無電解ニッケルめっき耐食性と防食対策

無電解ニッケルめっきが優れた耐食性を持つ理由とは何か。リン含有率、結晶構造、前処理などの要素がどのように影響し、産業用途で求められる防食性能を実現するために何が必要か、その対策方法を解説します。

無電解ニッケルめっき 耐食性と防食対策

無電解ニッケルめっき 耐食性と防食対策
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リン含有による非晶質構造

無電解ニッケルめっきの皮膜に含まれるリンが結晶構造を非晶質に変化させることで、腐食の起点を減らし耐食性を向上させます。

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リン含有率別の特性選択

低・中・高リンタイプで耐食性が変わり、用途に応じた最適な防食性能を実現できます。

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前処理と液管理の重要性

脱脂洗浄や酸洗いなどの前処理、めっき液の温度・濃度・pH管理で均一な皮膜を確保し、ピンホールを減らします。

無電解ニッケルめっきのリン含有率と耐食性の関係

 

無電解ニッケルめっきの耐食性を理解するには、含まれるリンの役割が不可欠です。めっき液に含まれる次亜リン酸ナトリウムが還元剤として作用し、ニッケルと反応する際にリンが皮膜に組み込まれます。このリンの含有率は3~13%の幅広い範囲があり、**「低リンタイプ」「中リンタイプ」「高リンタイプ」**に分類されます。

 

低リンタイプ(1~4%)は硬度が高く、機械的強度が必要な用途に適しています。一方、高リンタイプ(11~13%)は非磁性で化学的耐性が優れ、腐食環境での使用に向いています。特に注目すべきは、リン含有率が増えるほど皮膜の結晶構造が「非晶質」へと変化することです。通常の金属では結晶粒子が規則正しく配列していますが、非晶質構造では粒子配列が不規則になり、腐食が発生しやすい粒界が大幅に減少します。

 

この非晶質化により、電気ニッケルめっきに比べて格段に優れた耐食性が実現されます。塩水噴霧試験での比較では、低リンタイプで24時間、高リンタイプで1000時間以上の耐久性を示すなど、リン含有率の高いほど防食性が著しく向上することが実証されています。

 

無電解ニッケルめっき皮膜の均一性が耐食性に与える影響

無電解ニッケルめっきは、電気を使わない化学反応による成膜プロセスのため、複雑な形状や非導電性素材にも均一な膜厚で処理できる特性があります。これが耐食性を大きく左右する要因となります。めっきの厚みにバラつきがあると、薄い部分から優先的に腐食が進行します。また、不均一なめっきにはピンホール(微小な穴)が多く発生し、素地が水分や酸素に直接さらされる状態が生まれます。

 

特にピンホールは無電解ニッケルめっきの耐食性低下の主因です。成膜時に発生する水素ガスが皮膜内に取り込まれることで形成されたピンホールは、そこから下地金属の腐食が加速されます。電流を利用する電解ニッケルめっきでは電流が流れやすい部分に偏ってめっきが形成され、複雑な形状の内部などに膜厚ムラが生じます。一方、無電解ニッケルめっきは化学反応に基づくため、全表面に均等な膜厚を形成でき、結果として防食性能が飛躍的に向上します。

 

無電解ニッケルめっき施工前の前処理プロセス

優れた耐食性を引き出すには、前処理工程が極めて重要です。対象物の表面に付着している有機物、機械油、既存の錆、酸化皮膜などは、めっきの密着性を低下させピンホール発生の原因となります。一般的な前処理は脱脂洗浄と酸洗いの二段階で構成されます。

 

脱脂洗浄では、有機物や機械油を有機溶剤やアルカリ性薬品で除去します。この工程を省略したり不十分だと、その部分にはめっきが均一に成膜されず、後の腐食の弱点が生まれます。次に酸洗いを行い、素材表面のや酸化皮膜を除去します。金属の種類によって適切な酸の濃度と浸漬時間を調整する必要があります。前処理を念入りに行うことで、後続のめっき工程での化学反応が最適に進行し、高密度で欠陥の少ない皮膜形成が実現されます。

 

無電解ニッケルめっき液の管理と温度・pH制御

無電解ニッケルめっきの品質を左右するもう一つの重要な要素は、めっき液そのものの管理です。硫酸ニッケル、次亜リン酸ナトリウム、pH緩衝材、錯化剤、安定化剤といった複数の化学薬品から構成されるめっき液は、温度、濃度、pHが変動するとただちに皮膜の品質に悪影響を及ぼします。

 

特に温度管理は臨界的です。温度が高すぎると反応が急速に進行して膜厚ムラが増え、低すぎると反応速度が低下し生産効率が落ちます。また、めっき処理の繰り返しに伴い、反応副生成物がめっき液に蓄積し、液の組成がシフトしていきます。定期的な分析と薬品補給により、めっき液の組成を一定に保つことが必要です。さらに、一定のターン数(処理回数)を経過しためっき液は劣化し、新たに建浴(液の交換)を行う必要があります。無電解ニッケルめっきの高いコストは、こうした厳重な液管理体制に由来しており、これが同時に高い耐食性を確保するための投資でもあります。

 

無電解ニッケルめっき後処理と使用環境への対応

めっき後の処理も耐食性の維持に関わります。無電解ニッケルめっきは400℃程度で熱処理(ベーキング)を施すことで、硬度がHv900~1000程度まで大幅に向上します。この熱処理により皮膜の組織が緻密化し、ピンホールが減少して耐食性もさらに向上します。

 

一方、使用環境への対応も重要です。無電解ニッケルめっきはリン含有タイプであるため、有機溶剤やアルカリ性薬品には優れた耐性を示しますが、酸性薬品に対する耐性は相対的に低い特性があります。塩酸などの強酸環境下では皮膜が腐食・溶解し、素地が露出すると連鎖的に防食性が低下します。したがって、製品の使用条件を事前に把握し、必要に応じてリン含有率の高いタイプを選定するか、さらなる表面処理(例:有機コーティングの追加)を検討することが現実的です。海中や高湿度環境での長期使用を想定する場合は、めっき膜厚を通常より厚くし、耐久性のマージンを確保することが推奨されます。

 

無電解ニッケルめっき耐食性の検査評価方法

無電解ニッケルめっきの耐食性は、標準的な試験方法で評価されます。最も一般的な手法は**中性塩水噴霧試験(JIS H 8502)**で、人工的に海塩環境を再現し、試験片の表面に塩水を噴霧して腐食の進行速度を測定します。JIS規格では、用途に応じた6段階の等級が設定されており、1級~7級まで素地材質と最小膜厚が規定されています。

 

防食用途には3級以上(膜厚10μm以上)、耐摩耗性が求められる用途では4級以上が推奨されます。試験の判定では、赤錆が出現するまでの時間を計測し、リン含有率や膜厚、前処理の質を総合的に評価します。工業現場では、これらの検査結果に基づいて、製品が要求される耐食性基準を満たしているか確認し、品質保証を行います。ただし試験値は理想的な条件での結果であり、実運用では腐食環境の変動や機械的負荷が加わるため、試験値以上のマージンを設計に織り込むことが実務的です。

 

参考リンク:無電解ニッケルめっきの耐食性向上対策の詳細について、素材別の前処理条件やめっき液組成の管理基準が実装例として記載されています。

 

https://www.tukada-riken.co.jp/column/elp_corrosion_resistance/
参考リンク:無電解ニッケルめっきの原理、リン含有率別の特性比較表、JIS規格等級の詳細仕様、および産業分類ごとの応用用途がまとめられています。

 

https://www.sanwa-p.co.jp/mekki/no-electrolysus-nickel/

 

 


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