電着塗装は複雑な工程を経て塗膜が形成される塗装方法です。一見すると塗装工程だけが問題に見えがちですが、実は前処理から後処理に至るまでの全工程が相互に影響し、不良が発生します。電着塗装の不良は大きく分けて、「塗膜形成前の不良」と「塗膜形成後の不良」の2つのカテゴリに分類できます。
塗膜形成前の不良は、被塗物が電着槽に浸漬される前の段階で既に原因が存在するケースです。一方、塗膜形成後の不良は、電着槽での処理は正常に完了したものの、水洗工程や乾燥炉内で異物が付着するパターンです。各段階でどのような管理体制を敷くかが、不良率を大きく左右します。
ハジキとは、塗装面にクレーター状の凹みが発生する現象です。最も頻繁に報告される不良の一つであり、品質管理の観点から軽視できません。この現象の根本原因は、被塗物表面に油などの不純物が残留していることにあります。ダイカスト品やショットブラスト処理を施した製品は、生地由来の油分が付着しやすいため特に注意が必要です。
脱脂工程の強化が解決の鍵となります。水洗と脱脂の処理条件を見直し、被塗物表面の油分を確実に除去することが必須です。さらに、チェーンオイルの落下やグリスの付着といった設備由来の汚染も考慮する必要があります。定期的なメンテナンスを実施し、搬送系統のオイル漏れを防ぐことが重要です。水面上に浮く浮き油の除去も、見落としやすいが非常に重要なポイントです。
三和鍍金「カチオン電着塗装の不具合と剥離」では、脱脂工程における具体的な改善事例が詳しく解説されています。
ブツとは、塗膜中に鉄粉、ゴミ、埃などの異物が混入し、塗面が平滑性を失う現象です。この不良の厄介な点は、異物がどの工程で付着したかの特定が難しいことにあります。被塗物の事前加工段階から付着している異物、前処理槽での付着、化成処理槽での付着、電着槽内での混入、さらには焼付け炉内での付着といった複数の発生ポイントが存在します。
異物対策では、多層的なアプローチが必要です。前処理洗浄工程を強化し、製品に事前に付着していた異物を確実に除去することが第一段階です。電着槽前の水洗工程も同様に重要で、化成処理槽からの鉄粉持ち込みを最小化する必要があります。最終水洗工程の強化と定期的な洗浄槽の清掃は、ブツ不良を大幅に削減する効果があります。
搬送コンベアの毎日の清掃も見逃せません。コンベア下に受皿を設置して落下異物を回収することで、再付着を防止できます。工場内の整理整頓や4S活動(整理、整頓、清掃、清潔)を徹底することで、環境由来の異物混入を最小化することも重要な施策です。
藤塗装工業「ブツとは?当社の取り組み内容」では、30,000件以上の実績に基づいた異物対策の具体例が紹介されています。
膨れとは、塗膜が素材或いは下地から浮き上がり、内部に液体または気体が含まれて凸が生じる現象です。一見するとブツと似た外観ですが、膨れの内部には気泡や液体が存在するという点で異なります。この不良の根本原因は、電着槽で塗膜が形成される前の段階に、既に水分や気泡が被塗物に入り込んでしまっていることにあります。
水分や気体の侵入を防ぐには、脱脂・水洗工程の強化が最優先課題となります。被塗物表面の水分を徹底的に除去することで、電着槽内での気泡形成を防止できます。また、電着液の組成の見直しも重要です。塗料中の水分含有量や、電着液の撹拌条件を最適化することで、膨れ現象を大幅に削減することが可能です。
興味深いことに、膨れ不良は焼付け炉内で破裂する場合があります。これは内部のガスが高温下で膨張し、塗膜の完全性を失う現象です。このような状況を回避するためにも、事前の水分・気体除去がいかに重要であるかが理解できます。
電着塗装の不良を根本的に解決するには、個別の工程改善ではなく、全体的な品質管理体系の構築が必須です。塗装そのものの技術よりも、実は塗料・設備の管理能力と、電着塗装全般に関する知識体系の充実が、不良率を大幅に左右します。
具体的には、搬送系統での異物落下防止、各処理槽の温度・濃度・シャワー圧力の厳密な管理、電着液の循環フィルタを用いた定期的な濾過と異物回収、乾燥炉内の定期清掃といった基本的な施策が重要です。さらに、不良が発生した際には、どの工程で原因が生じたかを体系的に分析するプロセス(現象分析→仮説立案→検証→仮説絞込→結論→定期見直し)を確立することが、継続的改善を実現させます。
前工程との連携、電着塗装工程自体の最適化、後工程への配慮といった、全体システムの観点から品質管理を進めることで、初めて電着塗装の不良を大幅に削減することができるのです。

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