SUJ3はステンレス鋼ではないのに、さびにくいと思い込んで防錆処理を省くと製品クレームにつながります。
SUJ3は、JIS G4805で規定された高炭素クロム軸受鋼(SUJ材)のひとつです。 炭素(C)を0.95〜1.10%、シリコン(Si)を0.40〜0.70%、マンガン(Mn)を0.90〜1.15%、クロム(Cr)を0.90〜1.20%含むのが基本成分です。 kawakamihagane(https://www.kawakamihagane.com/materials/suj3/)
SUJ材の中でSUJ2と並ぶ代表格ですが、最大の違いはMn量です。SUJ2のMn含有量が0.50%以下なのに対し、SUJ3は約1%まで高められています。 つまり、Mnを増やして焼入れ深度を深くしたのがSUJ3ということです。 seisan.server-shared(https://seisan.server-shared.com/15/1567-56.pdf)
不純物管理も厳しく、リン(P)・硫黄(S)はいずれも0.025%以下に制限されています。 また、MoおよびNi・Cuにも上限規定があり、成分の安定性が品質に直結します。 forming.co(https://www.forming.co.jp/database/pdf/hccbs-1.pdf)
以下に主要成分をまとめます。
| 元素 | SUJ2 | SUJ3 |
|---|---|---|
| C(炭素) | 0.95〜1.10% | 0.95〜1.10% |
| Si(シリコン) | 0.15〜0.35% | 0.40〜0.70% |
| Mn(マンガン) | 0.50%以下 | 0.90〜1.15% |
| Cr(クロム) | 1.30〜1.60% | 0.90〜1.20% |
SiとMnが多い分、SUJ3はSUJ2より焼入れ性が高くなります。 これが用途の差を生む根本的な理由です。 sanyo-steel.co(https://www.sanyo-steel.co.jp/product/special_steel/images/pdf/bearing_steel_201908.pdf)
焼入れ性とは、焼入れによって硬化できる深さのことです。SUJ3の焼入れ性の高さは、Mnを約1%まで添加したことで実現されています。 seisan.server-shared(https://seisan.server-shared.com/15/1567-56.pdf)
実際の現場での目安として、肉厚または直径が30mm程度まではSUJ2で対応可能ですが、それを超える厚肉・大径のベアリングにはSUJ3が推奨されます。 30mmという数字は、ちょうどゴルフボールの直径(約42mm)より一回り小さいサイズ感です。 seisan.server-shared(https://seisan.server-shared.com/15/1567-56.pdf)
芯部まで均一に硬化できないと、使用中に内部から亀裂が入るリスクがあります。これは現場での不良発生につながる重大な問題です。SUJ2をそのまま大型品に使うのは危険ということです。
焼なまし(軟化)状態での硬さはHB207以下(HBS95以下)で、加工前の素材状態では比較的加工しやすい硬さです。 熱処理後はHRC60以上の高硬度となり、切削加工はほぼ不可能になります。 加工順序の計画が重要です。 askk.co(https://www.askk.co.jp/contents/course/suj2.html)
SUJ2<SUJ4<SUJ3<SUJ5の順で焼入れ性が高くなります。 より大型・高負荷な部品にはSUJ5(SUJ3にMoを追加)も検討対象になります。 ntn.co(https://www.ntn.co.jp/japan/products/catalog/pdf/2203_a13.pdf)
参考:焼入れ性と鋼種選定の詳細な解説が掲載されています(NTN軸受材料カタログ)
NTN 軸受材料技術資料(PDF)
SUJ3最大の強みは、高炭素(約1%)がもたらす熱処理後の高硬度と耐摩耗性です。 焼入れ・焼戻し後はHRC60以上に達し、転がり接触が繰り返される軸受環境でも長寿命を発揮します。 kawakamihagane(https://www.kawakamihagane.com/materials/suj3/)
用途は主に以下のとおりです。 kawakamihagane(https://www.kawakamihagane.com/materials/suj3/)
- 一般軸受・ボールベアリング(玉軸受)
- ローラベアリング(ころ軸受)の厚肉大物品
- スライドシャフト
- 耐摩耗性が必要な機械部品全般
ボールベアリングとローラベアリングでは要求される耐荷重・耐摩耗度が異なります。 重荷重用ローラベアリングにSUJ3が特に適しているのは、芯部まで均一硬化できるからです。これが基本です。 kawakamihagane(https://www.kawakamihagane.com/materials/suj3/)
転がり疲れ強さも高く、軌道輪・転動体の両方に使われる材料です。 一般的な機械構造用炭素鋼(S45Cなど)と比較すると、硬度・耐摩耗性ともに大きく上回ります。 koyo.jtekt.co(https://koyo.jtekt.co.jp/support/bearing-knowledge/13-1000.html)
ここは見落としがちな落とし穴です。
SUJ3はクロムを含む鋼材ですが、ステンレス鋼ではありません。 クロム含有量は0.9〜1.2%にとどまり、耐食性に必要とされる10.5%以上(ステンレスの基準)には遠く及びません。 asiaplanning(https://asiaplanning.com/machining/column/column-4166/)
湿気や水分のある環境では容易にさびが発生します。 防錆処理を省くと、製品の納入後にサビによるクレームや設備停止のリスクが現実となります。痛い出費です。 jp.meviy.misumi-ec(https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/marketplace/50233/)
現場での防錆対策として一般的なのは以下の方法です。
- 防錆油(VCI防錆紙と組み合わせると長期保管に有効)
- 黒染め処理(四三酸化鉄被膜)
- 無電解ニッケルめっき
- 使用環境が腐食性の場合はSUS440C・SUS630等の耐食軸受鋼への変更を検討
腐食環境(水、酸、アルカリ)で軸受を使用する場合、SUJ3では材料の性質上対応できません。 その場合はジェイテクトやNTNなどが供給している耐食軸受(ステンレス鋼・セラミック軸受)への変更が根本的な解決策になります。 koyo.jtekt.co(https://koyo.jtekt.co.jp/products/exsev/environment/corrosion/)
参考:腐食環境別の軸受材料選定情報が詳しく掲載されています
ジェイテクト 腐食環境用軸受の材料選定ガイド
「とりあえずSUJ2でいいか」と思っている現場担当者は多いです。しかし肉厚・荷重条件によってはSUJ3一択になるケースがあります。 koyo.jtekt.co(https://koyo.jtekt.co.jp/support/bearing-knowledge/13-1000.html)
以下に選定の判断基準をまとめます。
| 比較項目 | SUJ2 | SUJ3 |
|---|---|---|
| 焼入れ性 | 中程度 | 高い(Mn増量) |
| 適用肉厚・径の目安 | 〜30mm程度 | 30mm超の厚肉品 |
| Mn含有量 | 0.50%以下 | 0.90〜1.15% |
| Si含有量 | 低め | 高め(0.40〜0.70%) |
| 入手性・流通量 | 非常に多い | やや少ない |
| 耐食性 | 低い(さびやすい) | 低い(同様) |
| 主な用途 | 一般軸受・汎用ベアリング | 厚肉大型ベアリング・重荷重ころ軸受 |
SUJ2とSUJ3の炭素量・クロム量はほぼ同じです。 差はSiとMnの量だけと考えてもよいです。 metalzenith(https://metalzenith.com/ja/blogs/steel-compare/suj2-vs-suj3)
流通量の観点では、SUJ2のほうが圧倒的に入手しやすい素材です。 SUJ3は専門の特殊鋼商社(川上ハガネなど)への問い合わせが現実的です。 調達リードタイムを設計段階から考慮しておく必要があります。 koyo.jtekt.co(https://koyo.jtekt.co.jp/support/bearing-knowledge/13-1000.html)
さらに大きな軸受・特殊用途にはSUJ5(SUJ3+Mo添加)が選ばれます。 MoはSUJ3比でさらに焼入れ性を高め、大形・高速回転の特殊軸受に対応します。 ntn.co(https://www.ntn.co.jp/japan/products/catalog/pdf/2203_a13.pdf)
参考:SUJ2とSUJ3の詳細な成分・特性比較が掲載されています
Metal Zenith|SUJ2 vs SUJ3 組成・熱処理・特性の比較
参考:高炭素クロム軸受鋼の成分・機械的性質・特性の詳細
砥石・研磨材の専門サイト|SUJ3の成分・用途・特徴解説