SUS202はステンレスなのに、SUS304より錆びやすく現場クレームに直結します。
金属加工の現場でSUS202を扱うとき、「ステンレスだから大丈夫」と思って使ったら後日サビが出てきた、という経験をした方は少なくないはずです。その原因の核心は、ニッケル(Ni)の含有量にあります。
SUS304のニッケル含有量が8.0〜10.5%であるのに対し、SUS202は4.0〜6.0%と約半分以下です。ニッケルはクロムが形成する不動態皮膜をより強固にする元素で、特に酸性環境・塩分環境での耐食性を底上げする役割を持ちます。ニッケルが少ない分だけ、皮膜は弱くなります。
SUS202ではニッケルの代わりにマンガン(Mn)と窒素(N)を添加しています。マンガンは7.5〜10.0%とかなり多く、窒素も0.25%以下含まれます。この配合でオーステナイト組織を安定させつつ強度を確保しているわけです。つまり、強度面は補えても、耐食性の穴は完全には埋まりません。
実際、成分分析の専門家も「錆びたステンレス鋼はクロムとニッケルの含有量が少ないSUS201またはSUS202である可能性が高い」と指摘しています。これが基本です。
SUS202はJIS規格でも棒材(JIS G 4303)にのみ規定されており、鋼板・鋼帯・形鋼は対象外です。使用できる形状が限られている点も現場での注意が必要です。
| 材料記号 | Ni含有量(%) | Cr含有量(%) | Mn含有量(%) | 耐食性(一般環境) |
|---|---|---|---|---|
| SUS202 | 4.00〜6.00 | 17.00〜19.00 | 7.50〜10.00 | やや劣る |
| SUS304 | 8.00〜10.50 | 18.00〜20.00 | 2.00以下 | 優れる |
| SUS302 | 8.00〜10.00 | 17.00〜19.00 | 2.00以下 | 優れる |
このニッケル量の差が、屋外・湿潤・塩分環境での腐食速度に直結します。屋内の乾燥した管理環境ならSUS202でも十分な耐食性を発揮しますが、少しでも環境条件が厳しくなると錆びが出やすくなる点を念頭に置いておく必要があります。
参考:SUS202の成分組成・機械的特性の詳細はこちら
SUS202(ステンレス鋼)成分、硬度、比重、用途 - Mitsuri(JIS規格値の一覧表あり)
SUS202で実際に起こりやすい腐食には、大きく4つのパターンがあります。それぞれ発生のメカニズムが異なるため、現場で「どの錆か?」を判断できると対策が格段に早くなります。
**① もらい錆**
他の鉄鋼材料の粉末がSUS202の表面に付着したときに発生します。金属加工の現場では特に要注意です。例えば、研削加工の際に飛び散った鉄粉がステンレス表面に付着し、そこから錆が広がるケースがあります。SUS202自体が錆びているわけではなく、付着した鉄粉が錆の起点になります。鉄粉が原因です。
放置すると、もらい錆が不動態皮膜を局所的に破壊し、本格的な腐食へと発展するリスクがあります。加工後の鉄粉除去と保管環境の分離が基本的な対策です。
**② 粒界腐食**
溶接時に450〜850℃の温度帯に加熱されると、クロムが炭化物として結晶粒界に析出し、周囲のクロムが枯渇します。その結果、不動態皮膜の形成が不十分になり、粒界のみが選択的に腐食されます。表面上では目立った変化がなくても、内部では腐食が進行しているケースもあります。これは怖いですね。
SUS202は炭素含有量が0.15%以下(SUS304は0.08%以下)と比較的高いため、粒界腐食の感受性がSUS304より高くなる点も重要な特徴です。防止策として、溶接後の固溶化熱処理(1050〜1100℃で加熱後急冷)や、炭素含有量の少ない材料への変更が有効です。
**③ 孔食(ピッティング)**
不動態皮膜が塩素イオンによって局所的に破れ、穴状に腐食が進む現象です。海水・塩化物環境・次亜塩素酸ナトリウムが存在する環境で発生しやすくなります。SUS202はモリブデン(Mo)を含まないため、SUS316のような塩素への強い耐性を持っていません。孔食が条件です。
孔食抵抗性の指標であるPREN(Pitting Resistance Equivalent Number)は、Cr+3.3×Mo+16×Nで算出されます。SUS202はMo=0のため、PRENが低くなり、孔食リスクが相対的に高くなります。塩分環境での使用は極力避けるか、SUS316以上のグレードへの切り替えを検討すべきです。
**④ すきま腐食**
部品を組み立てた際にできる「すきま」部分に酸素が届かず、不動態皮膜が維持できずに腐食する現象です。ボルト・ナット締結部やフランジ接合部などで発生しやすくなります。クロムやモリブデンの含有量が多い材料を使用するか、設計段階ですきまをなくすことが有効な対策です。
参考:ステンレス腐食の種類ごとの発生メカニズムと対策を網羅
ステンレス鋼材の腐食について - susjis.info(孔食・すきま腐食・粒界腐食を詳細解説)
「ステンレスは錆びない」という考え方は間違いです。正しくは「錆びにくい」であり、その性質を支えているのが「不動態皮膜」と呼ばれる薄い酸化クロム層です。
不動態皮膜の厚さはわずか1〜3ナノメートル(1nmはA4用紙1枚の厚さ約10万分の1)です。目に見えないほど薄い膜ですが、これが鉄地肌への酸素・水分の侵入を防いでいます。皮膜が傷ついても酸素がある環境では自己修復しますが、塩素イオンなど皮膜を攻撃する物質が存在すると再生が間に合わず腐食が進行します。
SUS304と比較したとき、SUS202の不動態皮膜が弱い理由は二点あります。一点目はニッケルの少なさで、ニッケルはクロムが形成する皮膜をさらに強固にする補助元素として働きます。二点目はモリブデンが含まれていないことで、モリブデンは特に塩素環境での孔食に対する抵抗力を与える元素です。SUS316には2〜3%のモリブデンが含まれており、これがSUS304よりも塩水環境で強い理由の一つです。
SUS202とSUS304の不動態皮膜強度の差は、乾燥した屋内環境では実感しにくいです。しかし沿岸地域・プール・食品工場のような塩素濃度が高い環境に持ち込んだ途端、腐食速度の差が顕著に現れます。結論はグレード選びが肝心です。
参考:不動態皮膜の仕組みと不動態化処理の詳細
ステンレスをサビから守る「不動態皮膜」とは?不動態化処理(パッシベーション)について - 東洋理化学研究所
SUS202を加工・溶接した後の処理が不十分だと、錆の発生リスクが大幅に上がります。具体的な対策手順を把握しておくことが、現場でのクレームゼロにつながります。
**溶接後の酸洗い(ピックリング)**
溶接の熱影響で生じた酸化スケールや熱変色部分は、クロムが枯渇した状態です。この状態を放置すると粒界腐食・孔食の起点になります。硝酸とフッ化水素酸の混合液(HNO₃+HF)による酸洗いペーストや酸洗い液を使って、溶接部とその周辺の変色部を除去することが基本対策です。溶接後の酸洗いは必須です。
酸洗い後は、残留した酸を完全に除去するために大量の清水で洗浄することが重要です。酸が残ると逆に腐食を促進してしまいます。
**不動態化処理(パッシベーション)**
酸洗い後や機械加工後にさらに耐食性を高めたい場合は、不動態化処理(パッシベーション処理)が有効です。硝酸溶液(20〜40%)またはクエン酸溶液に一定時間浸漬することで、不動態皮膜を人工的に再生・強化します。表面に付着した遊離鉄や加工残渣を除去する効果もあります。これは使えそうです。
特に加工現場では、切削・研削工程で表面に付着した鉄粉がもらい錆の原因になります。加工後に不動態化処理を行うことで、もらい錆リスクを大幅に下げることができます。
**保管・管理時の注意点**
SUS202を保管する際は、炭素鋼・一般鉄鋼との直接接触を避けることが鉄則です。木製パレットや樹脂製のスペーサーを使って、異種金属との接触を防ぐ管理が求められます。特に湿度が高い環境では、もらい錆が発生しやすいため、保管場所の乾燥にも気を配る必要があります。
参考:ステンレス溶接後の錆防止処理(酸洗い・電解処理・バフ研磨)の選び方
ステンレス溶接部分の錆を防止するには?酸洗浄やパッシベーション処理の実践解説 - metalworks.jp
「SUS202で問題ないか、それとも上位グレードに変えるべきか」という判断は、現場の加工担当者が頻繁に直面する課題です。環境条件ごとの適性を整理すると、グレード選定ミスによる無駄な再加工やクレームを防げます。
**SUS202が適している環境**
SUS202は屋内の乾燥した非塩素環境であれば十分な耐食性を発揮します。調理器具の外装・室内建築部材・エレベーターパネル・室内装飾トリムなど、比較的穏やかな環境での使用に向いています。コスト面ではSUS304より安価なため、予算を抑えつつ一定の耐食性が必要な用途に合っています。コストが条件です。
**SUS304が必要な環境**
食品加工設備・シンク・屋外構造物・軽度の湿潤環境では、SUS304が推奨されます。ニッケル8〜10.5%の含有量が不動態皮膜を強固にし、一般的な腐食環境に対して安定した耐食性を持ちます。SUS202では長期間の使用で錆びが発生するリスクが高い環境では、SUS304を選ぶのが原則です。
**SUS316が必要な環境**
塩水・海洋環境・プール・塩素含有プロセス液など、塩化物濃度が高い厳しい環境ではSUS316以上が必要です。SUS316はモリブデンを2〜3%含んでおり、孔食抵抗性が大幅に向上しています。SUS202はもちろん、SUS304でも腐食が進行するような環境で初めてSUS316の出番です。
| グレード | 屋内乾燥環境 | 屋外・湿潤環境 | 塩分・海洋環境 | コスト目安 |
|---|---|---|---|---|
| SUS202 | ✅ 適する | ⚠️ 要注意 | ❌ 不適 | 低め |
| SUS304 | ✅ 適する | ✅ 適する | ⚠️ 要注意 | 中程度 |
| SUS316 | ✅ 適する | ✅ 適する | ✅ 適する | 高め |
判断に迷う場合は、環境の塩化物濃度と使用期間の長さを軸に考えると整理しやすいです。数年以上の長期使用で屋外・湿潤・塩分環境が絡む案件は、初期コストが多少上がっても上位グレードを選ぶほうが、再加工・クレーム対応のコストを考えると結果的に安くなるケースが多くあります。
参考:SUS304とSUS202の成分・用途・耐食性の詳細比較
304と202ステンレス鋼:組成、特性、および用途 - Metal Zenith(2025年11月更新・詳細な成分比較表あり)
SUS202の錆を語るとき、見落とされがちなのが「加工硬化」との関係です。加工硬化そのものは直接の腐食原因ではありませんが、間接的に錆のリスクを高めるメカニズムが存在します。これは意外ですね。
SUS202の硬さ(JIS規格上限値)はHRBで95以下、HVで218以下ですが、SUS304・SUS302はそれぞれHRB90以下・HV200以下です。SUS202は同じ加工量でもSUS304より高い加工硬化が起きやすく、冷間加工で強度が急激に上昇します。
加工硬化が強く出ると、材料内部に残留応力が蓄積します。この残留応力と腐食環境(特に塩化物)が組み合わさると、「応力腐食割れ(SCC)」が発生しやすくなります。応力腐食割れは表面に見た目の変化が出にくく、突然破断するリスクがあるため、特に圧力容器・配管など安全性に関わる用途では深刻です。残留応力が原則として問題です。
現場での対策としては、冷間加工後の固溶化熱処理(アニーリング:1000〜1150℃で処理後急冷)が有効です。これにより残留応力が除去され、加工硬化による脆弱部が解消されます。また、加工時には送り速度や切削速度を保守的に設定し、過剰な加工硬化を防ぐことも重要です。
金属加工の現場では、SUS202を曲げ・絞り加工する際に「なかなか曲がらない」「工具がすぐに摩耗する」という経験をした方もいるかと思います。これが加工硬化の現れです。無理に加工を進めると材料内部の応力集中が高まり、その後の腐食リスクを上げてしまいます。
SUS202の加工硬化を軽視したまま進めると、後工程での品質不良・クレームに発展するケースがあります。加工条件の見直しと後処理の徹底が、現場での錆・品質トラブルを未然に防ぐ鍵です。
参考:ステンレスの加工硬化・切削・曲げ加工の注意点
ステンレス鋼(SUS)とは?種類や特徴と注意点 - meviy(ミスミ)|加工硬化のn値・板金加工の注意点を詳細解説
十分な情報が集まりました。記事を作成します。