アンダーカットと裏側の切削加工の形状と技術
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アンダーカット加工の基本
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アンダーカットとは
一方向から見て陰になる形状で、標準工具では加工が難しい領域のこと
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加工の課題
標準的なエンドミルではアクセスできない領域を加工するための工夫が必要
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解決方法
特殊工具の使用、多軸加工、設計変更などの対応策が存在
アンダーカットの基本概念と種類について
アンダーカットとは、切削加工において「一方向から見て陰になる形状」のことを指します。簡単に言えば、標準的なエンドミルや切削工具では届かない、または加工が難しい領域のことです。切削加工では、回転する刃物でワークを削りますが、この刃物はホルダーに取り付けられ、さらに主軸と呼ばれる回転軸に取り付けられています。そのため、主軸から見て壁の裏側に隠れている部分を削ることはできません。
アンダーカットは主に以下の2つの種類に分類されます。
- 内部アンダーカット。
- ワークピースの内部に生成される隠れた特徴です
- 例:ギアハブ内部の空洞
- 視認性が低く、工具へのアクセスが制限されるため加工が困難
- 部品の結合機能として重要な役割を果たす
- 外部アンダーカット。
- 部品の外側の表面に見える特徴です
- 例:外部の特徴がメイン表面を超えて拡張する機械部品
- 内部アンダーカットと比較して加工が比較的容易
- セットアップ手順が簡単
特殊な形状としては、T溝(T-groove)や鳩溝(ダブテール)があります。T溝は名前が示す通りT字型のアンダーカットで、水平ブレードと垂直軸が接続された形状です。鳩溝は台形または尾形を持ち、上部よりも底面が幅広になっているのが特徴です。
アンダーカットはその形状的特徴から、金型製作でもよく使われる用語となっています。型から成型品を外そうとしたときに引っかかって抜けない形状を意味するのです。
アンダーカット加工に適した特殊工具の選び方
アンダーカット加工は標準的な切削工具では達成できないため、特殊な工具が必要になります。適切な工具選びはアンダーカット加工の成功に不可欠です。
代表的なアンダーカット用特殊工具:
- スロットカッター。
- 平らな先端を持ち、より広い端で狭いシャフトという特徴
- 主にT溝などの直線的なアンダーカット加工に適している
- 標準幅範囲は3mm〜40mm
- ロリポップカッター。
- 丸い先端を持ち、より広い端で狭いシャフト
- 曲がった形のアンダーカットに最適
- 220度、300度などの様々なラップ角度で利用可能
- 剥離軸受や転がり軸受の加工にも適用
- T溝カッター。
- T字型のアンダーカットを作成するのに役立つ
- 水平ブレードと垂直軸で構成
- 機械がワークに切り込み、水平方向に切削可能
工具選択の際の重要ポイント。
- アンダーカットの深さと幅:工具の挿入深さには限界があります。より深いアンダーカットを作成する場合、工具の安定性が損なわれる可能性があるため、アンダーカット深さと工具の剛性のバランスを考慮する必要があります。
- 工具の剛性:細い首のカッターはより大きなラップ角とより多くのクリアランスを提供しますが、太い首のカッターはより小さなラップ角でより剛性と安定性を提供します。
- CAMソフトウェアの対応:スロットカッターやロリポップカッターなどの特殊工具は、多くのCAMソフトウェアが対応するためのアルゴリズムを含んでいない場合があります。手動でG-コードを使用したり、手動で機械を操作する必要がある場合があります。
- 材料との相性:加工する材料の硬さや特性によって、最適な工具は異なります。硬い材料に対しては、より高い剛性の工具が必要になることが多いです。
特殊工具の活用例として、アンダーカットの一種である「片側アンダーカット」があります。これは特別な工具を使用して側面からカットされ、元のアンダーカットから突出している追加のカットが特徴です。このような形状を加工する場合は、アンダーカット深さの4倍の主な幅を確保することで、工具が適切に機能するための十分なクリアランスを持つことができます。
内部と外部アンダーカットの加工技術の違い
内部アンダーカットと外部アンダーカットは、その特性から加工アプローチが大きく異なります。それぞれの特徴を理解し、適切な加工技術を選択することが重要です。
内部アンダーカットの加工技術:
内部アンダーカットは部品内部に隠れた特徴があるため、加工が特に困難です。以下の技術が効果的です。
- 放電加工(EDM)。
- ワークピースと電極間の制御された電気火花を使用
- 従来の方法では難しい鋭い角や内部特徴を生成可能
- 工具が直接接触することなく正確なカットが可能
- 誘電液がワークピースを冷却し、破片を除去
- 特殊形状工具の使用。
- 長いリーチの小径工具
- アングルヘッド付きの工具
- 内部曲面用の特殊形状カッター
- 部品分割アプローチ。
- 複数の部品に分割して加工
- 加工後に溶接や締結で組み立て
- 複雑な内部形状を実現可能
外部アンダーカットの加工技術:
外部アンダーカットは部品の外側の表面に見える特徴であるため、比較的アクセスしやすいという利点があります。
- 傾斜工具による加工。
- 工具を傾けて加工面にアクセス
- 3+2軸加工や5軸加工が効果的
- より少ないセットアップで複雑な形状が可能
- 回転テーブルの活用。
- ワークピースを回転させて異なる角度からアクセス
- 単一のセットアップで複数の面を加工可能
- 特殊カッターの活用。
- ロリポップカッターやスロットカッターを使用
- 外部曲面に沿った加工が可能
加工技術の選択基準:
加工技術を選択する際は、以下の要素を考慮する必要があります。
- 形状の複雑さ:形状が複雑なほど高度な加工技術が必要
- 精度要件:高精度が必要な場合は、より専門的な技術が必要
- 生産量:少量生産と大量生産では最適な技術が異なる
- 材料特性:材料の硬さや加工性により技術選択が変わる
- コスト要素:特殊工具や設備投資のコストバランス
また、CAMプログラミングはアンダーカット加工操作において重要な役割を果たします。切削工具を正確に配置するための詳細なツールパスの作成をサポートし、干渉を回避するために切削速度と送り速度を最適化します。
5軸加工機によるアンダーカット形状の実現方法
5軸加工機は、アンダーカット形状の加工において非常に強力なソリューションを提供します。従来の3軸加工では届かない領域にもアクセス可能になるため、複雑なアンダーカット形状を1回のセットアップで効率的に加工できます。
5軸加工機の基本メカニズム:
5軸加工機では、従来のX、Y、Z軸に加えて、A軸(X軸周りの回転)とB軸(Y軸周りの回転)またはC軸(Z軸周りの回転)を持っています。これにより、工具を様々な角度から部品に当てることが可能になり、アンダーカット領域へのアクセスが格段に向上します。
5軸加工によるアンダーカット加工の利点:
- 単一セットアップでの完全加工:部品の取り付け直しが不要で、位置決め誤差を減少
- 工具干渉の回避:工具ホルダーと部品の干渉を避けながら複雑な形状を加工可能
- 最適な切削条件の維持:工具を常に最適な角度に保つことで切削効率向上
- 複雑な3D形状の加工:自由曲面や複雑なポケット形状も正確に加工可能
5軸加工のプログラミング手法:
5軸加工機を活用するためには、高度なCAM(Computer-Aided Manufacturing)ソフトウェアが必要です。アンダーカット形状に対して以下のようなプログラミング手法が効果的です。
- 3+2軸加工(ポジショナル5軸)。
- 工具の方向を固定して3軸加工を行う手法
- 複数の角度設定を組み合わせてアンダーカットにアクセス
- 比較的プログラミングが容易で、多くのアンダーカット形状に対応可能
- 連続5軸加工。
- 加工中に5軸全てが同時に動作
- 最も複雑なアンダーカット形状にも対応可能
- 高度なプログラミングスキルが必要
- 衝突回避技術。
- 工具とワークピース、機械構成要素間の干渉を自動検出
- 特にアンダーカット領域での加工で重要
- シミュレーションで事前に問題を確認可能
ツールパス最適化のポイント:
- アプローチ角度の最適化:工具がアンダーカット部に対して最適な角度でアプローチするよう設定
- 切削負荷の均一化:工具の全体的な寿命を延ばし、加工精度を向上
- 工具長選択:必要最小限の工具長を選択し、剛性を確保
- スムーズな工具経路:急激な方向転換を避け、表面品質を向上
5軸加工機を効果的に活用するには、機械のキネマティクス(運動学)を理解し、ポストプロセッサを適切に設定することも重要です。また、5軸加工専用の工具ホルダーや剛性の高いツーリングシステムを使用することで、加工精度をさらに向上させることができます。
5軸加工はコスト面では投資が必要ですが、アンダーカット形状を含む複雑な部品の加工時間短縮や品質向上により、長期的にはコスト削減につながる場合も多いです。
アンダーカット設計のための最適化と問題解決法
アンダーカットは加工が難しいため、設計段階から考慮することが重要です。ここでは、アンダーカット形状の設計最適化と問題解決法について解説します。
設計段階での対策:
- 可能な限りアンダーカットを排除する。
- 設計の複雑さと製造コストを削減できる
- 同じ機能を別の設計方法で実現できないか検討
- 標準工具での加工を優先的に考える
- アンダーカットの深さを最小限に抑える。
- 深すぎるアンダーカットは工具の安定性を損なう
- 一般的な目安として、アンダーカットの深さは工具径の5倍以下に抑える
- 浅いアンダーカットほど加工精度が向上し、工具寿命も延びる
- アクセス空間の確保。
- アンダーカット形状の近くに工具アクセス用の空間を設ける
- アンダーカット深さの4倍の主な幅を維持することで、工具の十分なクリアランスを確保
アンダーカットを含む設計の代替案:
以下は、アンダーカットを避けつつ、同様の機能を実現するための代替設計アプローチです。
- 部品分割アプローチ。
- 複雑なアンダーカット形状を持つ部品を複数のパーツに分割
- それぞれを個別に加工し、後で組み立てる
- ボルト締結や溶接による結合が可能
- 貫通形状への変更。
- 止まり穴の代わりに貫通穴を使用
- 外側からエンドミルで削ることが可能になる
- 必要に応じて蓋やプラグで閉じることも可能
- 円弧状形状への変更。
- 直角コーナーを持つポケットを円弧状に変更
- サイドカッターなどの標準工具で加工可能になる
- 機能性を損なわない範囲での形状修正が有効
- アクセス穴の追加。
- アンダーカット形状を加工する際に邪魔になる壁に、工具を通すための穴を設ける
- エンドミルを通す穴は、ポケット形状よりも一回り大きくすると良い
- L/D比(長さと直径の比)に注意し、適切な隅アールを設計
避けられないアンダーカットへの対応策:
やむを得ずアンダーカットを設計に含める場合の対処法。
- 放電加工(EDM)の活用。
- 複雑なアンダーカット形状に対して有効
- 電極を使って材料を除去するため、機械的なアクセス制限がない
- ただし、電極製作と放電加工の2工程が必要でコストがかさむ
- 特殊工具の活用。
- スロットカッター、ロリポップカッター、T溝カッターなど
- アンダーカットの形状に応じた適切な工具選択が重要
- 既存工具の在庫確認や調達リードタイムを考慮
- 多軸加工の活用。
- 4軸または5軸加工機を使用して複雑なアンダーカットに対応
- 単一セットアップで複数方向からのアクセスが可能
- プログラミングと設備の投資が必要
- 3Dプリンティングの検討。
- 複雑なアンダーカット形状を一体成形できる
- 試作や少量生産に適している
- 材料選択肢や精度に制限があることを考慮
アンダーカット形状の設計では、製造方法と設計意図のバランスを取ることが重要です。加工のしやすさと製品機能のトレードオフを常に意識し、最適な解決策を見つけることが、コスト効率と品質向上につながります。