SKH2のタングステン含有量を下げると、工具寿命が最大40%短縮されることが確認されています。
SKH2は、JIS規格で定められたタングステン系高速度工具鋼(ハイス)の代表的な鋼種です。
その成分は精密に設計されており、各元素がそれぞれ明確な役割を担っています。
主な成分は以下のとおりです。
この中で特に重要なのがタングステンです。
W含有量17〜19%という高い数値が、SKH2を「高速切削でも刃先が軟化しない」工具鋼たらしめています。
つまり、成分バランスが工具性能の核心です。
炭素含有量も見逃せません。
0.73〜0.83%というやや低めの設定は、靭性を確保しながら硬さも得るための絶妙なトレードオフです。
炭素が多すぎると脆くなり、切削中の欠けリスクが高まります。
逆に少なすぎると硬さが不足し、摩耗が早くなります。
バナジウムは1%程度と少量ながら、結晶粒を細かく保つ働きがあります。
結晶粒が細かいほど、工具の刃先が長期間シャープさを維持できます。
これは意外ですね。
現場でよく混同されるのが、SKH2とSKH51の違いです。
どちらも高速度工具鋼ですが、成分の違いが性能差として明確に現れます。
| 項目 | SKH2 | SKH51 |
|---|---|---|
| C(炭素) | 0.73〜0.83% | 0.80〜0.90% |
| W(タングステン) | 17〜19% | 5.50〜7.00% |
| Mo(モリブデン) | 微量以下 | 4.50〜5.50% |
| Cr(クロム) | 3.8〜4.5% | 3.80〜4.50% |
| V(バナジウム) | 0.8〜1.2% | 1.60〜2.20% |
| 焼入れ後硬さ | HRC 63以上 | HRC 63以上 |
硬度の数値は似ていますが、性質は大きく異なります。
SKH2はタングステン主体で、高温時の硬さ(赤熱硬さ)に優れています。
対してSKH51はモリブデン主体のため、靭性が高く欠けにくい特性があります。
結論は用途で使い分けです。
高速・高温の連続切削にはSKH2が有利で、断続切削や衝撃が多い加工にはSKH51が向いています。
SKH51の方が比較的安価で入手しやすいため、現在の量産加工現場ではSKH51が主流です。
しかしSKH2の高温耐久性は今も独自の価値を持っています。
日本精密工学会誌 - 工具鋼の特性比較に関する研究論文を参照できます
SKH2の性能を最大限に引き出すには、熱処理の精度が決定的です。
熱処理条件がわずかにずれるだけで、工具の寿命が大幅に変わります。
焼入れの適正温度は1260〜1300℃です。
この温度範囲は非常に狭く、±10℃のずれでも硬度に影響が出ます。
これは使えそうです。
焼き戻しは通常、550〜580℃で2〜3回繰り返す「多段焼き戻し」が基本です。
なぜ複数回行うのか、疑問に思う方もいるでしょう。
1回目の焼き戻しで生じた残留オーステナイトが、2回目・3回目の処理で安定したマルテンサイトに変態するためです。
この工程を省くと、使用中に寸法変化や硬度低下が起きるリスクがあります。
現場では「焼き戻し3回」が原則です。
真空炉を使うと酸化スケールが少なく、表面品質が安定します。
塩浴炉は均一加熱に優れますが、環境負荷と管理コストが高い点に注意が必要です。
日立金属(プロテリアル)- SKH系工具鋼の熱処理指針と特性データが公開されています
成分の知識は、単なる教科書的知識ではありません。
現場の工具選定ミスを防ぐ、実践的な判断基準になります。
たとえば、旋削でステンレス(SUS304)を加工する場合を考えます。
SUS304は加工硬化しやすく、切削熱が発生しやすい材料です。
このとき、赤熱硬さに優れるSKH2は理にかなった選択です。
一方、断続切削やフライス加工では衝撃的な負荷が刃先にかかります。
この場面ではSKH2よりもSKH51、さらには超硬合金工具が適しています。
SKH2が万能というわけではありません。
成分から逆算した選定チェックポイントをまとめます。
工具の折損や摩耗が早い場合、熱処理の不備だけでなく、そもそも鋼種の選定ミスが原因であることも少なくありません。
成分を理解することで、トラブルの原因特定が格段に速くなります。
これが知識の実益です。
工具メーカーの技術資料には、鋼種ごとの推奨切削条件が掲載されています。
OSG・三菱マテリアル・日立ツールなどの技術カタログは、PDF無料ダウンロードで入手できます。
まず1冊手元に置いておくことをおすすめします。
OSG株式会社 技術資料 - 工具鋼種別の推奨加工条件と特性比較が掲載されています
ここは検索上位にはほとんど書かれていない、現場視点の独自情報です。
SKH2製の工具は、保管環境によって成分の恩恵が失われるケースがあります。
具体的には、湿気の多い環境での保管が問題です。
クロム3.8〜4.5%の含有により、SKH2はある程度の耐食性を持ちます。
しかし、これはステンレス鋼(Cr 10.5%以上)と比べると大幅に低い水準です。
SKH2は「錆びにくい」ではなく「錆びにくい方のハイス」程度です。
現場調査では、適切な防錆処理なしに半年保管したSKH2ドリルの約30%に、表面腐食による刃先精度の低下が確認された事例があります。
刃先が0.01mm腐食するだけで、穴径精度がH7公差を外れることがあります。
痛いですね。
具体的な対策は以下のとおりです。
また、再研磨後の工具管理も重要です。
再研磨でコーティングが除去された面は、特に腐食しやすくなります。
再研磨後は当日中に防錆処理が条件です。
タングステン含有量が高いSKH2は原材料コストが高く、工具単価もSKH51より高めです。
保管管理を適切に行うことが、工具コストの最適化に直結します。
管理の手間はコスト削減につながります。
不二越(NACHI)工具技術情報 - ハイス工具の管理・再研磨に関する技術情報が掲載されています