めっき膜厚を求める最も基本的かつ一般的な方法は、めっき処理前後の重量差から算出する方法です。この手法は特にサンプル検査やテスト用途で頻繁に採用されます。
計算の原理は単純で、析出しためっき金属の重量を既知の金属密度で割ることにより、単位面積当たりの膜厚を導き出します。まず、めっき前の製品重量と処理後の製品重量を精密天秤で測定し、その差分がめっき金属の析出量となります。次に、この析出量を製品のめっき面積で除算することで、単位面積当たりの析出量(g/m²)を得ます。
例えば、10cm×5cm(面積0.005m²)の鉄板にクロムめっきを処理した場合、めっき前の重量が25.7655gで、処理後が27.1555gだったとします。重量差は1.39gであり、単位面積当たりの析出量は1390g/m²となります。クロムの密度は7.19g/cm³(または7190kg/m³)なので、膜厚は1390÷7.19=約193μmとなります。
ただし、この方法で得られる膜厚は、めっき面全体の平均膜厚であることに注意が必要です。実際には製品の形状や電流密度分布により、場所によって膜厚が異なります。複雑な形状の製品では、鋭角部分に厚く、くぼんだ部分に薄く析出する傾向があります。
膜厚計算を正確に実施するために、各種めっき金属の密度値を正確に把握することは不可欠です。代表的なめっき種別ごとの密度値を理解することで、より精密な計算が可能になります。
亜鉛めっきの場合、亜鉛の密度は7.13g/cm³です。溶融亜鉛めっき(HDZ処理)では、特に膜厚計算の簡便性から付着量7.2g/㎡に対して膜厚は約1μmの関係が成立することが知られています。例えば、HDZ55規格で付着量が550g/㎡以上と規定されている場合、膜厚に換算すると550÷7.2≒76μm以上となります。
クロムめっきの場合、クロムの密度は7.19g/cm³で、ニッケルめっきは8.908g/cm³、銅めっきは8.96g/cm³です。これらの値を用いることで、異なるめっき種別でも統一的な計算方法を適用できます。
実際の計算時には、析出した金属の密度値を正確に適用することが重要です。特に合金めっきの場合は、各成分の混合比を考慮した平均密度を用いる必要があります。例えば、亜鉛-ニッケル合金めっきでニッケル含有率が異なれば、計算に用いる密度値も変わります。
重量差法で得られた理論値を実際に検証するために、非破壊式の膜厚測定機器が広く活用されています。これらの機器は、製品を破壊することなく局所的な膜厚を測定できるため、本生産での膜厚管理に欠かせません。
渦電流式膜厚計は、金属素地上のめっき厚さ測定に最も一般的に用いられます。プローブに高周波電流を流し、被測定めっきの表層部に渦電流を生じさせます。素地とめっきの電導度に十分な差があれば、電導度、厚さ、形状などの違いにより変化する渦電流を測定することで、正確な膜厚を求められます。特に鋼板上の亜鉛めっきやプリント配線板上の銅めっきの測定に適しています。
蛍光X線式試験法は、より高い精度が要求される場合に採用されます。測定箇所にX線を照射し、めっき皮膜から放射される蛍光X線の量を測定して膜厚を求める方法です。非破壊で大量測定が可能であり、多層めっきの各層厚さ測定にも対応できます。ただし、測定装置より大きな製品は部分的にカットする必要がある場合があります。
これらの非破壊測定によって、重量差法の計算値と実測値を比較検証することで、めっきプロセスの管理精度をさらに高めることができます。
めっき膜厚と電気めっきの理論的関係を理解するうえで、ファラデーの法則は欠かせません。ファラデーの法則は、電解質溶液中での電気化学反応において、析出する物質の量が通電した電気量に比例することを示しています。
通電量(クーロン)と析出質量の関係式から、理論的な析出膜厚を予測できます。しかし、実際のめっきプロセスでは電流効率が100%にはならないため、理論値と実測値に乖離が生じます。電流効率とは、通電した電気量のうち、実際にめっき金属の析出に消費された割合のことです。
例えば、亜鉛めっきの場合、電流効率は浴の種類や条件により85~95%程度が一般的です。ノーシアンアルカリ亜鉛めっきと酸性亜鉛めっきでは電流効率が異なり、高速亜鉛めっきは高電流密度での短時間処理が可能な反面、均一電着性に注意が必要です。
計算値と実測値の差を分析することで、めっき槽の浴性管理や電流密度の最適化に関する重要な情報が得られます。定期的なサンプル検査と膜厚計算を実施することで、めっきプロセスの安定性を継続的に確保できます。
実際の製造現場では、単純な平板ではなく、複雑な形状の製品にめっき処理が行われることが多いです。このような製品での膜厚計算には、特有の課題が存在します。
複雑形状製品にめっきを施す場合、電流密度が場所によって大きく異なるため、膜厚分布が不均一になります。電流密度が高い部分(鋭角部や先端部など)では厚く、低い部分(くぼみや隅部)では薄くなる傾向があります。重量差法で得られる平均膜厚では、このような局所的な膜厚ばらつきを把握できません。
対応策として、複雑形状製品に対しては、複数箇所での非破壊測定が必須となります。代表的な位置(平坦部、鋭角部、くぼみ部など)から少なくとも5~10点以上の測定を実施し、膜厚のばらつきを確認します。規格下限に近い箇所が存在しないか、厳密にチェックする必要があります。
さらに、破壊検査として顕微鏡式断面試験を定期的に実施することも重要です。製品を切断し、樹脂に埋め込んだ後、研磨およびエッチング処理を施した断面を電子顕微鏡で拡大観察し、実際の膜厚を微視的に観察できます。この方法は精度が高く、膜構造や異物混入の有無も同時に確認できます。
溶融亜鉛めっきの付着量計算式・膜厚計算式 | 第一機材株式会社
このリソースは、溶融亜鉛めっき(HDZ処理)における付着量と膜厚の相互変換式を詳細に説明しており、実務での膜厚管理の基準値設定に有用です。
めっきの理論析出量 | ミスミ技術情報
ファラデーの法則に基づくめっきの理論析出量の計算方法を解説しており、電流値と通電時間から予想される膜厚を見積もる際の参考になります。
めっき膜厚の正確な計算と管理は、製品品質の確保と生産効率の向上の両面で極めて重要です。重量差法から始まり、非破壊測定機器による検証、さらには破壊検査による精密評価まで、複層的なアプローチにより初めて信頼性の高い膜厚管理が実現できます。現場での継続的な検査と計算値の検証を通じて、めっきプロセスの最適化と安定化が可能になります。

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