ブラスト処理した粗面で測ると、実際の膜厚より大きい値が出てそのまま合格にしてしまうことがあります。
膜厚測定は「ただ数値を読む作業」ではありません。正確な測定には、まずJIS K5600-1-7の内容を理解しておく必要があります。
JIS K5600-1-7(塗料一般試験方法 第1部:通則 第7節:膜厚)は、塗膜の厚さを測定するための基本規格で、2014年に改正・現行化されています(2019年の法改正により「日本産業規格」へ名称変更)。この規格は国際規格ISO 2808:2007をベースに作成されており、ぬれ膜厚・乾燥膜厚・未硬化粉体塗料層の厚さ、それぞれの求め方を定めています。
金属加工の現場では、乾燥膜厚の測定が最も頻繁に行われます。JIS K5600-1-7では乾燥膜厚の測定法として、機械式測定方法(マイクロメーター法・断面観察法)、質量法、光学的方法、磁気法(電磁誘導法・渦電流法)、放射線法、音響法(超音波法)など多様な方法を規定しています。
また、ぬれ膜厚の測定にはくし形ゲージとロータリ形ゲージによる機械式測定方法が中心です。くし形ゲージは最大2,000μmまで測定でき、最小間隙増分は一般的に5μmです。ロータリ形ゲージは最大1,500μm、最小膜厚測定間隔は2μmとなっています。
つまり、測定目的(ぬれ膜厚か乾燥膜厚か)によって使う測定法そのものが変わってきます。
なお、JIS K5600-1-7には「平均膜厚」「最小局部膜厚」「最大局部膜厚」「測定領域」「試験領域」など重要な定義が明記されており、現場での測定記録作成や受渡検査の際にも参照すべき内容です。膜厚の定義は「塗膜の表面と素地の表面との間の距離」であり、あくまで乾燥後の寸法を指すことも確認しておきましょう。
以下に測定法の概要をまとめます。
| 測定対象 | 測定方法 | 主な適用場面 |
|---|---|---|
| ぬれ膜厚 | くし形ゲージ / ロータリ形ゲージ / 質量法 | 塗装直後の管理 |
| 乾燥膜厚 | 電磁誘導法 / 渦電流法 / 超音波法 / 断面観察 | 品質検査・受渡管理 |
| 粉体塗料層 | 質量法 / 磁気法 | 粉体塗装ライン |
JIS K5600-1-7が規定する測定方法の全体を把握することが、正確な膜厚管理の出発点です。
参考:JIS K5600-1-7の規格全文(日本産業規格)はこちらから確認できます。
JISK5600-1-7:2014 塗料一般試験方法−第1部:通則−第7節:膜厚(kikakurui.com)
金属加工の現場で最も多く使われるのは、電磁式(電磁誘導法)と渦電流式の2種類です。どちらも非破壊で手軽に測定できる点が現場に支持されていますが、使い方を間違えると誤差が大きくなるため注意が必要です。
電磁式膜厚計(JIS K5600-1-7 測定法7C)
電磁誘導法は、プローブ内のコイルが発生させる磁束が素地金属まで到達するときの磁束変化(インダクタンス変化)を利用して膜厚を算出します。適用素地は鉄・鋼・フェライト系ステンレスなどの磁性体で、その上に乗った非磁性体の塗膜(塗料・メッキ・樹脂など)の厚さを測れます。鋼構造物の防食塗装管理や自動車車体の塗装検査など、最も広く使われている方式です。
渦電流式膜厚計(JIS K5600-1-7 測定法7D)
渦電流法は、高周波交流を流したコイルが素地金属に渦電流を誘発させ、そのコイルとの距離変化(膜厚)を電気的に検出します。適用素地はアルミ・銅・オーステナイト系ステンレスなどの非磁性金属で、その上に乗った絶縁被膜(アルマイト・樹脂・塗膜など)を測定します。航空機部品・電子機器・アルミダイカスト品などのコーティング管理に適しています。
超音波式膜厚計
超音波が異種材料の界面で反射する性質を利用した方法です。反射時間から「音速×時間÷2=距離」で膜厚を算出します。鉄・非鉄に関わらず適用でき、FRP・エポキシ・ウレタンなど多様な塗膜に使えます。また多層膜の測定も可能なため、複合塗装系の品質確認にも活用されます。素地が金属以外(コンクリート・プラスチック)でも使える点が他の方式との大きな違いです。
デュアルタイプ(電磁式+渦電流式)
1台に電磁式と渦電流式を搭載し、素地の種類を自動判定して切り替えます。現在の現場では最も汎用性が高く、主流の選択肢です。素地材質が混在する製造ラインや、複数鋼種を扱う加工現場では特に有効です。
これは使えそうです。
以下に各方式の適用素地と塗膜の組み合わせをまとめます。
| 方式 | 適用素地 | 測定できる被膜 |
|---|---|---|
| 電磁式 | 鉄・鋼・フェライト系SUS | 塗料・メッキ・樹脂 |
| 渦電流式 | アルミ・銅・オーステナイト系SUS | アルマイト・樹脂・絶縁被膜 |
| 超音波式 | 金属・非金属(コンクリートなど) | FRP・エポキシ・ウレタンなど |
| デュアルタイプ | 電磁・渦電流両対応 | 上記両方に対応 |
素地と被膜の組み合わせを確認することが第一歩です。
参考:電磁式・渦電流式の原理と使い分けについて詳しく解説されています。
フッ素樹脂塗膜の計測と評価 —乾燥膜厚— | 平山技術士事務所
「正しい測定器を使っているのに数値が合わない」という経験は少なくないはずです。その原因のほとんどは、測定器の選択や使い方の問題ではなく、測定条件の見落としにあります。
①鋼種の違いによる誤差
電磁式膜厚計は、素地の鋼種によって測定値が大きく変わる特性を持っています。関西ペイントの技術資料(塗膜防食技術研究)に引用されているJSSC(日本鋼構造協会)鋼橋塗装研究班の試験では、HT-80やHT-100のような高張力鋼に対してケット電磁式(L-1B型)を使用すると、標準的なSS-41の値に比べて最大25%以上の誤差が発生するケースが確認されています。同じ測定器、同じ手順でも、素地が変われば数値が変わるのです。
高張力鋼を使う構造物製造・重機部品・橋梁製作などの現場では、必ず「被測定物と同じ鋼種」の素地板でゼロ調整と標準板調整を行うことが求められます。
②ブラスト粗面による誤差
ブラスト処理後の粗面は、電磁膜厚計にとって誤差の温床です。福岡県工業技術センターの研究報告(2022年、古賀義人氏)では、ブラスト処理した軟鋼板(SS400)の表面粗さRaと電磁膜厚計の測定値を126点測定した実験で、表面粗さが粗いほど測定値の平均が上昇し、実際の膜厚より大きい値が得られることが明確に示されています。その誤差はRaとの相関係数r=0.903という高い相関を持ちながら、Raの値だけでは予測が難しいランダムな分散を持つことも分かっています。
つまり、ブラスト処理面で電磁膜厚計をそのまま使うと、膜厚が「あってもいない厚みで合格」になりかねないリスクがあります。ISO 19840では補正計算の方法が規定されており、SSPC-PA 2でもアンカーパターンの影響を差し引く測定手順が推奨されています。厳しいところですね。
③ゼロ調整に使う板の厚さ不足
関西ペイントの技術資料によると、ゼロ調整に使う鋼板の厚みが2mm以下の場合、磁束が板を貫通してしまい、測定値が実際の膜厚より小さく表示されます。日本国内の官公庁の塗膜調査要領では5mm以上の鋼板でのゼロ調整を指定しており、米国SSPC PA-2でも3.2mm以上を規定しています。
手元にある薄い端材でゼロ調整するのは、精度上NGです。
④エッジ・コーナー・穴の近くでの測定
端部や屈曲部の近くは磁束が乱れ、膜厚が実際より厚く表示される傾向があります。SSPC PA-2では端部から最低2.5cm(約25mm)以上離れた箇所で測定することを推奨しており、複数の鋼材が接触・組み合わさった構造部では最低7.6cm(約76mm)以上離れるよう定めています。電磁式は渦電流式に比べてエッジ部の影響を受けやすいため、端部が多い複雑形状部材での測定には特に注意が必要です。
誤差の原因を把握すれば、防げるミスが増えます。
参考:粗面上の膜厚測定における誤差の実験データと分析が掲載されています。
電磁膜厚計による粗面基材上での膜厚測定(福岡県工業技術センター)
参考:鋼種ごとの膜厚計誤差と測定機種別データが詳細に掲載されています。
技術資料 塗膜厚の測定方法と測定精度のばらつき|関西ペイント株式会社
誤差要因を知ったうえで、実際の測定手順も正しく理解しておく必要があります。測定器を手に取る前の準備段階が、結果の信頼性を左右します。
①校正(キャリブレーション)と確認(バリフィケーション)の違いを理解する
JIS K5600-1-7では、校正は「たどることができる校正標準で測定機器を測定し、その精度が公称値の範囲内にあることを証明するための、管理され文書化されたプロセス」と定義しています。校正は機器メーカーや資格のある試験機関が行うもので、ユーザーが現場で行う作業は正確には「確認(バリフィケーション)」または「調整(アジャストメント)」です。
JIS K5600-1-7では、電磁誘導法・渦電流法ともに偏りは±2%+1μmが精度の期待値として記載されています。この精度を確保するためには、使用前と使用中に膜厚既知のフォイルや参照標準板を用いた校正作業が必要です。
②ゼロ調整は「被測定物と同じ素地」で行う
先述のとおり、ゼロ調整(ゼロキャリブレーション)には被測定物の基材と同一材質・同一板厚・同一形状(曲率)の素地板を使うことが原則です。電磁式の場合は鋼種まで一致させることが理想であり、渦電流式でもアルミや銅の合金成分が異なれば誤差が生じます。
市販のゼロ基準板(各メーカー付属品)は「精度確認用」であり、実際の測定品の素地と特性が合わない場合は校正板としての使用に向きません。被測定物に近い特性の素地板を別途用意するのがベストです。
③測定点数と測定位置の決め方
岡山県の塗膜厚評価基準(案)によれば、1ロットあたりの測定数は25箇所以上とし、同一箇所につき5点測定して平均値を測定値とする方法が示されています。JIS K5600-6-2(塗膜の化学的性質)でも、「他に規定がない限りJIS K5600-1-7の非破壊試験法から選択し、μm単位で測定する」と記されています。
一般的な現場の測定手順は次の通りです。
1. 素地・塗膜の組み合わせを確認し、測定器の方式を選択する
2. 被測定物と同じ素地板でゼロ調整(0点校正)を実施
3. 膜厚既知の参照標準フォイルで精度を確認
4. 測定面の油分・ゴミ・水分を除去する
5. プローブを測定面に垂直に、軽く押し当てる(傾き・強押しはNG)
6. 同一箇所で5点程度繰り返し測定し、異常値を排除して平均する
7. 25点以上の測定点からデータを記録・報告
5点の測定が基本です。
④温度・磁場・振動の影響も忘れずに
電磁式膜厚計はほとんどの場合4~49℃の範囲で正常に作動します。この温度範囲を超える現場(炉近辺や冬季の屋外など)では、事前に動作確認が必要です。また、溶接装置・発電機・大型モーターの近くでは強い磁場が発生し、測定値に影響します。残留磁気(磁気クランプ使用後など)も誤差要因となるため、必要に応じて脱磁処理を施してから測定します。
測定環境の確認まで含めて、正確な膜厚管理です。
参考:膜厚計の精度と校正・確認作業の詳細が専門的にまとめられています。
セルフキャリブレーションが精度に与える影響|All About 膜厚計(COTEC)
参考:乾燥膜厚の正確な読み取りに必要な10の重要事項が解説されています。
乾燥膜厚の正確な読み取りを可能にする方法|DeFelsko Japan
ブラスト処理面での膜厚測定は、金属加工・鋼構造物塗装の現場で特に重要なテーマです。通常の平滑面と同じ手順で測定すると、膜厚が実際より大きく表示されるケースがあります。
JIS K5600-1-7の「第7章 粗面上の膜厚の測定」では、こうした粗面に対応した測定手順が設けられています。また、ISO 19840(鋼構造物の防食塗装系 — 粗面上の乾燥膜厚の測定と判定基準)も参照される重要規格で、JIS K5600-1-7は同規格も引用しています。
なぜブラスト面で誤差が出るのか?
ブラスト処理によって形成されたアンカーパターン(凸凹した山谷の表面構造)は、電磁膜厚計のプローブが凸部の頂点に乗ってしまうことで、凹部に溜まった塗料も合わせた「見かけ上の膜厚」として検出します。これにより、谷部の塗膜は実際の塗膜厚より厚く測定される可能性があります。意外ですね。
福岡県工業技術センターの実験では、表面粗さRa=18.4μmのブラスト面では、鏡面研磨板(Ra=0.016μm)に比べて測定値のばらつきが大幅に増加し、平均値も顕著に上昇することが確認されています。
補正方法の2つのアプローチ
DeFelskoが提唱する方法(SSPC PA-2・ASTM D7091・ISO 19840に準拠)には、主に次の2通りがあります。
- 素地読み取り値(BMR)を差し引く方法:未塗装のブラスト面で10点以上測定して平均値(ベースメタルリーディング)を求め、塗装後の測定値からその値を引いて真の塗膜厚とする。
- ISO 19840の補正値テーブルを使う方法:未塗装素地へのアクセスが困難な場合、ISO 8503に定めるFine(細かい)・Medium(中程度)・Coarse(粗い)のプロファイル区分ごとにDFT測定値から差し引く補正値がISO 19840に規定されています。
どちらを選ぶかは現場の状況次第です。
粗面測定時のプローブ選定も重要
粗面での測定では、プローブが表面粗さに引きずられるリスクがあります。プローブを横に引いてはいけません。測定と測定の間は必ず垂直に持ち上げて離し、プローブ先端を傷めないよう注意が必要です。また、粗面専用のプローブや小型マイクロプローブを使うことで、より安定した測定が得られる場合があります。
なお、塗膜の乾燥が不十分な状態での測定も避けるべきです。関西ペイントの資料によると、乾燥日数が1年近くに達して初めて、異なる測定機種間での安定した測定値が得られるという報告もあります。油性系塗料などはこの傾向が顕著で、15日程度では測定器の種類によって大きなばらつきが生じるとされています。
塗膜が乾燥してから測定する、が基本です。
参考:JIS K5600-1-7でも引用されているISO 19840に沿った粗面補正の考え方が詳しく解説されています。
膜厚測定の基本と膜厚計の種類や使い方、選び方について|REX RENTAL
現場での品質管理では「何点測定したか」が重視されがちです。しかし、測定点数を増やすより先に確保すべきことがあります。それは「正しい素地で校正しているか」という問題です。
JIS K5600-1-7の精度期待値は電磁誘導法・渦電流法ともに±2%+1μmですが、この精度はあくまで「正しい素地で校正された状態」での話です。COTEC社の検証データによると、被測定物の素地とは特性の異なるゼロ基準板で校正すると、精度期待値(±2%+1μm)をはるかに超える誤差が発生します。0点校正・2点校正の違いよりも、校正に使う素地の材質一致の方が遥かに精度への影響が大きいのです。
これは重要な視点です。
たとえば、HT-80やHT-100の高張力鋼構造物を電磁式で測定するとき、SS-41やSM-50向けに校正された機器をそのまま使うと、測定値が25%以上ずれることが実測データで示されています。膜厚基準を100μmとすれば、125μm超の数値を示すことになり、品質記録上「合格」でも実態は管理範囲内でない可能性があります。
「25点測定したから大丈夫」が大きな落とし穴になりえます。
測定の信頼性を高めるための5つのポイント
- 🔩 被測定物と同じ材質・同じ板厚の素地板でゼロ調整を行う
- 📐 ゼロ調整に使う鋼板の厚みは5mm以上を確保する(2mm以下はNG)
- 📋 ブラスト処理面では補正値(BMRまたはISO 19840テーブル)を用いる
- 🌡️ 測定前に被測定物の温度を常温(4~49℃)に戻してから測定する
- ✋ プローブは垂直に、軽く当てる。傾け・強押し・引きずりはNG
測定点数の多さは「分散の把握」に貢献しますが、そもそもの測定値が素地の違いや環境要因でずれていれば、点数を増やしても精度は上がりません。正確な1点が、不正確な25点よりも価値があることを覚えておきましょう。
また、JIS K5600-1-7は「受渡当事者間で合意した回数の単一測定が抜取検査として実施される」と定義しており、測定点数は発注者・受注者間の取り決めによって決まります。自社ルールで測定点数を設定している場合は、その根拠も明確にしておくと、検査や第三者評価でのトラブル回避に繋がります。
素地精度が、測定の質を決めます。
参考:膜厚計の精度と素地校正の影響を実験データで検証した資料です。
セルフキャリブレーションが精度に与える影響|All About 膜厚計(COTEC)

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