シム加工の基礎から応用まで徹底解説
この記事のポイント
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シムの基本と種類
シムの役割や、基本的な形状であるプレート型とリング型の違いについて解説します。
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材質による特性の違い
ステンレスや銅など、代表的な材質の特性と、用途に応じた選び方を詳しく説明します。
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高精度な加工方法
ワイヤーカットやレーザー加工など、ミクロン単位の精度を実現する加工技術を深掘りします。
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コストと品質の最適化
プレス加工とエッチング加工を比較し、コストと品質のバランスを取る方法を探ります。
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未来のシム加工
あまり知られていないシムの応用例や、今後の技術トレンドについて考察します。
シム加工の基本とプレート・リング形状の種類
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シムとは、機械の組み立てやメンテナンスにおいて、部品間の微小な隙間を埋めたり、高さを精密に調整したりするために使用される薄い板状の部品です 。英語の「Shim」が語源で、「詰め木」という意味を持ちます 。このシムを製造・製作することを「シム加工」と呼びます。機械の性能や寿命は、この微調整の精度に大きく左右されるため、シムは非常に重要な役割を担っています 。例えば、モーターの取り付け位置の調整や、ギアのバックラッシ調整、ベアリングの予圧調整など、その用途は多岐にわたります 。
シムは、その形状によって大きく2つの種類に分類されます 。
- 🔵 シムプレート(シム板): 最も一般的なプレート状(板状)のシムです 。四角形や円形だけでなく、穴あきや切り欠きがあるなど、使用箇所に合わせて複雑な形状で加工されることもあります 。
- 🔵 シムリング: リング形状のシムで、シャフトや軸受け周りの隙間調整によく用いられます 。単純な円環だけでなく、取り付けやすさを考慮したC字型やU字型の切り欠きがあるものも存在します 。
さらに、特殊なシムとして「ラミネートシム」があります 。これは、薄い
金属箔を複数枚積層して接着したもので、必要に応じて一枚ずつ剥がして厚さを調整できるため、現場での微調整が非常に容易になるという大きなメリットがあります 。航空宇宙分野など、特に精密な調整が求められる現場で重宝されています 。また、モーターベースやピローブロックの高さ調整に特化した「ベース用シム」といった専用品も存在します 。
シム加工で使われる材質と特性、ステンレスと銅の違い
シム加工で用いられる
材質は、その用途や使用環境によって多岐にわたりますが、一般的には金属
材料が主流です 。中でも、
ステンレス、鉄、
真鍮が最も広く使用されています 。それぞれの材質には異なる特性があり、適切に選定することが機械の性能を最大限に引き出す鍵となります。
以下に代表的な材質とその特徴をまとめました。
| 材質 |
特徴 |
主な用途 |
| ステンレス (SUS) |
✅ 耐食性に優れ、錆びにくい ✅ 強度が高い |
食品機械、医療機器、屋外で使用される装置など |
| 鉄 (SPCC, SPHC) |
✅ 安価で入手しやすい ✅ 加工性が良い |
一般的な産業機械の内部部品 |
| 真鍮 |
✅ 加工性に優れる ✅ 適度な強度と展延性を持つ |
電気部品、装飾的な用途 |
| 銅、リン青銅 |
✅ 導電性・熱伝導性が非常に高い ✅ ばね性がある(リン青銅) |
アース接続が必要な箇所、電気接点、コネクタなど |
| 焼き入れリボン鋼 (SK材) |
🔥 非常に硬度が高い |
高い圧力がかかる箇所、摩耗しやすい部分 |
| アルミニウム |
✅ 軽量 ✅ 加工性が良い |
軽量化が求められる航空機部品や輸送機器 |
特にステンレスと銅は、その特性の違いから使い分けが重要です。ステンレスは耐食性と強度から幅広い環境で安定した性能を発揮しますが、導電性は高くありません 。一方、銅は優れた導電性を持つため、電気的な接続を確保する必要がある箇所でアースプレートとして使用されることがあります 。しかし、強度や耐食性ではステンレスに劣ります。このように、シムを設置する環境(湿度、温度、接触する薬品など)や、機械的・電気的に求められる役割を総合的に考慮して、最適な材質を選定する必要があります 。
シム加工の精度を極めるワイヤーカットとレーザー加工法
シム加工において、ミクロン単位の精度を実現するためには、加工方法の選定が極めて重要です 。特に、複雑形状や高精度が求められる場合に活躍するのが「ワイヤーカット
放電加工」と「
レーザー加工」です。どちらも非接触で加工するため、薄い材料でも物理的なストレスによる歪みや反りが発生しにくいという共通の利点があります 。
ワイヤーカット放電加工は、真鍮などの細いワイヤー線に電流を流し、金属との間で発生する放電現象を利用して溶かしながら切断する加工法です 。
- 👍 メリット: バリが全く発生せず、極めて高い寸法精度(±0.01mmなど)を実現できます 。硬い焼入れ鋼なども容易に加工でき、複数の板を重ねて一度に加工する「重ね切り」により、同じ形状で厚みの異なるシムを効率的に製作することも可能です 。
- 👎 デメリット: 加工速度が遅いため、大量生産には向かず、コストが高くなる傾向があります 。そのため、主に試作品や少量生産、高精度が求められる治具などの製作に用いられます 。
一方、
レーザー加工は、高出力のレーザー光をレンズで集光し、その熱エネルギーで金属を瞬時に溶融・蒸発させて切断する方法です 。
- 👍 メリット: ワイヤーカットよりも加工速度が速く、複雑な輪郭形状の加工も得意です 。ファイバーレーザーなどの技術進化により、ビーム径が非常に小さく(例: 40μm)、精密な微細加工も可能になっています 。
- 👎 デメリット: 熱影響により、特に薄板(0.05mm以下など)では歪みや反りが発生する可能性があります 。また、切断面にドロス(溶融金属の付着物)が発生することがあり、後処理が必要になる場合もあります。
意外な事実として、レーザー加工の品質はアシストガスの種類と圧力に大きく左右されます。例えば、ステンレスの加工では、酸化を
防ぎ美しい切断面を得るために窒素ガスが使われます。このガスの圧力を最適化することで、ドロスの付着を最小限に抑え、後処理の手間を大幅に削減できるのです。
以下の参考リンクは、様々な加工方法を比較解説しており、
素材や形状に応じた最適な技術選定のヒントになります。
レーザー、ワイヤーカット、プレス、エッチングの比較解説 - 株式会社こだま製作所
シム加工におけるコストと品質、プレスとエッチングの比較
シム加工において、コストと品質、そして生産量のバランスを取ることは、製造業における永遠の課題です。特に、中量から大量生産を視野に入れる場合、「
プレス加工」と「
エッチング加工」が有力な選択肢となります。この二つの方法は、初期費用や生産スピード、そして得られる製品の品質において対照的な特徴を持っています。
プレス加工は、製品形状に合わせた「金型」を製作し、その金型で金属板を打ち抜くことで成形する伝統的な加工方法です 。
- 💰 コスト: 金型の製作に高い初期費用がかかります。しかし、一度金型を作ってしまえば、1個あたりの加工時間は非常に短く、圧倒的な生産スピードを誇ります。そのため、数千個以上の大量生産においては、トータルコストを最も安く抑えることができます 。
- 📈 品質: 打ち抜きの際に、断面に「ダレ」や「バリ」と呼ばれる変形や突起が発生しやすいというデメリットがあります 。これらのバリは、精密な組み立てにおいて問題となる可能性があるため、必要に応じてバリ取りなどの後工程が必要になります。
対する
エッチング加工(フォトケミカルミリング)は、化学薬品(腐食液)の化学反応を利用して、金属の不要な部分を溶かして除去する加工法です 。
- 💰 コスト: 高価な金型が不要で、製品形状を記録した「原版フィルム」を元に加工するため、初期費用を大幅に抑えることができます 。数百個程度の中量生産に適しています 。ただし、1個あたりの加工時間はプレスに比べて長くなります。
- 📈 品質: 物理的な力を加えないため、バリや歪み、加工硬化が一切発生せず、極めて平坦で精度の高い製品が得られます 。非常に薄い材料(0.01mmなど)や、複雑で微細な形状の加工を得意とします 。
ここで意外と知られていないのは、エッチング加工の進化です。近年では、環境負荷の少ない新しい腐食液の開発や、液の管理技術の向上により、加工精度の安定化が進んでいます。また、チタンや
モリブデンといった難削材の加工にも応用範囲が広がっており、従来は切削加工しか選択肢がなかったような分野でも、エッチングによる高精度・低コスト化が実現しつつあります。
シム加工の意外な使われ方と今後の技術トレンド
シムは機械の隙間調整という地味な役割を担う部品ですが、その用途は我々の想像以上に広がっています。あまり知られていない意外な応用例として、
音響機器における振動制御が挙げられます。スピーカーユニットとエンクロージャー(筐体)の間に特定の材質・厚さのシムを挟むことで、不要な共振を抑制し、音質を
クリアにするチューニングパーツとして利用されているのです。材質の
硬さや重さによって振動の伝わり方が変わるため、真鍮やステンレスなど様々なシムを試すオーディオ愛好家もいます。
また、
医療分野でもシムは活躍しています。内視鏡やカテーテルのような精密医療機器の内部には、極めて薄く、複雑な形状のシムが組み込まれています。ここでは、加工時にバリや歪みが一切許されないため、エッチング加工で作られた高精度なシムが不可欠です。耐薬品性に優れた材質と組み合わせることで、滅菌処理にも耐えうる部品として、医療の最前線を支えています 。
今後のシム加工における技術トレンドとしては、以下の3つの方向性が考えられます。
- 材料の多様化と高機能化
従来の金属材料に加え、軽量で高強度な炭素繊維複合材料(CFRP)や、耐熱性・絶縁性に優れたセラミックス、さらには特定の温度で形状が変化する形状記憶合金などがシムの材料として注目されています 。これにより、航空宇宙産業におけるさらなる軽量化や、半導体製造装置のような極限環境下での性能向上が期待されます 。
- 積層造形(3Dプリンティング)技術の応用
金属3Dプリンターの技術進化により、これまで複数の部品を組み合わせて実現していた複雑な形状のシムを、一体で造形できるようになる可能性があります。内部に空洞を持つ軽量構造や、場所によって厚さが滑らかに変化するようなテーパーシムなど、従来の加工法では困難だった設計が実現できるかもしれません。粉末射出成形(PIM)のような技術も、複雑形状のシムの量産技術として注目されています 。
- 超精密加工技術の深化
レーザー加工においては、ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーといった「超短パルスレーザー」の実用化が進んでいます。これらは熱影響をほとんど与えずに材料を加工できるため、極薄材料でも歪みなく、ナノレベルの超精密加工が可能になります。これにより、次世代の電子部品や光学機器に求められる、さらに高いレベルの精度要求に応えることができるようになるでしょう。
シム加工の世界は、地道な改善と革新的な技術開発が交差する、奥深い分野です。今後も新たな材料と加工技術の登場によって、その可能性はさらに広がっていくことでしょう。
この記事で紹介した高精度なシムプレートに関するより詳細な技術情報は、以下のリンクからご覧いただけます。
±0.01mmの高精度シムプレート(スペーサー) - 株式会社こだま製作所
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特注シム製造センター.com フィッシングリール メンテナンス ガタ付き解消 シムリング バリレスプレス加工 φ6mm × φ4mm 10枚 (0.05mm厚)