メッキ板の種類と特徴、加工方法と耐食性を高めるコツ

メッキ板には多様な種類があり、それぞれに特有の性質や最適な用途が存在します。この記事では、代表的なメッキ板の種類とその特徴、加工時の重要な下地処理、さらに耐食性を最大限に引き出すための専門的なコツまでを網羅的に解説します。あなたの知識をさらに深め、現場での品質向上に繋がるヒントを見つけてみませんか?

メッキ板の基礎知識と応用

メッキ板 完全ガイド
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種類と特徴

電気メッキと溶融メッキの違いから、最新の高耐食性メッキ板まで詳しく解説します。

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加工と下地処理

品質を左右する下地処理の重要性と、具体的な加工方法のコツを紹介します。

耐食性とメンテナンス

亜鉛の自己犠牲作用の仕組みや、防錆効果を長持ちさせる秘訣を学びます。

メッキ板の種類とそれぞれの特徴

 

金属加工の現場で広く利用されるメッキ板ですが、その種類と特徴は多岐にわたります。 大きく分けると、製造方法によって「電気亜鉛メッキ鋼板」と「溶融亜鉛メッキ鋼板」に分類され、それぞれに異なる特性があります。
電気亜鉛メッキ鋼板(SECC)は、電気の力を利用して鋼板の表面に亜鉛の薄い膜を均一に成形するものです。 メッキ層が薄く均一であるため、外観が美しく、塗装性やプレス加工性に優れているのが大きな特徴です。 そのため、自動車のボディや家電製品の外板、精密機器の筐体など、デザイン性や精密な加工が求められる分野で多用されています。 ただし、メッキ層が薄い分、耐食性は後述の溶融亜鉛メッキ鋼板に劣るため、防錆性能を高めるためにクロメート処理などの化成処理が施されるのが一般的です。
一方、溶融亜鉛メッキ鋼板(SGCC)は、高温で溶かした亜鉛の槽の中に鋼板を浸してメッキを施す方法です。 「ドブ漬けメッキ」とも呼ばれ、電気メッキに比べて厚いメッキ層を形成できるため、非常に高い防錆効果と耐食性を誇ります。 この特性から、屋外で使用される建材(トタン屋根や外壁)、ガードレール、送電鉄塔といった、過酷な環境下で長期間の耐久性が求められる製品に利用されます。 表面には亜鉛の結晶模様である「スパングル」が見られることがあり、これが意匠として活かされることもあります。
近年では、さらに高い性能を持つ合金系のメッキ板も登場しています。代表的なものに「ガルバリウム鋼板」や「ZAM®(ザム)」などがあります。

  • ガルバリウム鋼板: 亜鉛にアルミニウムとシリコンを加えた合金でメッキした鋼板です。 亜鉛の自己犠牲作用とアルミニウムの長期耐久性を併せ持ち、特に酸性雨に強いという特徴があります。通常の亜鉛メッキ鋼板の3〜6倍の耐久性を持つと言われ、住宅の屋根材や壁材として人気が高まっています。
  • ZAM®: 日本製鉄が開発した高耐食性メッキ鋼板で、亜鉛・アルミニウム・マグネシウムの合金でメッキされています。マグネシウムの効果により、切断面や傷がついた部分にも亜鉛が溶け出して保護膜(赤錆の発生を抑制する亜鉛系保護皮膜)を再生成する能力が非常に高く、過酷な腐食環境下で優れた耐食性を発揮します。

これらのメッキ板は、それぞれメリット・デメリットがあるため、使用する環境、求められる性能、コストなどを総合的に比較検討し、最適なものを選ぶことが重要です。


JIS(日本産業規格)では、各種メッキ鋼板に関する詳細な規定が定められています。以下のリンクから関連規格を検索できます。
日本産業標準調査会ウェブサイト

メッキ板の加工における下地処理の重要性

メッキ板の品質を最終的に決定づけるのは、メッキそのものの技術だけでなく、その前段階である「下地処理」です。 どんなに優れたメッキを施しても、下地処理が不十分であれば、メッキの密着不良や早期の剥がれ、錆の発生といった問題に直結します。 実際、メッキ不良の原因の多くは、この下地処理工程に起因すると言っても過言ではありません。
下地処理の主な目的は、素材表面の汚れや油分、錆、酸化皮膜(スケール)を完全に取り除き、メッキがしっかりと密着するための清浄な表面を作り出すことです。 一般的な下地処理は、以下の工程で進められます。

  1. 脱脂(だっし): まず、素材に付着しているプレス油や錆油、切削油などの油分を除去します。アルカリ性の洗浄液に浸漬させる「浸漬脱脂」や、電気を流して洗浄効果を高める「電解脱脂」などの方法があります。油分が残っていると、その部分だけメッキが乗らない「メッキはじき」という現象が起こります。
  2. 酸洗い(さんあらい)/ ピクリング: 次に、硫酸や塩酸などの酸性の溶液に浸漬し、鋼板表面の錆やスケール(黒皮)を化学的に溶かして除去します。 この工程を怠ると、メッキ層の下に錆が残ってしまい、内側から腐食が進行する原因となります。
  3. 活性化: 酸洗い後、表面に微細な酸化膜が再生成されるのを防ぎ、メッキ液へのなじみを良くするために、薄い酸溶液に短時間浸します。これにより、メッキの反応がスムーズに始まります。
  4. 水洗: 各工程の間には、必ず十分な水洗が行われます。前の工程で使用した薬品が次の工程に持ち越されるのを防ぐためです。特に酸洗い後の水洗が不十分だと、素材表面に酸が残り、メッキの密着性を著しく低下させる原因となります。

意外と知られていないコツとして、「スマット除去」という工程があります。酸洗いを行うと、鋼材に含まれる炭素やケイ素などが、黒い粉(スマット)として表面に残ることがあります。これを放置するとメッキの密着不良や外観不良につながるため、物理的な研磨や特殊な化学処理で除去する必要があります。高品質なメッキを求める場合は、このスマット除去の有無も重要なポイントになります。
また、素材の表面粗さもメッキの品質に影響します。バフ研磨などであらかじめ表面を滑らかに整えておくことで、より均一で美しいメッキ層を得ることができます。 このように、地味に見える下地処理の一つ一つの工程が、メッキ板の性能と寿命を大きく左右するのです。

メッキ板の耐食性を高める豆知識とメンテナンス

メッキ板の最大の特徴である「耐食性」は、亜鉛が鉄よりもイオン化傾向が大きく、錆びやすい性質を利用したものです。 これは「自己犠牲作用」または「犠牲防食作用」と呼ばれ、万が一メッキ層に傷がつき、素地の鉄が露出してしまっても、周囲の亜鉛が優先的に溶け出して電気化学的な保護膜を形成し、鉄が錆びるのを防ぎます。 この仕組みを理解することが、耐食性をさらに高めるための第一歩です。
しかし、この優れた自己犠牲作用も万能ではありません。耐食性を長期にわたって維持し、向上させるためには、いくつかの豆知識と適切なメンテナンスが不可欠です。

  • クロメート処理の重要性を再認識する: 電気亜鉛メッキ鋼板(SECC)などで一般的に行われるクロメート処理は、亜鉛メッキ表面に不動態皮膜を形成し、白錆(亜鉛自身の錆)の発生を抑制する重要な役割を担います。 近年は環境規制の観点から、有害な六価クロムを含まない三価クロムクロメート処理が主流です。この処理が施されているか否かで、初期の耐食性に大きな差が生まれます。
  • 塗装との相性を考慮する: メッキ板の上に塗装を施すことで、メッキ層が直接外気に触れるのを防ぎ、耐食性を飛躍的に向上させることができます。ただし、メッキ表面は塗料が密着しにくい場合があるため、リン酸塩処理などの塗装下地処理を施すのが一般的です。特に溶融亜鉛メッキ鋼板は表面が滑らかなため、目粗し(サンディング)や専用プライマーの使用が密着性を高める鍵となります。
  • 切断面や加工部の防錆対策を徹底する: メッキ板を切断したり穴あけ加工をしたりすると、その部分の素地である鉄が露出します。 自己犠牲作用である程度は保護されますが、腐食環境が厳しい場所ではそこから錆が進行しやすくなります。加工後には、高濃度の亜鉛を含んだ補修塗料(ジンクリッチペイント)を塗布することで、メッキ層と同等の防錆性能を確保することが極めて重要です。
  • 保管方法に細心の注意を払う: メッキ板を保管する際に最も注意すべきは「結露」です。鋼板を積み重ねて保管すると、鋼板の間に湿気がこもり、昼夜の温度差で結露が発生します。この水分が原因で、白錆がまだらに発生してしまいます。これを防ぐためには、風通しの良い乾燥した場所に保管し、直接地面に置かず、シートで覆う場合も内部が蒸れないように隙間を設けるなどの工夫が必要です。

意外な豆知識として、亜鉛メッキは塩分や酸性の環境に弱いという側面があります。沿岸地域や工業地帯、積雪地帯で融雪剤が撒かれる場所などでは、通常の亜鉛メッキでは早期に腐食が進行する可能性があります。このような環境では、前述したガルバリウム鋼板やZAM®といった高耐食性メッキ鋼板の採用が、長期的なコスト削減と信頼性向上につながります。

意外と知らないメッキ板の特殊な用途と最新技術

メッキ板といえば、建築材料や自動車部品といった用途が一般的ですが、技術の進歩に伴い、その活躍の場は我々の想像以上に広がっています。 従来からの防錆という主目的を超え、新たな機能性を付与された特殊なメッキ板が次々と開発されているのです。
その一つが、抗菌・抗ウイルス性能を持つメッキ板です。銀イオンや銅イオンをメッキ層に含有させる、あるいは表面にコーティングすることで、細菌やウイルスの増殖を抑制する効果を持たせたものです。衛生管理が厳しく求められる病院の手術室の壁材、食品工場の設備、不特定多数の人が触れるエレベーターのボタンや手すりなどに採用が進んでいます。これは、メッキ技術が人々の健康や安全に直接貢献している好例と言えるでしょう。
また、デザイン性を追求した意匠性メッキ鋼板も注目されています。単なる金属光沢だけでなく、印刷技術やエンボス加工技術を組み合わせることで、本物と見紛うほどの木目調や石目調、あるいは布地のようなテクスチャーを表現したメッキ板が登場しています。これにより、金属の持つ高い耐久性や不燃性といった機能はそのままに、温かみのある空間や高級感のあるデザインを実現できるようになりました。商業施設の内装や高級マンションの玄関ドアなど、意匠性が重視される場面で活躍の幅を広げています。
さらに、エレクトロニクスの分野では、電磁シールド材としてのメッキ板が欠かせない存在です。電子機器は、動作中に不要な電磁波を発生させ、他の機器に誤作動を引き起こすことがあります。ニッケルメッキや銅メッキを施した鋼板は、この不要な電磁波を遮断(シールド)する能力に優れており、スマートフォンやパソコン、医療機器などの精密な電子部品を保護するカバーやケースとして使用されています。
最新技術の動向としては、環境負荷を低減する「乾式メッキ」も挙げられます。従来の「湿式メッキ」が水溶液を用いるのに対し、「乾式メッキ」は真空中で金属を蒸発させて素材に付着させる方法(真空蒸着など)です。 排水処理が不要で環境に優しいだけでなく、プラスチックなどの非金属素材にもメッキが可能で、極めて薄く均一な膜を形成できるため、光学部品の反射膜や半導体製造など、最先端の技術分野で応用研究が進んでいます。
このように、メッキ板の世界は常に進化を続けており、その可能性は今後ますます広がっていくことでしょう。


各種めっき・表面処理鋼板のより詳細な商品名や特性については、以下の資料が参考になります。
各種めっき・表面処理鋼板の特長及び製造メーカー(商品名) - 東邦プレス技術株式会社

 

 


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