法不良が大量発生します。焼結条件の安定化が条件です。


現場での対策として、まず同一バッチのフィードストックで試験片を成形・焼結し、実測収縮率を記録する習慣をつけることが重要です。ロットごとの収縮率データを蓄積することで、金型修正の要否を早期に判断できます。


ポイント②:グリーンパーツ・ブラウンパーツの取り扱い


成形直後のグリーンパーツは「砂を固めたような強度しかない」と表現されることがあります。脱脂後のブラウンパーツはさらに脆く、指先の力でも割れることがあります。これは扱いに慣れていない作業者が最初に経験する失敗です。


専用のセラミックス製またはアルミナ製のセッターを使用し、焼結炉内での製品間距離・載置方向を統一することが品質安定の基本です。変形や割れを防ぐには、焼結支持具の設計が重要になります。


ポイント③:成形機の齧り(かじり)問題に注意する


MIM材料は一般樹脂よりも流動性が高いため、射出成形機のスクリュとシリンダの隙間に金属粉末が侵入しやすく、「齧り」や固着が発生しやすい問題があります。痛いですね。このリスクを放置すると、成形機部品の損傷・交換コストが発生します。


MIM専用設計の射出成形機(例:ソディックの「m:MIM」など)や、摺動部の材質クリアランス設計がMIM向けに最適化された機種を選定することが、長期的なコスト安定につながります。成形機選定の段階でMIM対応かを必ず確認することが必須です。


ポイント④:焼結雰囲気ガスの選択


焼結炉の雰囲気ガス選定は、材料特性に直結します。ステンレス鋼には窒素ガスや真空雰囲気が適しますが、チタン合金は酸素・窒素に非常に敏感で、真空または高純度アルゴン雰囲気が必要です。チタンの焼結で窒素雰囲気を使用すると、窒化チタン(TiN)が生成して脆化・変色が発生し、製品が使用不能になります。材料ごとに雰囲気ガスの条件を変えることが原則です。


参考:MIMの工法特性と他加工との比較については、以下の専門サイトが詳しいです。


MIMの代表的特徴|金属射出成形.COM